この記事では、「アルゼンチンのミレイ大統領の政策から、トランプ氏が大統領になったときに、何をするつもりなのか?」について、考察します。
8/13日に、テスラの創業者で、Xのオーナーでもある、イーロン・マスク氏が、X上でトランプ氏にインタビューを行い、世界中で話題となりました。
8/15日時点でトランプ氏のXを調べてみたところ、このインタビューについての投稿は、2.6億回も表示されており、実際の視聴回数は2,800万回以上と表示されていました。
そのため、世界中で、かなりの話題になったインタビューだったと思われます。
この話の中で、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領について、触れられていました。
その内容は、
- 現在のアメリカの大きな問題として、インフレがある
- インフレの原因は、政府のばら撒きがひどいからだ
- だから、政府の支出を削減させるための、政府効率化委員会のようなものを立ち上げるべきだ
- もし、それが実現できたら、マスク氏はオブザーバーとして参加したい
- アルゼンチンは、この政府支出の削減をうまくやっている。ミレイ氏は素晴らしい大統領だ
というものでした。
そこで、この動画では、アルゼンチンの現在の政策や、その後の経済状況を解説しつつ、トランプ氏が目指す政策の方向性について、考察していきます。
1、アルゼンチンについて
まずは、アルゼンチンという国のこれまでの歴史について、ざっくりと説明します。
アルゼンチンは、1910年代は、かなり繁栄していた国だったのですが、その後に軍事政権や左翼政権ばかりが政治をやっていたため、国民の人気取りにバラマキばかりやって、海外に輸出できる産業が育ちませんでした。
現代の世界では、技術がどんどん発達していることもあって、原油や鉄鉱石、工業製品など、すべての商品や資源を自分の国で作ることができる国はほとんどなく、他の国との貿易が必要不可欠です。
ということは、海外に売れる商品やサービスがあるからこそ、今の生活を成り立たせることができるわけですよね。
アルゼンチンの貿易収支を見ると、輸出で稼いでいる品目は、農業や鉱業などの、付加価値が低いもので7割を占めています。
その一方で、輸入品を見ると、工業用の部品や機械、消費財などが占めています。
例えば、日本でも自動車の値段を追っかけてみると、10年前、20年前に比べて、かなり上がってきています。
そのため、アルゼンチンの貿易収支は、赤字の年がかなり続いています。
1990年代と、2010年代は、毎年のように赤字が続いていますね。
このような結果、アルゼンチンでは、インフレが進みました。
2002年時点では、1ドル2~3ペソだったのが、現在では1ドル900ペソぐらいにまで、下落しています。
日本で例えれば、1万円が20年で30円とか40円になったような、そんなイメージです。
いかに、凄まじいインフレが起こっているのかがわかりますね。
この結果、 アルゼンチンの貧困率は、6割近くにまで達しており、公務員でさえも、日々の生活に困るような困窮状態となっています。
このような状況に、ついに国民がブチ切れて、昨年の大統領選挙で当選したのが、こちらのハビエル・ミレイ氏です。
(参考:YouTube「La propuesta de Javier Milei con los ministerios」)
ミレイ氏は、経済学者で、アルゼンチンのトランプ氏みたいなキャラです。
あまりに政府の無駄遣いが多いため、チェーンソーを振り回して、「こうやって無駄な支出をブッタぎってやるんだ」みたいなパフォーマンスもやっていました。
そんなミレイ氏は、本当に凄まじい改革をやっています。
具体的に何をやったのかというと、
- 為替レートを約半分にした(1ドル150円を300円にしたような感じです)
- 18の省庁を8つに再編した(文科省や厚労省とかが、無くなりました)
- 各種補助金を廃止したり、支出を削減することで、歳出を3割カット
と、かなりバッサリといろいろやりました。
テレビ番組の中で、大統領になる前のミレイ氏が、自分が大統領になったら、「この省庁はいらないから潰す」と説明している動画がYouTubeにアップされています。
スペイン語ですが、翻訳機能を使えば、なんとなく理解できますので、概要欄にリンクを貼っておきます。
司会者の人も、あまりにミレイ氏が、「この省庁いらねえから」とバッサリと切ってしまうため、笑いを押さえ切れていませんでしたが、見ていて面白かったです。
で、結果的に、こちらの表が、ミレイ氏以後に残った省庁になります。
例えば、文部省と科学技術省が文部科学省になったみたいな感じで、一部の機能は残ったものもありますが、中央省庁の権限や予算は、かなり減ったようです。
なんと言っても、歳出を3割カットですからね。
これほど支出を削ったことで、政府の財政収支は黒字に転換し、インフレ率も前月比で最大25%だったところから7月には、4.0%にまで落ち着いてきています。
ここまでやってしまったら、社会的にいろいろと困っていることもあるんじゃないかと思うのですが、完全失業率は5.7%から7.7%に、2%上がっていますが、かなりのリストラをやった割には、失業率があまり上がっていないような感じがします。
また、経済活動指数を見てみると、補助金が減って、物価も爆上がりして、公務員もリストラされて失業者も増えているため、製造業や土木、建設業などを含めた、いろいろな業種で生産が落ち込んでいます。
ですが、農業や漁業、資源の採掘の方の鉱業については、生産が活発化しています。
アルゼンチンの輸出品目の約7割が、農業や資源なので、外貨を稼げる部門はアクセルをかけてガンガン生産して、外貨の獲得に貢献しない市民向けの生活サービスや、失業対策なだけで役に立たない公共事業などは、後回し、といった感じに見えますね。
人々の生活は苦しくなってはいますが、まずは外貨を稼いで、借りている借金をきっちり返して、それから豊かになることをめざす、という、個人の感覚で言えば、当たり前の国に戻ろうとしているのでしょう。
2、そもそも、なぜインフレが起こるのか?
ですが、なぜ、政府の支出を減らせば、インフレが収まるのでしょうか。
わかりやすくするために、1つの家族で例えてみます。
会社に行って、お金を稼いでくる旦那さんと、専業主婦の奥さん、そして子供とおじいちゃん、おばあちゃんがいる五人家族がいるとします。
旦那さんは、外貨を稼いでくる輸出企業です。トヨタみたいな企業ですね。
このような企業が海外でお金を稼いでくれるおかげで、日本では作れない原油や安い小麦、鉄鉱石などを海外から輸入することができます。
そして、奥さんは、国内産業や政府にあたります。
国内の治安を良くしたり、生活をしやすくするために、住みやすい家を作ったり、美味しい食品を提供したり、旅行しやすい環境を整えたりと、国内に住む人たちに豊かな生活を提供する役割を持っています。
お子さんは、そのような生活、教育を通じて、いずれ国内産業や輸出企業ではたらきます。
おじいちゃん、おばあちゃんは、それまで頑張ってきましたが、歳をとったので引退して、年金で暮らしています。
このように考えた場合、インフレは、旦那の稼ぎ以上に、奥さんや子供、おじいちゃん、おばあちゃんがお金を使いすぎた場合に起こります。
旦那さんの収入が700万円なのに、子供に週5で習い事をさせて、タワーマンションのローンを組んで、奥様方の付き合いでランチ費用がかさんで、おじいちゃん、おばあちゃんの介護費用もかかる、みたいな状況でしょうか。
そんな感じで、収入よりも支出の方が多い状況が続けば、どこかからさらに借金をしなければいけません。
ところが、その借金の返済もキツくなってきて、他からさらに借りて、別のところに返済するような、自転車操業のような状況となっているような状況、それがこれまでのアルゼンチンだったと言えば、理解しやすいでしょう。
インフレを止める方法
これを何とかするには、奥さんやおじいちゃん、おばあちゃんが働きに出てお金を稼ぐとか、子供の習い事を減らしたり、狭い家に引っ越したりして、生活費を減らすとか、そういうことをしなければいけませんよね。
これをやっているのが、ミレイ大統領ということなんです。
国の18あった省庁を8つに減らしたり、公務員を減らして、補助金を削減したのは、家で主婦をやってる奥さんや子供、爺さん婆さんへの出費を減らしたようなものです。
そして、旦那さんの稼ぎにあたる、農業や鉱業の生産力を増やすことには力を入れ、外からの稼ぎに貢献しない、無駄な道路や橋を作るような、公共事業はストップしています。
そんな感じで、収入の範囲で、支出を抑え、浮いたお金で、これまでの借金を返そうとしているのが、現在のアルゼンチンという国なのです。
その結果、外貨を稼ぐことに貢献していない、無駄な仕事がなくなったので、そのような仕事についていた公務員や、国内産業に従事していた人たちの失業や、給料の削減が進んだ結果、お金を使える人が減り、物価の上昇率がおさまってきているわけですね。
3、トランプ氏やマスク氏がやろうとしていることも基本的には同じ
ちょっと、アルゼンチンの現在についての解説しましたが、トランプ氏やマスク氏がやろうとしていることも基本的には同じです。
その共通点をまとめると、こうなります。
トランプ氏の政策は、トランプ氏が運営している「アジェンダ47」というサイトに載っています。
そこでは、あまりに膨らみすぎた官僚機構を削減することを公約に掲げています。教育省や、国土安全保障省などですね。
実は、第1期のトランプ政権の時にも公務員の定数削減を公約に掲げており、就任初日に大統領令に署名もしています。
官僚機構の削減は、以前からやっていたんですね。
また、NATOへの軍事支援も減らす方向と言われています。アメリカ国内の軍事力強化に集中し、他の国への支援を減らす、ということも言っています。
これに加えて、アメリカで安く手に入る原油や天然ガスの採掘を進めます。
その一方で、海外からの輸入品に対しては、高額の関税をかけることで、シャットアウトをします。また、ドル安政策を取ることで、輸出を増やして、輸入を減らすことで、貿易赤字の解消も進めていきます。
これらの政策の組み合わせによって、インフレを抑えつつも、国内の産業を活性化させる、というのが、トランプ氏が考えている、政策の方向性だと考えられます。
4、実は、日本でもやろうとしていた
トランプ氏やミレイ氏の政策は、会社で例えるならば、
「利益を生まない本社部門・管理部門をリストラして、研究開発や生産設備、営業拠点などの、金を産む部門に力を入れて、会社全体の稼ぐ力を向上させる」
ということだと思います。
では、日本では、このような政策を考えた時期はなかったのでしょうか?
と思い、調べてみたところ、意外なことに、2009年に政権交代をした民主党がそんな感じでした。
今でも、当時のマニフェストを見ることができますが、トランプ氏やミレイ氏の政策と対応させてみると、かなり重なるところがありました。
特に共通するところは、官僚システムが肥大化しすぎて、補助金がもらえる業界や、天下りできる一部の人だけが得をするシステムをやめて、社会を支える農業生産者や、介護ヘルパーなどへの手当てを充実させる、という点だと思います。
天下り先のなんとか法人とか、農協なんかに、中抜きをさせる必要はない、という判断ですね。
ですが、ご存知の通り、民主党は党内でいろいろゴタゴタがあって、短命政権に終わりました。
あの当時は、日本はむしろ物価が下がっていた状況でしたので、このような政策を言われても、いまいちピンと来なかったのでしょう。実際、私がそうでした。
それと、うまくいかなかった原因は、いろいろ言われていますが、官僚を味方につけられなかったのが、いちばんの理由だと思います。
これは私見ですが、あの当時、民主党のやり方を実現させたかったのであれば、公務員の給料を3倍ぐらいに上げる必要があったと思います。
たまにテレビでも話題になりますが、国家公務員の働き方をみると、連日徹夜続きで、子供の寝顔も見れないとか、「そんな劣悪な状況で働いているのか!」と驚かされます。
そんなハードワークをしていても、歳を取れば取るほど、役職ポストも少なくなりますし、同期が事務次官になる50代半ばころには、退職を迫られるという過酷さです。
そんな過酷な状況では、何としてでも天下り先を作って、次の就職先を作らなければ、住宅ローンも払えなくなるでしょうから、民主党にも必死に抵抗をしていたのでしょう。
とは言え、そうやって自分たちの次のポストを作るために、何千億円、何兆円というお金が、ムダに使われ続ければ、いずれ国が傾いてしまいます。
アルゼンチンでも、国家公務員の抵抗は相当にあったと思いますが、多くの人が貧乏になりすぎましたため、これほどの改革が実現できたのだと思います。
5、10年後、20年後には、日本もアルゼンチンのようになる
また、高齢化がさらに進む日本では、これからアルゼンチンのようになる可能性は十分にあると感じます。
働かないで年金で暮らす人が、さらに増えるわけですからね。
確かに、「日本は、対外純資産がたくさんあるから、そんなことにはならない」という人はいます。
ですが、この状況がずっと続けば、その可能性は日に日に高まっていくでしょう。
というのも、ここ2年ぐらいで、円安が進んでいるのも、そういった理由が含まれているからです。
例えば、トヨタやホンダのような輸出企業は、日本の市場が小さくなっているため、海外で稼いだお金を日本に戻す金額を減らし続けています。
現地に工場を作った方が、儲かるからです。
そのため、国際収支も赤字になってきており、円安になりやすい環境にあります。
ドル安政策を求めるトランプ氏が大統領になれば、一時的には、円高には進むでしょう。
ですが、長期的に見れば、日本の高齢化による衰退は避けられませんので、10年、20年という長い目で見れば、円安に進むのはしょうがないと思います。
そうやって、物価が年率10%、20%といったレベルで上がってきた時に、初めて、公務員の削減や、高齢者に手厚い社会保障制度の改革が行われるのかな、と予想します。
結論
というわけで、結論です。
- トランプ氏とミレイ氏は、同じような政策で、国を立て直そうとしている
- 政策が似ているのは、国の状況が似ているため。例えるなら、旦那が外で稼ぐ以上に、専業主婦の奥さんが、家でお金を使いまくってしまうため、収入よりも支出の方が多くなり、借金で首が回らなくなっているような状況
- そこで、官僚や補助金を減らし、海外に輸出できるような産業を重点的に育てる政策を取ろうとしているが、既得権を持つ人からは嫌われるため、いろいろと嫌がらせを受けている
- 日本も高齢化が進んで、国内市場が小さくなているため、輸出企業が国内にお金を戻さなくなってきており、円安が進みやすくなっている
- 2009年の民主党のマニフェストでも、似たような政策を掲げていたが、国民の理解も得られにくく、官僚や既得権側の人たちの反発に遭い、うまくいかなかった
- しかし、10年、20年後には、日本もアルゼンチンのような状況になっている可能性は十分にあるので、その時には、ミレイ氏やトランプ氏が行うような政策が実現するかもしれない
と考えます。
というわけで、イーロンマスク氏とトランプ氏のインタビューで話題となって、アルゼンチンのミレイ大統領の政策と、今後のトランプ氏の政策の共通点について、考察してみました。
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