(画像出典:wikimedia commons, ハートのキング, ツインピークスから見たサンフランシスコ)
この記事では、サンフランシスコの不動産市場について、解説します。
今年の2月にあおぞら銀行が、決算の下方修正を発表しました。
当初は240億円の黒字を予想していたものが、一転して280億円の赤字と発表したのだから大変です。
株価は2日連続ストップ安をつけ、3割下がり、その後も低迷を続けています。
なぜ、これほど下落したのかというと、アメリカのオフィスビルへの投資が、もの凄い損失を出していたからです。
ニューヨークやシカゴ、ロサンゼルスなどの大都市のオフィスビルの評価額を5〜6割も下げていたのです。
そして、その中には、サンフランシスコも含まれています。
この記事では、「なぜ、アメリカの商業用不動産が、これほど下落しているのか?」について、各都市ごとに、詳しく見ていくつもりでして、今回はサンフランシスコを取り上げることにしました。
1、サンフランシスコについて
その前に、サンフランシスコという市について、いくつかの基本データを確認しておきましょう。
(1)立地
サンフランシスコ は、アメリカの西海岸にあるカリフォルニア州の中の都市です。
全米2位のロサンゼルスよりも、北に約540kmの距離にあるので、東京〜大阪ぐらいの距離感になります。
また、Facebookやグーグル、アップルなどの大手IT企業の多くが、シリコンバレーと呼ばれるエリアにありますが、これは、サンフランシスコよりちょっと南側にあるサンノゼなどの都市になります。
(2)人口
サンフランシスコの人口は、2023年時点で約81万人ですが、2018年に約88万人でピークを打ち、その後は減少しています。
4年で約7万人の減少(8%減)なので、かなりの勢いで、人が減っていることがわかります。
2、サンフランシスコの不動産市場について
では、本題のサンフランシスコのオフィス市場について、見ていきましょう。
(1)オフィスの空室率
まずは、オフィスの空室率の現状を見てみましょう。
全米不動産業者協会が、毎月発表しているオフィスの空室率ランキングをみると、大都市ほど空室率が高い傾向にあり、特にサンフランシスコがダントツの1位となっています。
しかも、昨年の17.1%から21.7%にまでに上昇しており、空室率がさらに悪化していることがわかります。
また、他の上位都市も、軒並み悪化しています。
ニューヨークは上位10位以内に入っていませんが、全米2位のロサンゼルス(382万人)、3位のシカゴ(266万人)、ヒューストン(230万人)、フェニックス(164万人)、ダラス(130万人)などなど、100万人以上の大都市が軒並み上位に入っており、それらの都市がすべて、昨年よりも空室率が悪化しているのです。
そのため、全米規模で、オフィスビルの空室率の悪化が進んでいるということがわかりますね。
(2)大企業の撤退例
このように、空室率がさらに悪化を続けているサンフランシスコですが、もともとは、IT系の企業が多く集積しており、META(旧Facebook)や、グーグル、マイクロソフト、セールスフォースなどの大企業も大規模なオフィスを構えていました。
ですが、新型コロナ以降、さまざまな理由から(後述します)、オフィスの削減を進められています。
ネット上で確認できるものだけでも、以下のような事例が簡単に調べられます。
企業名 | 建物名 | 面積(㎡) | リンク |
META(旧Facebook) | 181 fremont | 4.2万 | 参考記事 |
One Market Plaza | 3.0万 | 参考記事 | |
マイクロソフト | 555 california st | 0.5万 | 参考記事 |
セールスフォース | salesforce tower | 6.5万 | 参考記事 |
面積で言われても、あまりピンとこないかもしれませんが、各都道府県で、もっとも大きなイオンモールが、だいたい5万〜9万㎡ぐらいです。
サンフランシスコ・スタンダードという、オンラインニュースサイトの記事によると、サンフランシスコに拠点を置く大企業20社のオフィス面積は、約150万㎡だったのに対し、2024年現在は、約77万㎡と、ほぼ半減していました。
(参考記事:The San Francisco Standard)
減少分は、約74万㎡になります。
人口が80万人の街で、でかいイオンモールが10個分空きスペースになった、といったら、かなりのインパクトがあることがわかりますね。
不動産の賃貸契約は、数年単位になりますので、期間が満了して、ようやく空室率が上がります。
昨年よりも今年の方が、大都市において空室率があがっているのは、契約期間が終了した後、どこの企業も借りてくれない状況が続いているためでしょう。
(3)店舗の撤退例
大企業がオフィスの削減を猛スピードで進めていますが、撤退しているのは、オフィスだけではありません。
サンフランシスコ市内の小売店舗も、かなりのハイペースで閉店、撤退が進んでいます。
店舗名 | 内容 | リンク |
ノードストローム(百貨店) | ダウンタウンの店舗を閉店(約2.9万㎡) | 参考記事 |
ウェストフィールド(ショッピングモール) | 閉店。借金が返せないため、物件をそのまま債権者に譲渡して精算 | 参考記事 |
ホールフーズ(高級スーパー) | オープン13ヶ月後に閉店 | 参考記事 |
その他、有名ブランドの店舗 | 「アバクロンビー&フィッチ」「H&M」「ギャップ」「アディダス」など |
この辺りの実態は、動画で確認した方が、わかりやすいです。
いろいろな場所を歩きながら撮影するユーチューバーが増えたことで、世界中の街や観光地などの現状を確認することが、簡単にできるようになっています。
サンフランシスコに40年以上在住されている、桑港たかしさんという方が、サンフランシスコの街並みを動画にしてくれています。
位置関係を図に表すと、このような感じです。
赤色で囲まれたエリアが、高層ビルが立ち並ぶ中心街です。
マーケット通りは、そこから南西に向かって走る道路で、路面電車も走っていますし、サンフランシスコ市庁舎の近くも走るので、街の中心部を走る道路になります。
桑港さんが、上の動画で撮影されていた部分を青色の線で示しました。
大手テック企業が集積していた高層オフィス群からすぐのところで、多くのお店が閉店になっている様子を確認ができます。
3、なぜ、オフィス・店舗の撤退が起こっているのか?
では、なぜこれほどまでに、オフィスや店舗の撤退が起こっているのでしょうか?
理由は大きく3つ考えられます。
(1)リモートワークの普及
1つ目が、リモートワークの広がりです。
日本でもそうでしたが、2020年に新型コロナの感染拡大が起こったことで、外出が厳しく制限されました。
サンフランシスコは他の都市よりも対応が早く、2020年3月16日からロックダウンを始め、6月1日までに続きました。
その後、2020年12月にもカリフォルニア州全域でロックダウンが行われ、かなりの不自由を強いられたようです。
このような状況だったため、大手IT企業を中心に、リモートワークによって業務を乗り越えました。
サンフランシスコ は、給料の高いIT系の企業が集まっていたこともあって、家賃がかなり上がっていましたので、オフィスへ出社する必要がなくなったことで、多くの社員が、サンフランシスコから出て行ったのです。
最初の方で、サンフランシスコの人口の推移を見てもらいましたが、2020年から21年にかけて、人口が約87万人から81万人にまで、約6万人も減っています。
新型コロナに対するロックダウンなどの対応は、民主党支持の大都市ほど、厳しかったため、テキサス州などの共和党支持のところへ移住したようです。
(2)治安の悪化
2つ目が治安の悪化です。
2020年5月に、黒人のジョージ・フロイドさんが、警察官に取り押さえられた際に死亡してしまった事件を受け、全米で警察に対する抗議デモが発生しました。
このような抗議を受けて、サンフランシスコ市長は、警察の予算を削減し、黒人のために振り分ける政策をとった結果、犯罪を十分に取り締まれなくなり、治安が悪化したのです。
また、カリフォルニア州では、プロポジション47という、「950ドル未満の窃盗であれば、軽犯罪と見なされる」という法律が、2014年に住民投票で可決されていました。
そして、新型コロナで、経済的に苦しくなった人も増えて、薬物に依存する人も激増していました。
カリフォルニア州を含めてアメリカ全土で、この時期に、薬物中毒による死亡者が激増しています。
薬物中毒になると、禁断症状が出ますので、それを回避するために、何がなんでも薬が必要になります。そのため、犯罪にも手を染めやすくなり、治安の悪化につながります。
桑港さんの動画を見てもらってもわかるように、マーケット通りから高層オフィス街までは、目と鼻の先にありますので、出社の途中で犯罪にあう可能性も上がっています。
サンフランシスコから出て行った人は、治安が悪化した場所で働きたくない、という意識も働いていたのでしょう。
(3)組織的な犯罪が増えて、被害額が増加
窃盗があっても、予算を削減された警察では対応ができず、それに味をしめた犯罪者が、今度は組織的に、大規模な窃盗を行うようになりました。
全米の小売店の被害総額は、2020年以降に大幅に増えており、昨年23年は1,216億ドル(約19兆円)にまで膨れ上がっています。
(参考:CAPITAL ONE shopping reseach)
これほど窃盗犯罪が増えてしまうと、被害が大きいエリアからは、お店も撤退せざるを得ません。
そのため、百貨店やショッピングモール のような、大きな商業施設も次々と閉店しているのでしょう。
これからどうなるのか?
では、これからどうなるのでしょうか?
もし、この状況が当分続くのであれば、第2のリーマンショックに発展する可能性があると思います。
昨年3月に、シリコンバレー銀行やファーストリパブリック銀行といった、アメリカの中堅銀行が相次いで経営破綻しました。
大手メディアを見ると、金利上昇で持っている債券の含み損が増えたとか、収益の悪化が原因などと解説されており、「それだけで本当に破綻したの?」と疑問に思っていました。
ですが、これまで見てきたように、アメリカの大都市では、治安の悪化やオフィスビルの解約、店舗の撤退などで、不動産向けの融資の多くで、損失が広がっていることが推測されます。
これが、これらの銀行が破綻した、1番大きな原因なのではないでしょうか?実際、あおぞら銀行は、それで決算を赤字に修正しているわけですからね。
オフィスの空室率は、契約期間が満了すると、さらに上がってくることが予想されますので、銀行の損失もさらに広がってくるはずです。
そうすると、昨年起こった以上に、銀行の経営破綻が増える可能性は高く、その規模が大きくなりすぎれば、リーマンショック級の金融パニックが起こってもおかしくないと思います。
株価暴落→都心のマンション価格の暴落
2008年にリーマンショックが起こった時は、株価もそうですが、マンション価格も大きく下落しました。
千代田区、港区、中央区の都心3区では、2008〜09年にかけて、2割下落しています。
分散投資をしていた投資家が、株の損失を埋め合わせるために、マンションを売却したことや、買い手が一気にいなくなってしまったことが原因です。
(参考:東日本不動産流通機構 、yahoo finance us)
現在の日本のマンション市場は、特に23区や大都市の中心部だけが、異常に上がっています。
そして、その買い手の多くが、この株高で儲かっている国内外の資産家、投資家と言われています。
そのため、株価の暴落が起これば、日本の高額なマンションにも影響が広がるでしょう。
2024年5月現在、日米の株価は、史上最高値の水準にあるため、「アメリカは景気がいいようだ」と思ってしまいがちですが、それぞれの街の現状を見れば、とてもそうは思えませんでした。
もし、投資目的で、このようなマンションをお持ちの方は、株価だけでなく、アメリカの社会情勢、銀行に関するニュースについて、注意を払っておいた方がいいでしょう。
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