アメリカのリート市場・不動産市場は、今どうなっているのか?投資する上での注意点は? | イエ&ライフ

アメリカのリート市場・不動産市場は、今どうなっているのか?投資する上での注意点は?

アメリカ NYシティ REIT

この記事では、現在のアメリカの不動産市場、特にREIT(リート)市場の現状と、投資を考える上での注意点について、解説していきます。

 

1、アメリカのREIT(リート)の現状

REIT(リート)とは、不動産投資信託のことで、日本でもJ-REIT(ジェイリート)と呼ばれ、資産運用の選択肢の一つとして利用されています。

リートは、投資家からお金を集めて、そのお金と銀行から借りたお金を合わせて、不動産物件を購入し、管理・運営を行います。

 

リートの仕組み

 

運用対象となる物件は、賃貸マンションやショッピングモール、物流施設、オフィスビルなど、かなり多くの種類に分かれています。

また、株式市場に上場しているものも多く、情報公開がきちんとされているため、それぞれの分野が、どのように状況になっているのかを知るのに参考になります。

 

(1)リート全体のパフォーマンス

では、まずリート全体の動きを見てみましょう。

 

US-REIT INDEXと米国の政策金利

(参考:全米不動産業者協会)

 

ウクライナ戦争前をピークに、政策金利の引き上げとともに、リート指数も下落していますね。

今回の政策金利の引き上げは、インフレの沈静化が目的であり、利上げのスピード、利上げ幅ともに急激となっています。そのため、経済にもダメージが出ており、リート指数にも影響が出ています。

 

(2)業種ごとのパフォーマンス

ですが、一口にリートといっても、マンションやショッピングモールなど、投資対象はさまざまです。

 

そこで今度は、業種別の値動きを見てみましょう。

全米不動産業者協会(NAREIT)によると、各業種のリートのパフォーマンスは以下の通りです。

 

業種ごとのリートのパフォーマンス

*過去4年間(新型コロナ以降)のリターン順

*データセンター:ITサービスで必要なサーバーなどの運営

*特殊:カジノや長期保存用の書庫など、企業によってさまざま

*森林:木材の管理・伐採・加工など

*複合型:商業施設、マンション、オフィスなどの複合施設

(参考:全米不動産業者協会)

 

新型コロナの影響が出ている2020年以降のパフォーマンスで、ランキングしてみました。

 

各年ごとの傾向を見てみましょう。

2020年は、ロックダウン(都市封鎖)が行われた都市も多かったので、小売やオフィス、リゾートなどで大きな影響が出ていました。

しかし、2021年は、コロナ給付金も出て、ロックダウンも解除されたこともあって、全業種で大きくプラスとなっています。

 

2022年は、ロシアのウクライナ侵攻が起こったことで、物価上昇が激しくなり、政策金利が一気に0.25→5%台にまで上がってしまったため、全業種で大きく影響が出ました。

2023年も、傾向は変わらず、オフィスや複合型(商業施設やマンション、オフィスが一体となったビルの運営)、インフラ(携帯電話の基地局など)といった分野で、マイナスが目立っています。

 

このように、一口にREITといっても、新型コロナ、金利高の影響は、業種によって異なりました。パフォーマンスも、天と地ほどの差が出ている状況にあります。

そして、2023年現在、オフィスや(オフィス機能が含まれる)複合型が、厳しい状況にあるようです。

 

(3)都市ごとのパフォーマンス

次にエリアごとの傾向を見ていきましょう。

 

①どこの州で人口が増えたのか(減ったのか?)

新型コロナの感染拡大をきっかけとして、リモートワークが広がったことで、家賃が高いエリアから、安いエリアへと移住が増えた、というニュース記事をご覧になった方もいると思います。

 

そこで、まずは州ごとに人口がどれだけ増えたのか(減ったのか?)を確認してみましょう。

 

州別の人口増減(2020.7〜2022.7)

赤色(+30万人以上)>ピンク(+10〜29.9万人)>ベージュ(0〜+9.9万人)>水色(-1 〜 -9.9万人)>青色(-10〜 -29.9万人)>紺色(-30万人以下)

アメリカの人口増加・減少している州の地図

 

(参考:Census bureau *アメリカの国勢調査)

 

2年で30万人以上減少しているのは、ニューヨーク州(-43万人)とカリフォルニア州(-47万人)でした。

大都市のある州ほど減少している傾向にあり、人口でアメリカ第3位の都市シカゴがあるイリノイ州でも、約20万人減少していました。

 

反対に増えているのは、フロリダ州やテキサス州などの南側の州や、人口があまり多くない中央部の州に多い傾向にありますね。

 

②オフィスの空室率

大都市から郊外へと、人口が移動しているということから、オフィスの空室率にも影響が出ています。

都市ごとのオフィスの空室率ランキング上位、下位10都市をまとめたのがこちらです。

 

空室率が高い都市ランキング
都市名 州名 2023年の空室率(前年比) 人口(万人)
サンフランシスコ カリフォルニア州 18.85%(+4.18%) 81.5
ヒューストン テキサス州 18.64%(+0.43%) 228.8
ダラス テキサス州 17.93%(+0.35%) 128.8
オースティン テキサス州 16.11%(+3.87%) 96.4
ワシントンDC コロンビア特別区 15.87%(+0.46%) 71.3
フェニックス アリゾナ州 15.78%(+1.57%) 162.5
シカゴ イリノイ州 15.62%(+0.36%) 269.7
デンバー コロラド州 15.34%(+1.13%) 71.2
ロサンゼルス カリフォルニア州 14.99%(+1.32%) 384.9
アトランタ ジョージア州 14.58%(+0.76%) 49.6

(参考:全米不動産業者協会)

 

空室率が低い都市ランキング
都市名 州名 2023年の空室率(前年比) 人口(万人)
サバンナ ジョージア州 1.95%(-0.33%) 14.7
ハンチントン ウェストバージニア州 2.02%(+0.20%) 4.6
ヤングスタウン オハイオ州 2.17%(-0.53%) 6.0
マートルビーチ サウスカロライナ州 2.25%(-0.16%) 3.7
オリンピア ワシントン州 2.66%(+0.19%) 5.6
アッシュビル ノースカロライナ州 2.68%(+0.69%) 9.4
ソールズベリー メリーランド州 2.74%(+0.59%) 3.3
ダベンポート アイオワ州 2.80%(-0.67%) 10.1
ヒッコリー ノースカロライナ州 2.86%(+0.30%) 4.4

(参考:全米不動産業者協会)

 

ご覧の通り、空室率が高い都市は、50万〜100万人規模の大都市であるのに対して、空室率が低い都市は、人口数万人の小さい街が集中していますね。

 

大都市から郊外へ、人が移動している結果と言えますが、2022年よりも2023年の方が、ランキング上位の全ての大都市において、オフィスの空室率は悪化しています。

オフィスや複合型のREITでは、2023年も2割以上の下落をしていますが、このような空室率の悪化を受けてのものなのでしょう。

 

2、これからリートへ投資する際の注意点

結論としては、今後、リートへの投資を考えるのであれば、業種の選別を慎重にすべきでしょう。

 

というのも、2023年の業種別のリターン状況の中で、オフィスや複合施設、リゾートなどで、2割以上のマイナスになっていることを確認しましたが、この傾向は当分続くと予想されるからです。

 

①オフィス・複合型:リモートワークの影響が大きい

例えば、オフィスや複合施設の多くは、大都市の中心部に立地しているケースがおおいです。

しかし、現在のリモートワークが広がっている状況では、オフィスに社員を戻すことのメリットはあまりなく、むしろ家賃が節約できるので、郊外への移住が増えています。

カリフォルニア州やニューヨーク州、イリノイ州など、大都市のある州では人口の減少が進んでいます。

 

そのため、大都市のオフィスの空室率は、まだまだ上昇する可能性が高く、オフィス系のREITのパフォーマンスも厳しくなる可能性があります。

 

②インフラ:借金が多いため、高金利で収益が圧迫される

インフラは、携帯電話の基地局のような、公共性の高い設備の運営を行うREITです。みんなが使う機能を提供しているため、収益が安定している一方で、借金が多いのが特徴です。

 

REITは、投資家のお金を集めるだけでなく、銀行から低金利でお金を借りることで、投資家への高配当を実現させている仕組みです。

そのため、現在のような高金利の状況が続くと、銀行へ支払う金利が増えるため、投資家の取り分が減ってしまうのです。

 

例えば、代表的なインフラ系のREITとして、アメリカン・タワー(AMT)が挙げられますが、こちらの負債資本倍率(投資家のお金を1として、銀行からの借金がどれだけあるか)は、3.15倍です。

銀行からの借り入れが、投資家のお金の3倍以上もあるのです。

(参考:macrotrends 「debt to equity ratio」)

 

インフラ系のREITが、2022年、2023年の各年で20%以上のマイナスとなってるのも、このような背景があるからでしょう。

 

もちろん、政策金利が下がってくれば、この状況は改善されるでしょうが、むしろ、この高金利は長期化する可能性すらあります。

アメリカの政府債務はどんどん膨れ上がっており、1年間の支払い利息が、ついに1兆ドル(約150兆円)を超えてきました。

(参考:ブルームバーグ「米国の年間利払い額、推定1兆ドル突破-国債への売り圧力強まる恐れ」)

 

これによって、格付け会社もどんどん信用格付けを引き下げてきています。

(参考:NRI「ムーディーズが米国債の格付け見通しを引き下げ:今度は格下げが長期金利上昇、トリプル安を引き起こすか」)

 

このような環境にあるため、特に銀行からの借り入れが多いインフラや、ショッピングモールの運営会社であるサイモン・プロパティ・グループなどは、厳しい状況が続くでしょう。

 

以上のことから、業種選びが重要です。

そして、投資信託のような、いろいろな業種が組み入れられているものは、あまりお勧めできない状況となるでしょう。

この記事を書いた人
ゴトウ

証券会社で12年間勤務。営業と店舗マーケティングに従事後、2018年から当サイト「イエ&ライフ」を運営しています。

不動産価格の動きの理解や今後の予想は、金融マーケットの知識があると理解しやすいため、読者のお役に立てるのではないかと、サイトを運営しています。

また、2024年からYoutubeチャンネルも始めました。
こちらも、よろしくお願いします。

ゴトウをフォローする
REIT
タメになったと思ったらシェアしてくれるとウレシイです

コメント