この動画では、「1ドル120円シナリオの検証、2025年6月版。トランプ相互関税の貿易交渉の行方」ということで、やっていきたいと思います。
1、はじめに
昨年11月から月1ペースで解説を続けている、1ドル120円シナリオの検証シリーズの8回目で、今回は2025年6月版になります。
始めた当初は、154円ぐらいでしたので、10円ほど円高ドル安に進んできています。
この動画を作っている6月12日現在で、ドル円は143~4円前後となっており、先月から比べても、ほとんど動いていませんね。
日経平均の動きを見ても、この1ヶ月はほぼ横ばいでした。
マーケットは、来月8日に切れる、トランプ相互関税の延長期限が切れるまでに、各国がどのような交渉を進められるのか?アメリカから譲歩を取れるのか?そして、コロコロ方針が変わるトランプ政権の意図はどこにあるのか?などを勘ぐりながら、おっかなびっくり取引をしているように見えます。
そこで、この記事では、
4月2日に発表されたトランプ相互関税そして、延長宣言以降に、各国がどのような交渉をしてきたのか?
そして、アメリカはどのような狙いがあるのか?
について、考察していきながら、今後の為替の見通しを予想していきたいと思います。
それでは、参りましょう。
2、1ドル120円シナリオについて
毎回見ている方には申し訳ないのですが、まず最初に、私が以前から1ドル120円まで円高になると言っている理由について、簡単に説明したいと思います。
4月の相互関税が本気だったことによって、気づく人が増えてきたのではないかと思いますが、トランプ政権は、米ドルを中心とした、これまでの基軸通貨システムを止めようとしています。
この基軸通貨システムとは、簡単にいうと、「アメリカはドルという紙切れをくれてやるから、他の国は、俺様に色々な商品やサービスを売り込みに来い」というシステムのことです。
一見すると、アメリカにとってメリットが多そうに見えますが、デメリットも結構あります。それは、金融業などの一部の業種では、儲かるものの、他の国と競合状態になる製造業では、どんどん衰退してしまうということです。
その結果、どうなっているのかというと、いざという時に薬も車も、武器、弾薬も作れない、ポンコツの国になりつつあります。
2002年から2022年までの20年間で、アメリカでは45,000社以上の製造業の会社がなくなりました。
増えた業種は、酒、タバコ、食品、そして化学の3業種だけで、PCや電子部品、自動車部品などの、高付加価値の製造業は軒並み減少しているのです。
なので、もしこれからリーマンショックのような金融危機が起こったりしたら、お店の棚から商品が消えて、生活が成り立たなくなる可能性すらあるのです。
こんな感じで、ただ米ドルを刷り散らかして、「俺のところに、いい商品とサービスをもってこい」と偉そうなことを言い続けていたために、いざという時に、国を守る国防力や、必要なものを自国で作る能力が、まるで無くなってしまったのです。
そのため、アメリカ国内の製造業を復活させるには、今までアメリカにどんどん輸出してきた国との貿易を減らして、アメリカ国内に工場を作らせなければいけません。
だからこそ、トランプ政権は、相互関税を発動したのです。
「アメリカで商売したいなら、アメリカの工場を作れ」「関税を下げて欲しいなら、輸出に有利な通貨安政策をやめろ、日本は円安政策をやめろ」というわけですね。
また、先日LA暴動の動画を出したのですが、トランプ政権の不法移民対策が、かなり本気だということがわかりました。
それまで1日2,000人の逮捕・勾留をノルマとしていましたが、3,000人に引き上げたからです。これは、犯罪者を捕まえることで、治安を安定させることもそうですが、雇用を守ることでもあります。
つまり、国内外の政策、どちらを向いても、アメリカ国内の雇用そして製造業の復活を目指しているわけです。
私が、1ドル120円になるだろうと予想しているのは、こんな感じでトランプ政権が本気なので、1985年のプラザ合意のような、政治的な合意によって、為替レートを円高に誘導させるだろう、と考えているからなんですね。
そして、今回の記事では、現在行われている日米貿易交渉が、その準備となっているのではないか?という点について、考察していきます。
3、トランプ相互関税以降の日本政府の動き
まず、4月以降のトランプ相互関税と、日本の対応について、ざっくりと追いかけていきましょう。
4月2日にトランプ相互関税が宣言され、日本にも24%の関税をかけると発表されました。これを受けて、ドル円、株価、米国債のトリプル安に見舞われました。
4月7日には石破首相がトランプ氏と電話会談を行いました。
そして、実質的に1回目の交渉は4月16~17日に行われ、赤澤経済再生相が訪米し、ベッセント財務長官とラトニック商務長官らと面会し、消費税や国内の規制などの、非関税障壁について協議を行なっています。
さらに4月24日、そして5月21日には、加藤財務大臣がベッセント長官と会談をしています。
5月23日には赤沢経済再生相とラトニック商務長官、米国通商代表部のグリア代表が協議を行っています。
そして、今月6月15~17日にカナダで行われるG7サミットで、石破氏とトランプ氏の首脳会談をやるとかやらないとか、現在調整中だそうです。
という感じで、とりあえず日本は懸命に交渉してまーす!みたいな姿勢は見せていますが、メディアの報道では、日本の言い分として「関税下げてくれ」「非関税障壁と言わないでくれ」とこっちの言い分を言うだけで、何を譲歩して、何を勝ち取るのかが全く分からない状況となっています。
なので、おそらく、日本のメディアと日米の交渉だけを見ていると、これから1ヶ月弱、ダラダラと交渉中でーす、と言う話を聞かされるだけのような気がしますね。
4、ベッセント財務長官の動きから見えること
ですが、各国とアメリカとの交渉の状況まで広げてみてみると、今回の落とし所が見えてきたように思います。
ポイントは、ベッセント財務長官の動向です。
今回の各国との関税交渉において、アメリカ側の仕切り役はベッセント長官となっています。
ですが、関税交渉において、なぜ貿易関係を担当する部署ではなく、財務省の長官がリーダーなのでしょうか?
2月にこちらの動画を出したのですが、この時に相互関税の準備をしろという大統領令に署名しています。
そして、ご覧の通り、トランプ大統領の後ろにいるのは、ベッセント財務長官ではなく、ハワード・ルトニック商務長官です。相互関税の立案をしているは、商務省なんですね。
そこで、みんな大好き、チャットGPTに聞いてみたところ、今回の相互関税の目的が、関税収入を手に入れるためであり、これは税収に関わることなので、ベッセント長官が適任だと回答してくれました。
なるほど、チャットGPTは頭がいいなと思いました。
ところが、今回の各国との交渉を見てみると、日本や韓国、中国とは、ベッセント財務長官は協議に参加しているものの、EUとはほとんど参加していないのです。
EUの対米貿易黒字は、中国に次いで2番目です。
もし関税交渉で、アメリカの関税収入を増やしたいのであれば、ベッセント長官が直接協議に入ってくるはずです。
6月11日に、アメリカはEUに対して、50%の関税をかけること。EU側は、アメリカのラトニック商務長官との協議を続けると言うことで、大筋合意となっています。
50%の関税という、関税収入としては、かなりデカい合意内容に、ベッセント長官はほとんど絡んでいないのです。
ベッセント長官は、為替、米国債に関する交渉の時だけ出てくるのでは?
このことから、私の中では、一つの仮説が生まれています。
それは、ベッセント財務長官が、各国と、しかも財務省関係の代表者と話し合っていることは、貿易や関税率についてではなく、為替や米国債についての協議だということです。
6月12日に、日本では与野党の党首会談が行われました。
その中で、国民民主党の玉木代表が、外為特会の米国債を満期になった分をさらに長い米国債で運用するということを条件に、関税交渉をすればいいのではないか?と提案したところ、石破首相は「詳しい話はできないが、日米間で話し合っている」と回答したそうです。
また、赤沢経済再生相も、この玉木代表の提案については、「それはベッセント財務長官と加藤財務相とで話すべきことだ」とコメントしており、米国債や為替については、財務省が担当していることがわかります。
このことから、ベッセント財務長官が、各国と交渉しているのは、為替をドル安にしろとか、米国債をもっと買えとか、そういうことを呑ませることが目的だと考えられます。
ベッセント長官が会っている国とは?
では、ベッセント長官が、各国の財務省と協議しているのは、どこの国なのか?
それは、中国、韓国、日本、そしておそらくですが、台湾です。
(参考:
中国とは、5月12日にスイスのジュネーブで、6月9、10日にロンドンで、副首相らと会談をしています。
5月のスイスでの会談では、報復関税合戦が一時停戦になったということで、国内のメディアでも大きく取り上げられました。
韓国とは4月16日と24日に、崔 相穆(チェ・サンモク)副首相 兼企画財政部長官と会談を行なっています。
日本とは、4月24日、そして5月21日に、加藤財務大臣と会談を行なっています。
これらの会談で共通することは、その内容がほとんど語られていないことです。
為替レートの急激な動きには気をつけようとか、そういう、当たり障りのないことしか報道されておらず、実態がよくわからない状況となっています。
台湾の動きで、意図がバレバレ
ですが、台湾を見れば、その内容がわかります。
台湾は、第1回目の5月1日にワシントンで貿易交渉を行なっており、その日のうちの台湾ドルが大きく動き、2日間で6%以上も台湾ドル高となりました。
3日には、台湾政府が「俺たちは通貨切り上げなんてやってない」と火消しに回りましたが、アメリカの圧力に負けたなんて言おうものなら、他の国もやられるだろうと大騒ぎになるので、絶対に言えないのでしょう。
5、2つの選択肢
このように見ていくと、現在アメリカとの貿易交渉によって、大きく2つの決着の仕方が見えてきているように思います。
(1)自国通貨の切り上げ(円高)
1つ目は、自国通貨の切り上げです。
台湾がすでに始まっていますが、対米の貿易黒字を解消するために、為替レートを切り上げることで、アメリカへの輸出競争力を鈍らすという方向性ですね。
これらの選択肢をとっている国は、アメリカに輸出する大企業があって、それらの企業が次々と、アメリカ国内に工場を建てる発表をしています。
例えば、日本ではトヨタやホンダなどの自動車メーカーですし、韓国では現代自動車、台湾なら半導体大手のTSMCなどですね。
自国通貨が切り上がっても、アメリカに工場を作れば、為替の影響がなくなるので、問題ないという判断なのでしょう。
(2)高関税の受け入れ
そして2つ目が、高関税の受け入れです。
こちらは、中国やEUがそうですね。
現在、中国もEUも、アメリカから高関税をかけられる道を選んでいます。
6月13日時点では、
中国は、第1期でかけられた25%に加えて、さらに30%の追加関税で合計55%。中国もアメリカに対して10%の追加関税をかけるということで、決着しそうです。
ただし、中国とはベッセント財務長官が交渉に当たっているので、通貨の切り上げもセットで話し合われているのかもしれません。
そして、EUも、50%の関税を受け入れる方向で話が進んでいます。
EUの対抗措置は、まだ話し合い中のようですが、中国とアメリカとの交渉内容を見ると、やはりEUに不利な条件を呑ませられることには変わらないでしょう。
こちらは、ベッセント財務長官がほとんど関わっていないので、為替はそのままで、高関税で手打ちをする感じだと思います。
通貨の切り上げ、高関税のいずれを選んでも、アメリカとの貿易量が減ることは避けられませんが、日本や韓国、台湾などでは、自国通貨高になった方が物価も安くなるので、そちらの方がありがたいでしょうね。
6、相互関税の停止期限の7/8前後に注意
相互関税の一時停止期限は、7月8日までですが、それ以降は延長しないとトランプ氏は発言しています。
おそらく、話し合うべき国とは、だいたい話がまとまってきたため、これ以上の延長は必要ないとの判断なのでしょう。
なので、この見立てが正しいとすれば、相互関税の一時停止が終わる7月8日前後から、ドル円相場は動いてくるのではないかなと予想しています。
ただし、今回はユーロや人民元の通貨切り上げがない可能性もあるので、各国一斉に動くというよりは、5月から始まっている台湾ドルのように、ジリジリと切り上げていく感じなのかもしれません。
そして、政府当局は、「マーケットが勝手にそう動いてるんだろ」と知らんぷりをするのではないかと思います。
なので、これから1ヶ月弱の間は、こんな感じでウロウロしてるのではないでしょうか?
1ヶ月後に、改めて、答え合わせをしていきたいと思います。
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