この記事では、「億万長者の狂気、生成AIバブルは、どこまで暴走するのか?」ということについて、考察していきたいと思います。
今年は大統領選挙イヤーということで、アメリカの株式市場は10月19日現在、S&P500指数は、過去最高値を更新しています。
その中でも、グーグル、アマゾン、メタ、アップルなどのビッグテックと呼ばれる企業の株価の上昇率が高いです。
特に、生成AI向けの半導体大手のエヌビディアは、この1年間で約3倍にまで上昇し、時価総額は300兆円を超え、一時は世界で最も時価総額が高い会社でした。
これほどに、生成AIという分野に対する投資家、起業家の期待値は高く、ビッグテックも積極的に投資をしているのですが、その実態を調べてみると、「狂っているとしか思えない」というのが、正直なところです。
そこで、この記事では、現在の生成AIバブルが、どれだけ狂ったことになっているのか?そして、それに引っ張られている株式市場は、これからどうなっていくのか?について、考察していきます。
それでは、参りましょう。
1、生成AIについて
まずは、生成AIについて、簡単に解説しておきます。と言っても、この分野については、全くの素人ですので、その辺の素人のオッサンが調べたレベルとして、ご承知おきください。
生成AIとは、新しいコンテンツを作ることができるAIのことで、日本では、2022年のChatGPTで注目されるようになりました。
YouTubeでも、今年になって、AIで作った動画や、音楽、サムネ画像がたくさん出てきていますよね。
この分野は、どんどん進化しており、いずれ、事務仕事の多くが、AIに取って代わられるとか、映画もAIを使って作られるとか、いろいろと話題になっています。
株式市場は、生成AIブームで大盛り上がり
そんな感じで、どんどん進化している生成AIな訳ですが、そこに注ぎ込まれているお金もエネルギーも半端ではありません。
これほど、株価が上昇したのは、業績の伸びが凄まじかったこともそうですが、ビッグテックの各社が、生成AIに大規模な投資を行っているからです。
なぜ、これほど売上が急激に伸びているのか?というと、ビッグテックの各社が、生成AIに大規模な投資を行っているからです。
エヌビディアのH100がバカ売れ
Facebookの親会社であるメタ社とマイクロソフトの15万台を筆頭に、グーグル、アマゾン、オラクル、中国のテンセントが5万台、そして、左端のテスラが1.5万台となっています。
ここに乗っている主要12社だけで、62万台も納入していることがわかります。
H100は、一台570万円もする
では、このH100という製品は、一体いくらするのか?というと、なんと1台570万円もします。
大口顧客には、割引をするでしょうが、みんながこぞって欲しがっている商品なので、割引したとしても、500万円ぐらいではないでしょうか。
そうすると、15万台も納入しているメタ社とマイクロソフトは、これだけで昨年は7,500億円程度の投資をしていることになります。
データセンターの売り上げも3倍以上に
また、62万台販売したエヌビディアは、約3兆円の売り上げがあったということがわかります。
エヌビディアの決算資料を見てみると、データセンターの売り上げが、前年比で約3.2倍になっていますが、それは、このAI向けの主力商品であるH100が、これほどの売り上げを叩き出していたからだと言えます。
生成AI企業は、大赤字
では、このように、各社が猛烈な勢いで、生成AIに投資をしているわけですが、売り上げや利益はどうなっているのでしょうか?
生成AIブームの火付け役となった、ChatGTPの運営会社であるオープンAIは、非上場の会社ですが、今年の決算の見通しを発表しています。
それによると、売り上げは37億ドル、約5500億円なのに対して、損益は、マイナス50億ドル、約7500億円の赤字とのことでした。
売上も凄まじい伸びのようですが、赤字の額も凄まじいですね。
しかし、問題は来年以降です。
なんと、2029年まで黒字にはならず、それまでに累計で440億ドル、6.6兆円にまで赤字が膨れ上がるというのです。
じゃあ、その6.6兆円は、どこから出てくるのか?というと、出資企業であるマイクロソフトや、ベンチャーキャピタルなどの投資家、そして、銀行などの金融機関です。
確かに売り上げは伸びていますが、それでも、黒字になるのは当分先なのに、何兆円ものお金を注ぎ込むことができるのでしょうか?
facebookも積極投資で、大赤字
このような状況なのは、オープンAIだけではありません。
Facebookの親会社であるメタも、昨年エヌビディアのH100を15万個、7,500億円分の投資をしたわけですが、今年はさらにそれを34万個購入し、最終的には、H100で60万個分の処理能力を持つぐらいの設備投資をする計画となっています。
では、現在の売り上げや利益はどうかというと、もちろん赤字です。メタバースや生成AIの売上が含まれる「Reality labs」部門は、毎四半期で5,000~6,000億円の赤字が続いています。
一時は、メタバースに力を入れると宣言して、1兆円以上のお金をメタバースに振り向けていましたが、それが今度は生成AIに向かっていて、しかも、投資額がさらに大きくなっているのです。
こちらの記事は7月時点のものですが、メタのCEOのザッカーバーグ氏のコメントが載っています。
それによると、
「遅れをとることのデメリットは、今後10年から15年で最も重要なテクノロジーに対して立場を失ってしまうことだ」
とのことです。やりすぎかもしれないけれど、やめられない、みたいな感じですね。
同様に、グーグルのCEOのピチャイ氏も、似たような発言をしており、現在のビッグテックの経営者は、いくらかかってもいいから、AIの技術競争で勝たなければいけない、と考えているようです。
リサーチ会社や証券会社は弱気
では、これほど何兆円単位の投資をしておいて、本当にいつかもとが取れるのでしょうか?
https://www.businessinsider.jp/post-288942
こちらの記事は、今年の6月に出たものですが、ベイン・アンド・カンパニーというコンサルティング会社が、調査したところ、生成AIを事業でどうやって使うのかを明確にわかっている会社は、全体の約1割ということでした。
このような状況のため、生成AIへの投資がこれから爆発的に拡大する、ということは考えにくいのではないか?と疑問に思う人が増えています。
ゴールドマンのレポートも弱気
同じく、6月に、ゴールドマン・サックスも、「生成AIは金がかかり過ぎる割に、ほとんど儲けがないのでは?」という題名のレポートを発行しています。
この中では、産業別の生成AIの活用状況について調査しているのですが、最も利用率が高い情報産業でも、20%を辛うじて超えるレベルでした。
しかも、自動運転が期待される自動車などは、見る影もありませんでした。
このように、誰が利用しようとしているのか?そして、本当に生成AIを活用することで、ユーザー企業は儲かるのか?個人は、喜んでお金を払うのか?の、手がかりが全くないような状況なのです。
AIチップの需要は「常軌を逸している」
しかし、10月14日に出たブルームバーグの記事によると、エヌビディアの新商品であるブラックウェルが、「常軌を逸した需要」であるとCEOが語っていました。
モルガン・スタンレーの調査レポートによると、12ヶ月先までの予約済みということです。
おそらく、この新商品も、メタやマイクロソフトなどのビッグテックが大量に注文しているのでしょう。
この投資の過熱感は、まだまだ続きそうな感じです。そのため、株式市場もその熱に浮かされて、まだまだ上昇するのでしょうか?
2、なぜ、これほど生成AIの投資が加熱しているのか?
ですが、不思議に思いませんか?
ゴールドマンサックスや、ベイン&カンパニーのような、お金を払ってくれるユーザー企業にヒアリングをしたりして、どれぐらいの需要がありそうかを冷静に分析している企業があるのに対して、
そんな話には、まるで興味を示さず、まるで新しい発見のためなら、命を投げ出しても惜しくはない、みたいなマッドサイエンティストのようなノリで、何兆円というお金を注ぎ込んでいるのが、現在のビッグテックの状況です。
何が、彼らをそこまで駆り立てるのでしょうか?
その理由は、私が思いついたのは、2つです。
(1)長期的には、メチャクチャ儲かりそう
1つ目は、この生成AIは、勝てばむちゃくちゃ儲かるからです。
10月3日と4日に、ソフトバンクの孫社長が、講演会を開催していましたが、この中で、あと3年ぐらいで汎用人工知能(AGI)は、あと2、3年で来るだろうと発言していました。
孫さんのいう汎用人工知能とは、パーソナル・エージェントという、自分専用の秘書みたいなもので、簡単に言うと、仕事ができるドラえもんのようなイメージでしょう。
例えば、
- メールの文章作成から、送り先を選んで送る
- ブログの文章を自動で作成して、アップしてくれる
- YouTubeやティックトックなどに投稿する動画をいい感じに編集して、アップする
- ネットで欲しいものを探して、1番安くて、安全なサイトで注文をする
- 政府の補助金の申請や、確定申告、相続税の申告などの、複雑な手続きを代わりにしてくれる
- 知りたい情報について、いろいろなサイトからまとめて、レポートを作成してくれる
などが挙げられます。
つまり、幼稚園児からお年寄りまで、ネットの使い方がわからない人でも、ネット上のサービスに簡単にアクセスできて、しかも、コンテンツを投稿したり、買い物をしたり、申請したりといった、全てのことができるようになるのが、このパーソナル・エージェントの、とりあえずのゴールになるのです。
では、なぜ、これがとりあえずのゴールになるのかというと、このパーソナル・エージェントが、人とネットを繋ぐ窓口になるからです。
これは、スマホで言えば、アップルのiOSや、グーグルのアンドロイドなどの、スマホのOSに当たります。
スマホのアプリは、全てこれらのOSの審査を通じて、ダウンロードが可能になりますが、そのアプリに支払ったお金の3割が、OSの運営会社であるアップルやGoogleに入っています。
これによって、両社は莫大な収益を上げられているわけです。
パーソナル・エージェントは、プラットフォームビジネス
このようなビジネスの仕方は、プラットフォーム・ビジネスと呼ばれたりします。
任天堂のスイッチや、ソニーのプレステなんかも、それに当たりますね。
ゲームソフトの会社は、これらのハードを売っている会社に、1割から2割、お金を払わなければいけません。
任天堂がずっと安定して強いのは、このような安定収入があるからです。
今回の生成AIの最終形である、パーソナル・エージェントも、似たようなポジションになってきます。
そして、任天堂のスイッチにとってのソフトや、スマホにとってのアプリにあたるものは、ネット上にアップされている全てのビジネスになるはずです。
まさに、ウィナー・テイク・オール、勝者が総取りの世界が待っているのです。
メタ社が、この分野で、かなりのお金を突っ込んでいます。エヌビディアのH100を何十万台も買うだけでなく、自社でAIチップも開発していますし、Llamaという生成AIを開発して、しかも無料開放をしています。
これから数年間で、10兆円規模の札束を燃やすことになりそうですが、その先には、このような美味しい世界が待っているから、ということなのでしょう。
(2)あたらしい世界が生まれるという好奇心
2つ目は、あたらしい世界が生まれるかもしれないという好奇心です。
サム・アルトマンやマーク・ザッカーバーグ、そして、ソフトバンクの孫さんなどのインタビュー記事を見て思うのは、本当に新しいものが生まれそうだ、ということへの興奮です。
そして、これらの人たちは、十分なお金があるので、失敗しても困ることはありません。
株主からのプレッシャーはあるでしょうが、サラリーマン社長ではなく、会社の創業者ですから、「自分の会社を好きなように運営して、何が悪い」ぐらいの考えをお持ちだと思います。
なので、オープンAIも、メタも、これから数兆円、もしかしたら10兆円以上のお金を突っ込んでいくかもしれませんが、失敗しても、「わが人生にくいなし」ぐらいに考えているのではないかと思います。
まあ、ドラえもんを自分の手で作り出せると思ったら、確かに興奮するかもしれませんね。
3、今回の生成AIバブルの特徴
そして、最後に、今回の生成AIバブルの特徴についてです。
これまでの株式バブルは、証券会社が煽って、投資家がその熱に浮かされて、株価がどんどん上がっていく、というパターンが多かったと思います。
例えば、2000年のITバブルでは、多くのIT系の証券アナリストや、監査法人が、虚偽の報告をすることで、企業の業績を良く見せ、勘違いした投資家が暴走して、大損しました。
また、2008年のリーマンショックでも、格付け会社や、金融機関が暴走して、最終的には世界的な金融恐慌に陥りました。
どちらも、投資家や金融機関による、マネーゲームを目的としたバブルだったと言えます。
しかし、今回は違います。1番イカれているは、投資家や金融機関ではなく、起業家なのです。
オープンAIのサム・アルトマンは5、6兆円の赤字になるかもしれないけど、気にしてないって言ってます。
メタのザッカーバーグも、これからも何兆円規模で、AIにお金を突っ込んでいくつもり満々です。
もちろん、Googleやマイクロソフト、テスラのイーロンマスクも、それに負けじと追いかけるつもりのようです。
そのため、この生成AIバブルは、かなりのチキンレースになる可能性があります。
その間、儲かるのは、エヌビディアだけで、それ以外の会社は、何兆円規模のお金を突っ込んでいくので、目先の利益は下がるでしょう。
しかも、最終的にどの会社が勝つのかは、全く予想がつきません。
なので、中長期で米国株を考えると、とりあえず、ビッグテック7社がどんどん上がる、ということではなく、エヌビディアの一強時代が、続くのではないかと思います。
そして、それ以外の6社の中から、生成AIの真の勝者が現れ、総取りをしていく、ということになるのではないでしょうか。個人的には、メタのザッカーバーグか、イーロン・マスクに頑張ってもらいたいですね。
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