この記事では、「逆イールドの解消と、株価暴落の可能性」について、考察していきます。
アメリカでは、9月のFOMCで利下げが予想されています。
アメリカの株式市場では、「利下げは景気回復を後押しするものだ」として、株式の上昇要因になると期待されています。
ですが、今回の利下げは、逆イールドの解消を伴う可能性が高く、過去のマーケットの動きから見ても、むしろ下落するのでは?という見方もあります。
そこで、今回は、アメリカの逆イールドの歴史を振り返りながら、今回の逆イールドの解消が示すものと、株価暴落の可能性について、考察していきます。
1、逆イールドとは?
まずは、逆イールドについて、簡単に押さえておきましょう。
逆イールドとは、長期金利よりも、短期金利の方が高い状況を指します。
定期預金で言うならば、1年定期が5%なのに、10年定期が4%みたいな状況のことです。普通に考えれば、期間が長い方が短い方よりも金利が高くなるので、異常な状況だと言うことがわかると思います。
なぜ、こんなことが起こるのか?
では、なぜこんなことが起こるのか?というと、景気が過熱してインフレがひどくなったりした場合に、政府や中央銀行が、政策金利を急激に引き上げて、景気を冷まそうとするからです。
政策金利は短期金利なので、期間の短い債券の金利に、強い影響を与えます。
その一方で、期間が10年などの、期間の長い金利は、短期金利が高くても、これは政府が景気を冷やすために引き上げたのだから、5年、10年という長い目で見れば、景気が悪化するのと共に、金利が下がるはずなので、トータルでの金利はもっと低いはずだと判断されます。
その結果、短期金利の方が、長期金利よりも高くなる、と言う逆イールド現象が起こるわけですね。
そして、過去の逆イールドが起こった時の政策金利の動きは、このようになっています。
(ステップ1)まず、景気の過熱感や、物価上昇を抑えるために、大幅な金利の引き上げが行われて、逆イールドが発生する
グラフの赤い矢印が、大幅な利上げを示しています。その後のオレンジ色の網掛けの部分が、逆イールドの期間になっています。
(ステップ2)その後、1年程度、高金利の状況が続く
逆イールドの期間は、高金利の状況が続きます。今回も含めて、過去4回については、だいたい1年から2年ぐらいですね。
(ステップ3)金利引き上げの効果が出てきて、景気が悪化してきたことに、慌てて、一気に利下げが行われる。この時に逆イールドの解消が起こる
逆イールドが解消されるのに合わせて、政策金利が大きく引き下げられていますね。かなりの急ピッチで、4~5%の引き下げが、過去においては行われていました。
といった感じです。
つまり、逆イールドの解消とは、景気を引き締めすぎた中央銀行が、「やりすぎた!」と慌てて利下げし始める、ということではないでしょうか。
実際、過去の逆イールドと株価の関係を見てみると、2000年のITバブル崩壊や、2008年のリーマンショックのような、株式市場の大きな暴落につながっています。
2、足元のアメリカ経済に対する判断
ですが、足元のアメリカの経済指標を見ると、決して悪くないような感じがします。投資をする方々が注目する指標として、
①実質GDP成長率、②雇用統計、③失業率
などがありますが、これらの指標を見てみると、そんなに悪化しているわけではありません。
例えば、アメリカの4~6月の実質GDPは、年率で+2.8%と、1~3月の+1.4%から大きく上昇しています。
また、雇用統計についても、6月は+20.6万人と、予想よりを上回っています。失業率は、4.1%と悪化していますが、小幅です。
このような数値を見る限り、「アメリカが不景気になっている」と言うことをイメージするのは難しいでしょう。
ですが、こういった数値ではなく、実際に経済活動に携わっている企業や個人についてのニュースを調べてみると、けっこうヤバめなことがわかります。
その中でも、私がやばいと感じていることを4つご紹介します。
(1)商業用不動産の悪化
1つ目は、商業用不動産の空室率の悪化、価格下落です。
このチャンネルでは、何度もご紹介している資料ですが、あおぞら銀行がアメリカのオフィス不動産に投資した結果、5~6割の損失を計上していました。
ご覧の通り、NYやLA、シカゴ、サンフランシスコなどなど、アメリカの大都市のいずれのオフィスについても、5~6割の損失を計上しているのです。
このことからも、全米規模で、オフィス用不動産の空室率は深刻なレベルとなっており、オフィスビルのオーナーの損失もかなり深刻になっていると考えられます。
実際、2023年には、シリコンバレー銀行やファーストリパブリック銀行が破綻しましたが、それぞれの拠点は、シリコンバレーとニューヨークです。
大都市のオフィスの空室率の悪化は、2020年から始まっていましたから、オフィスビルの不良債権はかなり増えていたはずなので、経営破綻した要因の一つと考えられます。
(2)大都市の治安悪化と店舗の閉鎖
2つ目は、大都市の中心部の治安の悪化や、店舗の閉店が起こっていることです。
バイデン政権になって以降、メキシコとの国境からの不法移民が大挙して押し寄せてきているため、NYやLA、シカゴなどの大都市では、不法移民の収容に、かなりの費用負担を強いられています。
NY市では、ルーズベルトホテルと言う由緒あるホテルを貸し切って、不法移民を収容しています。NY市では、3年で1.7兆円にもなると予想されています。
しかし、それでも不法移民はメキシコ国境から次から次へと来ているため、犯罪が増加しています。
もっとも酷いのが窃盗による被害で、小売店の被害額は、年々増加傾向にあり、昨年は約19兆円との試算されていました。
特に、組織的な犯罪による窃盗被害が増えているようで、例えば、貨物列車をのコンテナを襲って、商品を大量に盗むというような、1度に数十億円規模の窃盗が行われるケースが出ているようです。
では、これらの商品はどうなるかといえば、ネットショップで格安で売られるわけです。
アマゾンやeBayなどのようなネット通販サイトでは、個人や中小企業による出品も簡単にできますから、そこで販売して利益を上げられるわけですね。
その結果、被害が大きいエリアから、大小の店舗の撤退が起こっています。
日本で言うところのイオンやヨーカドーにあたる、ウォルマートやターゲットと言うショッピングセンターでは、NYやシカゴなどの大都市でも、店舗の閉店が増加しています。
(参考:各社HPより)
また、ドラッグストアチェーンのウォルグリーンやCVSでも、数百店舗単位での閉店が行われています。
このように、窃盗犯罪が増加して店舗の閉鎖が相次いでいる中で、「景気は強いですよ」と言われても、納得できる人は少ないでしょう。
(3)低所得者の生活が苦しくなっている
3つ目が、低所得者の生活が苦しくなっていることです。
こちらは、最近出てきたニュースですが、アメリカのクレジットカードの延滞率が、調査を開始した2012年以降で、最悪の水準に達したというものです。
アメリカの所得階層ごとの資産額を見てみると、下位50%の世帯の資産は、この30年間でほとんど増えておらず、ほぼ横ばいです。
そのような人が、人口の半数を占める状況なので、ここ数年の物価上昇で貯金を使い果たす人も増えているのでしょう。
そして、カードで借金をしたものの、賃金はそれほど上がらず、借り入れ金利だけは20%を超えてきているので、返済できない人が増えているんですね。
つまり、現在の実質GDPの上昇というのは、食費や家賃などの、払わなければいけない出費が増えているため、無理やりお金を使わせられた結果、という可能性があるのです。
(4)企業の倒産件数の増加
そして4つ目が、企業の倒産件数の増加です。
昨年のアメリカの企業倒産件数は、642件と、13年ぶりの高水準でした。窃盗被害に加えて、高金利や賃金上昇などが重しとなっているようです。
そして、その傾向は今年になっても変わりません。6月時点での倒産件数は、346件と、昨年のペースをさらに上回る状況となっています。
他に新しい産業が伸びているのであれば、倒産件数が増えても、経済の新陳代謝が進んでいると解釈できなくもありませんが、今のアメリカでそんな話を聞きますか?
ちなみに、これまで業績が好調なビッグテックを含めたIT産業は、相次いでリストラを行なっています。昨年1月には9万人が、今年1月も1.3万人がリストラされています。
また、雇用者数の内訳を見てみると、パートタイムの仕事が増えて、フルタイムの仕事が減っていました。
つまり、給料の高いフルタイムの仕事が減って、パートタイムで収入が減ったり、掛け持ちをして働いている人が増えているのです。
このような状況で、景気がいいと判断できるでしょうか?
私には、できませんでした。
というわけで、私がアメリカがすでに不況に入っているのでは?と考えてしまった根拠を4つご紹介してきました。
ビッグテックの業績は好調ではありますが、それ以外の企業や都市、個人は、思っている以上に危ない綱渡りをしているように感じます。
そのため、利下げ後は、株価の動きだけでなく、実体経済の状況にも、細かく注意したほうがいいでしょう。
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