なぜトランプは南アフリカにケンカを売るのか? | イエ&ライフ

なぜトランプは南アフリカにケンカを売るのか?

youtube原稿

今回の記事では、「今度は南アフリカとやり始めた、トランプ・レスリング・エンターテイメント。いよいよトランプ政権の政府債務をチャラにする方法が見えてきた」と言うことで、やっていきたいと思います。

 

1、はじめに

5月21日の水曜日にホワイトハウスで、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領と、トランプ大統領との首脳会談が行われました。

南アフリカは、4月2日に発表されたトランプ相互関税において、30%の関税をかけられており、日本と同様に、アメリカ政府に対して、関税の引き下げ交渉を行なっています。

 

南アフリカは、世界的に治安が悪い国の一つであり、私も学生時代に世界中を回るバックパッカーの方々から、南アフリカはホットな国だから、行くなら気をつけろ、というか行くな、と言われていました。

もう20年以上前の話ですが、そんな状況はそれからも続いているらしく、白人であろうが、黒人であろうが、多くの人たちが凶悪犯罪に巻き込まれています。1日の殺人件数は、75件と、日本の60倍という凄まじさです。

 

(参考:BBC)

 

そんな状況に耐えかねたアフリカーナーと呼ばれる白人約60人が、この会談の1週間前に、アメリカに亡命を申請し受け入れられています。

アフリカーナーと呼ばれる白人の多くは、南アフリカで農業を行っており、南アフリカの食を支えているのですが、人口の8%しかいないアフリカーナーが、南アフリカの4分の3の土地を持っていると言うことで、貧困層の黒人から妬みを買って、襲撃されることがあるようなのです。

 

亡命申請は、そのような命の危機を感じた人たちによるものだと考えられます。

ですが、これらの人たちがどんどん脱出してしまうと、南アフリカの農業生産に影響が出ます。

なので、南アフリカ政府から見ると、アメリカの亡命受け入れに対して、反対の声も強く、今回の首脳会談では、関税の引き下げだけでなく、このような亡命受け入れもやめてくれ、と言うのが、ラマポーザ大統領の目的だったと思われます。

 

(参考:ロイター)

 

ところが、実際に会談が始まると、トランプ氏は早速、南アフリカは人種差別の国だ、こんなにたくさんの白人を殺している、酷い国だよ、とやり始めたのです。

ご丁寧に、モニターも用意して、「白人を殺せ」と叫んでいる、南アフリカの政治家の動画を流したり、たくさんのネット記事のコピーを印刷して、1つ1つ紹介していくというほどの、用意周到ぶりでした。

 

2月に、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談でも、ヴァンス副大統領がゼレンスキー氏を挑発して、大喧嘩をさせることで、ウクライナとアメリカとの関係悪化を誘発しましたが、今回の南アフリカとも、マータ、同じようなプロレスを行ったわけです。

 

では、なぜトランプ氏は、こんなことをやったのでしょうか?

今回の動画では、この点について考察していきたいと思います。

それでは、参りましょう。

 

2、トランプ政権の目的

最初に結論を言ってしまうと、トランプ政権がわざと南アフリカ大統領に喧嘩を売った理由は、BRICS諸国とアメリカとの切り離すためだと思います。

 

(参考:The Habari Network)

 

南アフリカは、BRICS初期メンバーの1つであり、アフリカ大陸の中で、対米貿易が最も多い国でもあります。

この南アフリカに対して、アメリカが絶縁とも取れるような態度を取れば、他のアフリカ諸国も、アメリカとの交渉を諦めて、BRICS経済圏へと流れると思われます。

 

実際、ここ10年ぐらいのアフリカ諸国との貿易額を見てみると、ほぼ全ての国が、アメリカよりも中国との貿易量の方が多くなっています。

 

では、なぜトランプ政権は、BRICSとの関係を切りたいのでしょうか?

理由は大きく2つあります。

 

(1)アメリカの製造業を復活させたい

1つ目は、アメリカ国内に製造業を戻したいからです。

このチャンネルでは、この点について、何度も解説していますので、今回は簡単に説明しますと、要するに、

アメリカは、米ドルという紙切れをたくさん持っているだけで、工場は海外に散らばってしまって、武器もスマホも、薬もまともに作れない、ポンコツみたいな国になっているのです。

 

(参考:YouTube)

 

そのため、トランプ氏は、海外にある工場をアメリカに持って来させるために、相互関税をかけて、海外でものを作るよりもアメリカ国内でものを作るように仕向けようとしているわけです。

 

(2)政府債務の削減

そして2つ目が、債務の削減です。

 

(参考:米国財務省)

 

現在のアメリカの政府債務は、36兆ドルにも膨れ上がっており、長期金利も4%以上に上がっているため、年間の利払が1兆ドルを超えています。

これは、税収の2割から3割の水準となっているため、何とかしないとドルが信用されなくなってしまう可能性があります。

 

(参考:政府効率化省)

 

しかし、最近のトランプ政権の動きを見ると、政権発足当初は、大きく期待されていた政府効率化省は、5月時点で1700億ドル程度しか、予算の削減に貢献できていません。

 

また、最近法案を通した「ワン ビッグ ビューティフル ビル」と呼ばれる予算案は、減税の追加と延長が含まれており、こちらも債務削減には貢献せず、今後10年間でさらに4.1兆ドル増えると試算されています。

 

(参考:CBS news)

 

つまり、政府予算の削減することで、借金を減らせる状況にはないのです。

では、どうやって政府債務の削減をしようとしているのか?というと、おそらくですが、インフレを使うものと予想されます。

 

どうやってインフレを起こすのか?

アメリカのGDPは29兆ドルで、政府債務は36兆ドルですが、GDPを倍の60兆ドルぐらいに上げて仕舞えば、借金が多少増えたとしても、十分に返済可能になってきます。

これを狙っているのではないでしょうか?

では、これをどうやってやるのか?というと、大きくは4つあります。

 

①海外との貿易を減らす

1つ目は、BRICSとの貿易をやめて、国内でものを作るようにすることです。

 

(参考:ロイター)

 

こうすれば、国内の物価が上がりますので、同じ量を買おうとすれば、今以上に金がかかるので、GDPは上がりやすくなります。

今回の南アフリカに喧嘩を売ってるのは、この流れではないかと思います。

 

また、昨日23日には、EUに対しても、関税を50%に上げるぞと脅し始めたり、アップルに対しても、「インドやベトナムで作るとかいう小細工はやめろ。そんなことをし続けるなら、アップル製品には25%の関税をかけるからな」と発言し始めています。

トランプ政権は、こんな感じで、最近は全方位で喧嘩を売ってるように見えますが、それは、海外との関係悪化が、むしろ国内への製造業の回帰にはプラスだと考えているからなのでしょう。

 

②国内に投資を呼び込む

2つ目は、国内に投資を呼び込むということです。

世界中に喧嘩を売っていたら、アメリカでビジネスをしたがる企業が減るような気がしますが、アメリカ企業や、アメリカと関係が強い企業や国にとっては、そうではありません。

 

(参考:朝日新聞)

 

先日の中東訪問で、2兆ドルの軍事、AI関係の契約を受注していたり、ホンダやトヨタなどの世界中の自動車メーカーも、アメリカに工場を建設すると発表してたりしてます。

もちろん、アップルやマイクロソフトなどのビッグテックも、アメリカ国内での投資を増やすと発表しています。

 

これらの投資によって、アメリカ国内にお金がさらに回ることになります。

日本でも、熊本や北海道に数千億円から2兆円規模の半導体工場ができたことで、大津町や千歳市では、建設バブルが起こっています。

 

これに似たような効果が、アメリカ国内でも、幾つも起こるとなれば、周辺の人たちの雇用も増えますし、建設需要で盛り上がってくるでしょう。

 

③通貨の切り下げ

3つ目が、通貨の切り下げです。

4月2日のトランプ相互関税を受けて、18カ国がアメリカ政府と交渉中です。ところが、この交渉には、通商関係の代表者である商務長官のハワード・ラトニック氏だけでなく、ベッセント財務長官も関わっています。

 

(参考:BBC)

 

例えば、5月11日に、スイスのジュネーブで行われた中国との貿易交渉に参加したのが、ベッセント長官でした。

また、今回の日米の貿易交渉でも、ラトニック氏だけでなく、ベッセント氏も関与しています。

 

つまり、ただの関税の交渉ではないのです。

1985年に行われたプラザ合意の時のような、各国への通貨切り上げ、日本であれば、円高ドル安にしろ、という交渉が行われていると考えられます。

これによって、さらに海外からのモノが入りにくくなりますので、米国でビジネスをする企業は、国内でものを作らざるを得なくなります。

 

④FRBによる金融緩和

そして、最後の4つ目が、FRBによる量的緩和です。

日本でも、日銀が国債の買い入れを行っていますが、アメリカは今はやっておらず、金利が高止まりしたままにあります。

 

(参考:Market Watch)

 

トランプ氏は、FRBに金利を早く下げろと圧力をかけているものの、パウエル議長は今のところは応じていません。

ですが、すでにステルスQEという形で、国債の買い入れを始めているようです。

 

これは、中央銀行が単に紙切れを印刷している状況と同じなので、インフレ要因となります。

日本の異次元緩和が、なかなかインフレに結び付かなかったのは、お金が海外に流れるか、国内でも不動産にしか行かなかったからです。

 

海外との貿易を減らして、ドルを刷り散らかせば、アメリカ国内にお金が貯まりやすくなりますので、インフレはさらに進むと考えられます。

こんな感じで、コップの中に嵐を作るように、アメリカを世界経済から切り離して、国内だけでお金をぐるぐる回すことで、物価を上げ、賃金を上げ、GDPを上げていこうとしているのではないでしょうか?

 

そうすれば、借金が多少増えたとしても、それ以上にGDPが上がるので、借金の負担を減らせる、というわけですね。

過去のアメリカのGDPと債務の関係を見てみると、戦後から1980年ごろまでは、一貫して債務のGDPに占める割合が、低下傾向にありました。

 

(参考:米国財務省)

 

インフレで物価が上がる割に、政府の借金の増加額はそれほど増えなかったため、割合が低下していったからです。

 

それが変わってきたのが、レーガン政権になってからです。

歴史の教科書では、この頃のアメリカは、貿易赤字と財政赤字の、双子の赤字に悩まされるようになった、と教わってきましたが、この状況は今のいままで、ずっと続いています。

 

そして、今トランプ政権がやろうとしているのは、このうちの貿易赤字の解消です。財政赤字は避けられないにしても、貿易赤字が解消されていけば、現在の債務問題も解消に向かうのではないか?ということではないでしょうか。

ちなみに、そんな都合のいいことができるのか?と思うかもしれませんが、もちろん、これで損をする人もいます。

 

それが、日本や欧州などの、アメリカ国債をたくさん持っている国や投資家です。

おそらく、こういうことをやれば、1ドル100円とか、70円とか、そういうレベルの円高になるでしょうし、米国債の金利も今よりもさらに上がるでしょうから、債券価格もさらに下がるでしょう。

農林中金が2兆円近い赤字を出しましたが、このような金融機関が今後さらに増えていくと予想されます。

 

3、これまでの財政破綻シナリオとトランプ政権の政策の違い

最後に、私が妄想したトランプ政権の借金をチャラにしていくシナリオと、マーケット関係者のシナリオの違いについて、整理しておきたいと思います。

 

アメリカの政府債務は、これまで債務上限問題という形で、話題となってきました。

特にオバマ政権の時には、2011年、13年、15年と、何度も話題となって、一時は政府機関が閉鎖されたりもしています。

 

ですが、結局は議会が上限を引き上げて、ことなきを得るというパターンが続いてきたため、「アメリカの借金が大変だ!」と誰かが騒ぎ始めても、「結局は、借金を増やせばいいだけでしょ?何の問題があるの?」という感じでやり過ごせてきたと言えます。

しかし、そうは言っても、中国などのBRICS諸国は、どんどん米国債の保有を減らしています。現在増やしているのは、主にヨーロッパの国々だけです。

 

なので、今後さらに借金を増やし続けていくと、何十年後かわかりませんが、ドルの価値がさらに下がっていき、誰も受け取ってくれなくなる可能性があります。

ですが、現在のトランプ政権もドル安を求めていますし、アメリカにモノを売ってくるなと言ってますよね。

これって、バイデン政権までのアメリカのように、これまで通り借金を増やし続けて、ドルの価値が下がって、他の国が取引をしなくなる結末と何が違うのでしょうか?

 

最も大きな違いは、製造業が残るかどうかです。

 

(参考:Bloomberg)

 

現在のアメリカは、ドルという紙切れを他の国に渡して、モノを手に入れられていますが、これまで通りのことを続けて破綻した時には、アメリカ国内では何も作れないポンコツの国になります。

 

その一方で、トランプ政権は、ドル安も進めるし、海外との貿易も減らしたいと考えていますが、同時に国内に製造業を戻すことを目的としてます。

また、トランプ政権の政策をとれば、中間層が息を吹き返しますし、移民も必要としませんから、治安の回復も進むことになるでしょう。

損をするのは、金融資産を持つ人たちと、物価上昇にも関わらず、仕事に就けない人たちでしょう。

 

私は、トランプ政権発足当初は、イーロン・マスク氏の政府効率化省が大活躍していたので、政府予算削減でアメリカを建て直すのかなと予想していましたが、最近のトランプ政権の動きを見ていると、インフレで借金をチャラにしていくシナリオの方が現実味があるように考え直しました。

今後も、トランプ政権の動きは、多くの人の予想を超えてくると思いますので、引き続きウォッチしていきながら、その都度、その意図と政権の目標とするところについて、考察していきたいと思います。

この記事を書いた人
ゴトウ

証券会社で12年間勤務。営業と店舗マーケティングに従事後、2018年から当サイト「イエ&ライフ」を運営しています。

不動産価格の動きの理解や今後の予想は、金融マーケットの知識があると理解しやすいため、読者のお役に立てるのではないかと、サイトを運営しています。

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