この記事では、円安が進んでいる理由を4つご紹介します。
なぜ、円安が進んでいる4つの理由
4月29日に一時、1ドル160円をつけ、約34年ぶりの円安になり、話題となりました。
その後は152円台にまで落ちましたが、6月14日現在、1ドル157円台となっており、160円を超えるのも時間の問題のように見えています。
理由その1:日米の金利差
では、なぜこれほど円安が進んでいるのか?
経済ニュースや専門家の解説を見ると、そのほとんどが「日米の金利差」と答えている印象です。
「アメリカの方が金利が高くなってきたので、日本の投資家が、より高金利のアメリカの国債などを買っているのだ。
その時に円をドルに換えるから、円安が進んでいるのだ。」
という解釈ですね。
確かに、グレーの網掛けの部分を見ると、米国の10年国債と、円ドル相場は、同じように動いているように見えますので、説得力があるように思えます。
ですが、仮にそうだとしたら、円安はもう止まってもおかしくないはずです。
米国債の金利は、昨年10月に一時、5%をつけましたが、その時の為替相場は、1ドル150円前後でした。
なのに、なぜ現在の米国債の金利が4%台後半なのに、円ドル相場が160円近くまで、円安が進んでいるのでしょうか?
しかも、アメリカの日銀にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、年内に利下げをする、と発言していますし、逆に「日銀はこれから金利を上げる」と言っています。
日米の金利差がさらに縮小する見通しなのです。
なのに、なぜさらに円安が進むのか?金利だけでは、説明がつかなくなっている状況なのです。
理由その2:海外で稼いだお金が日本に戻ってこない
そこで、最近は、国際収支の質の悪化が言われるようになっています。
どういうことなのかというと、
- 日本から輸出して稼ぐスタイルから、海外の現地に工場を作ってビジネスをするスタイルに変わってきたことで、日本から輸出するものが減り、貿易赤字が膨らんできた
- さらに、日本では少子高齢化が進んでおり、儲けられる市場が小さくなっているため、海外で稼いだお金を日本に戻す動きも減っている
- その結果、円の需要が減り、円安が進んでいる
ということです。詳しく見ていきましょう。
原油などの資源のない日本は、自動車や電子部品など、他の国では作れない、高価な商品を作って、輸出して外貨を稼ぐことで、その外貨で原油などの必要な資源を輸入してきました。
これは、国際収支(日本と海外との取引)の中では、貿易収支という統計に現れます。
下のグラフでいうところの、青色の部分ですね。
2010年ごろまでは、黒字だった貿易収支が、2011年の震災をきっかけとして、赤字になる年が増えてきました。
地震や津波リスクのある日本で工場などの生産設備を集中させると、いざ震災が起こった時に、身動きが取れないと感じた企業が増えたからです。
その結果、海外への工場移転がさらに進みました。それが、上のグラフの赤色の部分の「第1次所得収支」の伸びに現れています。
第1次所得収支とは、「①海外に子会社を作って、現地でビジネスで儲けたり」「②海外の株式や債券などへ投資することで利子や配当をもらうこと」で、得られるお金の動きを表したものです。
2013年のアベノミクスが始まったあたりから、増え始めていますが、2020年以降は、さらにその伸びが加速しています。
この第1次所得収支の内訳をさらにみてみると、再投資収益という項目があります。
子会社が稼いだお金を、親会社に送らず、現地のビジネスにそのまま使う、というケースがこれにあたります。
その額がどうなっているのかというと、このようになっています。
下のグラフの赤色の部分が再投資収益ですが、2021年以降は約10兆円規模にまで膨れ上がっています。
これだけの儲けが、現地通貨のままになっているので、円を買う需要が盛り上がらず、円高になりにくくなっている、というわけです。
理由その3:投機筋が円安を加速させている
3つ目が、投機筋による円安の加速です。
日本の金利は、ほぼゼロ金利なのに対して、アメリカの金利が4〜5%もつくということであれば、円でお金をたくさん借りて、そのお金で米国債を購入したら、すごい儲かると思いませんか?
これを主に、海外の投資家がやっているのではないか?ということですね。
このような動きは、「円キャリートレード(円を借りて投資をすること)」と呼ばれています。
実際、リーマンショックの時に、それまで120円台だった円ドル相場が、80円台にまで急激な円高となりました。
このときの要因が、円キャリートレードの解消だったと言われています。
ただし、円キャリートレードは、その実態がよくわからないものでもあります。
個人の取引で例えれば、①FX業者に証拠金を預けて、ドルを買うのも、②銀行からお金を借りて、米国債に投資するのも、キャリートレードになります。
一応、マーケット情報を取り扱っているブルームバーグの記事によると、在日外銀の本支店勘定が、円キャリートレードの近似値とされているそうです。
円キャリー取引の動向を客観的に示すデータは存在しない。
しかし、近似値とされる在日外銀の本支店勘定は、最新の8月末時点で11兆円台と15年ぶり高水準に近づき、週次で投機筋の売買を集計する米商品先物取引委員会(CFTC)のまとめでも、円売りの規模は数年ぶりの高水準へ接近してきた。
外国の銀行が、日本で何をやっているのか、実態がよくわからないですが、投資家にお金を貸して、キャリートレードの手助けをしている、ということは、確かにあり得そうです。
というわけで、調べてみた結果がこちらになります。
リーマンショック以降、急激に資産を圧縮していることから、円キャリートレードに関わっているような感じがありますね。
日本国内でビジネスをやっていた企業から、たった数ヶ月で、10兆円近いお金を貸し剥がししていたら、もっといろいろな企業がバタバタ潰れていたでしょうからね。
そして、この外銀の本支店勘定は、2022年ごろから、急激に上昇しています。
アメリカの政策金利が引き上げられ、日米の金利差が広がったタイミングで、大きく貸し出しを伸ばしていることがわかります。
日米の金利差が、きっかけではあったのでしょうが、そこに円キャリートレードという要素が加わったことで、115円から160円台にまでの、急激な円安に進んだ可能性は高そうです。
理由その4:アメリカの借金の穴を埋めている
4つ目の理由が、アメリカの借金が雪だるま式に膨れ上がっていることから、日本がその借金の穴を埋めているためです。
アメリカは、新型コロナで、国民への現金給付を約130兆円(8,500億ドル)行いました。
また、2022年から、急激な利上げを行ったため、それまでの借金への利息負担がどんどん膨れ上がっていることなどから、現在のアメリカ政府の総債務は、2024年4月末現在で、約34.6兆ドルにまで膨れ上がっています。
さらに、年間の利払い額は約1.1兆ドル(約170兆円)となっています。
4月現在の平均金利が、まだ3%台ですから、政策金利が5.5%、10年の長期国債の金利が4.5%前後なことを考えると、借り換えのたびに、支払い金利は上がってくるはずです。
そのため、いろいろな国から、お金をかき集めるか、日本のように量的緩和政策(中央銀行が国債を購入する)を行わなければ、いずれ借金で首が回らなくなってくる状況なのです。
このような状況の中で、アメリカは中国と貿易戦争を行っているため、中国のアメリカ国債の保有残高がどんどん減っています。
そして、日本やイギリスなどの日欧の先進国では、米国債の比率を引き上げています。中国などの、保有比率を減らしている穴を埋めているようにも見えますね。
米国債の残高が増えているということは、円からドルへと換えていることになりますから、円安要因になります。
まとめ:今後も円安は進むのか?
というわけで、円安が進んでいる4つの理由を見てきました。
為替市場は、1日で何十兆円、何百兆円というお金が動くため、いくつかの理由が重なった結果、円安へ進んでいると考えた方が自然でしょう。
そして、今回取り上げた4つの理由は、今のところ、解消される目処は立っていません。
日米の金利差は埋まりませんし、企業が日本円にお金を戻すメリットはあまりありませんし、投機家のキャリートレードの流れも止まりませんし、アメリカの債務はどんどん膨れるので、日本への買い要請も続くでしょう。
1番現実的なのは、リーマンショック級の金融恐慌が起こることで、キャリートレードの解消が起こることかもしれません。
今のところ、アメリカの株式市場は、市場最高値を更新中ですので、可能性は低そうですが、個別の都市の現状を見ると、けっこうヤバイ状況にあります。
この辺については、改めて、別の記事で解説したいと思いますが、今のところは、円安の方向は変わりにくい、と考えた方がいいでしょう。
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