この記事では、「プラザ合意2.0で、米ドル切り下げと、米国株上昇のシナリオ」について、考察していきます。
ちょうど1ヶ月前に出した、こちらの動画で、
「米国株がバブルなのではないか?だって、バフェットがアップルの株式を今年だけで6割も減らしてるんだぜ?何かヤバい理由がなければ、そんなことしないよね。
あとトランプ政権ができたら、政府効率化省がバンバン政府予算を削減するので、失業率は上がるし、消費は落ち込むから、業績低下で、株価は下がるんじゃないの?」
という感じの、米国株がバブルだという可能性について、考察しました。
今回は、その続編となるわけですが、米国株が上がる可能性について考察してみます。
ただし、「前回の動画は嘘だったの?」と言わないでください。いずれにしても、日本人にとっては、米国株は危ないという結論には変わりはありませんので。
また、この考察を信じて投資して、損をしたとしても、一切責任は持てません。
エンタメ感覚で、投資の最悪シナリオの一つとして、頭の片隅に置いてもらうぐらいが、ちょうどいいのかなと思います。
それでは、参りましょう。
1、「米国株が上がりそうだ」と思った理由
まず、最初に言っておくと、私は現在の米国株がバブルだと思っていますし、トランプ政権の政策が、一時的には、失業率の悪化や、消費の減退などを起こすことも疑っていません。
では、なぜ株価が上がると思い始めているのか?というと、それは、アルゼンチンが、アメリカがこれからやろうとしている政策を先にやっていて、株価が上昇しているからです。
こちらのグラフは、アルゼンチンの株価指数とブルーダラーと呼ばれる、米ドルとアルゼンチンペソの交換レートです。
(参考:Blue Dollar、Investing.com)
国が決めたレートではなく、非公式の闇レートがよく使われるそうなので、そちらを参照しています。
ご覧の通り、アルゼンチンペソも株価指数であるメルバル指数も、ミレイ大統領が就任した昨年12月以前は、同じようなペースで上がっていましたが、就任後は、株価は上昇傾向にあるものの、為替レートは落ち着いてきています。
また、通貨安の影響を除くために、ドルベースでの株価指数も見てみると、やはりミレイ大統領就任後は、株価も2倍以上に上がっています。
(参考:Blue Dollar、Investing.com)
2、ミレイ大統領は何をしたのか?
このように、株価を見てみると、本格的に上昇してきているように見えるアルゼンチンですが、ミレイ大統領が一体何をしたのか?というと、大きくは3つあります。
それは、
- 政府の省庁を18から9つに減らし、政府支出を3割減らした
- 為替レートを半分にした、1ドル150円を300円にしたというイメージです
- 規制緩和、構造改革省を立ち上げ、政府がこれまで作った複雑で無駄なルールを1つ1つ撤廃し、中小企業や個人がビジネスをやりやすい環境を整えている
などです。これによって、公務員の首は切られてるので、失業率は上がっていますが、物価の上昇率は下がってきています。
また、公共事業などは減っていますし、国内の産業は落ち込んでいますが、アルゼンチンの輸出品目である農産物や鉱業の生産活動は活発化しており、絶賛建て直し中といった感じです。
このようなアルゼンチンなわけですが、トランプ氏が大統領選挙に当選した後に、最初に会った海外の首脳が、ミレイ大統領なのです。
石破首相も、早く首脳会談をしましょうと打診しましたが、見事に断られています。
この動画を作っている12月14日現在で、会っているのは、ハンガリーのオルバン首相と、フランスのマクロン大統領、ついでにゼレンスキー大統領だけです。
その理由は、アメリカも、アルゼンチンと同じような政策をしようとしているからであり、先にやっているミレイ大統領に、いろいろとアドバイスを求めたのでしょう。
実際、アメリカでは、トランプ氏が当選してすぐに、イーロン・マスク氏が政府効率化省の責任者として抜擢されました。
この組織では、現在の政府の非効率な予算や組織、政策などを徹底的に見直して、年間予算の3割に当たる、約300兆円の削減を目標としています。
しかも、2026年7月に解散するというのですから、1年半で全部洗い出してやると、やる気も満々です。
このように、アメリカでも、アルゼンチンの政策を参考に、政府機能の削減と、規制緩和を行なって行くわけです。
3、アメリカはドル安政策を取るのか?
問題は、為替レートの修正です。
アルゼンチンは、公定レートを半分にすることで、海外への輸出競争力を高めました。それまでも、通貨安の傾向は続いていましたが、それをさらに加速させたようなイメージですね。
これによって、海外からの輸入物価は上がりましたが、牛肉や鉱山資源などの輸出品の競争力は強まったため、貿易収支も改善されました。
では、アメリカも、同じようにドル安政策を行うのでしょうか?
例えば、ドル円であれば、1ドル150円ぐらいしてますが、それを1ドル80円にするような、そういう状況を作ろうとするのか?という意味です。
この点が、今回の動画の考察の核心部分になります。
財務長官にスコット・ベッセント氏
次期トランプ政権の財務長官として、スコット・ベッセント氏が指名されました。
次期トランプ政権は、長官級の人事指名をさっさと進めていますが、経済政策に影響のある財務長官の人事は、マーケット関係者にとって、特に注目されていました。
Wikipediaによると、ベッセント氏は、1992年にジョージ・ソロス氏がイギリスポンドに空売りを行い、暴落させて10億ドル以上の利益を上げましたが、その主要メンバーです。
1992年当時のイギリスポンドのレートは、経済の実態以上に高く評価されていると、ソロスファンドのメンバーは考えていました。
それで、空売りを行い、イギリスポンドを2割近く下落させ、10億ドル以上の利益を上げたのです。
その後、自身のヘッジファンドを立ち上げて、地政学と経済学を駆使して、投資を行っていました。2017年から21年までは、成績は振るいませんでしたが、21年から23年までは、ものすごい儲かっていたようです。
また、イエール大学で、経済史も教えていた時期もあり、理論家でもあり実践家でもある経験豊富な人のようですね。
このように、世界の経済だけでなく、政治や歴史、地政学的なものの見方もしながら、投資を行ってきた人が、今度の財務長官になるのです。
ベッセント氏の考えていること
ベッセント氏は、6月に行われた、マンハッタン研究所での講演会で、こんな発言をしています。
「私たちは、これから世界経済の仕組みの再編成を行わなければならないだろう。その一員に、私はなりたい。そして、そのために、私は勉強してきたのです。」
彼は、その言葉の後に、第一次世界大戦後のベルサイユ条約や、第二次大戦後のブレトンウッズ体制を引き合いに出しています。(動画の5分ぐらいのあたり)
つまり、そういうレベルのものが、これから起こると思っていて、そのような世界の新しい枠組みづくりに参加するために、これまで勉強してきたのだ、と言っているのです。
では、ベッセント氏は、なぜ世界経済を再編成しなければいけないと言っているのでしょうか?
その理由は、現在のアメリカの財政赤字が危機的な状況だからです。
ベッセント氏は、これまでの基軸通貨国であった、スペインやポルトガル、オランダ、イギリスが、なぜ滑り落ちたのか?の理由として、借金が増えすぎたことを挙げています。
借金が増えすぎると、その返済に追われて、国民から税金をむしり取らなければいけなくなるため、産業が落ち込み、衰退してしまうからです。
アメリカの借金も、現在36兆ドル、約5,400兆円にまで膨らんでおり、毎年の利払いだけで170兆円近くまで増えています。
それに合わせて経済も成長していれば、問題ないのかもしれませんが、経済成長率は3%を切っているのに対して、借金は6~7%のペースで増えています。
収入の伸びよりも、借金の伸びの方が早いのです。そのため、ベッセント氏は、今がアメリカを建て直す最後のチャンスだと考えているのです。
ベッセント氏は、中国の人民元が、過小評価されていると考えている
では、具体的に、どんなことを考えているのでしょうか?
これについては、明確には答えていませんが、おそらく、中国を中心としたプラザ合意2.0ではないかと思います。
実際、この動画の中では、「人民元は過小評価されている」と言っています。(動画の28分ぐらいのところ)
現在、人民元は、管理変動相場制と呼ばれる仕組みをとっていますが、ほとんど米ドルと固定されているような状況です。
この10年間ぐらいで見てみると、1ドル6から7.4人民元ぐらいの値動きであり、上下20%ぐらいしかありません。
それに対して、ドルベースのGDPは、この10年で1.6倍にもなっており、貿易収支の黒字幅もどんどん増加しています。
これを何とかしないと、アメリカの経済の復活はないと考えていると思われます。
トランプ氏の政策の方向性
ここで、ちょっとトランプ氏の政策の方向性について、確認しておきましょう。
今回の大統領選挙では、金持ちで大卒のエリートがカマラ・ハリス氏に投票し、一般庶民がトランプ氏に投票しました。
トランプ氏への期待は、これらの普通のアメリカ国民の所得を上げて、生活を豊かにすることです。
日本などへの同盟国にも、容赦無く関税をかけると公言していることから、アメリカ国内に産業を戻して、雇用を増やす方向なのは間違いありません。
問題は、関税だけで、アメリカ国内に雇用が戻るのか?ということです。
例えば、日本への関税を10%引き上げたとしましょう。1ドル150円だとすると、関税が10%上がれば、1.1ドル、つまり165円で売られることになります。
しかし、為替が150円から165円に、1割円安になればどうでしょうか?
それまで1.1ドルで売っていたものを1ドルの値下げをして売っても、165円で売れたことになります。
つまり、関税を上げても、相手の国の通貨が安くなったら、アメリカ政府には関税分のお金が入ってきますが、米国民の雇用が増えるわけではないため、あんまり意味がないんですね。
そのため、関税と為替介入は、セットで行わないと、アメリカ国内に雇用が戻ることは、なかなか難しいと思われます。
中国を相手に、プラザ合意2.0を呑ませるのでは?
そこでポイントとなるのが、先ほどのベッセント氏の「世界経済の仕組みの再編成」そして、「人民元は過小評価されている」という発言です。
1985年にプラザ合意によって、ドル円相場は、1ドル240円から2年後には144円にまで円高になりました。
当時の日本は、現在の中国のように、アメリカへの輸出攻勢が凄くて、アメリカの自動車メーカーの経営が悪化し、日本車の打ち壊し運動が起こっていた時期でした。
これを何とかするために、当時1ドル240円前後だった為替レートをどんどん切り上げさせて、日本からの輸出を減らそうとしたわけです。
なお、このプラザ合意では、日本だけでなく、西ドイツやフランスの通貨も切り上げられています。アメリカに対する貿易黒字の国への、為替レートの調整だったと言えます。
今回のプラザ合意2.0では、先進国だけでなく、新興国も対象に
現在の、アメリカの貿易赤字国のランキングを見てみると、中国がダントツではありますが、その後にメキシコ、EU、ベトナム、ドイツ、日本と続いています。
こちらの表を見てもらうと、プラザ合意の時のような、先進国だけでなく、新興国と言われる国々が、たくさん入っていることがわかります。
もし、アメリカが、国内の産業を復活させるためには、ほぼ全世界の通貨に対して、自国の通貨の切り下げが必要となってきます。
トランプ氏が、中国だけでなく、すべての国に対して、一律10~20%の関税を貸すと言っているのは、一部の国を優遇してしまうと、そこに工場が集中して、国内に雇用が戻ってこないからです。
なので、米ドルの切り下げをするのであれば、すべての国を納得させなければいけません。
マーケットに任せていては、永遠に解決しない
ところが、現在の米ドルは、日本や新興国通貨に対して、かなり強いです。
2022年のロシア・ウクライナ戦争をきっかけに、物価がどんどん上がってしまい、それへの対応として、政策金利を5%台にまで引き上げたため、高金利の基軸通貨なら安心だ、ということで、世界中の投資家が、米ドルを買い求めるようになってしまったからです。
これを何とかするには、マーケットに任せるのでは、解決は不可能なので、それこそ、ベッセント氏がいうような、「世界経済の仕組みの再編成」が必要となるでしょう。
それが、中国を巻き込んだ、プラザ合意2.0ではないか?というのが、私の予想です。
4、プラザ合意2.0が進みつつある?
実際、その兆候らしきものが出てきました。
1月20日に、トランプ氏は大統領就任式を開催するわけですが、その来賓に、習近平主席を招待するというのです。
就任式に、海外の首脳を招待するのは、1874年まで遡っても、前例がないとのことです。
習主席は、参加しない可能性が高いと報道されていますが、明らかに、トランプ氏は、「さっさと話をつけようぜ」というシグナルを送ったと解釈することができます。
その話をつける、というのは、もちろん、プラザ合意2.0です。
BRICS諸国のリーダー的存在である中国の人民元レートを切り上げてもらうことで、他の国の対米レートも強調して切り上げを行うように、音頭をとってもらおうとしているのではないでしょうか?
中国のメリットは?台湾有事問題の解消
では、中国への見返りは?というと、それは、台湾有事に関して、アメリカは手を出さないという約束であり、最終的には、在日米軍の撤退につながるものと思われます。
そもそも、Wikipediaで台湾有事を見てみると、騒がれ始めたのは、2021年3月であり、現在のバイデン政権になってからです。
その後も、バイデン氏とトランプ氏に対して、「台湾有事が起こったらどうするのか?」とメディアが質問をしてきても、「バイデン氏は台湾を守る」とやる気満々な発言をしてきましたが、トランプ氏は、ノーコメントを貫いてきました。
そして、今回のトランプ政権では、国内にいる戦争屋を排除すると宣言しており、台湾有事を起こしてアメリカを戦争に巻き込もうとする人たちを一掃しようとしています。
また、在韓米軍の撤退の話も、第1期のトランプ政権の時に話し合われていたそうです。
すでに、金正恩氏との会談も予定していますし、親米派のユン大統領が弾劾を受け、再選挙がされれば、新北朝鮮派の共に民主党が、大統領に就任する可能性が高いので、南北の融和も進みそうですから、かなり実現性が高くなっていると思われます。
このように、トランプ氏は、東アジアから手を引く気満々のように動いていますので、「それは台湾についても同じだ」とはっきりと中国側に伝えるだけでOKですし、中国としても、台湾との統一は望んでいるものの、武力行使ではなく、平和的な解決を目指すとしているので、この辺りが落とし所なのではないかと思います。
中国は、アメリカへの輸出が減るかもしれませんが、今年BRICSに4カ国が新たに加盟しており、BRICS諸国内で貿易を増やせばいいわけですし、それは、ベトナムなどの他の国においても同様です。
こうなれば、ドル安によって、海外に工場を作っていた企業は、アメリカに戻ってきますし、海外からの輸出も減るので、国内の雇用も増えます。
それに加えて、政府予算の削減と、減税、規制緩和で、経済が拡大していけば、政府の借金の問題も、持続可能な範囲に持っていけるでしょう。
というのが、トランプ氏やベッセント氏が考えている、アメリカ経済の復活策ではないでしょうか?
5、円高ドル安で、日本人は為替差損が出そう
そうすると、これから待っているのは、円高ドル安です。
1985年のプラザ合意では、数ヶ月で15%ほどの円高が進み、2年で4割進みました。現在の150円から90円になったようなイメージです。
また、アメリカの株式市場は、これによって、多くの産業が息を吹き返すでしょうが、その前に、政府職員の首切りや、予算の削減で影響を受ける企業も続出するはずですので、トランプ政権発足後は、企業業績の悪化による株式市場の下落も起こりそうです。
なので、長期的には、アメリカ経済は復活するでしょうし、株価も上昇基調に戻ると思うのですが、その前段階で、為替差損が大きくなるのではないか?というのが、私の予想です。
米国株を買うのなら、このプラザ合意2.0が終わった後なんじゃないかなーと思っています。
なお、1月20日からのトランプ政権は、かなりスピード感が早いと感じています。
各省庁の長官や閣僚レベルの指名はすでに済んでいますし、金正恩氏との会談のセッティングや、就任式での習主席を招待しようとする動きなど、積極的に海外の首脳とコンタクトをとって、さっさと話を進めていこうとしている印象です。
なので、もし、プラザ合意2.0のようなものが起こるのであれば、おそらく来年中にはやってしまうのではないでしょうか。
この辺りについては、まだ想像の域を出ませんが、今後のトランプ政権の動向を見ながら、更新していこうと思っています。
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