この記事では、「南海トラフ地震と不動産価格への影響について」解説していきます。
先日、宮崎県の日向灘沖を震源とする、大きな地震がありました。
日南市では、震度6弱の大きな揺れとなり、気象庁は今後1週間は、巨大地震が発生する可能性が高まっているとして、南海トラフ地震情報の「巨大地震注意」を初めて発表しました。
マグニチュード7以上の地震発生後、7日間以内に大きな地震が来る可能性は、平時に比べて高くなるということで、今回の注意喚起となったようです。
その後、1週間を経過して、注意喚起は解除されました。
詳しい内容は、気象庁のHPにありますので、気になる方は、概要欄にリンクを貼っておきますので、そちらをチェックしてください。
というわけで、本題です。
1、南海トラフリスクで下落しているエリアとは?
まずは、ここ数年の土地価格の動きから、南海トラフ地震へのリスクから、価格が安くなっているエリアの傾向を見ていきたいと思います。
そもそも、南海トラフ地震が、なぜこれほど心配されているのか、について、簡単に解説します。
南海トラフ地震について、騒がれ始めたのは、2011年の東日本大震災以降です。
あの地震で、地震による被害に対する意識が大きく変わったことが影響しているのでしょう。
内閣府の中央防災会議が、「南海トラフの巨大地震モデル検討会」を設置し、もし、南海トラフ地震が起きた場合に、どれぐらいの被害が想定されるのかをシミュレーションしています。
こちらが、南海トラフ地震が起きた場合の、想定される震度です。
(参考:気象庁「南海トラフ地震で想定される震度や津波の高さ」)
静岡から宮崎まで、かなりの広範囲で、オレンジ色や赤色、つまり震度6~7の地震が予想されています。
今回の震度6弱の地震があった日南市も、まさにこの範囲に入っています。そのため、今回、気象庁では、注意喚起を出しているわけですね。
で、このような想定が、2012年ごろに作られたことで、各自治体でも堤防を強化するなどの、津波対策、高潮対策が進められています。
こちらの写真は、高知海岸のものですね。堤防の強化がされています。
また、テレビや新聞のニュースでも、定期的に南海トラフ地震に対する注意喚起が、されていますよね。
私は埼玉に住んでいるので、南海トラフ地震について目にする頻度は少ないですが、それでも、テレビのニュースで見かけることはあるので、対象となる地域にお住まいの方であれば、もっと頻繁にご覧になられているでしょう。
このような情報を何年も見ていれば、当然ですが、土地価格にも影響が出てきます。
南海トラフ地震のリスクのあるエリアを中心に、海岸に近いエリアでは、土地価格の下落が続いています。
市町村別に見る、土地価格への影響
具体的に見ていきましょう。
2018~23年までの土地価格を色分けしたものです。
①静岡市
茶色の矢印のマークが、10%以上の下落をしている地域です。だいたい、沿岸部に集中していることがわかりますね。
一方で、赤色の上昇しているエリアは、静岡駅周辺のような、市街地の中心部になります。
②浜松市
こちらも、浜名湖と海岸線に近いエリアで、10%以上の下落をしていますね。
③三重県津市
津市も、沿岸部で紫色のマークが目立ちますね。
④三重県志摩市
中心部でも大きく下落していますが、沿岸部も軒並み2割近い下げをしていました。
⑤和歌山県和歌山市
こちらも、中心部では上昇しているものの、沿岸部では、10%以上の下落をしている、紫色のマークが目立ちます。
⑥和歌山県田辺市
田辺市も、沿岸部で1割近く下落をしており、内陸部で上昇していますね。
不動産鑑定士による、工事地価の鑑定評価を見てみると、やはり津波リスクを嫌って、内陸部に家を移す人がけっこういるようです。
⑦高知市
以前に、高知市在住の方から、「新しい商業施設ができたけど、あのあたりは南海トラフで危ないから、地元の人は買わないよ」という内容のコメントをいただいたことがあります。
上昇しているエリアは、いずれも住宅地なのですが、内陸部の津波リスクがなさそうな場所なのも、そのような意見の表れなのかもしれません。
⑧宮崎市
宮崎市でも、上昇しているのは、中心部に限られていますね。
沿岸部に近いエリアほど、紫色のマークが目立つようになっています。
⑨名古屋市
名古屋市も、南海トラフ地震では、震度6以上が想定されていますが、下落しているのは、農地が多く残っている、中川区であり、沿岸部に近い南区や港区でも、若干ですが、上昇しています。
以前は、これらの区でも下落していましたが、ここ数年の土地価格の上昇の影響もあって、多少の連れ高が起こっているようです。
⑩神奈川県藤沢市
神奈川県は、南海トラフの影響が小さいということもありますが、リモートワークが増えたことで、都心から離れて生活したい人に人気なこともあって、沿岸部の土地需要は強いようです。
海水浴する人も10分の1に
また、ちょっとタイムリーな記事ですが、海水浴を年に1回以上する人の数は、ピークの10分の1にまで減っているようです。
少子高齢化が進んでいるとはいえ、10分の1にまで減っているということは、海の近くに住むことに、魅力を感じる人が減っているのかもしれませんね。
人気がまだ衰えていないのは、湘南エリアぐらいなのかもしれません。
2、沿岸部の土地価格が下落している、2つの理由
沿岸部の土地価格の下落が起こっている理由として、南海トラフ地震を心配する人が増えた、ということもそうですが、それ以外にも2つほどあります。
(1)行政による規制
1つ目は、行政による規制の影響です。
国土交通省の指導によって、人口減少に悩む自治体を中心に、「立地適正化計画」と呼ばれる都市計画の作成が進んでいます。
これは、簡単にいうと、
「これから人口が減っていくから、道路や上下水道、電気や学校、病院などのインフラの維持・管理費用を抑えるために、人口の多い中心部に移住させましょう。」
というものです。
今年に入って、路線バスの減便や縮小が加速していますが、それに対して、補助金などの支援を増やす、と言っているところがほとんどないのは、全域をカバーしていた行政サービスの縮小は、以前からの既定路線のところも多いからなのでしょう。
この計画が沿岸部の土地価格とどう関係があるのかというと、津波リスクなどの災害リスクが高いエリアでの、業者による建設は届出制になっている点です。
つまり、建売住宅を沿岸部に建てにくくなっているのです。
そのため、個人が沿岸部に土地を買って家を建てることは可能ですが、「よその人が建売を買って住む」ということのハードルが、かなり高くなっているんですね。
(2)若い世代が、大都市へ移住
2つ目が、地方から若い人が、都市部へ移住していることです。
進学率が高まってきていることもあって、地方県から東名阪などの、大都市への移住者が増えています。
例えば、こちらは静岡市と和歌山市の、年代別の転入超過数です。
転入超過数とは、市外から引っ越してきた数から、出ていった数を引いたものです。
ご覧の通り、15~29歳の青色の部分が、毎年マイナスになっていることがわかりますよね。
つまり、若い世代が減っていることで、そもそもの住宅需要が減っているわけです。
このように、震災リスクに加えて、行政による規制と、買い手の減少もあって、沿岸部の土地価格の下落が止まらないわけです。
まとめ
というわけで、南海トラフ地震リスクと、沿岸部の土地価格の動きを見てきました。
南海トラフ地震は、90年から150年ぐらいの周期で起こっているということもあって、すでに前回から80年経っている今、震災リスクは日に日に高まっていると感じている人は増えているようです。
特に、行政の方では、危機感が強いようですので、今回のような注意喚起が起こっているわけですしね。
今回の地震が、次の大地震を誘発しないことを願うばかりですが、沿岸部にお住まいの方は、せめて、いざという時のために、避難できるような準備をしておいた方がいいでしょう。
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