この記事では、「日米首脳会談で見えてきた、新しい経済システム」について、考察していきます。
1、はじめに
2月7日に、日米首脳会談がホワイトハウスで行われました。この模様は、youtubeでも、ニコニコ動画などで生中継されて、多くの方がコメントともに、リアルタイムで視聴されていました。
私は、リアルタイムで見たわけではありませんが、質疑応答も含めて、一通り拝見しました。
ニコニコ動画のコメントでは、「石破はなんか喋れよ」とか、「石破は居心地悪そう」とか「トランプはこういうの慣れてるな」とか、まあ、いろいろと流れてきてました。
こういうフォーマルな会談の模様は、NHKとかで見ても、面白くありませんが、コメント付きだと、いろいろと突っ込んでくれるコメントが流れるので、退屈せずに、私も最後まで見ることができました。
このチャンネルでは、先月にこれらの動画を作成しています。
内容は、今回の首脳会談は荒れるぞ、というものだったのですが、実際の会見は、スムーズに進みました。
では、この動画での予想はハズレだったのか?というと、そうでもありません。
今回話された内容は、日本での今後の増税の可能性を示唆するものであり、額面通りに捉えれば、「トランプに脅されて、マータ日本は搾取されていくんだな。終わりだよ、この国」みたいな印象を持つ人も多いと思います。
ですが、本当にそうなのでしょうか?
今回の記事では、この日米首脳会談で発表されたことと、その意味について考察していくわけですが、最初にこの記事のお題でご紹介したように、今回の会談は、日本の独り立ちをされられたイベントだったと解釈しています。
その理由について、これから詳しく解説したいと思います。それでは、参りましょう。
2、完全敗北だった?日米首脳会談の内容
まず最初に、日米首脳会談が始めに、トランプ大統領が、石破首相と仲良く撮影した写真を披露しました。そして、その後に、Save Americaというトランプ大統領の写真集を石破首相に手渡されています。
この意味について、解説します。
以前の動画で詳しく解説したのですが、今回の日米首脳会談に至るまでの道のりは、かなり紆余曲折があります。
11月6日にトランプ氏が当選確定し、翌7日に石破首相が、トランプ氏に祝意の電話と共に、早期の会談をオファーしたのですが、就任前の会談はしないと断られています。
その後、12月15日に、安倍元首相の奥さんの昭恵さんが、トランプ氏と面会し、翌16日には孫さんとトランプ氏の面会がありました。石破首相は断られ、昭恵さんと孫さんが会ったことで、石破首相の優先順位の低さが露呈しました。
しかし、その後にトランプ氏から石破首相に1月中旬にやろうか?とオファーがあり、なんと石破首相は断っているのです。
その理由について、考察しているのが、先月出した動画です。石破首相が断った理由は、昭恵さんがトランプ氏から石破首相宛にと、手渡された書籍だと考えています。
昭恵さんの奥さんの安倍元首相も、トランプ氏も銃撃事件に巻き込まれており、その警備の杜撰な点が共通することから、政府に近い人たちの関与が疑われています。
そのようにして倒れた安倍元首相の奥さんとトランプ氏が会談しているとなれば、心当たりのある政府関係者にとっては、相当に怖いことです。
しかも、何の書籍が送られたのか?おそらく、トランプ氏からの怖いメッセージが込められているだろうと考察していました。
そして、これは単に当てずっぽうでなんですが、どんな書籍が送られたのか?についても、予想してました。それが、こちらのSave Americaの写真集です。
ご覧の通り、表紙は、7月の銃撃事件の時のものです。
これが昭恵さんを通じて、石破首相に送られていたとしたら、「俺は銃撃事件で生き残ったけど、安倍さんは死んだ。俺は絶対に忘れてないからな。」みたいなメッセージとして、受け取ってしまうじゃないですか?
そんなことを思っていたら、今回の会談の最初で、この写真集が石破首相に手渡されているじゃないですか?
しかも、この会談の中で、トランプ氏はしきりに安倍元首相との仲が良かったことについて、何度も強調して話をしています。
これは完全に私の妄想ですが、この写真集は、昭恵さんから手渡されたものと合わせて、2冊目ではないかと思います。
そして、トランプ氏と安倍元首相との仲が良かったことについて発言することで、公の場で、「俺は日本の弱みを握ってるぞ。」とアピールした形になったように見えました。
今回の日米首脳会談で決まった内容
なので、今回の首脳会談で話された内容は、アメリカに一方的に有利な条件のものが多かったように見えます。
発表されたことを挙げていくと、
- 貿易赤字が問題だと認識しており、相互関税を検討中
- アメリカからLNGを輸入する
- 日本の防衛費を2027年までに、第1期トランプ政権時の2倍に引き上げる。そして、アメリカの兵器を購入する
- 尖閣諸島も日米同盟の中に入れる
- 日鉄のUSスチールへの買収はさせないが、投資ならOKとする
- クアッドなどの各国との連携した軍事同盟を活用しながら、中国の進出を防いでいく
- 日米で、北朝鮮の非核化を推進していく
- 対米投資を2割以上増やして、1兆ドル規模にする
などです。
日本の防衛費を2027年までに、トランプ政権第1期の2倍に引き上げる、ということについては、すでに2022年に岸田政権の時に決定しており、目新しいものではありませんが、この点についても、きっちりと念押しされていました。
日本のGDPの2%まで引き上げるということなので、約12兆円へ増額ということですが、2024年度は約8兆円なので、あと4兆円ほど上がる計算になります。
それ以外にも、対米投資を1兆ドル規模に増やすとか、どんどん日本からアメリカにお金が流れていくようなイメージしかありません。
それに加えて、相互関税を検討するということですので、全体に印象としては、
「金は稼ぎにくくなる割には、出費はどんどん増えるばかり」という感じですかね。
特に、軍事費を2027年までにさらに4兆円増やすとなれば、増税の話も出てくるかもしれません。
国民目線で見ると、「安倍元首相の銃撃事件の件で、脅された日本政府が、トランプからのムチャクチャな要求を飲まされたという、完全敗北の首脳会談」という見方に、なってしまいそうな気がします。
3、見えてきたアメリカの新しい経済システム
ですが、トランプ政権のこれまでの動きや、その基本方針を考えると、今回の首脳会談は、確かに日本にとっての負担は大きいものの、ただただ貧乏になっていく、絶望的な未来しか見えない」というわけでもないような気がします。
ポイントは、大きく2つあります。
(1)取引関係の変化
1つ目は、取引関係の変化です。
今回の首脳会談で話された問題の一つに、日米の貿易赤字があります。
この点については、これまで何十年と言われてきたことなので、目新しいものではありませんが、注目すべきは、その解消方法が具体的だったということです。
日本はアメリカに対して、電子部品や自動車の輸出を行って、米ドルを稼いでいます。
それに対して、これまでの日米の貿易交渉は、アメリカの牛肉を買えとか、半導体を買えとか、そういった形で、貿易赤字を減らすような圧力がありました。
ところが、今回のトランプ政権は違います。
兵器やLNGなどのエネルギーを日本に輸出することで、日本から輸出した分を完全に相殺しようとしているのです。
トランプ氏は、今回の会談で、アメリカがLNGを日本に輸出できるようになれば、貿易赤字の問題も簡単に解消できるようになるだろう、と述べています。
基軸通貨の否定をし始めたアメリカ
この貿易赤字を減らすということと、相殺することの違いとは、何でしょうか?
それは、現在の米ドルを中心とした基軸通貨制度の否定です。
ざっくりいうと、これまでは日本は必死になって自動車を売って、代わりに米ドルや米国債という紙切れをもらってきました。
ですが、今回のトランプ政権は、自動車を売ってくれるなら、代わりに武器やLNGガスをやるよ、ということなのです。
この点について、もう少し詳しく解説します。
私はこれまで、アメリカは現在の基軸通貨システムを捨てるだろうと、何度も動画で語ってきました。
現在の米ドルを中心とした基軸通貨システムは、ペトロダラーと呼ばれるように、世界中の国々が、ドルでしか買えない原油などの天然資源を手に入れるために、アメリカに必死にモノやサービスを売り込む経済システムとなっています。
これに加えて、各国が溜め込んでいる米ドルを米国債を買わせることで、アメリカに戻ってくるようにすることで、米ドルが世界中をぐるぐる回るようにしているのです。
なので、貿易赤字について、問題だと首脳会談で俎上に上げても、日本がアメリカに対して、貿易黒字が続く状況は変わりませんでした。その代わりに、日本が儲けた米ドルは、米国債という形でアメリカに流れるというシステムになっていたわけです。
つまり、金融業は儲かっても、他の国からの輸出品に製造業などの産業が負けてしまい、雇用が増えないシステムなのです。
しかし、今回のトランプ政権は、国内に工場を誘致して、製造業の雇用を増やすことで、多くの国民に高賃金の仕事を提供し、経済を豊かにしようとしています。
例えば、各国に関税をかけようとしていますが、これなんかも、米ドルを海外に垂れ流すことをやめて、国内に工場を戻すことを目的としています。
財務長官のベッセント氏も、関税をこのように捉えています。
なので、これまでのように、どんどん赤字を垂れ流すことで、米ドルを世界中に流通させてから、米国債や株式投資という形で、アメリカにお金を戻すやり方を止めようとしているのです。
今回のLNGの輸出や、兵器を買えという、トランプ大統領からの提案は、まさにそのようなルール変更と見ることができるでしょう。
(2)USスチールは、買収ではなく投資
2つ目は、USスチールの買収ではなく、投資を求められている点です。
買収の場合、経営権は日本製鐵が持つことになりますが、投資であれば、経営は現在の経営陣が行うことになります。
トランプ政権は、関税を活用して、国内産業の復活を公約に掲げていますから、自由貿易ではなく、保護貿易的な政策をとることになります。
この政策を突き詰めていくと、最終的な目標は、「自国で作れるものは自国で作る。そして、海外から必要とされるものを輸出し、自国で作れないものを輸入する」という、経済の形になると考えられます。
今までの自由貿易的な発想だと、たとえば、洋服を自国で作れるとしても、海外で作れるのならば、海外から輸入する、ということが、企業が利益をあげていく上では正解でした。
ですが、それをやってしまうと、他に国に負けてしまう産業は、その国から無くなりますし、産業が育つこともありません。
また、その国での上がった利益は、その会社のある本国に持っていかれてしまいますので、一部の人しか儲かりませんので、格差も拡大し、社会が不安定になります。
トランプ政権が、今回のUSスチールと日本製鐵の取引について、買収ではなく投資という形で、技術支援などをしてもらいたいと言っています。
これは、これからの国の経済の形が、世界的な大企業に買収された、大企業の支社だらけの経済ではなく、小さくても、ナショナルブランドを維持することで、なるべく多くの社員を雇用していくという形になるのではないでしょうか?
BRICS諸国でも、途上国を発展させるために、似たような考え方で進められている
実は、このような発想は、何もアメリカだけのものではなく、現在拡大を続けているBRICSでも、行われています。
こちらの記事は、ロシアのラブロフ外相がインタビューで答えているものです。
この記事によると、コーヒー市場のほとんどは、アフリカで栽培されているのに対して、アフリカが得ることができている利益は、そのうちの2割しかないというのです。
これは、コーヒーが顧客に最終的に届くまでに必要な、最終製品への加工、焙煎、包装、販売などを欧米の企業がほとんど独占しているからです。
なので、ロシアは、アフリカ諸国がこのような状況から抜け出すために、なるべく自前で産業を起こせるような支援を行っています。
たとえば、ロシアはアフリカ諸国に肥料を輸出していますが、肥料の原材料はアフリカ諸国にもあります。なので、技術支援を通じて、自国で肥料を生産できるようにしようとしているそうです。
発想的には、日本製鐵とUSスチールの今回の交渉も似ていると思います。
買収してしまえば、工場設備や技術は日本製鐵のものが導入されるため、生産性は上がるでしょう。ですが、利益の多くは、日本製鉄に持って行かれてしまいます。
しかし、投資であれば、経営権はアメリカに残りますから、その後に復活すれば、その利益の多くはアメリカ国内に還元されます。
なので、トランプ氏としては、日本製鉄に対して、「株主としての比率を上げる投資に留めてくれ。そして、技術支援もしてくれ。儲かったら、株式の持分だけ利益を分配するから、それでいいじゃないか」という取引を持ちかけているのでしょう。
4、基軸通貨をやめて、どうするつもりなのか?
というわけで、今回の日米首脳会議で私が重要だと感じたポイントを2つご紹介しました。
この2つのポイントから導かれることは、アメリカという国が、世界中にドルをばら撒いてきた基軸通貨システムをやめて、アメリカが買ったのと同じ分だけ、アメリカの商品やサービスも買ってもらう、という、モノやサービスの等価交換のような関係に変わっていくということです。
これは、1944年にブレトンウッズで議論された、ケインズのバンコール案に近いものになっていると感じます。
第2次世界大戦の勝敗が見えてきて、戦後の通貨体制を話し合っていた際に、イギリスの経済学者であるケインズは、「一つの国の通貨が、世界中で使われる通貨体制は、いずれ世界経済を崩壊させて、戦争を引き起こすから、もうやめよう」ということで、バンコールという仕組みを提案しました。
これは、それぞれの国の貿易赤字または、貿易黒字が増えすぎないように、調整する仕組みで、赤字が増えすぎたら通貨を安くして輸出しやすくして、黒字が増えすぎたら、儲けの一部をペナルティとして国際機関に預ける、というものでした。
今回のトランプ政権の動きは、これをアメリカ1国で行っているように見えます。
実際、先日、EUに対しても関税をかけると発言していましたが、イギリスにはかけないと言っていました。
現在のイギリスの政権は、カマラ・ハリス氏を当選させるために、100名の政府職員をアメリカに送り込んだ、トランプ大統領から見れば、敵もいいところの政権です。ところが、イギリスに報復できるチャンスなはずなのに、関税をかけないと言っているのです。
その理由は、アメリカはイギリスに対して、貿易黒字だからでしょう。
イギリスと貿易で儲かっているのに、関税をかけて、わざわざ怒らせる必要なないと考えていると思われます。
米ドルを外貨準備として持つ必要性は、今後低下していく
そして、アメリカがこのようなルールで、貿易関係を変更していくとすると、今後は米ドルを外貨準備として持つことの必要性も下がってくると思われます。
今までは、米ドルを世界中に米ドルをばら撒いて、世界各国で使わせながら、その一部を米国債を購入させることで、アメリカに戻すようにしてきました。
ですが、これからアメリカは、なるべく自国でものを作るようになっていきます。
安いからという理由で、海外から買ったものも、国内で作るようになるため、海外との貿易量は減っていくでしょう。
そうすると、アメリカにものを売れない国は、米ドルを稼ぐことが難しくなります。
特に原油は、ドルがなければ決済できないと言われていましたが、最近は、サウジアラビアもドル以外の通貨で決済するよと言ってますし、ロシアはドル決済から排除されていますので、これらの国との貿易を増やすと思われます。
トランプ氏は、就任前に、ドルを使わないBRICS諸国には、100%の関税を課すと脅していましたが、「ドルは渡さないけど、ドル以外使うな」という脅しは、無茶苦茶ですよね。
むしろ、「さっさとドルを使わない経済圏を作ってくれ」というメッセージと捉えた方がいいでしょう。
このような動きが進めば、アメリカから何か買いたいものがある国は貿易するけど、そうでなければ貿易する必要がなくなるはずです。
だったら、いざという時のために、米ドルをため込んでおく必要もなくなってきますよね?
現在、日本は現在、外貨準備として、約9,200億ドルの証券を持っています。この大半が米国債と考えられますので、約140兆円近くもあります。
昨年、財務省は4月、5月、そして7月に、円買い介入を行いました。円安がどんどん進んでおり、国内の物価が上がり続けていたためです。
特に7月の円買い介入は効いて、8月にかけて、140円近くまで円高が進みました。
もし、米ドルを外貨準備として溜め込む必要性が薄れてくるのであれば、今ある140兆円近くの米ドルも必要なくなりますので、円買い介入がさらに進みやすくなるのではないかと思います。
今回の首脳会談で、このような話がされたのかは分かりませんが、今後円買い介入が行われるようであれば、本格的な円高が進むのではないかと予想されます。
この辺りの進展については、今後も為替関係の動画を作成しつつ、追いかけていこうと思っています。
というわけで、今回の日米首脳会談で見えてきた、経済システムのルール変更の動きについて、考察してきました。
この仮説が本当に進むのか?については、今後のアメリカによる、各国に対する関税の掛け方や、各国との首脳会談などから、さらに全貌が見えてくると思いますので、ある程度、情報が溜まってきたら、この進捗について、ご報告したいと思います。
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