おそらく多くの方が、
「オリンピック後には、この不動産バブルも弾けるんじゃないか?」
と思っているのではないでしょうか?
確かに、オリンピック期待でホテルや競技場の開発が進んでいますから、それらが無くなれば不動産価格は下がりそうな気がしますよね。
ですが、本当にそうでしょうか?
なぜこんな疑問を投げかけるのかというと、不動産市場は、地域によって異なる理屈で動いていることがよくあるからです。
例えば、平成の土地バブルを見てみても、東京は1988年に公示地価が高値をつけていますが、新潟では10年後の1998年が最高値でした。
(参考:国土交通省 地価公示)
東京都では企業が財テクに走ったため、転売目的の投機(土地転がし)が広がったためですが、新潟県では公共事業がこの頃まで増えたからでした。
理由が全然違うのです。
この例と同じように、今回の不動産価格の上昇も、その地域によって上昇している理由が異なります。
例えば、愛知県の土地価格が上昇している理由は、トヨタ自動車などの製造業の好調さにありました。
オリンピックが終われば、世界中で自動車が売れなくなると思いますか?
また、大阪や京都は、外国人観光客数が増えて、土地価格が上昇しています。
オリンピック後に、外国人の観光客が減るでしょうか?
そこで、この記事では、オリンピック後に何が変わり、何が変わらないのかを明らかにした上で、それぞれの地域でどんな影響を受けるのかを解説していきたいと思います。
1、そもそも、どこが上がってるのか?
オリンピック開催が決まったのは、5年前の2013年ですが、それから日本の不動産はどのように動いてきたのでしょうか?
過去5年間の公示地価の変化率から、都道府県別に色分けをしてみたのがこちらです。
5年間の住宅地の変化率
(参考:国土交通省 地価公示)
ご覧のように、
- 震災からの復興需要で福島と宮城
- 東京を中心とした首都圏
- トヨタなどの製造業が好調な愛知
- 外国人観光客数の増加で景気のいい福岡、沖縄
が上昇しています。
大阪や北海道でも外国人観光客が増えていますが、その影響も一部の地域に限定されているため、都道府県全体で見ればマイナスとなっています。
他の都道府県を見ても、ほとんどマイナスですね。
このことからも、上昇している地域と下落している地域の二極化が進んでいるとわかりますね。
そもそものきっかけは、日銀の異次元緩和
しかし、オリンピック開催決定が決まってから不動産が上昇したわけではありません。
きっかけは、2013年4月から始まった日銀の異次元緩和です。
日銀がお金をバンバン刷って、銀行やゆうちょ、年金が持っている国債を(実質的に)買い取ってしまったのです。
日銀が国債を買い取った後のお金の流れ
それまで銀行は、預金者から預かった預金で国債を買って、1%ぐらいの利息をもらって儲けていました。
ですが、それでは国内でお金が回らないので、景気がちっとも良くなりません。
そこで、日銀が銀行が持っている国債を(実質的に)買い取ってしまうことで、銀行に対して「どっかの会社に金貸して、本業で儲けなさいよ!」とやってしまったのです。
年金のお金は株式に向かい、株高が進みました。
ゆうちょやかんぽのお金は、その後アメリカの国債などに投資され、円安が進みました。
円安になったことで、製造業の業績が急回復。雇用も増加へ
円安になることで、製造業が利益を回復して、国内の工場に仕事が増えました。
例えば、愛知県の三河地区は、トヨタ自動車のある地域ですが、この地域での雇用が増えて人口が増加、土地価格も上昇しています。
地図の真ん中あたりが三河地区:5年間の土地価格の上昇率が高い
このようなエリアは、トヨタのある愛知県に限りません。
- スバル:群馬県太田市
- マツダ:広島県広島市
- スズキ:静岡県浜松市
- 新日鉄住金:和歌山県和歌山市
などなど、トヨタ自動車ほどではありませんが、本社や工場のある近くのエリアでは、土地価格の上昇が見られています。
円安とオリンピックが東京に決定して、外国人観光客数も増加
それに加えて、2013年9月に東京でオリンピックが開催されることに決まりました。
それがきっかけとなって、外国人観光客が増え続け、今年は3,000万人を超える勢いとなっています。
昨年の訪日外国人数は、2,869万人
東京の銀座や大阪市、京都市、福岡市、札幌市、沖縄県などでは、外国人観光客数が増えたことで、ターミナル駅や繁華街に大規模な商業施設を建てられています。
これによって、商業地の土地価格は大きく上昇し、景気が良くなってきたことで、その地域で働く人が近くにマンションを買うようになりました。
そのため、観光地として盛り上がっている地域では、その周辺の駅近のエリアの土地価格が上昇傾向にあります。
銀行が貸し出しを増やした先は、ほぼ8割が不動産関係
このように円安で企業が儲かり始め、オリンピック開催決定で外国人観光客が増えてきたことによって、銀行も新しくお金を借りてくれるところが見つかりました。
その結果、日銀の異次元緩和が始まる直前の2013年3月から、2018年6月までの5年間で金融機関が企業や個人に貸し出したお金は、約39兆円も増えました。
金融機関が貸出を増やしたことで、土地価格も上昇
しかし、その内の約8割は、不動産業者、個人の住宅ローン・アパートローンだったのです。
製造業はわずか1.7%、そのほとんどが不動産関係
具体例を挙げると、
- マイナス金利で住宅ローン金利が安くなって、タワーマンションを買う人が増えた
- 個人による不動産投資が盛り上がっている
- 相続税が増税になり、相続税対策にアパートがたくさん建てられた
- 駅ビルや駅に近いエリアで、ショッピングモール規模の商業施設が増えている
- 都心3区では、大規模なオフィスビルの建て替えが進行中
といった形で現れて、現在に至るわけです。
2、オリンピック後にハジけるのは、どの部分なのか?
このように、「異次元緩和→東京オリンピック開催→外国人観光客数が増加」という流れの中で、不動産市場は上がってきたわけですが、オリンピックが終わったら、どうなるのでしょうか?
(1)オリンピック開催国は、その後も外国人観光客数が増加
過去のオリンピック開催国のその後の観光客数を見ると、オリンピック後に減っている国はほとんどありません。
オリンピック開催国のその後の観光客数
(出典:観光庁 過去のオリンピック・パラリンピック における観光の状況 *PDFファイル)
特に中国、東南アジアでは経済成長のおかげで旅行するヒトが増えていますから、オリンピックが終わることで、観光客数が減ることはなさそうです。
(2)オリンピック後に確実になくなる需要
しかし、全く影響がないわけではありません。
例えば、オリンピック期待で作られてきた施設や道路がありますよね。
オリンピック会場は1,490億円で決着していますが、それ以外にも選手村や公共交通機関の整備などでお金が使われています。
オリンピックに関連する費用(7年間累計)
(出典:みずほOneシンクタンク 「2020年東京オリンピック・パラリンピックの経済効果」より一部参照)
間接的な経済効果をいろいろ考慮して、30兆円から100兆円ぐらいで試算している研究機関もありますが、最低限使われているお金だけで計算すると7年間で9兆円、年間1.3兆円ぐらいになりました。
オリンピック後も交通インフラの整備や再開発の計画がゼロになることはないでしょうが、その多くが2020年までに詰め込まれているはずですので、おそらく年間で数千億円分の需要が消えることになります。
しかし、日本のGDPは500兆円以上ありますので、数千億円規模の需要が消えるぐらいでは、あまり景気に影響はないのではないでしょうか?
(3)オリンピック選手村のマンション放出は、周辺のマンション相場に影響を与える可能性アリ
ただし、オリンピック選手村として作られる宿泊施設をマンションとして売り出す予定ですが、このマンション売り出しは、現在のマンション相場よりもかなり安く売り出される可能性があるようです。
そして、最近この分譲マンションが、2023年に完成予定にも関わらず、来年2019年5月から売り出されることに決まりました。
4,000戸以上のマンションがこれほど早く分譲されるのは、金利が低い今のうちに、売りさばきたいからでしょう。
周辺のマンションに影響が出てきそうですね。
むしろ怖いのは、異次元緩和の終了
というわけで、ここまでオリンピック後の不動産についての影響を見てきましたが、オリンピックが終わることで影響を受けるエリアは、思っている以上に狭いと感じたのではないでしょうか?
もしあなたが「こんなものでは終わらないのではないか?」とまだ不安が残っているのであれば、それはオリンピックが終わることではなく、日銀の異次元緩和が終わることではないかと思います。
異次元緩和がいつ頃まで続くのか?については、こちらの記事で解説していますので、興味のある方は読んでみてください。
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