この記事では、「BRICs新通貨で世界はどう変わるのか?」について、考察します。
以前の記事で、「トランプ氏が、基軸通貨としての米ドルの役割を縮小させる政策を行うため、米ドルのシェアが下がるだろう」という考察をしました。

今回は、ここからさらにもう一方踏み込んで、これから新しく作られるBRICs新通貨によって、世界がどう変わるのか?について、考察したいと思います。
これによって、現在の基軸通貨である米ドルだけでなく、金価格やビットコインなどにも影響が出てくると考えられます。
なので、ぜひ、最後までお付き合いください。それでは、参りましょう。
1、なぜ、BRICs新通貨を作るのか?
まず、BRICs新通貨がどういうものなのかを考える前に、現在のアメリカドルを基軸通貨としたシステムの問題点について、整理してみましょう。
基軸通貨とは、世界中で貿易を行う際に使われる通貨のことを指しますが、時代によって、使われる通貨は変わってきました。
ウィキペディアで「国際通貨」を調べてみると、17世期から19世期はスペインペソが、その後、オランダのギルダー、イギリスのスターリング・ポンド、そして現在のアメリカドルへと至ります。
しかし、現在のアメリカ・ドルが基軸通貨になるときに、ちょっとした議論がありました。イギリスの経済学者であるケインズが、「バンコール」という国際通貨案を出してきたのです。
なぜ、こんな議論が出てきたのかというと、ある特定の国の通貨を基軸通貨にしたことで、世界大戦が起こったからなんですね。
この辺りの詳しい解説は、今回はしませんが、ようするに、ある国の通貨を世界中で使おうとすると、いろいろと不具合が出てくる、という認識は、今から80年以上前からすでにあったということなんです。
2、基軸通貨米ドルの問題点
では、現在のアメリカ・ドルを基軸通貨とした現在の経済システムは、どのような問題があるのでしょうか?
新興国や途上国と言われる国々の目線で見た場合に、大きくは3つcあります。
(1)アメリカにイジメられたら終わる
1つ目は、アメリカにいじめられると、国が崩壊してしまう点です。
現代の社会では、石油などのエネルギー資源がなければ、電気も車も、電車なども動かすことができません。
ところが、原油は、ドル建てでなければ購入することができないのです。つい昨年ですが、サウジアラビアの財務大臣が、「原油取引について、ドル以外の決済でも相談に応じる」という発言がニュースになっていました。
これが、ニュースになるということは、今まではドルでの取引が基本だったということですよね。
そのため、アメリカに目をつけられて、経済制裁などを受けると、原油が思うように手に入りらないのです。
経済制裁を受けている国は、例えば、ベネズエラやキューバ、北朝鮮、イラン、シリア、そしてロシアなどが挙げられます。
特に、ベネズエラは、20年ぐらい前までは、南米で1番豊かな国と言われていましたが、軍部が政権をとって石油企業を国有化した後、アメリカに喧嘩を売った結果、経済制裁を受けて崩壊してしまいました。
そのため、メキシコ国境からアメリカに不法移民が大量に入ってきていますが、最も多いのがベネズエラ人となっている状況です。
また、キューバもかなり悲惨な状況となっています。
わたしは、大学生だった2000年ごろにキューバに旅行に行ったのですが、その時に知り合ったキューバ人が、自分の給料が月6ドルだと言っていて、かなり驚いた記憶があります。
当時のキューバは、ソ連がすでに崩壊していたため、支援してもらえず、しかもアメリカからは社会主義の国ということで、経済制裁を受けていたため、かなり生活が苦しかったそうです。
一時は、首都のハバナから、野犬がいなくなったと、現地の人は言っていました。それぐらい、食べ物に困っていたようですね。
このように、アメリカから経済制裁を受けてドルが使えなくなると、海外との貿易ができないために、貧困から抜け出せなくなってしまうようです。
(2)投機資金に、振り回される
2つ目が、商品市況が投機によって大きく影響を受ける点です。
2007年から08年にかけて、世界的に食糧価格が高騰して、途上国で十分な食料が手に入らず、多くの国で暴動が起こったりしました。
その理由はいろいろ言われていますが、投機的な資金が入ったことが大きかったと考えられます。というのも、リーマンショックを機に、価格が大きく暴落したからです。
生存に必要な食料が、品不足で上がっていたのであれば、マーケットの暴落によって、食料価格が暴落するはずがありません。
昔、日本でもコメを買い占めた値段を釣り上げようとした商人のところに、民衆が焼き討ちを行ったという米騒動がありましたが、そういう悪どい投機が、先進国のヘッジファンドなどを通じて、行われているわけです。
日本でも、人気の商品が転売屋に買い占められて、買いたくても買えないとか、定価の2倍以上出さなければ買えないとか、そういうことが起こってますよね。
これと同じことが、生きていくために必要な食料や原油などでも行われているため、特にお金があまりない途上国ほど、苦しい世界になっているわけです。
(3)基軸通貨維持のために、不利益を被る人もいる
3つ目は、全ての国に影響があるのですが、アメリカの基軸通貨維持のための政策に振り回される、という点です。
アメリカは、世界経済が成長するのに合わせて、基軸通貨国として、世界中にドルを供給しなければいけないため、常に経常赤字の状態となっています。
経常赤字とは、個人で言えば、収入よりも支出の方が多い状況です。つまり、借金が増えている状況なんですね。
国として、借金がどんどん増えているのに、アメリカ社会にまったく影響がないはずがありません。
①製造業の衰退
1つには、製造業の衰退があります。
アメリカが輸出よりも輸入の方が多い状況になるわけですから、国内の産業が、海外との価格競争に負けて、倒産してしまったりするのです。
例えば、日本が基軸通貨国だったとして、トヨタが倒産してしまったら、日本円の価値が上がると思いますか?
現在、アメリカは現在IT産業が盛んですが、このような新しい産業が生まれず、借金だけが増えて続けるような国になっていたならば、ドルに対する信用力は、今よりも確実に落ちていたはずです。
なお、11月の大統領選挙で、トランプ氏が当選したら、ドル安と高関税と減税で、国内の製造業を復活させると言っています。これまでの基軸通貨政策で、苦しんでいたアメリカ人を救おうとしているため、これほどの人気なんですね。
②戦争の増加
もう1つが、戦争の増加です。
例えば、2003年にイラクへ戦争を仕掛けましたが、その時の理由として使われた「大量破壊兵器を持っている」という口実は、その後にまったくのデマだと判明しました。
このような嘘をついてまで、アメリカが戦争を仕掛けた理由は、Wikipediaにいくつも載っていますが、その中の一つに、「イラクがユーロで原油取引をしようとしていたから」というものがあります。
原油の取引は、ドルが基本とされていますが、これによって、アメリカドルの需要を高めていたわけです。それがユーロでもOKとなれば、基軸通貨としてのドルの力が弱まってしまいますから、それをやめさせるためと言うことなんですね。
2001年に起こったNYでのテロ以降、アメリカは中東での軍事作戦を活発化させていますが、見方によっては、武力で原油のドル決済を強要するためなのかもしれません。
このように、1つの国の通貨が、基軸通貨としての役割を果たそうとすると、いろいろとムリが生じてしまい、得をする人もいれば、迷惑を被る人もいるのが現状なのです。
そのため、基軸通貨がドルだけの世界で困っている人を助けるものとして、BRICsの新通貨が生まれようとしている、ということなんですね。
3、BRICs新通貨の内容
では、これから作られようとしているBRICs新通貨とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
その有力候補として、言われているのが、「UNIT」と呼ばれる仕組みです。
通貨の名前が「UNIT」というわけではなく、仕組みのことを指しているような感じです。
かなりアバウトな感じの説明になってしまっていますが、この「UNIT」のWEBサイトを見てみても、専門的な用語や、考え方が多くて、普通のおっさんの私には、さっぱり理解できませんでした。
また、YouTubeや、解説サイトなどを探してみたのですが、ほとんどないようです。なので、なかなか普通の人には理解しにくい仕組みなのでしょう。
「話題になっていないということは、使われる可能性がないのでは?」
と思うかもしれませんが、BRICsビジネス評議会という、BRICs諸国の間でもたれている会議体で、議論されている内容でもあるため、採用される可能性は大いにあると考えられます。
ちょっと、前置きが長くなりましたが、そんな小難しそうな「UNIT」ですが、数少ないWEB記事や、「UNIT」の運営サイトのQ&Aなどを調べた結果をまとめたのが、こちらです。
(1)UNITの特徴
- 経済制裁を受けないで済む、通貨・決済システム→どこの国でも使える
- 投機による影響を受けない
- 金が40%、現地通貨やBRICs通貨が60%の構成比。つまり、無制限に通貨を作ることができない
- 分散型台帳なので、誰でも取引内容を知ることができる
- 既存の銀行システムや、中央銀行のシステムにも接続可能
というものです。
ビットコインのような暗号資産に似ていますが、通貨を増やすためには、金が4割と6割の現地通貨を担保に入れればいいので、暗号資産のように通貨発行量に上限はありません。
かと言って、国が無制限に通貨を発行して「UNIT」を増やす、なんてこともできません。
また、金が4割含まれるため、例えば、政情が不安になった場合にも、4割の金の部分の価値は変わらないため、UNITで保有した方が、現地通貨よりも安全ということになりそうですね。
そして、この仕組みで、最も得をするのは、アフリカなどの途上国です。
海外との貿易のために、お金を両替したり、送金したりしてくれる銀行がない国や地域でも、このシステムを活用すれば、直接取引ができるようです。
このように、UNITの仕組みは、どちらかというと、これまで海外との貿易がしにくかった途上国で使われることを想定しているようです。
特に、旧フランスの植民地での14カ国では、セーファーフランと呼ばれる通貨が使われているのですが、この通貨発行益の約半分が、フランスに持っていかれているらしく、それが世界の最貧国レベルから抜け出せない理由だと、イタリアのメローニ首相が以前に告発していました。
このような国が、UNITに参加することで、通貨の主権を取り戻し、豊になるチャンスを得られるようにすることを想定しているようですね。
4、もし、UNITが採用されたら、どうなるのか?
では、このBRICS新通貨として、このUNITのシステムが採用された場合、世界でどのような変化があるでしょうか?
大きくは、4つあると思います。
(1)金価格が上がる
1つ目は、金価格の上昇です。
BRICSがUNITを採用するとすれば、その目的は、途上国の経済発展をさらに推し進めるためになります。
そのため、貿易量がいまよりも増えることが予想されるわけですが、UNITでは、通貨の量を増やす場合に、発行額の4割分を金で割り当てなければいけません。
そのため、BRICS諸国での、金の需要はこれからさらに増えると予想されます。
実際、ここ数年の各国の中央銀行の金の保有量を見ると、中国やインドなどのBRICS諸国で、毎年のように増加していました。
米ドルだけの基軸通貨体制に対するリスクヘッジとも取れますが、BRICSの新通貨で、UNITを採用した場合の準備としている可能性もありますよね。
もちろん、金だけでなく、銀やプラチナなどの、他の貴金属を担保とする可能性もありますし、それは正式な発表を待たなければわかりませんが、政府や中央銀行が、好きなだけ通貨を擦り散らかしている、現在の状況は不健全だと思っていることは間違い無いありません。
そのため、金の需要はさらに増えていくでしょう。
(2)アメリカの経済制裁の無効化
2つ目は、アメリカの経済制裁の無効化です。
BRICSの新通貨の目的の1つでもあるわけですが、米ドルなしでも、二国間の貿易が可能になるシステムなので、経済制裁によって、経済発展が阻害されてきたイランやキューバ、シリア、北朝鮮などでも、海外との貿易が活発化していくことが予想されます。
こんな感じの動きが、これからさらに増えてくると予想されます↓
経済制裁されてきた国は、貧しくなって社会的にも不安定になりがちでしたが、今後はそのような心配が減り、いかに自国の商品を買ってくれる国や企業を探せるか、に国の役割が変わってくると予想されます。
つまり、平和な地域が増えるということですね。
(3)米ドルのシェア低下
3つ目は、米ドルの基軸通貨としてのシェアの低下です。
アメリカを含めた欧米先進国が、この仕組みを積極的に採用する可能性は低いと思いますが、BRICS諸国を含めた、それ以外の地域では、米ドルを利用する機会が減りますから、その分だけ米ドルのシェアは下がるでしょう。
すでに、ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアが米ドルでの決済ネットワークであるSWIFTから排除されたあたりから、米ドルを使わない二国間取引を導入するニュースが散見されるようになっていますが、その流れをさらに加速することになりそうです。
なお、今年の11月にアメリカで大統領選挙が行われますが、ペンシルバニア州での銃撃後、さらに人気が上がっているようなので、現時点の世論調査では、トランプ氏が優勢となっています。
仮に、トランプ氏が大統領になった場合には、アメリカの製造業を復活させるために、海外に対して一律10%の関税と、特に中国に対しては、60~100%の関税をかけると言っています。
また、ドル安政策を推進するために、4月には、財務大臣の経験もある麻生副総裁との会談も行っています。そのため、円買い介入の要請をしてくる可能性が高く、円高ドル安になっていくでしょう。
「BRICS新通貨で、ドル崩壊」といった、極端なことは起こらないとは思いますが、仮にドルが暴落、つまりドル安になったとしても、それは、トランプ氏にとっては望む方向なため、新通貨発足に対して、トランプ氏が邪魔をすることはないと思われます。
というか、そういう邪魔を無効化する仕組みが、今回のBRICS新通貨なわけですね。
(4)ビットコインなどの暗号資産が暴落?
そして、最後の4つ目が、ビットコインなどの暗号資産の暴落の可能性です。
わたしのあっさ~い理解で恐縮なのですが、UNITの性質を見てみると、実物資産の担保がある暗号資産のように見えてしまうんですね。
ビットコインのような暗号資産は、裏付けとなる資産がなく、ただの数字の羅列でしかないのですが、国家による資産の収奪から、資産を逃したいというニーズから、本格的に価値が出始めたと理解しています。
実際、ビットコインの歴史を見てみると、本格的に上昇し始めたのは、2013年のキプロスショックでした。
この時、キプロスの銀行が危なくなってきたため、預金者の一部が資産を逃すために、海のものとも山のものともつかないビットコインに資金が殺到した結果、価格が大きく跳ね上がったのです。
つまり、最初はよくわからないけども、銀行に預けて降ろせなくなるよりはマシだ、という資産の保全を求めての上昇だったんですね。
その後、日本も含めて、先進国の中央銀行が、異次元緩和とか言って、お金を刷り散らかすようになったため、「このまま米ドルやユーロ、円などの紙切れを持っていたら、紙屑になってしまう」と心配になった人たちが、中央銀行の管理から離れているビットコインに殺到した、と理解しています。
それに加えて、一部のお店では、ビットコインで買い物もできるようになってもいますが、これらの機能って、UNITにすべて備わっていそうなんですよね。
しかも、UNITでは、金という実物の担保が含まれます。ただの数字の羅列である暗号資産と比べたら、安心感が全然違うじゃないですか?
なので、今後、技術的な仕様や、利用方法などが明らかになってきたら、「UNITの方がよくね?」となってくる可能性があるんじゃないかと思っています。
もし、これからBRICSの新通貨の詳細が明らかになってきたときに、ビットコインなどの暗号資産の価格が暴落した場合には、このような理由によるものかもしれませんね。
結論
というわけで、ここまでの話をまとめます。
- 一国の通貨を世界中の通貨として利用する基軸通貨制度は、欧米先進国ではメリットが大きいが、アメリカとの取引関係が少なかったり、友好関係にはない国にとっては、恩恵が少ない制度
- BRICS新通貨は、このように海外との貿易が十分にできていないBRICS諸国や、アフリカなどの途上国での利用を想定したもの
- 新通貨の採用候補のシステム「UNIT」は、アメリカからの経済制裁や、投機筋による相場操縦の心配のないものであり、金が4割担保と必要となることもあって、資産価格の安定性も考慮されている
- 今後このシステムが普及していくのであれば、金の需要はさらに増えるため、価格上昇が見込まれる。また、米ドルの基軸通貨としての存在感は薄れていくが、途上国を中心に経済発展が進むため、世界経済の成長が加速しそう
- トランプ氏の政策は、国内産業を復活させるために、高関税とドル安を進めようとしている。そのため、BRICS新通貨がアメリカに与える米ドルのシェア低下、ドル安の影響は、むしろ歓迎すべきことなため、邪しようとはしないだろう
- もしかしたら、ビットコインなどの暗号資産は、UNITに駆逐されるかもしれない?
と考えます。
なお、UNITについては、英語のサイトですが、ブラウザをクロームで使っている方は、自動翻訳機能で、なんとなく理解できると思います。
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