この記事では、「もしトランプ氏が、アメリカ大統領になった場合、円ドル相場はどうなるのか?」について、考察します。
なお、この記事は、私のYouTubeチャンネルの動画を記事化したものになります。動画で見たい方は、こちらからどうぞ。
今年11月にアメリカでは大統領選挙がありますが、「トランプ氏が当選するのでは?」と考える人が増えてきました。
いくつかの世論調査を見ても、トランプ氏が優勢のような調査結果が出ていますね。
こちらは、270toiwin.comというサイトで、州別にオンライン調査を集計しており、その結果から、大統領選挙の予想をしているサイトになります。
8月2日現在のハリス氏とトランプ氏の得票数は、226対251と、トランプ氏の方が優勢のようです。
どっちつかずの州の票数が61あるので、まだどうなるかわかりませんが、トランプ氏が優勢という状況は、今の所変わらない感じですね。
そのため、マーケットもトランプ氏の当選を織り込む形で、動いていたと見ても良さそうです。
1、トランプ氏の政策について
まず、トランプ氏が大統領になった場合に、現在のバイデン政権と比べて、どのような政策変更が起こるのでしょうか。
この点について、テレ東BIZチャンネルで、ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次さんが解説されている動画が参考になります。
この動画の中で、バイデン大統領とトランプ氏の政策を一覧表にまとめて解説されています。
これを私なりにまとめたのがこちらです。
基本的には、中国への敵対姿勢は、共通していますが、それ以外は、バイデン政権の反対の政策が多い感じですね。
基本的な考え方、方向性を見ると、海外からの輸入を減らして、国内の産業を活発化すること、なるべく補助金をばらまかないようにしようという感じがします。
特に、貿易について、一律10%の関税ということは、なるべく海外からの輸入を増やしたくない、という考えの現れだと思います。
輸入を増やすぐらいなら、国内で作った方が、雇用も増えるし、支持者層にも受けるということなのでしょう。
また、EVや環境規制については、否定的で、どんどん石油・天然ガスの採掘を進め、雇用を増やした方がいい、という方向性です。
アメリカでは、2022年にEV関連の補助金を約60兆円だすと決めましたが、このような補助金漬けで産業を育てなくても、今ある原油や天然ガスの開発を許可すれば、政府が金を出さずとも、雇用が生まれる、ということなのでしょう。
税制については、大企業や富裕層への課税強化よりも、減税をすると言っています。
日本でもそうですが、税制はとても複雑なので、いろいろと知識を持っていないと、控除が受けられなかったり、税金の払い過ぎが起こったりして、賢い人だけが得をするようなことになりがちです。
ですが、減税であれば、どんな人にも恩恵がありますから、支持層からの受けも良さそうです。
また、この表の「基本的な考え方」の欄は、わたしが勝手に作ったモノですが、これは第1期のトランプ政権の時に、まっさきにやった政策を参考にまとめています。
なお、2017年1月23日に就任して、就任1週間で、大統領令に署名したのが、
- 連邦職員数の自然減のための採用凍結
- TPPからの離脱
- キーストーンパイプラインなどの石油・天然ガスのインフラ計画の推進
- 「聖域都市」に対する連邦資金の停止(不法移民対策)
- ロビー活動に対する規制
などです。
ようするに、政府の無駄の削減と、治安の維持、国内産業の活性化による雇用の創出です。
おそらく、今回当選した場合にも、このような政策を優先して進めると考えられます。
個人的な予想ですが、
- 不法移民対策(国境管理の強化や、国内の治安維持のために軍隊を派遣とか?)
- 原油、天然ガスの採掘許可
あたりは早くやりそうな感じがします。
2、日本への影響は
では、円ドル相場への影響はどのようになるのでしょうか?
これは完全に私の私見ですが、おそらく円高になると思います。
その理由を解説する前に、現在の円安がなぜ進んでいるのか?について、簡単にまとめたいと思います。
こちらの記事で詳しく解説しているのですが、現在の円安が進んでいる理由は、
- 日米の金利差
- 国際収支の質の悪化
- 投機筋による円売り
- 政府が、アメリカの債務の穴埋めのために、米国債を購入
の4つではないかと思っています。
それぞれ簡単に説明しますね。
(1)日米の金利差
まず、日米の金利差についてですが、こちらのグラフの通り、アメリカの金利は10年ものの米国債で4%以上あるのに対して、日本の国債は1%未満です。
3%も金利差があり、アメリカは基軸通貨でもあるため、「財政破綻はないだろう」という安心感から、円からドルへと乗り換える動きが出ている、というわけですね。
実際、2022年にアメリカで利上げが始まったタイミングで、円安も進んでいるため、多くの人が、この金利差によって円安になっていると理解していると思います。
(2)国際収支の質の悪化
2つ目が、国際収支の質の悪化です。
円安が進むと、トヨタなどの輸出企業の稼ぎが増えるため、長い目で見ると、円安で儲かった企業が、外貨を円に変えるため、円高になってバランスを保ってきました。
ところが、ここ数年は、日本の少子高齢化が進んでいることもあって、日本にお金を戻しても使い道がない、ということで、現地で稼いだお金を、現地にそのまま再投資するケースが増えています。
それが、第1次所得収支の中の、再投資収益という欄に現れています。2021年以降に急激に増えていますね。
そのため、国際収支は黒字が続いているように見えても、稼いだお金が海外に止まったままなので、円を買う企業が減り、円安が続いているというわけです。
(3)投機筋による円売り
そして、3つ目が、投機筋による円売りです。
ここまでの話の、日米の金利差や、国際収支の質の悪化などをみた海外の投資家が、銀行から日本円を借りて、海外への投資を増やしているというのです。
言われているのは、外国銀行の在日支店が、そのような投機家にお金を貸しているという話ですね。
実際、外銀の本支店勘定を見てみると、為替レートの動きとかなり似た形になっています。
特にリーマンショックの時には、急激に残高減っていますので、これほどの貸し剥がしが、日本国内の製造業などで起こっていれば、かなりのパニックになったはずですから、主に投機筋に対しての融資ではないかなと思います。
(4)政府による米国債の購入
4つ目が、政府による米国債の購入です。
現在のアメリカは、政府債務がすごい勢いで増えており、なんと34兆ドル、日本円で5400兆円をこえています。
そのため、この借金をいろいろな国に買ってもらうために、動き回っているのですが、日本はそれに応じて、米国債を買っています。
その額は、約1.2兆ドルですから、190兆円ぐらいになっており、世界第1位となっています。
政府が米国債の残高を増やすということは、円からドルへとお金を変えることになりますので、円安要因になります。
以上、このようないろいろなものが組み合わさって、現在の円安が進んでいると考えられます。
それぞれの理由を見ると、特に1つ目の日米の金利差や、2つ目の国際収支の質の悪化などは、なかなか状況が変わりそうにないため、どんどん円安が進みそうな感じもします。
では、なぜ円高になると思うのか?というと、3つ目、4つ目の理由が、トランプ氏の再選で、劇的に変わる可能性があるからです。
4月23日に、自民党の麻生副総裁が、トランプ氏とNYで会談しました。日本でもニュース等で取り上げられていましたが、特にロイターが、詳しい内容を載せていました。
それによると、
- 日本が防衛費を増やすことは歓迎する
- 現在の円安ドル高は、アメリカの産業を壊しているので、受け入れられない
というものでした。
つまり、トランプ氏が大統領になったら、強烈な円高への誘導を要請する可能性があるんですね。
過去の例を見てみると、第1期のトランプ政権の2017年から2021年1月までは、円ドルは105~115円ぐらいの間を行ったり来たりしていました。
そのため、日米の貿易関係において、円ドルのレートは、これぐらいの水準が望ましいと考えているような気がします。
実際、ドルインデックスと呼ばれる、カナダドルやユーロ、スウェーデンクローナなどの、先進国の通貨に対する強さを示す指標を見ると、米ドルの強さはほとんど変わっていません。
円だけが、一方的に安い状況にあるんですね。
そのため、アメリカ国内の産業を保護したいトランプ氏から見ると、現在の円ドルレートは、文字通り「大惨事」なのでしょう。
「トヨタやホンダなどの自動車産業を儲けさせるために、わざと日本は円安にしている」とクレームをつけてくる可能性が高いと思われます。
では、どうやって円高へとするのかというと、おそらく、政府による円買い介入が、かなりの本気度でやるのではないかと予想します。
実際、最近はあまりに円安が進んでいるため、政府による円買い介入の話題が増えてきました。
4月末から5月頭にかけて、財務省が円高へ誘導するために、円買い介入をしたのではないかと言われています。その原資は、財務省の外為特会とのことで、2024年6月時点で、9,275億ドル(約148兆円)ほどの運用している資産があります。
先ほどご紹介した、米国債の保有比率が、日本が1位になったということなので、この資産の大半が、米国債だと思われます。
そして、この外貨資産を売却して、円高へ誘導することが可能なわけです。
ただし、アメリカの財務省は、これを嫌がって、為替操作の監視リストに、日本と日銀を入れたそうです。
「これ以上の為替介入をするな。米国債を売るな」というメッセージだと思いますが、トランプ大統領になれば、円高ドル安を望んでいるわけですから、このような圧力は無くなるでしょう。
また、最近は農林中央金庫が、海外投資で1兆円以上の損をしたため、米国債などを10兆円以上売却して、円資産へと買えるとの発言もしています。
どのようなスケジュールで米国債を売却するのかはわかりませんが、トランプ大統領になったら、米国債の売却がスムーズになる可能性が高いでしょう。
そうすると、政府が持っている外為特会の約150兆円と、農林中金の10兆円が、マックスで使える円買い介入の原資になります。
さきほどの、外銀の本支店の残高が、10兆円ぐらいの規模なので、政府が本気で円買い介入をやると思ったら、あわててポジションを解消しよう、つまり円売りの反対決済(つまり円買い)をするのではないかと思います。
もし仮に、トランプ氏が大統領選で当選が発表された途端に、急激な円高が進んだとしたら、このような動きが起こったと考えても、あながち間違いではないような気がします。
というわけで、トランプ氏が大統領になった時の、円ドル相場の予想をしてみました。
今後の予想される際の参考になれば幸いです。
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