今回の記事では、「エマニュエル・トッド教授の新刊『西洋の敗北と日本の選択』のご紹介と考察」ということで、やっていきたいと思います。
1、はじめに
このサイト(チャンネル)では、国内外の政治、経済、マーケットなどについて、あれこれ解説していますが、特に政治については、ひねくれた見方で、多極化していく世界の今後について、考察しています。

その際に、何度もご紹介させていただいているのが、エマニュエル・トッド教授の書籍や家族人類学による社会分類です。
特に、トッド教授の前作の「西洋の敗北」(アマゾンに飛びます)は、書店でもかなり売れてるようですし、以前ご紹介した時の動画も結構見ていただきました。
ただ、前作の西洋の敗北は、昨年11月に発表されたもので、トランプ政権が当選する前の欧米についての考察となっていました。
今年1月から発足したトランプ政権は、おそらく、ほとんどの人にとって、予想を遥かに上回る、または遥か斜め上をいくような展開になっていると思われます。
今回ご紹介する新刊は、そのようなトランプ政権のあれこれやってきたことを踏まえたものとなっており、さらに、新しいテーマの考察もあったりと、かなり興味深い内容でしたので、ざっくりとではありますが、私が面白いと思ったポイントをご紹介したいと思います。
それでは、参りましょう。
2、エマニュエル・トッド教授とは?
まず最初に、知らない人のために、トッド教授について簡単に説明します。

エマニュエル・トッド教授は、フランスの歴史学者、人口学者、そして人類学者で、1976年に出した「最後の転落」という書籍の中で、ソ連は乳幼児の死亡率が上がってきてて、社会がやばいから、あと10年、遅くても30年以内には崩壊するだろうと言って、予言を的中させたすごい人です。
昨年出版された「西洋の敗北」も、25カ国で翻訳されているベストセラーになっているのですが、主にアメリカやイギリスをボロカス言ってますので、英語版だけは発売されていないという、かなり面白い展開になっている書籍です。
その理由は、もちろん、あまりに米英にとって不都合な真実、つまり王様は裸だ、どころか、その裸のだらしなさまでミッチリと指摘しているので、読んだら発狂するアメリカ人やイギリス人が続出するからなのでしょう。
そんなトッド教授が、トランプ政権が動き出してからの世界の動きについて、分析しているのが今回の新刊となります。
内容は、文藝春秋に掲載されたものをまとめたものなので、書き下ろしのものではありませんが、7月ぐらいまでのトランプ政権や世界の政治の動きを分析しているものなので、現在進行形で起こっていることをカバーしています。
トッド教授の家族人類学とは?
それともう1点、トッド教授の書籍では、直系家族とか、共同体家族など、家族の形によって、それぞれの国の価値観やものの考え方が違うという見方をするので、この点についても、簡単に説明します。

大きくは2つの切り口があって、それぞれ2種類あるので、2カケル2の4タイプに分けられます。
1つは、親子関係で、同居か別居かで分けられます。
成人しても、親と同居する場合は、父親のいくことを聞かなければいけないので、権威とか伝統に価値を置く傾向にあります。
逆に、別居の場合は、おっかない父親が近くにいないので、自由に価値を求める傾向になりますね。
日本は家制度が長い間続いてきていて、両親との同居が普通と考えていた時期が長いので、前者と言えるでしょう。
もう1つは、兄弟関係で、平等か不平等かで分けられます。
それがハッキリ出るのが、相続の時で、長子や末子に全部財産を相続させる文化もあれば、平等に相続する文化もあるので、これまた2種類に分けられます。
日本では、愚かな人のことを指す言葉に、「たわけ者」がありますが、この言葉の語源は、田を分ける者、つまり、相続の時に、子供に財産を分割する人を指すという説があります。
米の生産量が少なかった時代に、何人もの子供に田んぼを分けて相続させると、子の代、孫の代と進むうちに、食べ物不足になって、共倒れしてしまうということから、この言葉が生まれたというのです。
この話は、小学校の時の先生に教わったのですが、以前の動画で、それは俗説で、語源は別にあるとご指摘を受けました。
ただ、まあ俗説として広まる程度には、田んぼを分けることがやばいことという認識が、日本中であったのだと思います。

それで、この2つの軸で分類したのが、こちらの表になります。
日本は親と同居の、長子相続が長く続いてきたということで、直系家族に分類されます。このような文化の国は、日本以外ですと韓国やドイツ、スウェーデン、スコットランドなどの、北欧に近いところが多いですね。
このタイプは、伝統と秩序に重きを置いている国々です。伝統と秩序なんていうと、なんだか堅苦しい感じがしますが、年長者からいろいろな知識や技術を受け継ぐので、安定した発展が起きやすいと言えます。
一方で、アメリカやイギリスなどは、兄弟間では長子相続の伝統がありつつも、成人したら親と別居する文化なため、絶対核家族と分類されます。
成人すると外に出されるので、親から受け継ぐものは受け継ぐけど、あとはご自由に、という感じなので、新しいものを生み出しやすい傾向にあります。
資本主義が盛り上がったのが、このタイプの国からなのも、納得ですね。
そして、残りの2つの分類は、いずれも平等を価値においています。親子関係が同居の中国やロシアは、どちらも怖い親父がいて、兄弟は平等という感じがしっくりくるということで、中国共産党や、プーチン氏による独裁がしっかり機能している感じです。
平等と秩序を大事にしています。
一方で、親子が別居で、相続も平等な左下のタイプは、自由と平等を大事にする国々で、カトリックの国がそうですね。
フランスやスペイン、イタリアなどが入ります。
この分類をあちこちで使いながら、トッド教授の書籍は、話が進んでいきます。
なお、この辺りの話は、「西欧の没落」では、あまり詳しく解説されていません。
この辺りについて詳しく解説しているのは、鹿島茂先生の「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」(アマゾンに飛びます)が詳しいと思います。
それでは、本題です。
3、新刊で興味深いと思った5つのポイント
私が今回の新刊で、興味深いなと思ったのは、大きくは5つあります。
(1)ロシアは和平を受け入れない
1つ目のポイントは、ウクライナ戦争の決着の仕方です。
ロシアは、トランプの和平を受け入れないだろうというのです。

8月15日に、トランプ氏はアラスカの州都アンカレッジにある空軍基地に、プーチン氏を招待しました。
レッドカーペットを敷いての出迎えということで、アメリカとロシアとの関係が良好になるということを期待した人も多かったと思います。
ですが、この時の首脳会談で、ウクライナ戦争の停戦や和平について、具体的な進展はありませんでした。あれほど、仲良さそうな演出をしたのに、なぜ前に進まなかったのでしょうか?

その理由は、プーチン氏はアメリカを信用していないからです。
2014年にウクライナで起こったマイダン革命の後、ウクライナ軍は東部のロシア人が多い州に対して攻撃を仕掛け、200万人近いひとが、国内外に避難しました。
このような横暴に対して、ロシアは軍を使ってウクライナ軍を撃退したのですが、その時に結ばれたのが、ミンスク合意と呼ばれる停戦合意です。
ですが、この合意は、ただの時間稼ぎで、その間にアメリカやイギリスなどのNATO勢は、ウクライナに武器を供与したり、訓練をしたりして、ロシアに対抗させる準備期間を与えるだけに終わりました。
この件については、ドイツのメルケル首相がメディアで告白しています。
このような実績があるので、プーチン氏は、欧米諸国を全く信用していません。
そのため、トランプ氏が何を言おうと、「あんたはそう言っても、大統領が変わったらわからんでしょ?」と言い返されておしまいなのです。
また、トランプ政権になってから、アメリカはウクライナから手を引く気満々の姿勢を見せてきたため、欧州のNATO諸国が、慌ててロシア敵視を始めました。
アメリカが辞めそうになってるんだから、一緒に辞めればいいのに、逆に好戦的になっているのです。マジで意味がわかりません。

そのため、プーチン氏は、ウクライナの中央部を流れるドニエプル川より東側、つまり、国の半分を占領するまでは、終わらないだろうと予想しています。
首都のキーウは、ドニエプル川沿いなので、ここまで占領されたら、キーウと川を挟んでロシアの基地ができるのではないでしょうか。
日本で例えるなら、隅田川より東側の江東区に、米軍基地ができるような感じでしょうか。
確かに、こうなって仕舞えば、流石にウクライナが再軍備とか言いはじめることはなさそうですよね。議会で何か決まった途端に、すぐに川を渡って、ロシア軍が文句を言ってこれるわけですからね。

ちなみに、今回のウクライナ戦争は、トッド教授の見方だと、アメリカが仕掛けたとみているようです。
その目的は大きく3つあって、
1つ目は、日本とドイツをロシアから引き離して、アメリカの属国のままにしておきたい
2つ目は、格差が拡大して、不満が爆発しそうな国民の目を外の戦争に向かわせて、誤魔したい
3つ目は、欧米の政治家が、戦争で兵器をうって金儲けがしたい、の3つだろうとみています。
このようなアメリカの動機をトッド教授は、何の哲学も思想も、理想もない、まともな思考もできないブラックホールのような、疫病神みたいなものだから、近づかない方が身のためだと、痛烈に批判しています。
前作の西洋の敗北でも、こんな感じで欧米諸国の絶望的な頭の悪さを批判しているので、英語版での出版がされないのでしょう。
(2)トランプは「敗北の大統領」になる
次に2つ目のポイントは、トランプ氏は敗北の大統領になるということです。
トランプ政権が、4月から相互関税をかけて、保護貿易を目指していることは正しいが、同時に基軸通貨の米ドルの地位に固執するのは間違いだと評価しています。

ある国の天然資源の豊かさが、その国の他の分野の発展を妨げることをオランダ病というそうです。
そして、アメリカの場合は、世界中から求められる米ドルという基軸通貨が、あまりに力が強すぎるため、他の産業が復活できない、スーパーオランダ病になっていると、トッド教授は見ています。
なので、この米ドルの力に頼らないようにしないといけないわけですが、トランプ氏は、BRICSが米ドル以外の通貨で取引しようとすると、10%とか、100%とか、その時々の気分で関税を上げるぞと言って脅しています。
これではうまくいかないよというわけです。
そしてもう一つが、製造業の復活のために必要な人材が少ないということです。
エンジニアになれる工学部を卒業する学生は、実はアメリカはロシアの半分しかいないのです。
さらに、アメリカは色々な国から留学生を集めていますので、工学部を卒業しても、その一部は、自国に帰るケースもあるでしょう。そうすると、エンジニアの数はこれよりさらに少なくなります。
なお、こちらのランキングには、中国は含まれていませんが、中国の工学部に在籍する学生の数は、2022年時点で、学部生で644万人、院生で119万人と、日本の10倍ぐらいの規模になります。
そのため、おそらく中国は、ロシアの3倍、アメリカの6倍ぐらいはありそうです。
そう考えると、製造業の復活というのをどのように捉えるかにもよりますが、中国やロシアを追い越したいということであれば、これから数十年もしかしたら、100年以上かかるようなレベルなのです。

このような現状のところで、ウクライナが敗北すれば、アメリカは本当に化けの皮が剥がれることになると見られます。
これまで世界を思い通りにしてきた覇権国が、自壊する時には、メンタルも崩壊するので、「俺が負けたのは、お前らのせいだ」みたいな八つ当たりや、道連れにされる可能性もあります。
なので、むしろ黙って静かに見てた方がいいだろうというのが、トッド氏のアドバイスです。
(3)イスラエルは、宗教国家なのか?
3つ目のポイントは、イスラエルについてです。
2023年10月にハマスがイスラエルでテロを行い、人質をとったことで、その報復として、ガザやヨルダン川西岸での非人道的な報復が続いています。

食べ物をもらいに集まったガザの住民に対して発砲をするような、かなりエグいことをやってまして、兵士によるSNSへの投稿も、たびたび物議を醸すような内容となっており、本当に同じ人間なのか?戦争状態の兵士というのは、やはり普通の時の精神状態と違ってくるのか?など、いろいろと考えさせる状況となっています。
トッド教授は、半分ユダヤ人の血を引いているということで、イスラエルについても他人事ではないと感じているようですが、今の所の仮説として、イスラエルは、神を信じていないのではないか?と考えているようです。
例えば、中世の頃にキリスト教国は、十字軍を興して、聖地エルサレムの奪還をしようとしましたがが、その頃は、略奪もあれば、虐殺もあったようですが、それでも宗教的情熱で突き動かされた人たちが大半だったと考えられます。
ですが、今のイスラエルの行動は、そのようなものなのか?というと、どうも疑問符がつくというのです。
それは、現在のネタニヤフ政権の言動や行動もそうですが、兵士によるSNS投稿や、ガザや、ヨルダン川西岸からパレスチナ人を追い出すために、あえて暴力的な手段を選んでいるという点、そして、そのような行動を欧米のエリートを含めた、一部の人たちが、熱狂的に支持している点など、いろいろと見ていくと、これは暴力や破壊を求める人たちが、イスラエルの行動に魅せられているのではないか?というのです。
例えるなら、ローマ時代のコロシアムで、奴隷同士を戦わせて盛り上がるとか、そういう感覚に近いのかもしれません。
なので、当然、このような非人道的なイスラエルの行為に対して、アメリカの民主党支持のユダヤ人は、けっこう批判的です。

そもそも、アメリカのユダヤ人の7割近くが、民主党を支持しており、現在のイスラエルの政策に批判的な人が多いです。トランプ政権は、イスラエルを100%支持する姿勢を崩してませんが、そのようなアメリカのユダヤ人は、少数派なんですね。
そして、このような批判的なユダヤ人に対して、「反ユダヤ的」などと批判がされたりしています。ユダヤ人なのに、反ユダヤって、意味がわかりませんよね。

つまり、アメリカで使われる反ユダヤという言葉は、その人がユダヤ人かどうかは、全く関係がなくて、親イスラエルかどうかが問題なのです。
なので、トッド教授は、「イスラエル人=ユダヤ人」ではなくて、「イランやアラブ人と戦いたい人」というような、確固とした目的があるわけではなく、ただただ暴力的な衝動を持ち続け、戦い続けたい人たち、なのではないか?と疑い始めているようです。

イスラエルの移住に関する記事を見ると、昨年は3万人ぐらいのユダヤ人が海外から入ってきているものの、8万人以上が出ていっているようです。
これは、ガザやヨルダン川西岸への非人道的な行動と、ネタニヤフ政権に対して失望して脱出する人が増えているからでしょう。
ですが、その一方で、3万人程度の海外のユダヤ人が移住してきているということは、このような戦争状態のイスラエルで暮らしたいという人が一定数いるということでもあります。
なので、これからのイスラエルは、非人道的なことをしたくない人は出ていって、やりたい放題やりたい人が入ってくるという、より暴力的な人たちが増えてくるのではないかというのです。
これはなかなか、殺伐とした未来だなと思わされますね。
(4)アメリカの分裂は解消できない
4つ目のポイントは、アメリカは国家としての一体感を持つことは、もうないのではないか?ということです。
アメリカという国は、日本や他の国のように、長い間その土地に住み、そこで生み出された言葉を話し、独自の文化を育んできた民族を単位とした国家ではなく、他の国から移住してきた人たちが、みんなで決めたルールを守るということで作られた、「市民国家」です。

なので、国民を一つにまとめられるものがありません。
そのため、外部に敵を設定することで、なんとか団結を作り出してきました。
共産主義とか、ソ連とか、テロとか、中国とか、そういうものですね。
ですが、そうやって外部に敵を設定して、それを倒そうと頑張ったとして、それでアメリカは豊かになったのでしょうか?
テロと戦って豊かになりましたか?
中国と戦って、豊かになりましたか?
おそらく、騙されたと思っている国民も、結構多いのではないかと思います。実際、イラク戦争では、大量破壊兵器はなかったので、国民も騙されたわけですからね。
9月10日に、チャーリー・カークが暗殺されたことで、リベラルは大喜びして、顰蹙を買って解雇される人が続出していますが、この動画を作っている9月24日時点でも、リベラル側が反省する姿勢はあまり見られず、民主党の政治家は相変わらず、人種差別だーとトランプ政権を批判している状況です。
私は、以前の動画で、これからトランプ政権が左翼リベラルを強烈に取り締まるマッカーシズム2.0が始まると予想しましたが、おそらく、このような弾圧的な取り締まりをやったとしても、リベラルと保守層が歩み寄ることはないと思います。
(5)日本はBRICSの先駆け
そして、最後の5つ目のポイントは、日本はBRICSの先駆けだった、という点です。

確かに、日本は明治維新から敗戦に向かう過程の中で、西洋列強に追いつき、追い越せと突き進み、暴走してしまいましたが、もともと、アヘン戦争後の中国のように、欧米の植民地になりたくないからというのが目的だったはずです。
そして、結局は日本も植民地主義に走りましたが、「大東亜共栄圏」という理想は、現在のBRICS諸国が掲げる理想とあい通じる部分があると思います。
このチャンネルでは、たびたびアメリカが日本を捨てるとか、在日米軍が撤退するとか、BRICS入りするしかないんじゃないか、とか言ってきましたが、その度に「それはないな」という反応をいくつかいただきます。
確かに、今のアメリカべったり、米ドルべったりの日本であれば、それはなかなか想像しにくいですよね。
ですが、日本だって、そもそも欧米のやりたい放題から抜け出したくて、昔の人たちは頑張ってきたんじゃないか、と捉えると、BRICSへの共感も生まれるような気がします。
日本の歴史教育を変えようと、参政党などの保守政党は言いますが、正直な話、天皇中心のどうのこうのみたいな話は、あんまり受け入れる人はいないと思います。
ですが、欧米の支配から抜け出そうとした先人たちの試行錯誤については、もっと学ぶべきなんじゃないかと思いますし、それが日本の目をBRICSに向けさせて、本当の意味での独立につながるのではないかと感じました。
というわけで、今回はトッド教授の新刊をざっくりとではありますが、紹介してみました。
トッド教授は、トランプ氏に対して、結構冷たい見方をしていますが、私はトランプ氏を壊し屋だと思っているので、現在のトランプ政権の自滅的な動きも、全て最終的には、世界にとって良い方向につながるものと思っています。
ただ、アメリカの分断が収まるのか?という点については、本当に絶望的だと思いますね。今のところは、左翼を思いっきり取り締まって、大人しくさせようという段階ですが、その後をどうしていくのか?については、今後の成り行きを見ながら、考察していきたいと思います。







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