2021年8月3日に、読売系列の情報番組「かんさい情報ネット.ten」で、京都市の財政危機についての特集が放送されました。
その内容がかなり衝撃的でした。
なんと、あと10年もしないうちに、京都市の財政が破綻すると、市長が発言していたからです。
Yahooニュースにも取り上げられ、500件以上のコメントがつくなど、ネット上でもかなり話題となっているようです。
(京都市 門川大作 市長) 「このままでは10年以内に、京都市の財政は破綻しかねません」
(中略)
実質的な借金の残高は8500億円に上り、財政破綻の危機に直面しているのです。
(参考:Yahooニュース「【特集】京都市が“破産”危機!借金8500億円…10年以内に財政破綻…伝統と文化の街にいったい何が!?」)
そこで、この記事では、
- 現在の京都市の財政状況
- もし財政破綻した場合には、土地価格にどのような影響を与えるのか?
について、解説していきます。
1、京都市の財政の現状
まずは、京都市の財政状況について、押さえておきましょう。
今年6月に、京都市は「行財政改革計画(案)2021-25」をHPに公開しました。
この計画案に、最新の京都市の財政状況が説明されていますが、A4のレポート用紙で約60ページにもなるほどの大分量のため、重要なポイントについてまとめます。
なお、以下の解説文で掲載しているグラフや表は、上にリンクを貼ってある行財政改革計画からの引用となります。
(1)年間で約236億円の赤字→貯金を取り崩している
まず、京都市の毎年の収入と支出を見てみると、令和3年度の予算を見ると、約236億円の赤字となっています。
4,905億円の支出に対して、収入(京都市の税収+地方交付税)が4,669億円しかなく、約236億円の赤字になる計算です。
上の表は、今年のものですが、このような状況が何年も続いてきたこともあって、将来の借金返済のために貯金をしていたお金(「公債償還基金残高」)を、毎年のように取り崩している状況です。
その額はなんと823億円にもなっており、返済期限がきても借り換えをしなければいけない状況となっています。
例えば、住宅ローンを3,000万円借りた場合、毎月10万円を約35年間で返済し続ける、ということになりますが、自治体の借金は満期に一括で返済をします。
そのため、満期までに借りたお金を貯めておかないとヤバいわけですが、そのお金を取り崩して、毎年の予算で使っているわけですね。
「では、この貯金がなくなったら、どうなるのか?」というと、国から「財政再生団体」に指定されてしまい、国からの指導のもと、公共サービスの削減や、税金・公共料金の値上げが行われてしまうことになります。
2、財政破綻の可能性は?
では、京都市は、本当に財政破綻をするのでしょうか?
これまで参考にしてきた「行財政改革計画(案)2021-25」を見てみる限り、「国による特別な支援」というウルトラCがないとすれば、いずれ破綻する可能性が高いと考えられます。
その理由は、大きく3つあります。
①税収の予想が楽観的
まず第一に、今後の税収に対する予想が、かなり楽観的だという点です。
今年の市税が2,790億円なのに対して、今後は徐々に増えていき、4年後には2,960億円(+170億円)まで増えるという予想なのです。
この予想の根拠は、リーマンショック後の成長率等を参考にしている、とのことです。
昨年から今年のコロナショックとリーマンショックが似ている、ということと、コロナ前の市税が2,900億円前後だったことから、達成可能だと考えているのでしょう。
しかし、この見通しは、かなり甘いと言わざるを得ません。
というのも、2008年のリーマンショック当時は、就業者人口(15〜65歳:多くの市民税を払う年齢層)が97万人もいたのに対して、2020年現在では89万人しかいないからです。
しかも、10年後の2030年には、さらに約3.3万人減少すると予想されています。
(出典:国立社会保障・人口問題研究所 平成30年度人口推計)
働く人が減れば、市民税も減ります。
また、京都市の市税のうち、個人市民税の割合は約38%(令和元年度)と、一番大きい規模なので、この個人市民税が回復しなければ、市税全体の回復も難しいと考えられます。
②国からの地方交付税が減り続けている
京都市の財政は、①国からの国庫支出金(義務教育、生活保護等)、②市税、③地方交付税(①、②で足りない場合の穴埋め)の、大きく3つで成り立っています。
しかし、国の財政が厳しくなっているため、この③地方交付税が減少傾向にあるのです。
なんと、この15年間で、1,307→812億円(- 495億円)まで減少しているのです。
京都市では、平成14年に財政非常事態宣言を出して、職員の数や予算の圧縮をしてきていましたが、国からの交付金も同じように減っていくため、ちっとも楽にならないわけです。
そして、この交付税は令和2年までは684億円まで減少傾向にありました。国全体で見ても、この10年間で17.7→16.3兆円へと約1割減らされており、京都市だけが減らされているわけでもありません。
そのため、令和3年度はコロナの影響もあって増額が見込まれていますが、今後さらに回復するとは考えにくいため、国からの支援はさらに厳しくなっていくでしょう。
③高齢化で、社会福祉費が増える
そして、もっとも悩ましいのが、高齢化による福祉費用の増大です。
高齢者の増加によって、医療費や介護費、生活保護費が増え続けているため、この10年で約250億円も増えているのです。
そして、この費用は今後もさらに増え続けることが予想されます。
というのも、医療費の負担が大きくなる75歳以上の人口のピークは、2030年ごろと予想されているからです。
(出典:国立社会保障・人口問題研究所 平成30年度人口推計)
ちなみに、京都市の試算によると、これから5年であと100億円増えると予想していますので、10年後には200億円近くの負担増になると考えられます。
つまり、京都市の財政は、
- 働く人が減ることで税収の減少が進み
- 国による支援も減っていく可能性が高く
- 高齢者の増加によって、支出はさらに増えていく
という、ニッチもサッチも行かない状況になっているのです。
そのため、よほどバッサリと支出を削らなければ、京都市の貯金(「公債償還基金」)は底をつき、財政再生団体へと転落する可能性が高いと考えられます。
2、財政が破綻するとどうなるのか?
2007年に夕張市が、財政再建団体に転落しました。これによって、夕張市は、
- 4つあった小中学校は1つに統合
- 市の職員の給料は4割カット
- 市民税が3,000→3,500円に
- 下水道使用料が1,440円→2,440円/10立方メートル(東京23区の約2倍)
などの、徹底的なコストカットを国から指導されたことで、1.3万人いた人口も7,000人まで減っています。
京都市も、「行財政改革計画(案)2021-25」 の中で、このままでは、夕張市と同じ財政再生団体(旧 財政再建団体)へと転落する可能性が高いと説明しています。
では、具体的に何が起こるのか?
京都市の説明によると、
- 保育料の4割値上げ(2.3万円→3.2万円/月)
- 国民健康保険料の3割値上げ(9.7万円→12.4万円)
- 高齢者向け運賃の軽減の停止
- 保育士への給料の助成の停止
といった、京都市で独自に行ってきた施策が、まずストップすることになります。
さらに、市民税、軽自動車税、固定資産税などの税率が引き上げられることが予想されています。
財政破綻を避けるために、何を削減しようとしているのか?
もちろん、京都市でも、このような状況にはなりたくないため、財政の健全化のために、支出の削減をしようとしています。
では、具体的に、何を削減しようとしているのでしょうか?
実は、子育て世帯への支援が、大きく削られるようなのです。
京都市の財政再建案(2021年6月時点)
検討項目 | 効果(億円) |
保育士等への助成金 | 60億円 |
高齢者向けのバス・地下鉄の助成 | 52億円 |
保育料の軽減のための助成金 | 16億円 |
下水道事業への繰り出し金 | 85億円 |
国民健康保険料への助成金 | 52億円 |
予防接種費 | 18億円 |
上に挙げた項目は、京都市が独自に予算をつけてきた施策なので、これらが無くなっても、他の市並みになるということなので、どれほど大きな影響があるのかを測るのは難しいですが、子育て世帯にとっての魅力は薄れることは確かでしょう。
3、京都市の土地価格への影響は?
このように、将来的にも不透明感の強い京都市の財政なわけですが、京都市の土地価格には、どのような影響が出てくるでしょうか?
まず、財政破綻を回避するための支出の削減策に、保育費用の助成があることから、共働きの子育て世帯による住宅需要が下がる可能性があります。
特に中心部に近い住宅地ほど、買い手がつきにくくなるでしょう。
実際、ここ5年間の人口の変化を調べてみたところ、向日市に近い南区や、伏見区などの周辺エリアで増加しているものの、それ以外のエリアでは減少していました。
京都市の地区別の人口変化(2015.12〜2020.12)
増減:赤色(1,000人以上増加)>オレンジ色(500〜999人増加)>緑色(100〜499人増加)>青色の↙️(100〜499人減少)>紫色の↙️(500以上の減少)
桂川駅の周辺では、イオンモール桂川があるため、若い子育て世帯ほど人気が集中しやすいですからね。
また、中心部では外国人向けの別荘用のマンションや観光ホテル、オフィス需要があるため、土地価格への影響は小さいと考えられますが、このような用途に使えない住宅地では、需要が減っていくと考えられます。
まとめ
財政破綻すれば、職員の給与も大きく引き下げられますので、まずはなりふり構わず、支出の削減をしていくものと考えられます。
そのため、今回のレポートであるような、5年後には貯金が底をついて、財政再生団体へ転落する可能性は低いでしょうが、ただの先送りになる可能性は十分にありますので、売却を検討されている方は、早めの対応をすべきでしょう。
また、購入を検討している方は、10年後、20年後の増税の可能性を念頭に、無理な計画でローンを組んだり、保育園の利用をあてにすべきではないかもしれません。
参考
なお、この記事を書くにあたり、元京都市議会で議員をされていた村山祥栄さんのこちらの動画を参考にさせていただきました。
3本立てで、全部で1時間程度と、かなりのボリュームではありますが、京都市の財政の実態がわかりやすく解説されています。
また、財政危機以外でも、京都市では2022年問題や、人口の減少などの、土地価格に影響がありそうなリスクがいくつかありますが、こちらの記事でその点をまとめています。
興味のある方は、こちらも参考にしてみてください。
コメント