この動画では、「石破茂氏の新著『保守政治家 我が政策、我が天命』を参考にしつつ、今後の政策や株価や円ドル相場への影響」などについて、考察します。
9月27日に行われた、自民党の総裁選の決選投票で、石破氏は、高市早苗氏を破り、新総裁に就任されました。
その結果を受けて、株式市場は暴落、週明けの30日の株式市場は5%近い暴落をし、日経平均は38,000円台を割りました。また、円ドル相場も141円台に、約4円の円高となっています。
また、YouTube界隈では、早速「石破氏当選で、日本は終わった」みたいな内容の動画を出す人がたくさん出てきており、ネットで見かける情報だけを追いかけていると、本当にそんな気になってくる人もいると思います。
そこで、この動画では、石破氏ってどんな人なの?どんな考え方を持っている人なの?と言う素朴な疑問について、今年の8月に出た新著『保守政治家 我が政策、我が天命』を買ってきたので、それを参考にしながら、私なりに考察をしてみたいと思います。
1、石破氏は裏切り者なのか?
まず、今回の総裁選において、石破氏が一般人から、どのように思われていたのかを見てみましょう。
大手メディアが、今回の総裁選に先立って、9名の立候補者の支持率を調査しています。
それをまとめたのが、こちらの表になります。
いずれの調査でも、石破氏が首位でした。
石破氏は、派閥の親分という感じではなく、お金の匂いがしない、ということから、人気が高くなっていたのかもしれませんね。
また、今回の総裁選の1回目の投票結果を見てみると、議員票は高市氏や小泉氏がトップ争いをしていましたが、党員票では、高市氏と互角でした。
このことからも、広く一般人に人気がある方だ、ということがわかりますね。
一方で、ネット上の記事を見ると、こいつだけは首相にしてはいけない、みたいな記事も散見されます。
なぜかというと、石破氏は「裏切る」からだ、ということなんですね。
それで、今回の結果をXで見ていたら見つけたのですが、これまでの石破氏の裏切り遍歴をキレイにまとめていた投稿を見つけました。
本の書評にも貼られているみたいで、以前から知る人は知っていた内容のようなんですね。
ですが、石破氏に対する「裏切り者」的な見方と、一般人の評価に大きく差があると思いませんか?
そもそも、石破氏は、29歳に初当選してから、ずっと選挙で勝ち続けているのですよ?
以前、小泉チルドレンと呼ばれる人たちが、当選しましたが、ほとんどの人が一発屋で終わってしまいましたが、石破氏はずっと鳥取県民の信頼を勝ち取っているのです。
で、今回、石破氏が出版した「保守政治家」では、これまでの政治家人生についてのエピソードが、細かく書かれていますので、実際のところがわかりました。
もちろん、本人が言っている話なので、嘘の可能性だってあるわけですが、それは各人が判断すればいいと思いますので、これらの一部をご紹介します。
(1)田中角栄氏
まず、出回っている裏切りリストの1番目は、田中角栄氏です。
「1981年、父の死後、真っ先に葬儀に駆けつけてくれた田中角栄氏の助言で政界を目指すも、田中派ではなく中曽根派から立候補。田中角栄を裏切る」
とあります。
これが保守政治家では、どのように書かれているかというと、
- すでに同じ選挙区に田中派の平林鴻三議員がいて、出られる状況ではなかった
- そんな時に、中曽根派の島田安夫議員が亡くなられて、欠員が出たので、田中角栄氏自ら、中曽根派の渡辺美智雄議員に話をつけて、中曽根派から立候補した(p86)
というのが真相だそうです。
田中氏を裏切ったわけではなく、田中氏が自ら、石破氏に早くチャンスを与えるために、便宜を図ってくれた、というわけですね。
(2)自民党
次に、2番目の裏切りリストは、自民党です。
「1993年、 非自民の細川連立政権が成立。自民党が野党に転落すると、立て直しに四苦八苦する森喜朗幹事長に『私はね、政権与党にいたいんです。自民党の歴史的使命は終わった』と捨て台詞を吐き離党。自民党を裏切る」
とあります。
これが保守政治家では、どのように書かれているかというと、
- 細川連立政権ができる前の宮沢内閣で、選挙制度改革に乗り気じゃないことに納得いかず、不信任案に賛成票を投じ、解散に追い込んだが離党はしなかった
- 当然、裏切り者になったので、自民党の公認は取り消されたが、無所属で出馬し当選して、そのまま自民党に居座った
- 自民党に居座ったものの、選挙制度改革に乗り気でもなく、憲法改正論議も凍結されて、自分がやりたい政策の実現ができないと感じ、離党した(p152)
ということのようです。
自分がやりたい政策が、自民党ではできないから、という理由での、不信任案への賛成と、その後の離党だったようですね。
これを「裏切り」と言うのは、どうですか?
私は、ジャニーズを辞めたことで裏切り者扱いされて、干されたトシちゃんみたいな、昭和の体質の会社を辞めることに近いような印象を受けましたけどね。
と、まあ、こんな感じで、議員になってから、今に至るまでの、その時々のエピソードがふんだんに載っているのが、この本です。
後のリストについては、割愛しますが、興味のある方は、こちらのアマゾンのページをチェックしてみてください。
2、なぜ石破氏当選で、株安、円高が進んだのか?
次のテーマは、石破氏の政策と、その考え方についてです。
石破氏勝利を受けて、9/30の日経平均株価は、5%近い暴落をし、円ドル相場も142円台にまで円高が進みました。
1回目の投票で高市氏が1位となって、株高、円安が進んだ金曜日とは、正反対の結果となっています。
その理由は、石破氏の政策にあります。
- 消費税の増税
- 地方創生
- 金融所得税の増税
- 日銀による金利引き上げを容認
など、アベノミクスとは真逆の政策についての発言が多いからです。
そもそも、これまでの日本の株式市場は、日銀による異次元緩和によって、低金利、円安が進められたことで、大企業を中心に業績が伸び、日本の経済を牽引していると評価されてきました。
ですが、ドル建てのGDPで見てみると、民主党政権だった2012年には6.2兆ドルだったGDPが、2024年には4.1兆ドルと、3割以上も減っているのです。
この3割以上の減少は、主に物価上昇という形で、跳ね返ってきています。
大企業に勤めているサラリーマンや、株や都心に不動産を持っている人、そして、新卒の大学生は、恩恵を受けられたでしょう。
ですが、地方都市で働く人や、年金暮らしの高齢者、氷河期世代の非正規労働者などは、給料は上がらず、地方経済は衰退し、物価は上昇し続ける、ということで、ちっともいいことがなかったと思います。
今回の石破氏と高市氏の決選投票の結果を見ると、都道府県連の表は、見事に地方は石破氏、都市部は高市氏に流れました。
東名阪の三大都市圏と、仙台のある宮城、広島、福岡など、大都市のある県のほとんどが高市氏を支持していました。
これほどクッキリと結果が分かれたのは、これまでのアベノミクスに対する、地方からの反対の声と言えるでしょう。
マーケットの動きだけで判断するのは、早計
また、石破氏の日本経済に対する見方は、簡単にいうと、「日銀に金を刷らせてインフレを起こして、株価を上げるだけじゃ、日本の地力が強くならないでしょ?」ということす。
実際、今回のマーケットの動きも、株高と円安がセットでした。
要するに、「日本の経済が良くなりそうだ」という成長に対する期待ではなく、「インフレが進むから、円安と株高が起こりそうだ」というインフレに対する期待だったと見たほうがいいと思います。
では、石破氏は、アベノミクスを否定して、どのような成長戦略を考えているのでしょうか?
「保守政治家」の中では、そこで地方創生を挙げています。
鳥取出身ということもあって、地方に可能性を見出しているようですね。
「保守政治家」の中でも、このような文章があります。
「今後の経済政策の重要な柱の1つは、意外に思われるようですが『地方創生』にあると思っています。
(中略)
地方の農業、漁業、林業、建設業、サービス業、製造業には、相当なポテンシャルがあり、生産性向上の余地もある宝の山です。」(p237)
「地方の潜在力として期待しているのは商工会、商工会議所です。行政だけがやってもダメなんです。地域企業の集まりですから、その地域事情を知り尽くしている。その地域にしかない発想や潜在力が必ずある。
(中略)
日本の歴史を見てください。都が国を変えた例はない。国を変えたのは、いつも地方の人たちです。」(p206)
石破氏は、地方の自主性や自立心を信じているようですね。
ですが、若い世代の都心部への人口流出が止まらない現状を見ると、うまくいく地域と手遅れの地域とで、分かれてきそうだなと思いますし、中小企業が主役となる政策なので、株価には反映されませんから、投資家ウケは良くないとは思います。
トランプ氏の政策と相性がいい
ただし、地方創生が、案外うまくいく可能性があります。
それは、今回のアメリカ大統領選挙で、トランプ氏が勝利した場合です。
今回、トランプ氏が大統領に当選した場合、アメリカ国内の製造業を復活させるために、高関税をかけることを公約にしています。
また、第1期トランプ政権の時の為替レートは105~115円前後だったのに対して、現在の140円台のレートは、明らかにトランプ氏の不評を買っています。
今年4月に、麻生副総裁がNYで、トランプ氏と会談されていますが、その後のトランプ氏の日本に対する発言を見る限り、「円安をなんとかしろ」というものだったと想像できます。
実際、その1週間後には、財務省による円買い介入がありましたからね。
つまり、これまでの、円安にして、アメリカにたくさんものを売る、という輸出モデルが通用しなくなる可能性が高いのです。
そうなると、ドルという外貨を稼ぐ機会が減りますから、輸入できるものが減ってくる可能性が高まります。
また、ドルが稼ぎにくくなった場合に、他の国に輸出するしかなくなるわけですが、そうなると、中国や中東諸国との関係も重要になってくるでしょう。
日本の原油の9割以上が、中東に依存しているわけですが、米ドルが稼ぎにくくなってくれば、二国間での貿易になってきますので、車を売るから原油をくれ、みたいな物々交換に近いやり取りや、これから始まるBRICS新通貨でのやり取りをする必要が出てくると思います。
そうすると、BRICS通貨を運用するリーダー国である中国との関係はとても重要になってきますので、穏健派の石破氏は相性がいいように思います。
いずれにせよ、アメリカは、自国の経済の立て直し期間に入るため、米ドルを日本の持って帰ってくることは難しくなりますから、国内で消費するものは、国内で作るようにせざるを得なくなるでしょう。
なので、地方の農業、漁業、林業、製造業の復活の目は、トランプ氏の勝利にかかっているように思います。
3、選挙はどうなるか?
なお、10月27日に行われる選挙について、無責任な予想をしておくと、ズバリ、自民党と公明党の現体制が、そのまま継続すると思います。
理由は、政策での違いが、ほとんど感じられないからです。
例えば、前回の民主党政権のマニフェストを見ると、ガソリン税の廃止や、官僚機構のリストラなど、現在のトランプ氏やアルゼンチンのミレイ氏が掲げるような、「小さな政府」的な発想の政策が多く見られました。
このような政策や、消費税の減税などを通じて、インフレを抑え、所得を増やす、という方向性しか、大きな対立点が作れないと思います。
なので、あとはただの人気投票になってしまいますから、自然と自民党が勝ってしまうのではないかと思います。石破氏は、一般人目線で見ると、自民党内では人気の高い人でもありますからね。
以上、素人目線での、選挙予想でした。
4、新刊「保守政治家」の魅力
最後に、今回の石破氏の「保守政治家」のおすすめの読み方について、ご紹介しておきます。
最初の方で触れましたが、石破氏は、いろんな政治家を「裏切ってきた」と言われる歴史があります。
ですが、その時々において、石破氏なりの理由があって裏切っているんですね。
それがわかると、評価が180度変わってしまう、と言う面白さがあると思いました。
もし、興味を持たれたのであれば、Xやネットで「石破氏 裏切り」で検索するなりして見ると、裏切りリストが出てきますので、そのリストとこの本を読んでみることをお勧めします。
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