この記事では、2025年問題によって、社会がどう変わっていくのか?そして、不動産市場へどのような影響が出るのか?について解説します。
なお、こちらの記事の内容は、動画でも作成しています。
以下の記事では、詳しいデータや、引用先なども載せていますので、じっくりと知りたい人は、記事の方がおすすめです。
1、2025年問題とは、
「団塊世代(1947年~49年生まれ)の全員が、後期高齢者である75歳以上に突入することで、医療・介護・年金などの社会保障費が大きく増加し、社会のあちこちで維持できないものが増えていく」
という問題です。
2025年から一気に悪化するのではなく、すでに、団塊世代の一部の方は、後期高齢者になっていますから、社会保障費も増え続けています。
2023年時点で、約134兆円と、国内総生産のうち2割以上を占めています。
(参考:内閣官房 「人口の推移、社会保障費の見通し」*PDFファイル)
このように増え続ける社会保障費ですが、2040年には、188〜190兆円にまで増えると予想されています。
特に、介護・医療の費用が大きく増えるようです。高齢者が増えるわけですから、当然と言えば、当然かもしれません。
また、日本では少子高齢化と言われて久しいですが、その割合はどのように変化していくのでしょうか。
2025年問題が心配される2025年時点では、後期高齢者である75歳以上の比率は15%になりますが、10年後には19%、20年後には20.6%にまで上がります。
つまり、2025年問題とは、来年から始まるわけではなくて、これまでもその傾向があったものが、加速していく、というイメージのものです。
では、具体的にどのようなことが起こるのか?不動産に関わる部分を中心に、取り上げてみたいと思います。
2、高齢化が加速することで起こる変化について
(1)路線バス、鉄道の減便や廃線
1つ目が、路線バスや鉄道の減便、廃線です。
そもそも、75歳以上の方を後期高齢者と国が設定したのは、体力的に衰えてきて、医療・介護のサービスを受ける頻度が増えてくるからです。
なので、このぐらいの歳になってくると、旅行や外食、レジャーなどにお金を使う頻度が減ってきます。
特に、2020年に新型コロナが流行したことで、高齢者の感染リスクが高いということで、外出・旅行を控えた人も多かったため、多くの企業の経営が厳しくなっていきました。
このような事情もあって、路線バスや鉄道などの(準)公共サービスの利用者も減少しており、全国各地で路線バスの減便、鉄道の廃線も増加しています。
また、2024年問題と呼ばれる、「運転手や建設関係の人に対する残業規制が強化されたこと」で、4月から全国的に、路線バスの減便、廃線がさらに加速しています。
(参考:帝国データバンクのプレスリリースより「路線バス 8割で今年「減便・廃止」 2024年問題への対応、運転手不足でダイヤ維持困難」)
路線バスや鉄道などのサービスは、国や自治体からの補助金が入っているものの、民間企業ですから、赤字が続けば、サービスを縮小せざるを得ません。
そして、減便のニュースは目にしても、自治体が補助金を増やして、運転手の給料を引き上げられるような支援をしているところは、全くありません。
後期高齢者の割合が今後も増えるのは避けられませんので、利用者も減る一方ですし、バス会社も自治体も、路線の減便、縮小は、しょうがないと考えているのでしょう。
そうなると、郊外のバス路線もないエリアでは、車がなければ生活ができなくなります。
ならば、若い世代なら、そういう場所でも問題ないのか、というと、そういうわけでもありません。
特に子育て世帯は、バス通学が難しいエリアは敬遠するでしょうし、進学率は年々上昇していますので、なるべく通学しやすいエリアを選ぶようになります。
そのため、バス路線が減便されるようなエリアでは、買い手がさらに減っていくことが予想されます。
(2)病院・介護施設の統廃合が進む
2つ目が、病院・介護施設の統廃合です。
今後も社会保障費の増加は続くわけですが、そのまま放置していれば、財政破綻してしまいます。
日本の一般会計の中で、社会保障費が占める割合は約32%で、年間約37兆円もかかっています。これに借金の返済(国債費)を合わせると、国の予算の半分にもなります。
国の借金の残高は、2023年末に1283兆円にまで膨らんでおり、減る気配はありませんし、金利も上昇してきているため、今後はさらに利息の支払い負担が増え、借金が雪だるま式に増えていくことになります。
そのため、医療費の抑えることが重要になってくるわけですが、具体的に、どのようにすれば、医療費を抑えることができるのでしょうか?
この点について、開業医向けのコンサルサービスを提供している医歯薬ネットという会社が、Youtubeで解説しており、参考になります。
40分近い内容なので、私なりの解釈ですが、簡単にまとめます。
まず、日本の医療費は増加傾向にあるわけですが、その中でも最も割合が高いのが、入院を伴う診療です。
全体の約4割を占め、年間18兆円にもなります。
また、1日あたりの医療費を見ても、ベッド代などの施設の使用料や、人件費などがかさむため、平均4.2万円もかかっており、さらに高齢化のため、年々上昇傾向にあります。
そのため、厚生労働省は、「この入院を伴う医療サービスの削減」を通じて、医療費の抑制を行おうとしているのではないか?
というのが、上の動画の中で語られていることです。
では、具体的にどうするのか?というと、
- 長期入院による治療から、リハビリ機能を持って短期入院で自宅復帰させる仕組みへ
- 入院を伴う延命治療から、在宅の看取りサービスへ転換
- 人手不足の解消のために、看護師の役割拡大
などが挙げられます。
年代別に医療費を見てみると、高齢者ほど医療費が多くかかりますし、その大部分が入院を伴うものになっています。
そのため、この部分を抑えるために、上記のような方向にしようとしているのが、今回の診療報酬の改定だ、と解釈しました。
また、このような厚労省の政策の先にあるのは、介護業者・病院の整理統合による、コスト削減を視野に入っています。
もともと、日本の医療制度は、敗戦によって、資源もお金も乏しかったため、民間の開業医を増やすことで、全国の医療制度を整備してきました。
ですが、新型コロナが拡大したときに、多くの民間病院が、患者の受け入れを拒否したため、「こんなに病院があっても、機能しないんじゃ意味ないのでは?」という疑問の声があちこちから出ています。
厚生労働省としても、高齢化が進んでいく日本において、本当に必要とされるのは、今のような状況ではなくて、いろいろな病気を治療して、リハビリもできる医療・介護体制です。
そのためには、今の中小・個人の病院や介護施設を統合して、総合的な医療体制を作る必要があります。
具体的には、①訪問診療もするクリニックと、②治療からリハビリまで行う地域包括ケア病棟をもっと増やそう、ということですね。
(参考:厚生労働省 「令和6年度診療報酬改定説明資料等について」全体概要版)
「訪問診療もするクリニック」を増やすということは、「かかりつけ医」化を進めるということに近いと思います。
ちなみに、日本医師会では、「かかりつけ医」制度の導入に反対しており、自民党の支援団体でもあるため、「かかりつけ医」制度を進めることは難しいです。
ですから、診療報酬の改定を通じて、「訪問診療もするクリニック(実質的なかかりつけ医化)」にしないと生き残れないように、毎年少しずつ、誘導するという方向性なのではないかと思われます。
(3)若い世代の大都市への移住が加速
3つ目が、若い世代の、大都市への移住です。
これも既に起こっていることですが、今後さらに加速していきそうです。
大学・短大・専門学校への進学率は、2023年時点で約84%と、8割以上の人が、高校卒業後に進学をしています。
そのため、地方都市では、多くの若い人が、進学を機に地元を離れます。
また、高齢化が進んでいる地方では、大学や専門学校を卒業しても、それを活かす職場が少なく、知られていない中小企業が多いため、どうしても移住先で就職をしてしまいがちです。
わたし自身、岩手県の田舎町が実家なのですが、先日帰省して、県内をいろいろドライブしてみたところ、田舎町で残っているのは、
- JAコープ(農協が運営していて、農家向けの肥料などの売り上げがある)
- ドラッグストア(薬の利益率が高い)
- 道の駅(産直があって、集客力がある)
ぐらいでした。
人口が少なくなって、高齢者ばかりになると、食品だけのスーパーでは売り上げが立たず、飲食店は客が来なくなります。
若い人は1時間ぐらいかけて、車でイオンなどのショッピングモール で遊ぶしかないので、なかなか地元に戻ってくることもなくなりますよね。
地方はこのような状況がさらに進むことが予想されます。
若い世代は、県庁所在地や政令指定都市などの、大都市へと移住がさらに増えていくでしょう。
そのため、県庁所在地ではない地方都市では、「大企業の工場がある」などの、特別な理由がない限り、若い人の数はさらに減り、買い手がつきにくい不動産が増えていくと予想されます。
(4)行政サービスの縮小
4つ目が、行政サービスの縮小です。
75歳以上の後期高齢者が増えるということは、自治体の税収が減ることにもつながります。
消費よりも医療や介護にお金を使うようになりますからね。企業は儲かりにくくなり、仕事も減り、若い人が減って、さらに人口も減ります。
このようにな事態は、既に全国の地方都市で起こっているわけですが、政府としても、何の指導もしていないわけではありません。
国土交通省が、各自治体に「立地適正化計画」という計画を作るように促しています。
立地適正化計画とは?
立地適正化計画とは、簡単に説明すると、「人口が減少しても、医療や教育、福祉、買い物、路線バスなどの行政サービスを維持するエリア」を決めるということです。
例えば、熊本市では、以下の赤い斜線の部分を「住んで欲しいエリア(居住誘導区域)」として設定しています。
全国的に路線バスの減便が行われていますが、減便に対する、各自治体の対応があまり混乱していないのは、もともと、こういう計画があって、その範囲外のエリアが多かったりするからでしょう。
そのほかにも、開発業者が新興住宅地を作る場合にも、このエリア外に作ろうとすると届出が必要になったりしますので、自然とエリア外では、人口が減りやすくなるようになっています。
このような計画は、2023年12月末時点で、全国で537の都市で作られています。
人口が少ない都市だけでなく、札幌や名古屋などの大都市でも作られています。作られていないのは、東京23区や横浜、福岡ぐらいですね。
2025年以降、高齢者の割合が増えるにつれて、税収が減るため、自治体の財政はどんどん厳しくなっていきます。
そのため、立地適正化計画で設定されたエリアを参考に、路線バスや病院、学校、市営住宅などなど、さまざまなサービスの縮小・削減が進むことになるでしょう。
そうすると、生活の利便性は下がりますから、特に、この立地適正化計画の範囲外のエリアでは、不動産価格も下落しやすくなるのではないかと予想されます。
具体例を挙げます。
2011年の震災以降、定期的に話題になる南海トラフ地震ですが、日本の歴史を振り返ると、100年~150年周期で起こっており、そろそろ来る可能性が高いと言われています。
(参考:気象庁 「南海トラフ地震で想定される震度や津波の高さ」)
立地適正化計画で、居住誘導区域に含まれないエリアとして、地震や津波、土砂災害などの災害リスクの高いエリアが入ります。
そのため、立地適正化計画を策定している自治体では、津波リスクの高い沿岸部のエリアを対象外としているところが多いです。
そのため、このようなエリアでは、業者による住宅地の造成も届出が必要となり、宅地開発がしにくい状況となっており、人口減少や土地価格の下落も進んでいます。
例外は、湘南エリアですね。
新型コロナ以降、リモートワークが広がってきているため、都心への通勤圏にあり、住環境の良い湘南エリアは、海岸エリアも土地価格が上昇しているところがかなりあります。
ですが、これらの海岸エリアは津波リスクがあるため、居住誘導区域から外れているところもけっこうあります。
震災リスクが気になる方は、各市町村の立地適正化計画をチェックした方がいいかもしれません。
まとめ
というわけで、2025年問題と不動産市場への影響について、解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
将来予想の中で、もっとも外れにくいものの一つが、人口動態だと言われています。
そのため、政府や自治体でも、将来がどうなるかの予想を踏まえた上で、少しずつ対策を行なっています。
そして、その内容は、とても現実的です。
- 高齢者が増える
- 若い人は大都市へ移住するし、人口も減ってくる
- 働く人が減るので、行政サービスの維持もできない
- だから、少しずつサービスの量と質を下げていくしかない
というものです。
このような将来が待っているのですから、多くのエリアの不動産価格は下落し、最悪の場合は、買い手がつかなくなってくるでしょう。
逆に価格が安定するのは、大都市や県庁所在地の中心部や、人気の商業施設の周り、有名高校や大学の周辺など、人が集まる理由のあるところに限られてくるでしょう。
2025年は、このような動きが、はっきりと見え始める年になりそうな気がします。
なお、当サイトでは、各市区町村ごとに、取引実績を調べた不動産会社ランキングを作成しています。
どこに相談していいか?が分からない場合には、こちらを参考にしてみてはいかがでしょうか。
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