今回の動画は、「ゴルゴ13に学ぶ世界史、その1。1968-69年作品から、ナチスの偽札、第三次中東戦争、中国スパイ機関について解説」ということで、やっていきたいと思います。
1、はじめに
2020年代に入って、ウクライナ戦争、イラン戦争の長期化、エプスタイン事件の中途半端な情報公開など、ぱっと見では、全く理解できない状況になってきているように思います。

そんな時にうまく納得できる解釈のヒントとなるのが、歴史的な背景を知ることと、スパイの動きをすることです。
歴史的な背景を知るのに便利なのは、wikipediaです。
項目によっては、偏ってる話もあると思いますが、多くの人が編集に関わってて、情報量が多いので、おかしいと思うところも気づきやすいですし、英米圏以外の話であれば、現地の言語版の方が詳しいので、そちらを参考にすると、多くの発見があります。
そしてもう1つが、スパイの動きです。
限定動画でいくつか動画にしているのですが、元スパイにインタビューしている書籍を参考に、イスラエルや中東の歴史を見ると、全く違った景色が見えてきます。
このように、世界史、国際情勢を見るのに役立つツールはいくつかあるのですが、完全に見落としていたものがありました。それがゴルゴ13です。
ゴルゴ13は、主人公が殺し屋ですから、CIAだろうがKGBだろうが、MI6だろうが、誰でも顧客にしますし、逆に敵として暗殺もします。なので、非常にフラットな目線で国際社会、世界史が描かれてるんですよね。
しかも物語世界に没入できますから、世界史の理解もグッと上がると感じました。
そこで今回は、日本が誇る傑作「ゴルゴ13」を読んでいきながら、世界史の解像度をさらに上げていきたいと思います。
それでは、参りましょう。
2、ゴルゴ13とは?
まずはゴルゴ13という作品について、最初にちょっとだけ触れておきます。
この作品は、1968年11月から、ビッグコミックで連載が始まった漫画で、現在も連載中です。

コミックスは221巻まで出てて、最新刊は今月7月に出たばかりです。そして売上部数は3億部を超えるという化け物作品となっています。
作者は、さいとう・たかを先生ですが、2021年に亡くなられており、さいとうプロダクションが跡を継いで、連載を続けています。
この作品の連載当初から、脚本や作画、構成などを分業で行っていたようなので、さいとう先生が亡くなられても大丈夫になっていたようですね。
なお、今回の動画では、文庫版の1~3巻、1968年から1969年に発表された作品を扱っていきます。

それで、ゴルゴ13の初期作品では、漫画原作のレジェンドである小池一夫先生が脚本で関わっていて、主人公のデューク東郷のキャラクターを方向づけました。
初期ですでにあった、ゴルゴ13の流儀の具体例としては、
①自分の後ろに立とうとすると、殴りかかってきました。
これを第1話の冒頭で、しかも、イチャコラやった後の娼婦が、冗談のつもりで後ろから驚かそうと思った時にこんな感じでぶん殴ってましたので、まるでギャグ漫画が始まったのか?と思わせられました。
②挨拶に握手はしないのもそうですね。欧米では普通に初対面の男性同士て握手するようですが、全て無視するので、ムッとする人もいれば、さすがプロだと感心する人もいてと、さまざまな反応が見られます。
それと、
③直接対面で取引が基本で、相手の事情は全て聞く。隠し事をするなら取引は中止で、金は全額前金で払うのが条件です。
罠に嵌められる危険性もありますし、仕事の後にまた会って金をもらうのも、危ないということなのでしょう。
そして、
④依頼者との交渉では、壁近くで立ったまま話す、というのも、当初からやってました。

それで、どんな人が依頼するのか?というと、主に欧米の諜報機関や大富豪、マフィアなどの、金を持ってる人たちがメイン顧客となっていました。
対面での依頼時に、なぜ殺して欲しいのか?についてや、依頼者の素性なども全部説明させられるので、読者はその話を通じて、世界史的な動きを垣間見ることができるようになっています。
殺し屋にとって、嘘をつかれると困るというのは、リアリティがありますし、きちんと説明してもらうことで、読者もその事情が理解できるという構図は、とても上手いなと思いましたね。
また、報酬は依頼者によってさまざまですが、第1話では前金で8000ポンドと提案したところ、断られて全額即金で払わせてました。2倍とすると、16000ポンドになりますが、これは当時だと1400万円になります。
ですが、当時の大卒初任給が4万円ぐらいだということなので、少なくとも、今の5倍以上の価値はあったと考えられますから、8000万から1億円ぐらいが相場という感じでしょう。
以降の話でも、いくら払うという話はたまに出てきますが、今の価値にして、最低5000万円は必要な印象ですね。
3、ゴルゴ13に学ぶ世界史エピソード
ということで、ゴルゴ13の設定についてざっくりと話してきましたが、ここからは、具体的なストーリーから見える世界史について見ていきましょう。
ゴルゴ13は、世界中で依頼を受けて、ターゲットを暗殺する話なので、各国の文化や風俗を知ることはできても、歴史的な出来事と絡めていない話も結構あります。
これまで10巻ほど読んだ感じでは、1巻につき、1話か2話ぐらいが、世界史として考察しがいのある印象です。
そこで今回は、1巻につき1話ずつ取り上げていきます。
(1)ビッグ・セイフ作戦
まず、1巻では第1話「ビッグセイフ作戦」です。
この話は、冒頭でいきなり娼婦の女性をぶん殴って、警察に捕まるという、ギャグ展開から始まるのですが、内容は、イギリスの諜報機関のMI6から、スイスのチューリッヒに逃げていた元ナチスの親衛隊長だったベルンハルト・ミューラーの殺害を依頼されるというものです。

このミューラーは、ナチス時代に強制収容所でイギリスポンド紙幣の偽造を任されていた人間で、この紙幣を金庫に大量に隠しているので、ミューラーを殺して、この偽札を処分して欲しいということでした。
それで、この話というのは、実際にあったナチスの偽札作戦がモデルになっています。

それが、ベルンハルト作戦です。ナチス親衛隊の少佐だったベルンハルト・クリューガーが、ザクセンハウゼン強制収容所で囚人を使って、イギリスポンドの偽札をばら撒くことで、英国経済を混乱させようとした作戦です。
ゴルゴ13では、ベルンハルト・ミューラーの暗殺でしたが、史実では、ベルンハルト・クリューガーですから、この作戦を参考にしたのは間違い無いでしょう。
それで、この作戦は、1940年から45年まで行われたのですが、これによって、イギリスは、この偽札が結構出回ってしまったため、新しいデザインの紙幣を発行せざるを得なくなりました。
それで、この作戦がバレそうになったため、オーストリアの収容所に偽札が移送され、その後、トプリッツ湖とグルンドルゼー湖に沈めて、証拠隠滅しています。
この話は、ドラマや映画などでも、度々ネタにされてきたようです。
例えば、ルパン三世カリオストロの城でも、偽札のゴート札という設定が出てきますが、これもベルンハルト作戦がモデルじゃないか?と言われてますね。

また、この話では、ナチスの元親衛隊長が他の国に逃げてるという話になっていますが、ナチスの残党の多くが、実は結構な割合で生き残ったり、他の国へ逃げたり、連れて行かれたりしています。
第二次世界大戦前のドイツの工業力は、アメリカに次ぐ世界第2位でした。
そのため、ナチス政権下で、ナチスのために働いていたとしても、かなり優秀なエンジニア、科学者がたくさんいました。
そのような科学者、エンジニアが、アメリカやソ連に連れて行かれたのです。
アメリカでは、ペーパークリップ作戦によって、1600名以上のナチス党員がアメリカへ亡命しましたし、ソ連でも、オソアヴィアヒム作戦で、家族を含む6000人以上がソ連に連れて行かれました。
こんな状況だったため、連合軍はあまりナチス狩りに積極的ではなかったようです。例えば、戦後すぐの当時において、西ドイツの法務省の幹部の77%が、元ナチス党員だったことがわかっています。

ナチス党員は、約800万人もいたと言われてますので、その関わり方にも軽重があり、軽い人たちは、結構見逃されたようですね。
しかし、重罪の戦犯はアルゼンチンなどの南米に逃げたために、イスラエルが必死に探し回ったようです。アイヒマンは、その代表例で、1960年にアルゼンチンで捕まり、62年に裁判を受けて死刑になっています。
このように、元ナチス党員というのは、結構他の国に逃げ出してたようなので、それを悪役にして、ゴルゴ13が始末するという展開が可能になったわけです。
(2)ゴルゴ in 砂嵐(サンドストーム)
次は2巻目です。2巻では、第10話の「ゴルゴ in 砂嵐(サンドストーム)」が非常に面白かったですね。

第10話では、1967年の第3次中東戦争でエジプトを支援するソ連のミサイル部隊の将校2名を殺害することが、ゴルゴ13のミッションになっていました。
依頼主は、イスラエルの国防大臣のモシェ・ダヤンで、こちらの左下の画像の通り、実在の人物をそのままモデルとして登場させています。
ダヤンは、まさに第3次中東戦争時の国防大臣で、しかも戦争開始4日前の6/1に、国防大臣に任命された、戦争のための大臣だったと言えます。
それで、この第3次中東戦争というのが、どのようなものだったのか?というと、別名「6日間戦争」と呼ばれており、1967年6月5日から10日までの6日間で、イスラエルがエジプトやシリア、ヨルダンに大勝ちした戦争でした。

イスラエルは、現在のガザ地区や、エジプト領だったシナイ半島、ヨルダン川西岸などの領土を勝ち取り、戦争前から領土が大きく膨れ上がりました。
元々は、エジプトやシリア、ヨルダンが、イスラエル周辺に軍隊を集結させ、経済封鎖も行い、イスラエルを窮地に追い込んでいったのですが、イスラエルに先制攻撃を喰らって、メタメタにされたという、
まるで織田信長が、今川義元を奇襲で打ち破った桶狭間の戦いのような展開だったと言えます。

ただ、この第3次中東戦争は、いろいろと調べてみると、相当に不思議なことが起こっていました。
当時のエジプトの大統領だったナセルは、この戦争の1ヶ月前から、着々と戦争の準備を進めていたのです。
時系列で並べてみると、
5/18には、国連平和維持軍に、イスラエルとエジプト間の国境からの撤退を命じました
5/23には、ティラン海峡を封鎖すると宣言しました。これは、イスラエルが事前にこれやったら攻撃するからなと言ってたことをやったことになります
そして5/26には、「我々の基本的な目的は、イスラエルを破壊することである」と宣言しました。これはもう、まるで宣戦布告のようですし、攻める気も満々だったことがわかりますよね。
ところが、エジプトは、その後10日間も何もせずに立ち往生したままぼんやりと時間を潰して、イスラエルに奇襲されて、1日で戦闘機を8割破壊されて大敗してしまいました。

なんでこんなアホなことになったのでしょうか?これは今でも論争となっているようです。
個人的には不思議だと思う点は2つあって、
1つは、なぜエジプトは、5月中にあれほど戦争準備をしていたのに、仕掛けなかったのか?です。
これについては、アメリカに止められた説もありまして、それなら一応、納得できるように思います
2つ目として、しかしだとしたら、なぜエジプトは攻める選択肢がなくなった時点で、軍を撤退させなかったのか?具体的には、エジプト空軍の航空機を分散しておかなかったのか?です。
何もせずに、同じ基地に何十、何百と置いていたために、イスラエルからの空爆で、たった1日で8割の航空機が破壊されました。
単に、大統領のナセルがアホすぎたという可能性もありますが、この辺りの不自然な部分に、ゴルゴ13が関われる余地がありそうだと思いましたね。
(3)狙撃のGT
そして3巻目です。3巻では、第12話の「狙撃のGT」が面白かったです。
この話の依頼内容は、中国の諜報機関「統一戦線工作部」の欧州の責任者の暗殺でした。

この責任者の王徳明は、CIAの手引きによってアメリカに亡命し、中国の情報をバラそうとしていました。なので、CIAによる厳重な警備がついており、アクション多めの展開となっており、見応えのある話になっていました。
この作品が描かれた1969年の中国は、文化大革命の真っ只中にあり、共産党内の粛清の波が押し寄せていたため、高官の亡命はリアリティがあったのだろうと思います。
1971年には、国防部のトップの林彪がモンゴルに亡命しようとして撃墜されたりしています。
それで、この話での依頼主は、統一戦線工作部となっているのですが、実はこの組織は、1938年に設立された諜報機関だったものの、毛沢東から「降伏主義者だ」と批判を受けていたらしく、文革時代は解散させられて実在していませんでした。

なので、ゴルゴ13の狙撃のGTの当時は、この組織はなかったことになります。
これはなかなか、意外でしたね。
ただ、インターネットも何もなく、文革で粛清が吹き荒れていた当時に、統一戦線工作部が解散させられていたという情報が、出回る可能性はなかったでしょうから、これは仕方ないと思います。
なお、中国には、諜報機関として、国家安全部、統一戦線工作部、公安部など、いろいろな組織があって、これらの組織は、今も活発に活動しているようです。
それで、この統一戦線工作部は、鄧小平時代に復活し、海外在住の中国人への影響力工作に使われてきたようです。
そして、現在の習近平主席からは、「魔法の武器」と呼ばれているそうです。諜報機関として、なんでもできる便利屋として重宝されているのでしょう。

特に、中国では2017年に国家情報法が制定され、企業や個人は、政府から情報提供を求められたら、断ることができなくなりました。
これを受けて、華為やTikTokの親会社のバイドダンスが、欧米諸国にあれこれイチャモンをつけられていますが、その実行部隊として槍玉に上がっているのが、この組織になっているようですね。
4、ゴルゴ13の名言集・迷言集、そして、ある勝敗について
というわけで、ここからは、ちょっと緩い感じで、1話から16話までのゴルゴ13の名言集などをご紹介していきます。
これは、文庫版の巻末で解説を書かれている杉本さんという方のコメントなのですが、初期のゴルゴ13は、かなり口数が多いのだそうです。
一応、20代じゃないか?という、若い設定なので、若気の至り的に口数も多いのだろうと分析されていました。なので、その分、いろいろと面白いことも喋っているので、気になったセリフをご紹介していきます。

まずは第1話のビッグ・セイフ作戦でのセリフですね。これは作戦が完了した後に、口止めしようと銃を向けてきた諜報員を倒した後のセリフになります。
「人を殺すときには、
つまらんおしゃべりをしている暇に
引き金を引くことだ、、、」
以上です。殺しのプロとそうでない人間との違いが現れてるように感じました。

次は、第7話のブービー・トラップからの引用です。
「あなたは官僚だな、、、それも非常に責任のある。
子供の時から無意識に受け入れてきた国歌というものは、不思議なものだ。
それを聞くと、
米国人はファイトを燃やし、
英国人や日本人は厳粛になる。
そしてフランス人は勇敢になるんだが、、、
同じフランス人でも、現役の役人は動揺する。
やることなすことが、うまくいってないからだろうな」
以上です。
依頼者がフランスの官僚だったようで、国歌が流れてきたときの依頼者の反応から、このように答えていました。
非常に観察眼が鋭いことと、お国柄の違いを教えてくれて、なるほどと思わせられましたね。

3つ目は、16話の殺意の交差からの引用です。
ミッションが完了した後の去り際で、依頼人が持っていたカバンの中に、仕掛けられていた爆弾が爆発したことを受けて、ゴルゴ13はびっくりしてこのように語ります。
「俺には関係のない
何かがもうひとつ
起こっていたらしいな、、、」
ゴルゴ13は、後ろに立たれるとか、撃ってくる場合には、殺気のようなものを察知して、スマートに対処するのですが、全く予想がつかない恨みつらみに対して、ただただ運の良さで逃げ切った場面になります。
初期の作品では、セリフの多さや、このような間抜けな感じも残っているのが面白さになっているように思います。

そして最後に外せないのが、女性関係ですね。ゴルゴ13では、やたらと女性と絡む話が多く、だいたいイチャコラやってます。
今回の文庫版1~3巻では、全部で16話収録されていますが、
①ゴルゴ13と話で絡んだ女性は、冒頭で殴られた娼婦を除いて14人いまして、
②そのうち、イチャコラした女性は7人で50%、
③絡んだ女性のうち、殺しちゃった女性は、14人中4人、
そして、
④イチャコラやった女性のうち、殺しちゃった女性は、7人中2人でした
本当に血も涙もないですね。
ゴルゴ13のまとめサイトの中には、話ごとに、イチャコラの有無をまとめてるものもあって、ちょっと面白かったです。やはり、みんなまとめたいところは一緒なんだなと思いましたね。
というわけで、今回は1~3巻の中から、世界史的に面白いエピソードを3つご紹介してきました。
今後もネタに困ったときに、ちょっとずつ作っていこうと思っています。
それと、もし、ゴルゴ13でおすすめの名言があったり、面白いエピソードがあれば、コメント欄で教えてください。







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