この記事では、「もしトランプ氏が、アメリカ大統領になった場合、どのようにアメリカを立て直すのか?」について、考察します。
なお、同様の内容で動画も作成しています。
1、トランプ氏の政策は、アルゼンチンのミレイ氏の政策に似ている
で、今回の記事では、トランプ氏の政策について、さらに深掘りしていこうとしているのですが、いろいろ調べていくうちに、ある国の政策と似ているような気がしたんですね。
それが、現在のアルゼンチンです。
アルゼンチンは、1910年代は、かなり繁栄していた国だったのですが、その後に軍事政権や左翼政権ばかりが政治をやっていたため、国民の人気取りにバラマキばかりやって、海外に輸出できる産業が育ちませんでした。
現代の世界では、技術が発達したこともあって、原油や鉄鉱石、工業製品など、すべての商品や資源を自分の国で作ることができる国はほとんどなく、他の国との貿易が必要不可欠です。
ということは、海外に売れる商品やサービスがあるからこそ、今の生活を成り立たせることができるわけですよね。
アルゼンチンでは、外貨を稼ぐ手段の多くが、農業や鉱業などの、一次産業に近いものなのに、補助金をばらまいたり、公務員をたくさん雇ったりすることで、外貨を稼げる産業をあまり育ててきませんでした。
その結果、海外からの借金が膨れ続け、何度も返済不能のデフォルトに陥っています。
ちなみに、日本でも、某大手証券が、2000年代にアルゼンチン国債を個人のお客さんに販売したところ、見事にデフォルトして、大損をこいてました。
こんな状況がずっと続いているため、アルゼンチンの通貨の価値はどんどん下がり、毎年のように30%~ 50%ぐらいのインフレが続いていった結果、アルゼンチンの貧困率は、6割近くにまで達しており、公務員でさえも、日々の生活に困るような困窮状態となっています。
現大統領のミレイ氏とは?
このような状況に、ついに国民がブチ切れて、昨年の大統領選挙で当選したのが、こちらのハビエル・ミレイ氏です。
ミレイ氏は、経済学者で、アルゼンチンのトランプ氏みたいなキャラです。
あまりに政府の無駄遣いが多いため、チェーンソーを振り回して、「こうやって無駄な支出をブッタぎってやるんだ」みたいなパフォーマンスもやっていました。
そんなミレイ氏は、本当に凄まじい改革をやっています。
具体的に何をやったのかというと、
- 為替レートを約半分にした(1ドル160円を320円にしたような感じです)
- 18の省庁を8つに再編した(文科省や厚労省とかが、無くなりました)
- 各種補助金を廃止したり、支出を削減することで、歳出を3割カット
と、かなりバッサリといろいろやりました。
テレビ番組の中で、大統領になる前のミレイ氏が、自分が大統領になったら、「この省庁はいらないから潰す」と説明している動画がYouTubeにアップされています。
スペイン語ですが、翻訳機能を使えば、なんとなく理解できます。
司会者の人も、あまりにミレイ氏が、「この省庁いらねえから」とバッサリと切ってしまうため、笑いを押さえ切れていませんでしたが、見ていて面白かったです。
で、結果的に、こちらの表が、ミレイ氏以後に残った省庁になります。
例えば、文部省と科学技術省が文部科学省になったみたいな感じで、一部の機能は残ったものもありますが、中央省庁の権限や予算は、かなり減ったようです。
なんと言っても、歳出を3割カットですからね。
これほど支出を削ったことで、政府の財政収支は黒字に転換し、インフレ率も前月比で最大25%だったところから、5月には、4.2%にまで落ち着いてきています。
ここまでやってしまったら、社会的にいろいろと困っていることもあるんじゃないかと思うのですが、完全失業率は5.7%から7.7%に、2%上がっていますが、かなりのリストラをやった割には、失業率があまり上がっていないような感じがします。
また、経済活動指数を見てみると、補助金が減って、物価も爆上がりして、公務員もリストラされて失業者も増えているため、製造業を含めた、いろいろな業種で生産が落ち込んでいます。
ですが、農業や漁業、資源の採掘の方の鉱業については、生産が活発化しています。
アルゼンチンの輸出品目の半分以上が、農業や資源なので、外貨を稼げる部門はアクセルをかけてガンガン生産して、外貨の獲得に貢献しない市民の生活サービスは、後回し、といった感じに見えますね。
人々の生活は苦しくなってはいますが、まずは外貨を稼いで、借りている借金をきっちり返して、それから豊かになることをめざす、という、個人の感覚で言えば、当たり前の国に戻ろうとしているのでしょう。
2、アメリカがやろうとしていることも、基本的には同じ
ちょっと、アルゼンチンの現在についての解説しましたが、トランプ氏がやろうとしていることも基本的には同じです。
その共通点をまとめると、こうなります。
トランプ氏の政策は、トランプ氏が運営している「アジェンダ47」というサイトに載っています。
そこでは、あまりに膨らみすぎた官僚機構を削減することを公約に掲げています。教育省や、国土安全保障省などですね。
実は、第1期のトランプ政権の時にも公務員の定数削減を公約に掲げており、就任初日に大統領令に署名もしています。
官僚機構の削減は、以前からやっていたんですね。
また、NATOへの軍事支援も減らす方向と言われています。アメリカ国内の軍事力強化に集中し、他の国への支援を減らす、ということも言っています。
トランプ氏とは、どんな人間なのか?
ちょっと、話が横道にそれますが、先日、友人と今回の大統領選の話題になったときに、こちらのアメリカン・プロレスの動画を教えてもらいました。
WWEのオーナーである、ビンス・マクマホン氏と、トランプ氏が、それぞれレスラーを立てて、負けた方が坊主にする、という勝負だったようです。
こちらの画像は、場外でマクマホン氏にトランプ氏がラリアットをかましている画像になります。
そして、こちらは、ラリアットの後で、観客の大歓声に応えている画像です。
その後、トランプ氏が勝って、負けたマクマホン氏の頭をバリカンで刈っている画像になります。
こういうノリなんですよね。
わたしも子供の頃は、ゴールデンタイムに全日本プロレスを見て育ったので、トランプ氏に熱狂的なファンが多いのも肯けます。
それで、なんでわざわざ、こんな画像を紹介したのかというと、「トランプ氏がやりたいことは、誰に対してなのか?」を考えてしまったからです。
こちらの表は、資産額の多い上位10%、上位11~51%、そして下位の50%の人達が持つ、資産の総額です。
上位10%の人たちの資産は、この30年間でかなり増えていますが、下位50%はほとんど横ばいです。1番試算額が多かったのは、2007年で、低所得者にも住宅ローンが組めた時期です。
しかし、それもリーマンショック後は、家を手放さなければならない人が続出して、資産額はさらに減少してしまいました。
また、上位11~51%の人たちも、ここ数年のインフレで、生活がかなり苦しくなっています。
この5年で2割以上も物価が上がっていますし、特に住宅価格は、都市部を中心に、かなり上がっています。
日本でも、23区内の新築マンションの平均価格が1億円を超えてきていますが、普通に働いている人には、絶対に買えない水準にまできています。
買えるのは、よほどの高所得者か、株式を持っていた人ぐらいでしょう。
トランプ氏は、億万長者で、NYにトランプタワーという高層ビルも持っていて、経営者なので、経済政策にも明るい、というイメージがあると思います。
今回の株高も、減税を行うと発表しているため、富裕層に有利な政策を打ち出す大統領、というイメージもあるかもしれません。
ですが、それ以上に、これらの苦しい境遇の人たちの生活を立て直して、アメリカをもっと豊かな国にして行こう、と考えていると思われます。
そのためには、インフレを止めて、下位50%の人たちの稼ぎを増やさなければなりません。
先ほどの表に戻りますが、インフレの低下のためには、安く手に入る自国の石油や天然ガスの採掘を進めます。それと同時に、よけいな省庁を削減し、補助金を減らします。
そうすると、国内に出回るお金の量が減るため、インフレを抑制することができます。
その一方で、海外からの輸入品に対しては、高額の関税をかけることで、シャットアウトします。
「アメリカで商売をしたいのなら、アメリカ人を雇って、アメリカに工場を作ってからにしろ」
というわけです。
これによって、アメリカでは、輸入品の価格が上がって、物価上昇が起こるでしょう。
ですが、同時に国内の雇用も増えますし、天然ガスや石油といった安価なエネルギーを使うことで、電気代やガソリン代が下がります。
そういったもろもろを考えると、長期的には、アメリカ国内の生産力は上がり、所得も増える、と計算しているのでしょう。
3、日本への影響は?
ここまで、トランプ氏が誰に向けての政策を行うのか?そして、具体的な政策について見てきました。
もしも、これらの認識が正しかったとしたら、日本への影響も、ある程度予想ができます。
(1)円高になる
1つ目は、現在の円安ドル高の是正です。
自民党の麻生副総裁が、トランプ氏とNYで会談しました。日本でもニュース等で取り上げられていましたが、特にロイターが、詳しい内容を載せていました。
それによると、
・日本が防衛費を増やすことは歓迎する
・現在の円安ドル高は、アメリカの産業を壊しているので、受け入れられない
というものでした。
トランプ氏にとって、国内産業の保護と復活は、最優先事項ですから、円高介入の圧力をかけてくるでしょう。
(2)金利上昇が緩やかに
2つ目は、円高修正に伴う、日銀の利上げペースの鈍化です。
現在の日本の物価上昇は、円安による影響が大きいわけですが、財務省による円高介入も、アメリカから釘を刺されている状況のため、円安を放置せざるを得ない状況となっています。
となると、さらに円安が進むようであれば、日銀も利上げに動かざるを得ず、変動金利の住宅ローンを組んでいる人にとっては、厳しい状況が来ると予想されます。
ですが、円高になれば、物価の上昇も緩やかになるため、日銀の利上げペースも落ちてくると考えられます。
そのため、変動金利の住宅ローンを組んでいる人にとっては、トランプ氏の方がいい影響がありそうです。
(3)EVシフトの停止
3つ目は、EV補助金撤廃による、EVシフトの停止です。
日本では、あまり普及していないEVですが、欧米各国では、購入時に多額の補助金がつくこともあって、アメリカでは7%、ヨーロッパでは10%以上になっています。
ですが、トランプ氏が大統領になれば、EVへの補助金は打ち切られる可能性は高いですから、国内の自動車メーカーの多くが、EVの販売計画について、かなりの軌道修正が行われるのではないかと予想されます。
また、日本からの輸出にはさらに関税がかかるようになるため、アメリカへの工場移転も進むと考えられます。国内の産業の空洞化が、さらに進むかもしれません。
4、日本でも、過去に似たような政策があった
トランプ氏やミレイ氏の政策は、会社で例えるならば、
「利益を生まない本社部門・管理部門をリストラして、研究開発や生産設備、営業拠点などの、金を産む部門に力を入れて、会社全体の稼ぐ力を向上させる」
ということだと思います。
では、日本では、このような政策を考えた時期はなかったのでしょうか?
と思い、調べてみたところ、意外なことに、2009年に政権交代をした民主党がそうだったんですね。
今でも、当時のマニフェストを見ることができますが、トランプ氏やミレイ氏の政策と対応させてみると、かなり重なるところがありました。
特に共通するところは、官僚システムが肥大化しすぎて、補助金がもらえる業界や、天下りできる一部の人だけが得をするシステムをやめて、社会を支える農業生産者や、介護ヘルパーなどへの手当てを充実させる、という点だと思います。
天下り先のなんとか法人とか、農協なんかに、中抜きをさせる必要はない、という判断ですね。
ですが、ご存知の通り、民主党は党内でいろいろゴタゴタがあって、短命政権に終わりました。原因はいろいろ言われていますが、官僚を味方につけられなかったのが、いちばんの理由だと思います。
これは私見ですが、あの当時、民主党のやり方を実現させたかったのであれば、公務員の給料を3倍ぐらいに上げる必要があったと思います。
たまにテレビでも話題になりますが、国家公務員の働き方をみると、連日徹夜続きで、子供の寝顔も見れないとか、「そんな劣悪な状況で働いているのか!」と驚かされます。
そんなハードワークをしていても、歳を取れば取るほど、役職ポストも少なくなりますし、同期が事務次官になる50代半ばころには、退職を迫られるという過酷さです。
そんな過酷な状況では、何としてでも天下り先を作って、次の就職先を作らなければ、住宅ローンも払えなくなるでしょうから、民主党にも必死に抵抗をしていたのでしょう。
とは言え、そうやって自分たちの次のポストを作るために、何千億円、何兆円というお金が、ムダに使われ続ければ、いずれ国が傾いてしまいます。
アルゼンチンでも、国家公務員の抵抗は相当にあったと思いますが、多くの人が貧乏になりすぎましたため、これほどの改革が実現できたのかもしれません。
そう考えると、現在の円安がどの程度進むのかわかりませんが、仮に1ドル300円とかになって、物価が上がりすぎて、公務員ですら生活が苦しくなってくれば、「国の補助金のバラマキを止めれば、インフレは収まる」という主張が、国民にも受け入れられる日が、来るかもしれませんね。
ただ、それを担うのは、今の立憲民主党なのかはわかりません。
結論
というわけで、結論です。
- トランプ氏とミレイ氏は、同じような政策で、国を立て直そうとしている
- 政策が似ているのは、国の状況が似ているため。補助金などの無駄なバラマキで、インフレが進み、一部の人だけが得して、残りは貧困化しているという状況など
- トランプ氏が人気なのは、中流・下流の人たちの生活を良くすると公約しているため。そのため、減税だけでなく、国内産業の保護や、石油・天然ガスの開発許可、政府による無駄な支出の削減も、最優先の事項となるだろう
- そうなると、日本への圧力も強まる。特に、アメリカ国内の産業保護を最優先とするならば、現在の円安の状況はとても受け入れられないはずなので、円高へ修正するような圧力がかかる可能性が高い
- 2009年の民主党のマニフェストも似ているが、官僚の抵抗にあって失敗したのではないか。このような政策は、もっと貧乏な人が増えたときに、受け入れられるのかもしれない
と考えます。
というわけで、トランプ氏が大統領になった時の、政策の方向性や優先順位について、考察してみました。
ミレイ氏は就任して、まだ半年ですので、政策の効果がきちんと出てくるのは、もう少し先でしょうが、これで経済が改善していることが確認できれば、トランプ氏も自信を持って進めていくと思われます。
コメント