この記事では、「トランプ勝利で、日本は消費税を減税に追い込まれる可能性」について、考察していきたいと思います。
9月27日に行われた衆院選では、自民党が大きく敗れ、立憲民主党や国民民主党などの野党が大きく議席を増やしました。
自民党の政治とカネの問題への苛立ちもあったとは思いますが、個人的に、今回新鮮だったのは、消費税減税の声が、前回の選挙よりも目立ったような気がした点です。
こちらの表は、各政党の今回の選挙結果と、消費税に対する公約をまとめたモノです。
立憲民主党を除いて、議席を増やした野党は、軒並み消費税の減税を公約にあげていました。
YouTubeでも、消費税の闇みたいなテーマの動画は、結構再生回数が回っていますし、岸田前首相が「増税メガネ」と呼ばれて批判されていたこともあって、国民の多くが、「もう増税はやめろよ」と言うのが本音なのではないでしょうか?
そして、今回トランプ氏がアメリカの大統領選挙で当選したわけですが、トランプ氏がこれから打ち出してくる政策は、日本にも多くの影響を与えると考えられます。
その中でも、トランプ氏のある政策が、「日本の現在の消費税を減税または廃止に追い込むかもしれない」と思っていまして、それについて、今回は考察していきたいと思います。
それでは、参りましょう。
1、消費税増税を求める人たち
まず、最初に、日本の中で、消費税の増税を喜んでいる人たちについて、紹介したいと思います。
それは、主に経団連の大企業です。
経団連とは、東証プライム(昔でいう東証1部)の上場企業を中心に構成されている経済団体です。
自民党の支持母体の一つでもあり、政権を自民党が取っていた時期が長かったこともあって、政府への政策の提言も行なってきました。
そんな経団連の会長が、ここ10年以上、ずっと「消費税は上げるべきだ」と一貫して主張してきたのです。
【2002年〜奥田会長】
この流れが表面に出てきたのは、2002年に就任したトヨタの奥田会長からでした。2004年度から毎年1%ずつあげて、16%にまで上げるべきだ、と主張したのです。
当時、就職したてだった私は、「何言ってんだ、このおっさん」「偉い人ってのは、何考えてるのか、わかんねーな」と思ったような記憶があります。
しかし、それから以降の経団連の会長は、代が変わっても、「相変わらず増税しろ」という主張ばかりでした。
2006年からはキャノンの御手洗会長が、2010年からは、住友化学の米倉会長、2014年から東レの榊原会長、2018年から日立の中西会長、そして、現在の住友化学の十倉会長と、全員、「消費税は上げなければならない」論者だったのです。
【2006年〜御手洗会長】
【2010年〜米倉会長】
【2014年〜榊原会長】
【2018年〜中西会長】
【2022年〜十倉会長】
2、なぜ経団連は、消費税を上げたいのか?
でも、不思議ではないですか?
消費税を上げれば、消費は落ち込みますから、景気が悪化して、企業の売り上げは下がるはずです。これって、企業からしてみれば、嫌なことだと思うのですが、なぜもっと上げろと言ってるのでしょうか?
あくまで、大企業からの視点ですが、理由は、大きく2つあると思います。
(1)法人税を下げてもらえる
1つ目は、消費税の増税と法人税の減税がセットになっている、ということです。過去の法人税率の流れを見ると、一貫して、低下傾向にあります。
税金の負担が重すぎると、海外との競争で不利になるという理由ですね。
なので、法人税を下げて欲しいから、その代わりに、他の税金をあげてもいいよ、ということで、消費税が槍玉に上がった、という理屈です。
財務省や自民党と、そのような取引があったのかはわかりませんが、結果的に、消費税は上がり、法人税は下がっていますので、特に儲かっている大企業にとっては、メリットはあったのでしょう。
(2)関税の役割を果たしてくれる
そして、2つ目が、関税効果です。
簡単にいうと、アメリカから入ってくるものは売れにくくして、日本のものは買いやすくしようとしたのです。
どういうことかというと、アメリカと日本では、消費税の仕組みが違うのです。
自動車メーカーを例に説明します。
①日本の消費税の仕組み
自動車メーカーのA社が、お客さんに200万円で車を売った場合、お客さんは200万円+消費税20万円を支払います。
しかし、この20万円をそのままA社が、消費税として支払うわけではありません。
車は、組み立て会社に作らせて、110万円で買い取ったとします。そうすると、この時に10万円分の消費税を、組み立て会社にA社が払っていることになっているのです。
さらに、この組み立て会社は、組み立てるための部品を部品会社から55万円で買い取ったとします。
そうすると、部品会社に組み立て会社が、5万円分の消費税を支払っていることになります。
このような形で、さらに下に続くと思いますが、とりあえず部品会社が最後とした場合、
それぞれ、国に支払う消費税は、A社は10万円、組み立て会社が5万円、部品会社が5万円となるわけです。
つまり、会社間の取引の間でも、消費税が発生しているわけです。
②アメリカの小売売上税の仕組み
これに対して、アメリカでは、州によって違いますが、0~10%前後の小売売上税をお客さんが車のディーラーから車を買った時に払って、その税金をディーラーが納税して完結します。
こちらの方はとてもシンプルですね。
このようなシンプルな税制を取っている国は、実は先進国では、アメリカ以外になく、日本や中国、ヨーロッパなど、他の国はすべて、いわゆる日本のような消費税のスタイルになっています。
それで、これが輸入や輸出の際に、何が起こるか?というと、日本がアメリカに車を売る際には、還付金という形で国がA社にお金を支払うのです。
なぜかというと、先ほどの図に戻ると、トヨタは、日本国内ですでに組み立て会社に10万円分の消費税を払っているからです。
本来であれば、そうやって仕入れた車を日本の消費者に売れば、20万円入ってくるため、そこから相殺して、残りの10万円を納付すればいいのです。
ところが、アメリカに輸出してしまうと、お客さんからもらった小売売上税は、アメリカに全額納付しなければいけないので、税金の払い損になってしまうのです。
そうやって大企業に支払われた、消費税の還付金は、なんと2022年で1.9兆円にもなります。
ここまでの話は、なるほど、納得がいくような気もしますよね。「言われてみれば、そうした方がいいのかな」と思う人もいるでしょう。
下請けいじめが多発で、実質的に消費税を負担していない
ところが、現実はもっと複雑です。
自動車産業のような、メーカーを頂点とした、ピラミッド型の産業構造の場合、メーカーは、発注する組み立て会社に、「もっと安くしろ、じゃないと仕事をやらないぞ」と圧力をかけられます。
今年の7月に、トヨタの系列の組み立て会社が、その下の部品などの製造会社に対して、余計な経費を負担させていたなどとして、下請法違反で公正取引委員会から勧告を受けていました。
また、日産自動車も、同じく下請け会社に支払う代金を一方的に値引きしていたということで、勧告を受けています。
自動車会社の実態は、このように、下請けに対して、現在の10%の消費税を上乗せした金額で取引をしているようには、とても思えないような現状なのです。
なのに、国は、さもメーカーが払いすぎたかのような扱いをして、年間に2兆円近い還付金を出しているわけです。
消費税の負担を下請けに押し付けているのなら、還付金は値下げの原資にできる
ということは、この還付金を使って、海外に売るときに値下げができるじゃないですか?
A社の200万円の車に対して、国が10万円払ってくれるわけですから、190万円で売ることができます。
それに対して、アメリカの自動車メーカーも、同じ条件で作れたとしても、国から10万円の還付金をもらえません。そんな税制じゃないですからね。
なので、アメリカの方が、10万円分不利になる、ということになるわけです。
これがフランス車になると、もっとすごいです。
あちらの国の消費税は、約20%なので、値引きの原資が、日本の倍ということになります。200万円で車を作れたら、20万円分の還付金をもらって、180万円で売れる、ということになるのです。
このような状況をアメリカ人が見たら、どう思うでしょうか?
そして、これをトランプ大統領が知っていたら、どう思うでしょうか?
そうです。絶対に、日本やヨーロッパの消費税を、アメリカを不利にする関税と同じものだとみなして、制裁をしてこようとするでしょう。
アメリカだって、黙ってはいない
実際、これまでの増税に合わせて、アメリカは日本に対して、けっこうな嫌がらせをしてきました。
例えば、2009年から11年にかけて、トヨタはアメリカでリコール問題に巻き込まれました。
結局、この問題は、ほとんどが運転手の運転ミスという結論になり、一体何だったの?ということで終わっています。
トヨタは、この時、1,000億円もの損失が出たと言われていますし、豊田章男会長も、証人喚問に呼ばれて、徹底的にいじめられました。
完全に、ババを引かされた感じですよね。
2009年は、オバマ政権になった年です。前年の2008年はリーマンショックがあり、アメリカの経済はガタガタになりました。
金融で大損をこいたアメリカは、製造業でなんとか稼ぐしかありません。そうなると、輸出して稼ぎたいのが本音だったわけです。
当時は、アメリカと中国は仲が悪くなかったので、中国が約60兆円の経済対策を打ったことで、アメリカを後方支援しました。
ところが、日本は、2008年から、消費税の増税の話が再燃していました。
「2010年代半ばには、10%にまで引き上げるべきだ」と、当時の政権与党だった自民党の財政改革研究会で議論されており、メディアにも取り上げられていたのです。
その後、消費税を上げないと言った、民主党政権になりましたが、2010年に菅首相が消費税を上げると言い始めたからか、アメリカのリコール裁判も泥沼化していきました。
アメリカからすれば、この苦しい時に、自分たちの国の大企業を儲けさせるために、消費税を上げて、さらにアメリカの輸出をやりにくくするつもりだな、と捉えられたのかもしれません。
そのスケープゴートに、豊田章雄氏がなってしまったと、そういうことなのかもしれません。
アメリカでは、この実態をしっかりと把握している
ちなみに、アメリカは、毎年「フォーリン・トレード・バリアーズ」というレポートを作成しており、各国の貿易に関する関税や、規制などについて、細かく調査・分析しています。
このレポートの自動車の欄を見てみると、アメリカ認証の安全基準を受け入れてくれないため、アメリカの車が日本から締め出されている、という内容の記載があります。
今年、トヨタやダイハツが型式指定の認証不正問題で、8月末まで生産停止に追い込まれました。この状況に対して、豊田章男会長は、「日本で頑張っても、やる気無くす。もう日本から出て行きたいな」みたいなことを発言して、話題となっていました。
トヨタの品質検査は、世界で売れるように、日本の基準よりも厳しいレベルで検査をしてきたのに、日本のやり方をしなかったから、アウトと言われれば、確かにやる気はなくしますよね。
しかし、このような面倒臭い、複雑な独自ルールがあるからこそ、アメリカ車を日本から閉め出せている、という正義をお役人は感じているのかもしれません。
このように、消費税増税の還付金や、日本独自の複雑なルールによるアメ車の締め出しなど、日本の政府や官僚が、大企業に有利な条件を作っているように見えます。
しかし、実はトヨタレベルの超大企業から見ると、アメリカから目をつけられたり、たまにお役人の自尊心を満たすために、不正問題で攻撃されたりと、ちっともいいことがないと感じている可能性があると思います。
なお、消費税が、関税の代わりになっている、という話は、あまり聞いたことがないと思いますが、私の勝手な妄想ではありません。
岩本さゆみさんという、外資系金融機関で勤務経験があり、大阪経済大学の理事も務められている方の著書に「アメリカは日本の消費税を許さない」があります。今回の話は、ここで語られている内容を参考にしています。
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というわけで、長くなりましたが、ここからが本題です。
3、トランプ関税の内容
今回の大統領選挙に際して、トランプ氏は、中国だけでなく、ヨーロッパや日本などの同盟国にも、一律で10%から20%の関税を課すと発言しています。
しかし、この内容はもう少し詳しく見ると、もっと深刻なことがわかります。
トランプ氏の政策について、トランプ氏自ら説明する動画と文章が掲載されているWEBサイトに「アジェンダ47」があります。
その中で、関税についての考え方を述べたページがあります。こちらがそれなのですが、タイトルが、「トランプ相互貿易法」となっています。
これは、相手と同じ条件で貿易をする、ということです。
一部、抜粋して読みますね。
「インド、中国、その他の国がアメリカ製品に100%または200%の関税を課す場合、私たちも全く同じ関税を課す。言い換えれば、100%は100%だ。
彼らが米国に課すなら、私たちも彼らに課す。目には目を、関税には関税、全く同じ額だ。」
以上です。
つまり、相手がズルしようとするなら、同じことするぞ、ということです。
そして、この日本の消費税、世界的には付加価値税と言われますが、これを採用している国に対しては、それによって、アメリカの製造業が不利だと思う分だけ、関税を引き上げると考えられます。
しかも、消費税によって関税がさらに引き上げられてしまうのであれば、国内の工場から輸出するよりも、アメリカ国内に工場を持った方が得になります。
つまり、消費税が、日本の大企業を儲けさせる道具ではなく、アメリカに追い出す道具になってしまうのです。
日本の自動車産業で働く人は、約558万人と、全体の1割を占めます。また、外貨を稼いでくれる中心となっている産業になります。
その自動車産業が、アメリカにどんどん移転せざるを得なくなるとすれば、円の需要も減るので、円安がさらに進むでしょうし、物価もさらに上がります。
以上のことから、日本は消費税を下げなければ、
- 国内の消費が萎む
- 大企業がアメリカ市場に逃げてしまう
という意味で、さらに苦しい状況になる可能性があると思います。
さっさと消費税、下げればいいと思うんですけどね。
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