「本屋ができたら、人も家も増えた。」
こう書くと、ちょっと信じられないような気がしますが、本屋の周りに家が建ち、この5年間でなんと1,000人以上も人口が増えた地域があるのです。
その場所は、北海道函館市の北部にある石川町と桔梗町と呼ばれる地区です。
函館市のホームページによると、1984年の1月に32.2万人のピークをつけてから、30年以上も人口が減り続けている街です。
ですが、この本屋ができてからは、若い世帯を中心に人が移り住んできているようなのです。
【函館市の町丁別の人口の変化(H25〜H30)】
*赤色(500人以上増加)>緑色(100-499人増加)>青色(100-499人減少)>紫色(500人以上減少)
*黄色の本のマークが、話題の本屋さん
ご覧の通り、市内全域で人口が減少している中で、本屋さん(黄色の本のマーク)の周辺だけが、増加していることがわかりますよね。
1,000人以上増やした函館 蔦屋書店とは?
で、気になる本屋さんなんですが、それがこちらの函館 蔦屋(つたや)書店さんです。
CDやDVDのレンタルで有名なTUTAYAの別ブランドのお店です。
2013年にオープンして話題となりましたので、ご存知の方もいるでしょう。
このお店ができてから、この5年間で周りに人が移り住み始め、ついに増加人口は1,000人を超えてしまいました。
なんだか、本屋とは思えないぐらい大きいですよね。
面積は約9,500㎡と、大きめのホームセンターが2階建になっているようなイメージです。
なので、本屋だけでなく、レストラン、カフェ、アパレルショップ、そしてキッズスペースなど、多くのオシャレなお店が入っている本屋さんなんですね。
【函館 蔦屋書店の2Fフロア】
函館蔦屋書店のホームページには、こんな紹介文がのっています。
もう、商業施設をつくるだけで、地域がいきいきとする時代ではありません。
買い物だけならネットでもいい。求められているのは、ゆっくりと過ごせる空間でした。本とおいしいコーヒーがあって、家族や友達とおしゃべりしたり、子どもたちもワイワイできる場所。
学校や職場以外の、いわゆる第三の活動の場としても使える。
働く人たちが、お客さまと名前で呼び合うようないい距離感もできる。
ものを買う場所は、ヒトもコトもつながる場所であるべきだと思います。函館蔦屋書店がめざすのは、これからの時代のスタンダード。
地域のみなさんが気持ちよく過ごせる”居場所”になります。
キーワードは、”居心地のいい居場所” です。
函館 蔦屋書店のイベントが、想像以上にすごい
これだけ見れば、大都市圏に住んでいる方ならば、見たことのあるようなモールに思うかもしれません。
「なんだ、ちょっとオシャレなお店が地方にできて、珍しがられているんじゃないか?」と。
ですが、函館 蔦屋書店がすごいのは、そのイベント回数の多さです。
例えば、
- 韓国料理教室
- 絵本の読み聞かせ
- 姓名判断占い
- 投資セミナー
- トレカ大会
- ダンス教室
などなど、毎日2〜3のイベントが入っていて、イベントがない日がないという埋まりっぷりなのです。
1週間のイベントリスト(10/24〜10/30)
イベントスペースは7か所もありますし、用はなくても立ち寄りたくなる「本屋」という業態もいいのでしょう。
お客さんも集まるし、イベントをしたい主催者も集まる好循環が起こっているようです。
その証拠に、先月9月のイベント開催数は、141回と過去最高を更新しました。1日あたり4つ以上のイベントが行われているのです。
オープンして5年ほどたっているのに、飽きられることなく、むしろお客さんが増えているというのは、かなりすごいことではないでしょうか。
「でも、成功しているのなら、他にもお店を出すのでは?」
そう思いますよね。
函館蔦屋書店は、2013年11月にオープンしたのでほぼ5年が経過していますが、このスタイルのお店が増えているわけではありません。
札幌市にあるTUTAYA美しが丘店や、福岡県の志免町(しめまち)にもオシャレな店舗を作っていますが、函館蔦屋書店ほど多くのイベントが開催されているお店ではないようです。
また、蔦屋書店の親会社であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、非上場企業なため、函館蔦屋書店の売り上げはわかりません。
そのため、「本当に上手くいっているのか?」と疑問な人も多かったのではないかと思います。
ですが、ようやくこのスタイルで、11月に札幌市の隣の江別市で2号店を出店します。
そして、うまくいけば、北海道内での店舗を10店舗まで増やす予定です。
2店舗目まで5年かかった理由とは?
おそらく、2店舗目を出すまでにこれほど時間がかかった理由は、「買い物目的でない人にも長く滞在してもらうことで、本当に儲かるのか?」を見極めるためだったのではないでしょうか?
フェイスブックやyoutubeなどのネットのサービスでは、「いかにそのサービスを長い時間使ってもらうか」が勝負だそうです。というのも、滞在時間が長いほど、広告主からの広告料が増えるからです。
しかし、フェイスブックは2004年に創業してから、黒字化するまで9年後の2013年までかかりました。youtubeもトントンになったのは2014年です。
ずいぶん時間がかかっているんですよね。
これと同じことをリアルの店舗で試したのが函館 蔦屋書店だったのでしょう。
「どうやって居心地のいい空間を作って、人に長居してもらうか?何度も来てもらうか?」を試行錯誤していたため、ここまで時間がかかったのではないでしょうか?
その結果が2店舗目の江別蔦屋書店のオープンだとしたら、期待大ですよね。
江別市でも、周辺に若い子育て世帯が増えるのは、間違いなさそうです。
函館 蔦屋書店がうまくいっているすごい仕組み
函館 蔦屋書店がこれほどイベント回数が増えている理由は、住んでいる人がイベント主催者としても参加しやすい仕組みにあります。
具体的には、
- 本屋という業態が、お客さんを集めやすい
- 土地代の安い郊外にあるので、お金にならないイベントスペースや居心地のいい空間を作っても採算がとれる
- そのため、住んでいる人が主催するイベントが増えて、イベント目当てで来るお客さんがさらに増えるという好循環が生まれている
という3つの要素が、うまく噛み合っているのです。
1、本屋という業態が、お客さんを集めやすい
例えば、洋服であれば、絶対に行かないお店ってありますよね。
それに対して、食料品スーパーや本屋という業態は、人を選ばないので、より多くの人を集められる特徴があります。
電子書籍が普及して、本の売り上げが下がって、本屋の数も減っていると言われていますが、デカイ本屋に行ってみると、かなり多くのお客さんがいます。
立ち読みもできるし、新しい本もたくさん出ているので、何となく時間をつぶすにはいいところですからね。
そのため、とにかくお客さんを集めやすいという強みがあるのです。
2、郊外にあるので、広くて居心地のいい空間を用意できる
郊外のショッピングセンターについつい行ってしまう理由って、空間が余裕を持って作られているので、ちょっと一休みしたい時でも、他のお客さんがあまりに気ならないことではないでしょうか?
ようするに、居心地がいいんだと思うんですよね。
函館 蔦屋書店も店舗の面積もかなり広いですし、しかも椅子や机まで用意されています。
図書館で新聞を読んでいるシニアの方って多いと思うんですが、そういった人たちもこういう場所ができたら来ると思うんですよね。
また、キッズスペースも充実しているので、若い家族連れが公園代わりに利用することも多いでしょう。
つまり、シニアから子供まで、幅広い世代の人たちが集まれる場所なのです。
3、住んでいる人が、気軽にイベントを開催できる
中心街の活性化策に、有名人を呼んで派手にイベントを行うところも見かけますが、人が集まるのはその時だけで、あとは使われずにガラーンとしているパターンが多いのではないでしょうか?
その点、函館蔦屋書店では、数人〜20人規模のイベントスペースがいくつもあるので、イベントを主催する人が気おくれせずに気軽に開催することができます。
つまり、個人の小さな商売でも、気軽にすることができるんですね。
イベントを開催する人が増えれば、その場所の魅力が高まります。
フェイスブックやyoutubeがこんなに人気なのも、普通の人がいろいろな投稿や動画をアップするから、見てて飽きないからじゃないですか?
それと同じことが、函館蔦屋書店でも起こっているのではないでしょうか。
つまり、
買い物や暇つぶしで人が集まる→イベントをする人が増える→イベント目的で来る人が増える→賑わっている楽しそうな雰囲気につられて人が来る・・・
という好循環を生み出しているのです。
コンパクトシティの大本命は、蔦屋書店かもしれない
現在、400以上の自治体が、「立地適正化計画」というコンパクトシティ政策の計画を作っています。
「これから人口が減少していく中で、行政サービスの予算も減っていきますから、街の中心部に行政サービスを絞るので、その近くに住んだ方が便利ですよ。」
というメッセージを込められています。
具体的には「居住誘導区域」と呼ばれるエリアを作って、そこに行政サービスや商業施設の誘致を進めていこうとしています。
立地適正化計画で、住む場所を中心部に集めたいのが自治体の本音
ですが、街の中心部に行政サービスや商業施設を集中させても、シャッター商店街に引っ越したいとは思いませんよね?
なので、多くの自治体のこの計画は、うまくいかないんじゃないかと思います。
だって、郊外のショッピングセンターに近い方が、買い物にもいろいろ便利ですから。
駅前にショッピングモールを誘致できるのは、人口30万人以上の大都市だけ
もちろん、一部の街では、駅前にショッピングモールができて、駅前の人口が増え、土地価格も上昇し、売り上げも増えている地域もあります。
例えば、
- 旭川市(34万人):旭川駅前にイオンモール
- 岡山市(72万人):岡山駅近くにイオンモール
- 大分市(48万人):大分駅前にアミュプラザ大分
などがそうですね。
(画像は新しくなった旭川駅 この反対側にイオンモールがあります)
ですが、これらの街は、全て人口30万人以上の大都市なんですよね。
人口規模が大きくないと、お金をかけても儲からないからでしょう。
実際、函館市にもそういう話がありましたが、人口が25万人と少ないため、駅前にショッピングモールができそうにありません。
全国にはそれ以下の街がたくさんありますし、ショッピングモールを誘致することで、市街地の活性化ができる街は、ほんの一部でしょう。
人口が少ない町でこそ、ライバルがいないから独占できるチャンスかも
一方で、中小の都市では、楽しめる商業施設が少ない分だけ、1つ人気のスポットができるとそこが独占できる可能性があります。
TUTAYAの他の店舗のイベント数を見てみると、ここまで多くのイベントをこなしている店舗はありませんでした。
特に大都市では、魅力的な商業施設も数多くあるため、参加者もイベントの主催者も集まりにくいからでしょう。
そう考えると、蔦屋書店のようなスタイルは、人口が多くない街でこそ、活用できる可能性がありそうですね。
ポイントは、
- 普段使いの買い物ができるお店
- 個人が主催できる規模の複数のイベントスペース
- キッズスペースやベンチなどの居心地のいい空間
の3つの条件を満たしていること。
より多くの人に、長い時間を過ごしてもらうことが目的ですから、土地代の高い駅前は向かないかもしれませんね。
ちょっと郊外の方がいいのかもしれません。
また、普段使いの買い物客がいくお店でないと人が集まりませんから、食品スーパーや、産直のある道の駅なんかが、同じような感じでやると人が集まりそうな気がします。
さいごに
このサイトでは、各市町村の土地価格と人口の動きを調べて記事にしているのですが、人口が増えている地区では、例外なくショッピングモールができたことが理由だったんですね。
ところが、函館市では蔦屋書店ができたことで人口が増えていました。
イオンモールなどに比べれば面積的にも店舗の数でも3分の1〜10分の1ぐらいの規模のお店が、1,000人以上の若い家族に家を建てさせるほどの魅力を持っていたことに驚いたのが、この記事を書いたきっかけです。
これからも日本の人口はどんどん減っていきますし、家を建てる人も減っていきますし、土地価格も下がっていくでしょう。
それは時代の流れなので、止めようがありません。
しかし、その流れは全国に等しく来るわけではなさそうです。
函館蔦屋書店のような魅力的なお店ができてくれば、周りに人が移り住み、新しい街の中心部として、にぎやかさを取り戻す時代が来るかもしれませんね。
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