この記事では、9月17日に発表された、基準地価について、上昇しているエリアの特徴や、今後の動向について、解説します。
基準地価とは、各都道府県が毎年公表している土地価格のことで、7月1日時点のものを9月の20日前後に発表しています。
似たようなものに公示地価がありますが、こちらは1月1日時点のものを3月下旬に発表しているため、半年おきに、土地価格の動きがわかるようになっています。
それで、今回の基準地価はどうなっていたかというと、全国で見ると、住宅地は前年比で0.9%のプラス、商業地は2.4%のプラスと、昨年よりも上昇率がさらに上がっていました。
全体的に見てみると、今回の土地価格の動きは、「中心部への人気が集中し、そうでないエリアが下落する、という二極化がさらに進んだ」と言えます
具体的に、この二極化について、確認して行きましょう。
1、都道府県別の傾向
まず、都道府県別に見てみましょう。
住宅地では、昨年よりも今年の方が、前年比でマイナスになった県の数が増えていました。昨年は27都道府県がマイナスだったのに対して、今年は29都道府県がマイナスとなっています。岩手県と石川県が、マイナスに転じました。
一方、商業地では、昨年よりも今年の方が、前年比でマイナスになった件の数が減りました。
昨年は23都道府県がマイナスだったのに対して、今年は17都道府県がマイナスだったのです。
群馬県、長野県、静岡県、三重県、山口県、大分県が、今年からプラスになった県です。
商業地は、店舗やオフィス、ホテル、マンションなどがあるエリアになりますので、駅周辺や、国道沿いなどの、一部のエリアに分布しています。
一方、住宅地は、広範囲に分布しているため、人気エリアとそうでないエリアとで、変化率が相殺されやすくなります。
つまり、住宅地がマイナスになりやすく、商業地がプラスになりやすい状況とは、一部のエリアに人気が集中しやすい状況にあると言えます。
2、市町村別(三大都市圏)の傾向
次に、市町村別に見てみましょう。
(1)首都圏
まずは、首都圏です。
市区町村別の変化を見る前に、いくつかのデータを押さえておきましょう。
①東京都の中古の住宅価格
こちらは、東京都の中古住宅と中古マンションの価格推移です。
2019年4月と比較すると、マンションは約4割、戸建ても約2割の上昇となっています。23区の方が住宅需要が高いため、さらに大きく上昇しています。
②東京都の転入超過数
また、こちらは、東京都の年代別の転入超過数です。
転入超過数とは、東京都に引っ越してきた人の数から、出て行った人の数を差し引いた数になります。
プラスであれば、入ってくる人の方が多いことになります。
増えているのは、青色と灰色の部分ですね。
青色の部分は15~29歳で、大学生や、新卒社会人などが含まれます。
また、灰色は外国人です。
つまり、若い世代や外国人は、東京に移住してきているわけですが、それ以外の世代は、出て行く人の方が多いことがわかります。
③東京都の新規着工戸数
次に、こちらが東京都の新規着工戸数です。
青色が戸建てで、ピンクがマンションになります。
マンションは横ばいとなっていますが、戸建ては、ここ10年で最も低い水準となっています。
④円ドル相場と日経平均
そして、最後に、こちらが円ドル相場と日経平均になります。
基準地価は、7月1日現在の土地価格ですが、円ドル相場は161円、日経平均は39,600円台と、かなりの高値圏にあった時期に当たります。
特に、価格が高い都心部のマンションは、国内外の投資家や富裕層の投資対象となりやすく、株価や為替の影響を受けやすいため、この時期は、かなり強気で買う人がいた時期だと考えられます。
これらのことから、東京都の住宅需要は、
- 若い世代や外国人の移住が多く、賃貸需要が盛り上がりやすい
- ここ5年で、中古戸建てやマンションの価格が2割~4割上がっている
- 特に都心部のマンションは、株高、円安だったこともあって、国内外の富裕層による購入意欲が強かった
- そのため、一部の子育て世帯は、都外へ引っ越すケースが増えている
という傾向にあることがわかります。
首都圏の住宅地
以上を踏まえて、今年の基準地価の変化を見てみましょう。
こちらの地図は、首都圏の住宅地の、前年比の変化率を色分けしたものです。
ピンク色の部分が、前年比で+5%以上の市町村です。この部分を中心に、昨年から今年にかけての動きを比較してみましょう。
昨年に比べて、今年は、ピンクのエリアがかなり増えていることがわかりますね。
東京23区でみると、練馬区と葛飾区、江戸川区を除いた20区が、5%以上の上昇をしていますし、都外で見ると、湘南エリアの藤沢市や茅ヶ崎市、千葉では成田市や千葉市中央区が、5%以上の上昇となっていました。
一方で、埼玉県の北部や、神奈川県の西部などでは、下落しているところも多くみられ、その辺りは下落が続いているため、都内へ通勤できる範囲内において、土地価格の上昇が起こっているようです。
首都圏の商業地
次は、商業地を見てみましょう。
商業地も、住宅地とそれほど傾向は変わりませんね。
ピンク色の部分が昨年よりも、広範囲に広がっています。
都心部の商業地は、駅周辺に集中しており、マンションが立っているエリアも多くみられます。
また、渋谷区や台東区、文京区などの中心部では、前年比で10%以上の上昇をしており、昨年からさらに上昇率が上がっています。
これほど中心部で上がっているのは、株高、円安によって、国内外の富裕層による購入が活発化していた結果でしょう。
(2)関西圏
今度は、関西圏です。
①大阪府の中古住宅の価格
こちらは、大阪府の中古住宅と中古マンションの価格推移です。
2019年4月と比較すると、マンションは約5割、戸建ても約3割の上昇となっています。
東京都以上に、住宅価格の上昇率が高くなっていました。
②大阪府の転入超過数
また、こちらは、大阪府の年代別の転入超過数です。
増えているのは、東京と同じで、若い世代と外国人ですが、外国人の割合の方が高いですね。
また、府外に引っ越す子育て世帯は、それほどいないことがわかります。
③大阪府の新規着工戸数
最後に、こちらが大阪府の新規着工戸数です。
マンションの需要は増えていますが、戸建ては横ばいに見えますが、一応、ここ10年で最も少ない水準ではあります。
関西圏の住宅地
これらを踏まえて、関西圏の基準地価の変化を見てみましょう。
こちらが住宅地になります。
昨年から、今年にかけて、上昇している市町村の範囲は、それほど変わっていません。
大阪市、神戸市、京都市の周辺だけにとどまっています。
しかし、ピンク色の部分が増えていることから、この限られたエリアにおいて、さらに上昇率が高まっていることがわかります。
特に、大阪市や京都市のマンションは、観光にも便利なため、海外の投資家にも人気ですし、株高、円安の影響もあって、価格が大きく上昇しています。
そのため、これらのエリアの住宅地も5%以上の上昇をしているところが多いのでしょう。
関西圏の商業地
そして、こちらが商業地になります。
こちらも、ピンク色の部分がかなり広がっていますが、昨年下がっていたエリアは、今年も下落が続いています。
(3)中京圏
最後に、中京圏です。
こちらは、愛知県の中古住宅と中古マンションの価格推移です。
2019年4月と比較すると、マンション、戸建て、いずれも約2割の上昇となっています。
②愛知県の転入超過数
次に、こちらは、愛知県の年代別の転入超過数です。
青い部分の若い世代は、まだ増えてはいるものの、年々増え方が小さくなっており、増加分の9割以上が外国人となっています。
また、県外に出て行く子育て世帯は、そこそこ多いため、住宅需要は、それほど強くないことがわかります。
③愛知県の新規着工戸数
最後に、こちらが愛知県の新規着工戸数です。
マンションの需要は横ばいですが、戸建ては減り続けており、過去最低水準にあります。
以上のことから、愛知県内の住宅需要は、東京や関西に比べると、それほど大きくないと言えるでしょう。
中京圏の住宅地
これらを踏まえて、中京圏の基準地価の変化を見てみましょう。
こちらは住宅地です。
昨年は三河エリアでピンク色が目立っていましたが、今年は、長久手市や日進市などの、もう少し北側に、人気が移っている感じですね。
中京圏の商業地
そして、こちらが商業地です。
東海市や名古屋市南区、瑞穂区などが、昨年に比べて、あまり上がっておらず、北側に位置する一宮市が5%以上の上昇となっていました。
このことからも、需要が、少し北側に寄っているのかもしれません。
三大都市圏の基準地価の変化の傾向
というわけで、三大都市圏の基準地価の動きをザックリと見てきました。
住宅価格や、人口の動き、そして、株価や為替の動きを踏まえてみてみると、以下のようにまとめられると思います。
- 基準地価の基準日である7月1日は、株価も高く、160円台の円安だったため、国内外の投資家がマンションを強気で購入しやすい時期だった
- さらに、大都市圏に若い世代や外国人が移住してきているため、賃貸需要は底堅い
- その一方で、価格上昇の影響から、戸建ての需要は全体的に減少傾向にある。また、郊外に移住する子育て世帯も一定数あり、中心部の戸建て需要は、それほど大きくはない
と言えるでしょう。
なお、この動画を作成している9月17日時点では、円ドル相場は139円台をつけており、日経平均も36,000円台と、約1割下落している状況です。
このぐらいであれば、国内外の投資家の手が引っ込むかどうかはわかりませんが、さらなる下落が進むようであれば、マンション市場を中心に影響を受ける可能性は高そうです。
その一方で、若い世代や外国人の移住したいという需要は強そうなので、賃貸需要はまだまだ増えていきそうですね。
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