この記事では、相続財産の調べ方と評価・計算方法について解説します。
1、相続財産の対象
相続財産には、現金や預金、有価証券、不動産などの「プラスの財産」と、住宅ローンや借金などの「マイナスの財産」の、2つに分けられます。
財産の種類と、ザックリとした評価方法について、まとめた表がこちらになります。
カテゴリー | 財産の種類 | 評価方法 | 調べ方 | |
プラス財産 | 金融資産 | 現金 | 現時点の残高 | |
預貯金 | 現時点の残高 | 銀行などの金融機関に、残高証明書の申請をする | ||
上場株式 |
現時点の終値、または直近3ヶ月の各月の平均価格 |
証券会社・銀行に、残高証明書の申請する |
||
債券 | 残高証明書に記載されている評価額 | |||
投資信託 | 現時点の終値、または直近3ヶ月の各月の平均価格 | |||
非上場(未公開)株式 | 規模で計算方法が異なる | 国税庁「取引相場のない株式の評価」 | ||
不動産 | 土地 | 路線価×面積 | 路線価図・評価倍率表 | |
家屋 | 固定資産税評価額 | |||
借地権 | 路線価×面積×借地権割合 | 路線価図・評価倍率表 | ||
農地など | 農地の種類よって計算方法が異なる | 国税庁「農地の評価」 | ||
その他 | ゴルフ会員権 | 取引相場×70% | ||
貴金属・美術品・骨董品 | 鑑定価格または市場価格 | |||
自動車 | ||||
みなし相続財産 | 生命保険金 | |||
死亡退職金 | ||||
マイナス財産 | 債務 | 未納の税金 | ||
他人の借金の保証義務 | ||||
住宅ローンなどの借金 | ||||
クレジットローン |
全てについて解説すると、かなり長くなってしまうため、この記事では、プラスの財産についてのみ解説します。
2、どうやって調べるのか?計算方法を詳しく解説
では、ここからは評価額の入手方法、または計算方法について、詳しく解説します。
(1)預貯金
銀行やゆうちょなどの金融機関の残高の調べ方です。
ご自分の預貯金を調べるのは簡単ですが、故人、またはご家族の残高を調べるには、金融機関に相続関係の書類が必要です。
また、証明書の発行手数料が数百円程度かかる場合があります。
必要書類 | 参考リンク | |
ゆうちょ銀行 |
・口座の通帳または貯金証書 ・故人の死亡の事実がわかる戸籍謄本等 ・相続人であることが確認できる戸籍謄本等 ・本人確認書類 ・印鑑 |
ゆうちょ銀行「残高証明書の発行」 |
三菱UFJ銀行 |
・故人の死亡年月日が確認できるもの戸籍謄本等 ・相続人であることが確認できる戸籍謄本等 ・印鑑証明書と実印 |
三菱UFJ銀行「残高証明書の発行」 |
なお、戸籍謄本関係の証明書は、金融機関の数だけ、原本を求められますので、取引していた金融機関が多い場合、かなりの数になってしまいます。
そのため、「法定相続情報一覧図」を法務局で作成すれば、これ1枚で済みますので、早めに作ることをお勧めします。
詳細はこちらの記事で解説しています。
(2)上場株式・投資信託・債券
上場株式や投資信託などの金融商品は、価格が変動するため、評価額の計算が必要になります。
ですが、金融機関によっては、残高証明書とは別に、相続税評価額の計算をしてくれるところもあります。
そのため、金融機関に残高証明書を出してもらう際に、この点についても確認するといいでしょう。
なお、銀行やゆうちょ銀行などで、投資信託などの金融商品も取引している場合、預貯金だけでなく、すべての金融商品の残高が記載された残高証明書を発行してもらえます。
なお、野村証券の場合、必要書類は以下の通りです。
必要書類 | 参考リンク | |
野村証券 |
・遺産分割協議書 ・相続人全員の印鑑証明書 ・故人の出生から死亡までの戸籍謄本(原本) ・相続人全員の現在の戸籍謄本、または戸籍抄本 ・相続人の本人確認書類 |
野村証券「相続のお手続き」 |
では、商品別に、計算方法について解説します。
①上場株式
上場株式の評価は、以下の4つのうちのいずれか低いものを選べます。
- 相続発生日の終値
- 相続発生月の終値の月平均
- 相続発生の前月の終値の月平均
- 相続発生の前々月の終値の月平均
の4種類です。
終値の月平均の調べ方
終値の月平均とは、例えば、1月1日の終値、2日の終値、3日の終値、、、、と、すべての営業日の終値を足して平均して算出したものを指します。
ですが、いちいち計算するのは面倒ですから、以下の方法で調べることができます。
- 日本取引所グループの月間相場表のページから、知りたい月の株式相場表のファイルを開く
- 持っている株式の銘柄コード(4桁の数字)を参考に、株式相場表の終値平均を調べる
- 相続が発生した月と、その前月、前々月の価格を比べる
なお、相続が発生した日が休日だった場合、その前日や前々日など、直前で価格がついた日の終値を使います。
ちなみに、株式相場表にもいろいろな価格がありますが、一番右端の価格がそれに当たります。
この価格を元に、保有株数をかけて、評価額を算出します。
②投資信託
投資信託は、3種類あるため、それぞれ計算方法が違います。
- 一般投資信託(金融機関でプッシュされてる投資信託)
- 日々決算型投資信託(MRF)
- 上場投資信託(株のようにいつでも売買できる:ETF、REITなど)
特に3の上場投資信託は、株式と調べ方、計算方法は同じです。そのため、この章では、1、2の投資信託について解説します。
1)一般投資信託
こちらが、金融機関から勧誘される、手数料の高い投資信託です。
国内で取り扱っている投資信託は、5,000〜6,000銘柄ほどあるため、個別に運用会社のHPから、基準価額を調べる方法もありますが、投資信託の専門サイト「ウェルスアドバイザー」で、銘柄を検索して調べると便利です。
評価額の計算方法
なお、評価日は、相続発生日(当日に価格がない場合は、直前の価格のついている日)の価格になります。
基準価額として1万円とか、2,000円といった価格が表示されますが、これは1万口当たりの価格になります。
なので、500万口持っているなら、「基準価額×500」で評価額を計算します。
税金と解約時の手数料を差し引く
投資信託の評価額は、これで終わりません。
実際に現金にする際に、①儲かっていれば税金が取られますし、②解約の際に手数料が取られる商品もあります。その分を差し引いた額が、相続税の評価額となります。
なお、税金は、利益に対して20.315%になります。儲けの約2割が税金として差し引かれるわけです。
さらに、解約時の手数料(信託財産留保金または解約手数料と書かれています)として、時価評価から0.3〜3%程度、差し引かれる場合もあります。
また、保有期間に応じて、解約手数料が変わる商品もありますので、その場合には、購入日がいつなのかも調べておく必要があります。
各投資信託の目論見書や、先ほどご紹介したウェルスアドバイザーの個別投信のページに記載されていますので、そちらで確認してください。
相続税評価の計算式
以上を踏まえて、一般投資信託の評価額の計算は以下の通りになります。
2)日々決算型投資信託
こちらの投信は、MRFが対象になります。
主に債券で運用している投資信託ですが、ほぼ金利がつかないため、億円単位でMRFで保有していなければ、口数=金額で問題ありません。
なお、残高明細書に未収分配金という表示があった場合には、MRFに足し込んで、税金分(20.315%)を差し引けば計算完了です。
③債券(国債・社債・仕組み債・外債など)
債券は、国税庁のHPに詳しい計算方法が書かれていますが、計算がややこしいため、担当する金融機関に残高証明書を請求するのが一番正確で確実です。
特に、仕組み債の評価は、途中解約を前提とした商品ではないため、金融機関に出してもらうしかありません。
ざっくりとした概算金額を知りたい場合には、直近の残高報告書などを参考にするのがいいでしょう。
(3)不動産(土地・家屋・借地権など)
①土地
土地の評価は、路線価(市街化区域)または評価倍率表(市街化調整区域)を参考にして計算します。
土地の形状によって、計算方法が違いますので、詳しく知りたい人は、こちらの記事をご参考にしてみてください。
計算機機能もついていますので、該当する土地のパターンを選んで、入力するだけで、評価額を算出することができます。
②家屋
建物部分の評価については、固定資産税評価額を利用します。
毎年送られてくる固定資産税の納税通知書についてくる「課税明細書」に記載されていますので、そちらで確認できます。
③借家権
もし、自宅が借家である場合は、借家権も対象となります。
借家権は、路線価の30〜90%の評価額になりますが、掛け目はエリアによって異なります。
路線価図を開くと、ページの上にA~Gのアルファベットのところに借地権割合がありますので、該当するエリアの路線価の横のアルファベットを見て、参考にしてください。
下の図を例にとると、「68F」という表記が見られますが、これは「6.8万円/㎡で、借地権割合は40%(F)」という意味になります。
(4)その他(美術品、貴金属、ゴルフ会員権など)
①美術品
高価な美術品も、相続税の対象となります。数万円レベルのものであれば、「家庭用財産」というくくりで、「一式で○万円」とすることもできます。
ですが、数十万円以上のものであれば、専門家に鑑定を依頼した上で、より正確な査定額を出してもらう必要があります。
なお、鑑定費用は相続人持ちとなりますので、注意が必要です。
②ゴルフ会員権
平成バブルの頃は、数千万円するゴルフ会員権を購入して大損をした人も多かったと思いますが、現在でも取引はされていますので、相続財産として計算します。
ゴルフ会員権の取引価格を載せているサイトがいくつもあるので、そちらを参考にして調べることができます。
③金・銀・プラチナ
現物資産として、金・銀・プラチナなどを保有している人も結構いるのではないでしょうか。
こちらも、田中貴金属などで、取引価格を載せているので、相続発生日の価格を調べることができます。
1g単位での価格表示となっているので、保有しているグラム数をかければ、評価額を計算できます。
(5)みなし相続財産
みなし相続財産とは、故人が生前から蓄えてきた財産ではなく、死亡によって受け取ることができる財産になります。
大きくは、死亡保険金と死亡退職金が、これにあたります。
①死亡保険金
死亡保険金には、非課税枠があります。
②死亡退職金
死亡退職金にも、非課税枠があり、死亡保険金と計算式は一緒です。
まとめ
というわけで、相続財産の調べ方、計算方法について、ザックリではありますが、整理しました。
特に金融資産については、残高を調べようとする時点で、相続手続き並みの証明書類(戸籍謄本等)が必要となりますので、早めに動き出すと、あとあと困らないでしょう。
その際におすすめなのが、「法定相続情報一覧図」の作成です。
一度の申し込みで、各金融機関、不動産登記、各種資産の名義変更に使えますので、すでに相続が発生しているのであれば、一度確認してみてください。
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