この記事では、現在のアメリカの不動産市場、特にREIT(リート)市場の現状と、投資を考える上での注意点について、解説していきます。
1、アメリカのREIT(リート)の現状
REIT(リート)とは、不動産投資信託のことで、日本でもJ-REIT(ジェイリート)と呼ばれ、資産運用の選択肢の一つとして利用されています。
リートは、投資家からお金を集めて、そのお金と銀行から借りたお金を合わせて、不動産物件を購入し、管理・運営を行います。
運用対象となる物件は、賃貸マンションやショッピングモール、物流施設、オフィスビルなど、かなり多くの種類に分かれています。
また、株式市場に上場しているものも多く、情報公開がきちんとされているため、それぞれの分野が、どのように状況になっているのかを知るのに参考になります。
(1)リート全体のパフォーマンス
では、まずリート全体の動きを見てみましょう。
ウクライナ戦争前をピークに、政策金利の引き上げとともに、リート指数も下落していますね。
今回の政策金利の引き上げは、インフレの沈静化が目的であり、利上げのスピード、利上げ幅ともに急激となっています。そのため、経済にもダメージが出ており、リート指数にも影響が出ています。
(2)業種ごとのパフォーマンス
ですが、一口にリートといっても、マンションやショッピングモールなど、投資対象はさまざまです。
そこで今度は、業種別の値動きを見てみましょう。
全米不動産業者協会(NAREIT)によると、各業種のリートのパフォーマンスは以下の通りです。
*過去4年間(新型コロナ以降)のリターン順
*データセンター:ITサービスで必要なサーバーなどの運営
*特殊:カジノや長期保存用の書庫など、企業によってさまざま
*森林:木材の管理・伐採・加工など
*複合型:商業施設、マンション、オフィスなどの複合施設
新型コロナの影響が出ている2020年以降のパフォーマンスで、ランキングしてみました。
各年ごとの傾向を見てみましょう。
2020年は、ロックダウン(都市封鎖)が行われた都市も多かったので、小売やオフィス、リゾートなどで大きな影響が出ていました。
しかし、2021年は、コロナ給付金も出て、ロックダウンも解除されたこともあって、全業種で大きくプラスとなっています。
2022年は、ロシアのウクライナ侵攻が起こったことで、物価上昇が激しくなり、政策金利が一気に0.25→5%台にまで上がってしまったため、全業種で大きく影響が出ました。
2023年も、傾向は変わらず、オフィスや複合型(商業施設やマンション、オフィスが一体となったビルの運営)、インフラ(携帯電話の基地局など)といった分野で、マイナスが目立っています。
このように、一口にREITといっても、新型コロナ、金利高の影響は、業種によって異なりました。パフォーマンスも、天と地ほどの差が出ている状況にあります。
そして、2023年現在、オフィスや(オフィス機能が含まれる)複合型が、厳しい状況にあるようです。
(3)都市ごとのパフォーマンス
次にエリアごとの傾向を見ていきましょう。
①どこの州で人口が増えたのか(減ったのか?)
新型コロナの感染拡大をきっかけとして、リモートワークが広がったことで、家賃が高いエリアから、安いエリアへと移住が増えた、というニュース記事をご覧になった方もいると思います。
そこで、まずは州ごとに人口がどれだけ増えたのか(減ったのか?)を確認してみましょう。
州別の人口増減(2020.7〜2022.7)
赤色(+30万人以上)>ピンク(+10〜29.9万人)>ベージュ(0〜+9.9万人)>水色(-1 〜 -9.9万人)>青色(-10〜 -29.9万人)>紺色(-30万人以下)
2年で30万人以上減少しているのは、ニューヨーク州(-43万人)とカリフォルニア州(-47万人)でした。
大都市のある州ほど減少している傾向にあり、人口でアメリカ第3位の都市シカゴがあるイリノイ州でも、約20万人減少していました。
反対に増えているのは、フロリダ州やテキサス州などの南側の州や、人口があまり多くない中央部の州に多い傾向にありますね。
②オフィスの空室率
大都市から郊外へと、人口が移動しているということから、オフィスの空室率にも影響が出ています。
都市ごとのオフィスの空室率ランキング上位、下位10都市をまとめたのがこちらです。
空室率が高い都市ランキング
都市名 | 州名 | 2023年の空室率(前年比) | 人口(万人) |
サンフランシスコ | カリフォルニア州 | 18.85%(+4.18%) | 81.5 |
ヒューストン | テキサス州 | 18.64%(+0.43%) | 228.8 |
ダラス | テキサス州 | 17.93%(+0.35%) | 128.8 |
オースティン | テキサス州 | 16.11%(+3.87%) | 96.4 |
ワシントンDC | コロンビア特別区 | 15.87%(+0.46%) | 71.3 |
フェニックス | アリゾナ州 | 15.78%(+1.57%) | 162.5 |
シカゴ | イリノイ州 | 15.62%(+0.36%) | 269.7 |
デンバー | コロラド州 | 15.34%(+1.13%) | 71.2 |
ロサンゼルス | カリフォルニア州 | 14.99%(+1.32%) | 384.9 |
アトランタ | ジョージア州 | 14.58%(+0.76%) | 49.6 |
空室率が低い都市ランキング
都市名 | 州名 | 2023年の空室率(前年比) | 人口(万人) |
サバンナ | ジョージア州 | 1.95%(-0.33%) | 14.7 |
ハンチントン | ウェストバージニア州 | 2.02%(+0.20%) | 4.6 |
ヤングスタウン | オハイオ州 | 2.17%(-0.53%) | 6.0 |
マートルビーチ | サウスカロライナ州 | 2.25%(-0.16%) | 3.7 |
オリンピア | ワシントン州 | 2.66%(+0.19%) | 5.6 |
アッシュビル | ノースカロライナ州 | 2.68%(+0.69%) | 9.4 |
ソールズベリー | メリーランド州 | 2.74%(+0.59%) | 3.3 |
ダベンポート | アイオワ州 | 2.80%(-0.67%) | 10.1 |
ヒッコリー | ノースカロライナ州 | 2.86%(+0.30%) | 4.4 |
ご覧の通り、空室率が高い都市は、50万〜100万人規模の大都市であるのに対して、空室率が低い都市は、人口数万人の小さい街が集中していますね。
大都市から郊外へ、人が移動している結果と言えますが、2022年よりも2023年の方が、ランキング上位の全ての大都市において、オフィスの空室率は悪化しています。
オフィスや複合型のREITでは、2023年も2割以上の下落をしていますが、このような空室率の悪化を受けてのものなのでしょう。
2、これからリートへ投資する際の注意点
結論としては、今後、リートへの投資を考えるのであれば、業種の選別を慎重にすべきでしょう。
というのも、2023年の業種別のリターン状況の中で、オフィスや複合施設、リゾートなどで、2割以上のマイナスになっていることを確認しましたが、この傾向は当分続くと予想されるからです。
①オフィス・複合型:リモートワークの影響が大きい
例えば、オフィスや複合施設の多くは、大都市の中心部に立地しているケースがおおいです。
しかし、現在のリモートワークが広がっている状況では、オフィスに社員を戻すことのメリットはあまりなく、むしろ家賃が節約できるので、郊外への移住が増えています。
カリフォルニア州やニューヨーク州、イリノイ州など、大都市のある州では人口の減少が進んでいます。
そのため、大都市のオフィスの空室率は、まだまだ上昇する可能性が高く、オフィス系のREITのパフォーマンスも厳しくなる可能性があります。
②インフラ:借金が多いため、高金利で収益が圧迫される
インフラは、携帯電話の基地局のような、公共性の高い設備の運営を行うREITです。みんなが使う機能を提供しているため、収益が安定している一方で、借金が多いのが特徴です。
REITは、投資家のお金を集めるだけでなく、銀行から低金利でお金を借りることで、投資家への高配当を実現させている仕組みです。
そのため、現在のような高金利の状況が続くと、銀行へ支払う金利が増えるため、投資家の取り分が減ってしまうのです。
例えば、代表的なインフラ系のREITとして、アメリカン・タワー(AMT)が挙げられますが、こちらの負債資本倍率(投資家のお金を1として、銀行からの借金がどれだけあるか)は、3.15倍です。
銀行からの借り入れが、投資家のお金の3倍以上もあるのです。
(参考:macrotrends 「debt to equity ratio」)
インフラ系のREITが、2022年、2023年の各年で20%以上のマイナスとなってるのも、このような背景があるからでしょう。
もちろん、政策金利が下がってくれば、この状況は改善されるでしょうが、むしろ、この高金利は長期化する可能性すらあります。
アメリカの政府債務はどんどん膨れ上がっており、1年間の支払い利息が、ついに1兆ドル(約150兆円)を超えてきました。
(参考:ブルームバーグ「米国の年間利払い額、推定1兆ドル突破-国債への売り圧力強まる恐れ」)
これによって、格付け会社もどんどん信用格付けを引き下げてきています。
(参考:NRI「ムーディーズが米国債の格付け見通しを引き下げ:今度は格下げが長期金利上昇、トリプル安を引き起こすか」)
このような環境にあるため、特に銀行からの借り入れが多いインフラや、ショッピングモールの運営会社であるサイモン・プロパティ・グループなどは、厳しい状況が続くでしょう。
以上のことから、業種選びが重要です。
そして、投資信託のような、いろいろな業種が組み入れられているものは、あまりお勧めできない状況となるでしょう。
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