立地適正化計画とは何か?売れなくなる不動産の見分け方 | イエ&ライフ

立地適正化計画とは何か?売れなくなる不動産の見分け方

立地適正化計画 オリンピック後の日本

この記事では、現在200近くの市町村が作っている「立地適正化計画」について解説していきます。

 

立地適正化計画とは、簡単に説明すると、

「自治体が使えるお金が減っていくので、公共サービスを維持するエリアを決めて、そのエリア内に居住を誘導する計画」

のことです。

 

この誘導するエリアのことを「居住誘導区域」と呼びます。

誘導するといっても、ムリヤリ引越しをさせるという意味ではなく、エリア「外」の公共サービスをどんどん縮小していくことで、「中心部に移り住んだほうがいい」と思わせるように誘導するのです。

 

(立地適正化計画のイメージ)

立地適正化計画のイメージ

(参考:国土交通省 立地適正化計画のパンフレット)

 

公共サービスの兵糧攻めのようなイメージかもしれません。

この立地適正化計画によって、これからの生活は大きく変わっていくでしょうし、もちろん土地価格にも大きな影響を与えます。

 

そこで、この記事では、

  1. 具体的に、自治体ではどんな感じで立地適正化計画を行なっているのか?
  2. どんな人がこの計画で損をするのか?
  3. 家を買うなら、売るなら、どんなことに気をつけるべきか?

の3点について、詳しく解説していきたいと思います。

 

「売りたい」「買いたい」または「リバースモーゲージを利用したい」といった方にとって、役立つ情報となるはずです。

 

1、立地適正化計画の具体例について

最初に立地適正化計画について、もう少し詳しく説明して、イメージをふくらませてもらいたいと思います。

 

(1)どんな場所が、エリア「内」となるのか?

先ほどのイメージ図をご覧いただいた通り、「駅」や「役所」が街の中心部として設定されます。

 

(再掲)立地適正化計画のイメージ

立地適正化計画のイメージ

(参考:国土交通省 立地適正化計画のパンフレット)

 

上の図の通り、立地適正化計画では2つのエリアを設定します。

  • 居住誘導区域(青いエリア):主に住宅地
  • 都市機能誘導区域(赤いエリア):主に商業地

の2つです。

 

都市機能誘導区域には、病院や役所などの公共サービスや銀行などの商業施設を集めていきます。

そうして機能を充実させることで、その周辺に住む人が「歩いて」利用できるような街づくりを目指そうというわけです。

 

では、逆にどのようなエリアが、エリア「外」となるのでしょうか?

何十という自治体の立地適正化計画に目を通してみましたが、ほとんどの自治体が共通の基準を持っていました。

(国が主導する政策ですので、当たり前といえば当たり前かもしらませんが。)

 

エリア「外」となる地域の特徴

  1. 災害の危険性のあるエリア
  2. 市街化調整区域
  3. 工業地帯
  4. 中心部から外れた飛び地の市街化区域
  5. 駅やバス停から500〜800m以上離れたエリア

の5点が、エリア外となっている地域の特徴です。

 

基本的には郊外のエリアが対象外になるわけですが、それ以外にも都市計画で工業用に指定されている地域や、河川や海に近いエリアも外される傾向にあります。

 

このエリア設定では、事前に自治体の方で「案」を作成して、市民への説明会やホームページでの意見収集などを行なっています。

なので、自治体の方で適当に決めているわけではなくて、住んでいる市民が納得できる理由をもとに作られています。

 

人口規模別のエリア設定の具体例

ここまで、一般的な解説ばかりだったので、各自治体が具体的にどんな感じでエリア(居住誘導区域)を設定しているのか見ていきましょう。

 

①政令指定都市クラス(人口100万人超):名古屋市の例

人口100万人以上の政令指定都市の中では、名古屋市、札幌市、北九州市がすでに計画を作っています。

ここでは、名古屋市を取り上げます。

 

名古屋市の立地適正化計画図

名古屋市の立地適正化計画

(名古屋市 なごや集約連携型まちづくりプランについて)

 

青色の太線で囲まれたエリアが、居住誘導区域です。市内のほぼ全域にわたって、居住誘導区域が設定されています。

エリア外になっているのは、港や工業地帯の周辺と河川や丘の周辺ですね。

 

この5年間で県内県外から名古屋市に人が移り住んできているため、人口密度が低いエリアはほとんどありません。

そのため、エリア「外」として設定できる範囲が限られているのです。

 

ただし、今後人口が減少してきた際にも対応可能なように「郊外市街地(黄土色)」というエリアが、居住誘導区域内に設定されています。

このエリアは、駅やバス便から遠いエリアなため、車がないと不便なエリアです。

高齢化と人口の減少が進んでいく何十年後かに改めてエリアを設定し直す場合には、このエリアが対象外となってくる可能性はあるでしょう。

 

②県庁所在地クラス(人口50万人超):熊本市の例

熊本市の立地適正化計画

(参考:熊本市立地適正化計画(平成28年4月))

 

こちらは熊本市の立地適正化計画です。

赤色の斜線のエリアが、居住誘導区域になっています。

 

熊本駅のある市の中心部は、地図上の真ん中あたりなので、そこから放射状に居住誘導区域が伸びています。

鉄道やバス路線からの距離に応じて、エリアが設定されているからです。

 

また、立地適正化計画は、基本的に市街化区域内の線引きで行われる計画ですので、市街化調整区域(農地が多く、宅地を作るのが難しいエリア)は対象外です。

 

上の熊本市の地図は空白が多いのは、そのエリアが市街化調整区域だからなんですね。

 

③中規模都市(人口30万人超):大阪府枚方市の例

人口30万人規模となると、地方の県庁所在地や大都市圏の郊外エリアの自治体が多くなります。

今回は、大阪市のベッドタウンの枚方市を例に見ていきたいと思います。

 

枚方市の立地適正化計画図

枚方市の立地適正化計画

(参考:枚方市 立地適正化計画)

 

青色のエリアが居住誘導区域になります。

そして、黄色のエリアが「居住環境保全区域」と名付けられていますが、ようするに今回の計画で外されたエリアのことです。

 

枚方市は2010年に人口がピークをうって減少し続けているため、人が少なくなっている地域も増えているのです。

 

そのようなエリアでは、このような名前をつけて、「エリアからは外れますが、何らかの配慮はしますよ」という姿勢を見せているのです。

具体的には、公共バスがなくなった後に、民間の乗合バスを走らせるとか、そういったことになるでしょう。

 

このクラスの都市では、人口が減少に向かっている地域もあるため、エリア「外」の設定が市の中心部にまで及ぶことがあるのが特徴です。

 

④中小都市(人口10万人以下):西条市の例

このあたりから、政策的に難しい自治体になっていきます。

地方の市町村が合併したところが多く、市の中心部もバラバラでシャッター街になっているところも多いため、「本当に中心部に人が移り住んでくるのか?」と疑問もあります。

 

とりあえず、このクラスの自治体の設定の仕方を見てみましょう。愛媛県の西条市(人口約10.8万人)を例にとります。

 

西条市の立地適正化計画図

西条市の立地適正化計画

(参考:西条市 立地適正化計画)

 

青色の線が居住誘導区域です。

市内のほんの一部しか設定されていない点が特徴です。

 

地方の自治体では、駅を中心に人を集めようにも、その駅に電車が1時間に1本しか走っていない場合もたくさんあります。

そのため、郊外のロードサイドやショッピングセンターで買い物をする人が多いため、駅の周辺にエリア設定をしても人が集まってくるのか微妙なところです。

 

また、この人口クラスの自治体は税収も少ないため、路線バスを維持させる費用もなかなか作れませんから、自然とエリア設定も狭くなってしまうのです。

 

2、どんな人が、この計画で損をするのか?

「立地適正化計画によって、エリア『内』と『外』に分けられてしまったら、『外』の人は損をするんじゃないのか?」

と思いますよね?

具体的に、どのような損することが起こるのか、まとめてみましょう。

 

公共サービスが削られることで、生活が不便になる

エリア『外』に住んでいる人は、徐々に公共サービスが削られていくはずですから、今以上に不便を感じることになるでしょう。

例えば、子供が少なくなっている自治体では、保育園や幼稚園、小学校などの統廃合が進んでいますよね。

 

廃校した小学校

 

わたしの実家も町内にあった7つの小学校が1つに統合されて、子供は6km以上離れた学校にバスで通っています。

子供が急病やケガをした時など、車がなければ迎えにいくこともできませんし、休日に学校で遊ぼうと思っても、遠すぎて行けません。

 

このように公共サービスの削減によって困ることはたくさんあるわけですが、1番困るのは車に乗れない高齢者の方でしょう。

病院通いもタクシーを使うしかありませんし、買い物をするにも、ネットも自由に使える人は少ないでしょうし、「買い物難民」という言葉がありますが、この言葉が今以上に問題になっていくはずです。

 

「3戸以上の住宅分譲」や「商業地の新設」は届け出制に→土地価格は下落

届け出

エリア『外』で不動産会社が3戸以上の住宅を分譲しようとしたり、スーパーなどを新設しようとした場合に、自治体に届け出をしなければいけなくなりました。

そのため、暗にプレッシャーを受けたり、建築許可をもらえなかったりすることもあるかもしれませんので、そのエリアが今後賑わっていく可能性は、ほぼ無くなります。

 

郊外の道路

 

こうなると、買い手となる若い人たちも、親御さんが近くにいるといった理由がない限りは、そこで家を建てようとは思わなくなるでしょう。

土地価格は下落しますし、売るに売れなくなる可能性も出てきます。

 

3、家を「買う」「売る」場合に、気をつけるべきこと

以上のことを踏まえて、家を「買う」または「売る」場合には、どんな点に気をつけるべきでしょうか?

 

買う場合には、必ずエリア「内」でなければいけないのか?

疑問

 

この点について考える前に、

「立地適正化計画を作った自治体では、必ずエリア「内」に住んだ方がいいことがあるのか?」

という、そもそもの疑問について検討したいと思います。

 

わたしはこの記事を書くために、現在約200ある立地適正化計画のうち、50ほどの計画を調べてみたのですが、

「計画を作っても、効果ないんじゃないの?」

と疑問に思う自治体がけっこうあったんですよね。

 

例えば、青森市も中心市街地の活性化のために、「アウガ」という商業施設を駅前に作ったんですが、お客さんが思うように集まらなくて2001年にオープンしたものの赤字続きで、ついに2017年に閉館してしまいました。

(参考:アウガ・ショッピングフロア、2017年2月28日閉館へ)

 

青森駅前に作られた商業施設アウガ

アウガ

(画像出典:ウィキペディア Angaurits, アウガ)

 

理由はおそらくシンプルで、

「イオンモールよりも魅力的な施設を駅前に誘致できなかったから(負けた)」

ということなんです。

 

そして、この理由に対抗できる自治体がどれだけあるのか?が疑問なんです。

 

日本全国を見渡しても、人が増えているエリアは、

  • 人口の増えている大都市
  • ショッピングモールの近く
  • 大企業の工場や本社の近く
  • 県庁所在地の中心部
  • 県庁所在地の隣町で土地価格が安い場所

のいずれかです。

 

自分の家を引き払って中心部に移ってもらおうとするわけですから、よほどの理由がないと難しいはずですよね。

しかし、このような市街地の活性化策は、かなり人口規模の大きい都市でなければ難しいでしょう。

 

駅前を活性化できる商業施設を呼べるのは、40万人以上の都市

大分市

(*大分市の駅前の風景)

 

青森市は人口30万人ぐらいで失敗してますから、おそらく40万人以上必要です。

実際、この数年で駅ビルに商業施設「アミュプラザ」を作っているJR九州では、大分市、長崎市の売り上げが好調ですが、どちらも人口が40万人を超えています。

 

そうすると、地方では県庁所在地レベルの都市でなければ、エリア「内」に住むことでのメリットを感じられないのではないでしょうか?

それ以下の人口の都市のエリア「内」では、郊外のイオンモールに負けてしまうので、公共サービスは充実しても、肝心の買い物が不便なエリアになってしまう可能性が高いでしょう。

 

30万人以下の都市で成功している例は?

ですが、最近調べている中で、本屋ができただけで周りの人口が1,000人以上増えた町を見つけました。

今後の中小の自治体が生き残るヒントが、この中にあるかもしれません。

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この記事を書いた人
ゴトウ

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