この記事では、「10月22~24日に行われた、BRICSサミットの内容と、これから世界がどう変わるのか?」について、考察していきます。
1、BRICS2024への参加国
最初に、今回のブリックスサミットの参加国について、簡単に整理します。
ロシアのカザンという都市で行われたブリックスサミットは、36カ国が参加しました。参加状況から、4種類に分けてみました。
1つ目が、ブリックス中核国であるロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカの5カ国です。
2つ目が、2024年1月に加盟を承認されたエジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦の4カ国です。
3つ目が、現在ブリックスへの加盟を申請しているパートナー国です。これには、タイやマレーシア、インドネシア、トルコなど13カ国が含まれます。
なお、今回は、ナイジェリアとアルジェリア、ウガンダが不参加となっています。
(トルコ、インドネシア、アルジェリア*、ベラルーシ、キューバ、ボリビア、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、タイ、ベトナム、ナイジェリア*、ウガンダ*)
そして、4つ目がその他の国が、17カ国です。
サウジアラビアは、新規加盟国に入る予定でしたが、まだ正式に加盟しておらず、宙ぶらりんの状況なので、今回はここに入れています。
(アルメニア、アゼルバイジャン、バーレーン、バングラデシュ、コンゴ、キルギスタン、ラオス、モーリタニア、モンゴル、ニカラグア、セルビア、スリランカ、タジキスタン、ベネズエラ、トルクメニスタン、パレスチナ、サウジアラビア)
今回は不参加だったものの、加盟を申請している3カ国を含めた39カ国の人口は、全世界の6割以上を占めています。
国の数で言うと、それほどでもないと感じますが、人口シェアで見ると、かなりの割合なことがわかりますね。
2、BRICS2024で興味深い3つのポイント
今回のサミットでは、BRICS新通貨のお披露目が期待されていましたが、実際には、そのような話はなく、肩透かしを食らった人も多かったと思います。
日本も含めた、欧米のメディアの論調も、
- サウジのムハンマド皇太子が出席していないこと
- アルゼンチンが離脱したこと
- ベネズエラのBRICS入りをブラジルが反対したため、保留中になっていること
など、一枚岩ではない印象なので、欧米に対抗できるような状況にはない、と言う論調が目立っていたように思います。
ですが、今回発表された134条にわたるカザン宣言や、その後のプーチン大統領のインタビューなど、いろいろな記事にあたってみると、そんな単純な話ではないと感じました。
それらの中でも、特に興味深かった3つのポイントをご紹介したいと思います。
(1)欧米の投機資金の排除
まず、1つ目が、欧米の投機資金の排除です。
今回のBRICSサミットで、いくつかの取引所の設立についての発表がされています。
例えば、穀物取引所、貴金属やダイヤモンドの取引所などですね。
この点について、今回のサミット終了後に、プーチン大統領が、イギリスBBCの記者とのインタビューでこのように語っています。
以下、抜粋です。
コロナウイルスのパンデミック中に起きた最近の出来事を考えてみましょう。
当時何が起こったのでしょうか。この問題に皆さんと他のすべてのメディア関係者の注意を喚起したいと思います。
その期間、米国は約6兆ドル、ユーロ圏の国々は約3兆ドル、あるいはそれより少し多い金額を印刷しました。そのお金はすべて、世界市場であらゆるものを購入するために使われました。
主に食品ですが、医薬品やワクチンも購入されましたが、現在、賞味期限が切れているため大量に廃棄されています。これらすべての製品が市場に投入され、それによって世界中で食品インフレやその他さまざまなインフレが引き起こされました。
世界の主要経済国は何をしましたか? 彼らはドルとユーロの両方で、国際金融における独占的地位を乱用しました。彼らは紙幣を印刷し、最も必要な製品を買い占めました。
彼ら、つまり皆さんは、生産量や購入資金以上に消費しています。これは公平でしょうか? 私たちはそうは思いません。
そして、これを変えたいと思っています。これがBRICSが行っていることです。
以上、ここまでです。
日本を含めた、先進国の通貨は、現在、各国の中央銀行が紙幣を刷り散らかしているため、その運用先として、商品市場にもお金がなだれ込んでいます。
こちらのチャートは、小麦のここ20年ぐらいの価格の推移ですが、リーマンショック前の2007年から2008年ごろや、新型コロナなど、世界経済が混乱したドサクサに紛れて、投機資金がどんどん流入し、貧困国がさらに貧困になる、という状況が続いています。
このような商品価格への影響力は、アメリカの商品先物市場が強く、投機資金が大量に入っています。
これらの投機資金は、自分たちが儲けられればいいため、貧しい国の人がさらに貧しい状況になっても、知ったこっちゃありません。
そのような状況から、人々を守るためにと、BRICS域内で取引所を設立する、ということなのですね。
(2)貿易の仕組みを全部BRICS内で作る
2つ目は、欧米先進国が作った、世界貿易の仕組みを、BRICS域内で自前で作る、ということです。
今回の作業部会で話し合われているテーマは、例えば、物流プラットフォームの構築や、輸送ルートの見直し、再保険制度の立ち上げなどです。
これらの仕組みは、これまで欧米先進国が作ったところに参加していましたが、ロシアがウクライナに侵攻したのを機に、国際決済制度のSWIFTから排除されたり、再保険に加入できなくなって、海上輸送ができなくなったりと、いろいろと支障が出ていました。
そこで、この仕組みをBRICSの参加者だけで作ることで、先進国からの自立を図ろうという話し合いが、活発に行われていたようです。
これ以外にも、原油や鉱物などの地下資源の採掘データの共有や、人工知能技術の利用ルールの共通化、そして、スポーツによる国際交流などの話も、進展しているようです。
特に、地下資源の採掘データの共有化は、レアメタルなどの地下資源の需要が増えている中で、欧米の企業の力を借りずに、ブリックス内の協力のもとに開発ができれば、経済的に豊かになることができます。
(3)軍事行動の抑制
そして、3つ目が、軍事侵攻の抑制です。
今回のサミットを前に、中国とインドの国境紛争が解消され、合意に達したという報道がありました。
インドと中国は、1960年代に第一次中印国境紛争が起こり、その後もたびたび紛争が再燃していたため、両国の関係は、イマイチの状況にありました。
それが、今回、合意に達したというわけですから、長年のイザコザが解消されたことになります。
しかも、この合意は、今回のサミットの前日に行われています。
つまり、「ブリックスに参加するなら、他国に攻めるようなことはしてはいけない」という強いメッセージだと捉えることもできます。
また、今回、ベネズエラが加盟申請をブラジルに却下されましたが、これは、今年行われた大統領選挙の結果に対して、ブラジルの大統領が批判していたからだと、解説されていますが、おそらく違います。
ベネズエラは、お隣のガイアナ共和国で豊富な油田が見つかったため、国民投票を行なって賛成多数だったことを根拠に、軍事侵攻をして併合しようとしています。
一応、今のところは話し合いで、和平がなっていますが、ベネズエラ軍はまだ諦めていない状況なので、まだ軍事侵攻のリスクが残っているのです。
そのような状況を考えると、「ブリックスに参加するなら、他国に攻めるようなことはしてはいけない」と言う暗黙のルールが出来上がってきているのかな、と感じます。
「ロシアのウクライナ侵攻はどうなんだ?」と思う人もいるかもしれませんが、これはまた別の話なのでしょう。
今回のカザン宣言では、イスラエルのガザや、レバノン、シリアへの侵攻について、非難する文言が入っていましたが、ロシアのウクライナ侵攻については、全く触れられていませんでしたからね。
まとめ
以上のことから、今回のブリックスサミットは、以下のようにまとめられると思います。
- 欧米の刷り散らかした紙幣に振り回されないように、独自の取引所を設立する
- 途上国の経済的な自立を助けるために、地下資源の採掘などの技術支援、資金支援をブリックス内で行う
- 経済支援や技術支援を通じた、長期的な関係を続けていくためにも、近隣国との関係改善が条件となっている
と言えるでしょう。
また、私は今回初めて知ったのですが、ブリックス諸国を含めた、80カ国でBRICSスポーツゲーム、という国際イベントが、すでに5年連続で開催されているんですね。
このような動きは、スポーツに限らず、文化面での交流も進めようとしています。例えば、ブリックス文化祭や映画祭、フォークダンス同盟なども検討中とのことです。
今年行われたパリ五輪は、かなりムカついた競技もありましたし、トヨタやブリヂストン、パナソニックがスポンサーから降りるなど、オリンピック委員会に対しての信頼が、かなり落ちていると思います。
また、万博もひどいですよね。本当に開催できるのか微妙ですし、参加国も24カ国しかなく、6割以上が欧米の国です。
なので、もしかしたら、オリンピックや万博のような、世界的なイベントですら、欧米先進国を無視して、BRICS諸国だけで盛り上がるような時代が来るかもしれませんね。
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