経済学者が予想する、トランプ政権が起こす反ニクソンショックについて | イエ&ライフ

経済学者が予想する、トランプ政権が起こす反ニクソンショックについて

アメリカ

この記事では、「私が言ってきたトランプ政権後の経済予想と、かなり似た考えを持っている経済学者を発見」ということについて、解説していきます。

 

1、はじめに

このチャンネルでは、トランプ政権がこれからやっていこうとしている経済政策についての解説と、それに伴って、株や為替はどうなるのか?について、いくつか動画を投稿しています。

例えば、1ドル120円になるとか、株は下がるとか、アメリカは基軸通貨システムを捨てるとか、そんな話ですね。

 

これらの予想は、トランプ政権の政策の方向性をもとに、私が勝手に考察をしているだけです。

なので、経済に詳しい人や、マーケット関係者などから見れば、「そんなことはあり得ないでしょ」と思っている人の方が多いのではないでしょうか?

 

まあ、私も投資の参考になんてしてもらうには、タイミングや水準も当てにならない予想なので、エンタメ感覚で見てもらえればいいと思っているのですが、

つい先日、私がこれまで話していた内容と、かなり似ている予想をされている経済学者の記事を見つけましたので、今回の動画では、この記事について解説していきたいと思います。

それでは、参りましょう。

 

2、経済学者ヤニス・バルファキス氏とは?

私と気が合う経済学者さんは、こちらのヤニス・バルファキス教授です。ギリシャの経済学者で、以前はギリシャの財務大臣もされていたことがあります。

 

(参考:amazon*書籍)

 

日本でも「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話」という本がベストセラーになっているので、ご存知の方もいるかもしれません。

 

このバルファキス教授は、2015年に半年ほどギリシャの財務大臣をやっていました。

2009年にギリシャが財政赤字を隠していたことがバレて、EUやIMFなどが、支援する代わりに年金や公務員を削減しろと、緊縮財政を押し付けられていた時期に財務大臣になりました。

 

半年間しかやってませんが、どんどん景気が悪くなっていく中で、緊縮策をさらに続けるかどうかの国民投票に持ち込んで、国民に反対という意思を示させることで、緊縮策を緩めることに成功しました。

その後、ギリシャは、2018年には金融支援から脱却できて、経済は回復傾向にあります。

 

そういう、経済もわかっていて、政治経験もあるような人です。

このような経験と知識のある人が、トランプ政権の現在の政策と、その目的、そして、これから世界がどうなっていくのか?についての記事を最近投稿していたわけです。

 

3、記事の内容のご紹介

では、具体的に、バルファキス教授は、この記事で、どんなことを述べているのでしょうか?

 

(参考:Unherd)

 

記事の中では、トランプ大統領についての3つの疑問を挙げています。

それは、

  1. なぜトランプ氏は、アメリカが世界から搾取されていると考えているのか?
  2. トランプ氏は「Make America Great Again」をスローガンに掲げているが、具体的なビジョンはどのようなものなのか?アメリカは、世界の中で、どんな状況にあるべきだと考えているのか?
  3. そして、トランプ氏は、そのビジョンを達成するために、何をしようとしているのか?

の3つです。

 

これに答える形で、記事は進むので、話の流れがわかりやすいです。

では、これらの疑問についての答えを1つずつ見ていきましょう。

 

(1)なぜトランプ氏は、アメリカが搾取させていると感じているのか?

まず1つ目の、「なぜトランプ氏は、アメリカが世界から搾取されていると考えているのか?」についてです。

 

これについては、このチャンネルで何度も話している、基軸通貨の仕組みについての話ですね。

 

 

現在の米ドルを中心とした基軸通貨体制は、ドルがペトロダラーと言われるように、ドルがなければ産油国から原油を購入することが難しいルールとなっていました。

そのため、日本も含めた、アメリカ以外の国は、米ドルを手に入れるために、必死になってアメリカにモノやサービスを輸出してきました。

 

これによって、アメリカ国内の製造業は衰退したものの、各国が溜め込んだ米ドルを米国債に投資させるように仕向けることで、アメリカでは金融業が発達しました。

そのため、アメリカの全産業のGDPに占める、金融や不動産、保険そして、GoogleなどのIT産業の割合は、どんどん増えていきました。

 

(参考BEA)

 

しかし、これらの産業で雇用される人は、全体の1割にもなりません。

そして、海外との競争で製造業は負けてしまったため、工場が海外に移り、製造業で働いていた人たちは、さらに安い賃金のサービス業などに移ることになりました。

その結果、一部の人たちだけが儲かって、それ以外の人たちは貧しくなってしまう、格差の拡大が起こっているのが、現在のアメリカです。

 

世界に見放されたら、米ドルという紙切れだけが残る国になっている

トランプ氏からみると、このような格差が拡大している現状を、アメリカの衰退だと考えています。

なぜなら、今のアメリカは、ドルという通貨の力が強いから、海外からいろいろな商品やサービスを安く手に入れられていますが、もし海外の国々が、アメリカからそっぽを向いたら、何も作れない、米ドルという紙切れだけの国になってしまうからです。

 

(参考:REITI)

 

2008年のリーマンショックの時に、アメリカの金融システムが、あと少しで崩壊というところまで行きました。それをきっかけに、中国を中心に、新しい通貨システムを作る動きも進んでいます。現在準備中のBRICS新通貨は、まさにそれに当たります。

 

トランプ氏は、第1期政権の時に、対中貿易戦争を始めましたが、これは、中国自体が憎いというよりは、薬やスマホ、鉄鋼など、ありとあらゆる商品が、中国に頼らないとやっていけないという、現在まで続くアメリカの脆弱さをなんとかしようとする試みだったと言えます。

 

(参考:ロイター)

 

なぜ、アメリカの製造業は、負け続けているのか?

では、なぜアメリカの製造業は、ずっと海外企業に負けっぱなしだったのでしょうか?

その理由は、ドル高が続いているからです。

米ドルの価値が下がれば、海外からの商品が高くなるため、輸入は増えません。

 

(参考:BEA)

 

例えば、トヨタのレクサスと、GMのシボレーが、どちらも500万円で売っていて、レクサスがバカ売れしていたとします。

そこで、米ドルが1ドル50円になって、レクサスが1,500万円になったら、おそらく、アメリカ人だってシボレーを買うようになるでしょう。

 

今はトヨタもアメリカで現地生産してますので、ここまでドル安になっても、このようなことは起きにくいと思いかもしれません。

ですが、1980年代の日本車バッシングがあった頃に、このようなことをしていれば、アメリカの製造業はもっと盛り上がっていたはずです。

 

では、なぜ1ドル50円といったレベルのドル安にならないのか?というと、日本政府が円売りドル買いの介入をしたり、ドルを円に変えないで、そのまま米国債に投資をしているからです。

 

(参考:米国財務省)

 

財務省が管理している外為特会にある外貨準備高は、約180兆円あり、そのうち米国債が140兆円ぐらいあります。

これが、トランプ氏から見れば、腹立たしいのだと、バルファキス教授は分析しています。

 

日本のような、基軸通貨以外の国なら、製造業が負け続ければ、貿易赤字が増えて、円安が進みますから、海外とのコスト競争力がつくレベルまで下がって、そこから回復していくということが起こりえます。

 

ですが、アメリカは、海外の政府がドルの価値を支えてしまうために、

「ドル高が続いてしまって、ずっと製造業が負けっぱなしじゃないか!」

「製造業の会社が潰れたり、海外に工場を移してしまってるじゃないか!」

「これで、いざリーマンショックみたいな金融恐慌が起きて、ドルの価値が崩壊して、他の国がアメリカから逃げ出したら、医薬品も車も電子部品も、何も作れない、ドルという紙切れだけが残った悲惨な国になってしまうじゃないか!」

と、トランプ氏は考えているというのです。

 

(2)トランプ氏が考えている、アメリカのあるべき姿とは?

では、トランプ氏は、アメリカがどうあるべきだと考えているのでしょうか?これが2つ目の疑問でしたね。

バルファキス教授は、トランプ氏が、アンチ・ニクソンショック、つまり、ニクソンショックの逆バージョンをやるだろうと予想しています。

 

 

ニクソンショックとは、1971年に金本位制を辞めたことで、ドル安が進んだ世界経済のルール変更を指します。

その後の1974年にキッシンジャーがサウジアラビアに行って、原油取引をドルでやる見返りに、アメリカはサウジを軍事力で守るという密約を行い、現在のペトロダラー制となりました。

 

このシステムは、アメリカの金融業界を儲けさせる体制となりましたが、反面、製造業の衰退を招きました。これを逆転させるだろうと、言っているわけです。

 

では、このアンチ・ニクソンショックをすることで、トランプ氏はアメリカをそうしたいのか?というと、

  • 製造業を復活させるためのドル安
  • お金が借りやすくなって、経済が活性化するための低金利
  • この2つの条件を満たしつつも、米ドルが世界の準備通貨であるという立場を維持する

というものです。

 

(参考:ロイター)

 

こうすれば、世界はアメリカを無視せず、しかも、アメリカの製造業も復活できる、というわけです。

 

(3)具体的に、何をやるつもりなのか?

そして、3つ目が、トランプ氏の具体策です。

 

現在、ドル円相場は、1ドル150円を超えていて、ドル高のままですし、インフレも続いているため、金利も高く、FRBの政策金利は4.5%で、10年国債も4.5%前後になっています。

そして、マーケット関係者の多くが、ドル高と高金利は当分続くだろうと予想しています。

 

つまり、今の状況は、トランプ氏にとっては、全くありえない状況と映っているのです。

では、どうすれば、トランプ氏が望む、低金利でドル安の状況を作れるのでしょうか?

 

ステージ1:関税で海外の政府を兵糧攻め

バルファキス教授は、第一段階として、関税を使っていると分析しています。

トランプ氏は2月3日に、メキシコとカナダに25%の関税をかけると発表しました。

そうしたところ、メキシコは2月6日に政策金利を10%から9.5%へ、0.5%の利下げを行いました。

 

(参考:WSJ)

 

一度に0.5%の利下げをするのは、4年半ぶりということで、かなり思い切った利下げを行ったと見られています。

 

メキシコの輸出に占める、アメリカの比率は約8割となっているため、アメリカが25%もの関税をかけてしまうと、アメリカ国内で、メキシコの商品が25%高くなってしまい、売れなくなります。

そのため、利下げを行うことで、ペソ安に誘導しようとしました。

 

1ドル100円の時に、アメリカで1ドルで売れば100円の売り上げになりますが、1ドル200円に通貨の価値を下げれば、アメリカで0.5ドルで売っても、100円の売り上げになります。

 

 

たとえ、0.5ドルに関税が30%かかっても、0.65ドルで売れますから、十分にアメリカで安く売れる、というわけです。

 

しかし、このような通貨安政策は、輸出する分にはいいですが、輸入するものの値段が上がります。今の日本も、どんどん値上がりしていますが、その理由の大きな割合を円安が占めています。

トヨタなどの輸出企業は、過去最高の利益を上げて、株価も最高値圏にありますが、日本に住んでいる普通の庶民の私たちは、ただただ物価が上がるだけで、何もいいことがありません。

 

つまり、このような通貨安の政策というのは、国民に対する兵糧攻めにもなっているわけです。

前回出したこちら動画が、おかげさまで70万回以上も再生されているのですが、それはやはり、今の日本が、政府の政策のせいで、生活が日に日に苦しくなっている人が増えており、消費税が大企業への補助金となっているという事実に怒っているからだと思います。

 

 

昨年10月の総選挙でも、自民党や公明党の議席数が大きく減りましたが、今の政権与党に対する不満は、このような物価高によって、日に日に増しているわけです。

 

(参考:NHK)

 

トランプ氏の関税政策は、各国が、アメリカへの輸出を維持しようとして、利下げを通じて、国民の生活を犠牲にする通貨安政策を誘発させ、それによって、各国の政府の支持率を下げようという狙いがある、というわけです。

 

ステージ2:個別に「取引」を行う

しかし、この関税政策は、第一弾でしかないと、バルファキス教授は言います。

そうやって、国民の支持を失っていく各国の政府に、トランプ氏は、個別にディール、つまり取引を持ちかけるだろうと予想しています。

 

では、どんな取引を持ちかけるのか?

日本や中国などの、米ドルを外貨準備として豊富に持っている国に対しては、その一部を売却して、通貨高にしろと交渉すると予想しています。

 

(参考:読売新聞)

 

日本であれば、1ドル120円とか、100円とか、私がこれまで何度も言っているような、円高シナリオですね。

また、中国に対しても、人民元高を要求するだろうと予想しています。

 

ユーロ圏は、もっとおとなしくさせる

一方で、ユーロ圏には、3つの要求をするだろうとしています。それは、

  • 保有している長期国債を超長期国債や永久債に交換すること
  • ドイツの製造業が米国に移転すること
  • 米国製の武器をもっと購入すること

の3点です。

 

これは、ヨーロッパ諸国が、たくさんの国々がひしめき合っていて、第1次、第2次世界大戦の戦場となったように、内部対立が激しくなりがちだからです。

なので、各国の軍事力を高めることで、それぞれの国が、どこかの国に従属しないような、対等な関係にしていくことが重要だと考えているのでしょう。トランプ政権が、NATO各国にGDPの5%を軍事費に割り当てろとプレッシャーをかけているのは、そういった背景があるからだと考えられます。

 

(参考:Report.az)

 

また、ユーロ圏は、ユーロという同じ通貨を使っているのに、経済力はドイツが抜きん出て強いため、他の国は貿易赤字になりやすく、これがユーロ圏内の安定の妨げになってもいます。

 

ユーロから脱退したいという政党が、メディアからは極右と呼ばれていますが、ヨーロッパ各国で支持率を伸ばしています。

なので、もしユーロをそのまま維持するのであれば、ドイツの工業力は削って、バランスを取らせようとするのではないか?と考えられます。

 

4、予想が外れるリスク

というわけで、バルファキス教授による、トランプ氏の現状認識とビジョン、そして今後の計画について解説してきました。

もちろん、ギリシャの経済学者という、アメリカ政府とは関係のない、外部の人間から見た予想なので、あくまで想像の域でしかないわけですが、私が勝手に妄想してきた、これまでの動画群とかなり被る部分があったので、個人的には、すんなりと理解できました。

 

とはいえ、この予想が本当にその通りになるかは分かりません。この点についても、バルファキス教授は、述べているので、最後にトランプ氏の思い通りにいかないリスクについても、ご紹介します。

 

(1)アメリカ国内からの反発

リスクは2つあって、1つは、アメリカ国内からの反発です。

トランプ氏の考えているビジョンは、ドル安と低金利政策を通じた、アメリカの製造業の復活ですので、金融業や不動産業などの、現在、たんまり資産を持っている人たちにとっては、打撃となります。

 

(参考:AL Jazeera)

 

だからこそ、大統領選挙では、民主党だけでなく、政府職員やメディア、大企業も含めて、多くの人たちが当選を阻止しようとして動いてきました。

現在、イーロン・マスク氏率いる政府効率化省が、メチャクチャやってきた政府職員を首にして回っていますが、今まで楽して儲けてきた企業だって、そのうち、訴えられたり、売り上げの減少に見舞われたりします。

 

先日、プーチン大統領と習近平国家主席に対して、軍事費をお互い半分に減らそうや、と交渉を持ちかけるつもりだと、トランプ氏が発言していましたが、これが実現してしまえば、ボーイングなどの軍需企業の売り上げはガタ落ちとなるでしょう。

そういう人たちからの、暗殺を含めた邪魔立ては、これからも付きまとうはずなので、途中で計画が中断させられるリスクが、確かにありそうですね。

 

(2)海外、特にBRICSは従うだろうか?

そして、もう一つが、海外からの反発です。

日本やヨーロッパは、これまでアメリカの従属国家のような状況だったので、トランプ氏がやれと言ってきたら、「ははあっ」とひれ伏すしかないのかもしれませんが、中国やロシアなどの、BRICS諸国は話は別です。

 

(参考:読売新聞)

 

現在、BRICS諸国は、加盟国を10カ国に拡大し、申請している国も数十ヵ国ある状況にあります。また、ロシアのラブロフ外相へのインタビュー記事によると、BRICS圏内でのドル決済は、30%未満にまで下がっていると発言しています。

 

(参考:ロシア連邦外務省)

 

トランプ氏は、BRICS諸国に対して、米ドル以外の通貨を使うなら、100%の関税をかけると脅していますが、これで、米ドル利用を増やすBRICS諸国は、少ないでしょうから、米ドルの基軸通貨の地位は、限定的になるか、中国との競争になる可能性がありそうです。

 

個人的には、トランプ氏は、アメリカの影響力を北米大陸に限定させようとする、モンロー主義者でもあるため、BRICSとは棲み分けのような形になるような気がしますね。

中国を含めたBRICS諸国が、どのように動こうとも、トランプ氏が考えているであろう、アンチ・ニクソンショックは、進めていきそうに思います。

 

最後に

というわけで、ギリシャの経済学者の、ヤニス・バルファキス教授の最近のトランプ政権に関する記事について解説しました。

 

これまで、トランプ政権になることで、現在の基軸通貨体制がどう変わっていくのか?について、あれこれ予想する動画を何本も作ってきましたが、これまで考えてきたシナリオを変更する必要は、なさそうだなと感じました。

ただ、さすがギリシャの財務大臣も経験して、国際金融のやべえ人たちとバチバチやってきた人なだけあって、関税で各国を兵糧攻めにして、苦しくなってきたところで交渉を持ちかける、という2段階シナリオへの考察は流石だと思いました。

 

私は、元株屋だったということもあって、大統領就任初日とか、日米首脳会談とか、そういったイベントがあると、すぐに下がるとか上がるとか、ドラマチックな展開を考えてしまいがちなのですが、実際には、もうちょっと腰を据えて、じっくりとやっていくものなんですね。

なので、これまで円高になると何本も動画を作ってきましたが、その時期については、もう少し長い目で見たほうがいいのかもしれないな、と思っています。

 

この記事を書いた人
ゴトウ

証券会社で12年間勤務。営業と店舗マーケティングに従事後、2018年から当サイト「イエ&ライフ」を運営しています。

不動産価格の動きの理解や今後の予想は、金融マーケットの知識があると理解しやすいため、読者のお役に立てるのではないかと、サイトを運営しています。

また、2024年からYoutubeチャンネルも始めました。
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