この記事では、「日本の自動車メーカーは、どこが生き残るのか?」について、考察していきます。
先日、日産自動車が9,000人のリストラを発表しました。その原因は、業績の不振なわけですが、特にEV車の販売が想定よりも落ち込んでしまったことが背景にあります。
また、ドイツの大手自動車メーカーのフォルクス・ワーゲンも、ドイツ国内の工場を閉鎖すると発表しており、かなり厳しい状況となっています。
年間1,000万台以上を売り上げ、販売台数世界一位にもなったことがある、ドイツの名門中の名門の企業も、とんでもない苦境に追い込まれているのです。
これは、株価にも表れていて、2018年からの日本の自動車メーカー7社の株価を見てみると、この間、日経平均は、23,000円台から38,000円台にまで、約7割上がったのにも関わらず、トヨタをのぞいて、良くて横ばい、悪いと日産のように3分の1以下になっています。
そのため、私のYouTubeのアカウントでは、「トヨタ最強!トヨタ最強!」という動画が、よく出てきます。
確かに業績はいいのですが、本当に今後も勝ち続けられるのか?特に、トランプ政権になることで、関税を引き上げるとか、いろいろいっているけど、どうなるんだ?など、日本株に投資している人は気になりますよね。
そこで、この記事では、現在の世界の自動車市場で起こっていることと、これから起こることについて、見ていきながら、日本社メーカーはこれからどうなるのか?について、考察していきたいと思います。
なお、この動画を作っている私は、現在は投資を一切していない、もと株屋のただのおっさんです。投資を推奨するわけでもありませんし、何の責任も持てませんので、その点はご了承ください。
それでは参りましょう。
1、世界の自動車市場を理解するための4つのポイント
まず、現在の世界の自動車市場を考える上で、押さえておかなければいけないポイントは4つあると思います。
(1)先進国の自動車販売の不振
1つ目は、先進国における、自動車販売の不振です。
11月のアメリカ大統領選挙では、トランプ氏が当選しましたが、その理由は、物価上昇で生活が苦しくなった人が、民主党政権に愛想を尽かしたからです。
これが、自動車の販売台数に、見事に現れています。
新型コロナ前の2019年までは、アメリカの新車販売台数は1700万台を超えていましたが、その後は1400~1500万台で推移しています。1割以上も減ったままなのです。
この間に、S&P株価指数は、2倍近くに上昇したので、景気はいいと宣伝されていましたが、新車販売を見る限り、全く回復していないことがわかります。
これは欧州も、日本も状況は同じです。
新型コロナ以前の2019年までの水準を回復することができておらず、販売台数そのものが減っているのです。
日本の自動車メーカーの多くが、日本よりも収益性が高いアメリカやヨーロッパなどへの輸出や現地生産を増やしてきましたが、先進国全体で、販売台数が落ち込んでいるんですね。
(2)いかにEV市場が狂っているのか?
2つ目が、EV市場の気狂いぶりです。
EVというと、バッテリーに電気を充電して、走る自動車なので、ガソリンを使わないため、CO2を放出しない、エコな車だと宣伝されています。
ところが、EVを製造する過程で採掘される資源や、製造の際に使用される電力などを含めた、製造から運転、そして廃車までの、すべての過程で発生するCO2を計算すると、ガソリン車よりも劣っている時期の方が多いのです。
こちらのグラフは、日本国内で作られたガソリン車とEVのCO2の排出量を走行距離に応じて計算したグラフになります。
製造した段階では、EVの方がCO2の排出量が多く、走行距離が10万キロを超えてきたあたりから、電気自動車の方がエコになっていきます。
ところが、その後にバッテリーがヘタってきたということで、16万キロの時点で交換をすると、またCO2が増えます。
しかし、スマホのバッテリーもそうですが、使っていくうちに、少しずつ充電できる電気が減っていきます。
EVメーカーは、8年または16万キロまでの保証をしていますが、この保証とは、新車時点の70%以上の充電量を保証するということであり、8年後には、今よりもっとマメに充電をしなければいけません。
さらに、現在のEVのバッテリーを交換すると、車種にもよりますが、100~300万円ぐらいします。
うちの嫁さんは、ホンダの軽に、20年以上乗ってますが、車検時に部品交換をするぐらいで、それ以外の出費はほとんどありません。ですが、EVの場合は、長く乗っても、費用が抑えられるわけでもないのです。
この論文は、マツダの商品戦略部と工学院大学の研究者のかたが、論文として発表したものになりますが、同じような内容で、スウェーデンの自動車メーカーのボルボも、自社のガソリン車のXC40よりも、同タイプのEVモデルの方が1.7倍も、製造過程でCO2を排出していると発表しています。
このように、ガソリン車よりも環境にやさしいというのは、嘘っぱちなEVなわけですが、そのEVを意識高い系の国々は、推進してきました。
例えば、欧州では、1台あたり、1km走行するごとに、95g以上のCO2を排出させていた企業に対して、罰金が課されています。1台あたり95ユーロなので、約1万5,000円ですね。これで、フォルクスワーゲンは、約160億円もの罰金を支払わされました。
ところが、この1km95gのCO2という基準には、製造時のCO2が含まれていないのです。
そのため、EVはゼロカウントになるため、例えばテスラなんかは、イタリアのフィアットグループと一緒にカウントしてもらうグループに入って、フィアットに自分たちの販売したEVで浮いた分のCO2を買い取ってもらっています。
このようにして、テスラは、EVを販売し、クレジット枠をガソリン車を販売しているメーカーに売りつけることで、かなりの金額の収入を手に入れています。
2024年の第3四半期のカーボン排出枠の収入は、約1,100億円にもなっています。
繰り返しますが、製造する時に発生したCO2は、無視されています。
なので、EVはピカピカの優等生な車だと評価されて、ガソリン車は悪者扱いなのです。
このような、どうしようもない法律は、欧州以外でも、アメリカのカリフォルニア州も作ってます。
ゼロエミッション車、つまり、排ガスを出さないEVの販売比率を徐々に引き上げていき、2035年には、100%までするとしています。
ハイブリッド車は対象外で、規制に違反すると、1台あたり2万ドル、約300万円の罰金となります。似たような制度は、イギリスでも採用されていて、2030年までに80%にまで引き上げるとしています。
ジャガーを倒産に追い込むイギリス政府
なので、ヨーロッパの自動車メーカーは、本当に大変です。
今までのエンジン技術がこれからは使えず、全く別もののEVしか、売ってはダメになるわけですから。
先日、LGBT色全開の広告を打ち出して、既存のお客さんガン無視の新車を出すと発表したジャガーについての動画を出しました。
その理由をよくよく調べてみると、イギリスがこれからEVしか売っちゃダメと決めたため、頑張ってEVを作ろうとしたものの、車両価格が今の1.5倍から2倍ぐらいになってしまいそうなんですよね。
今回発表された新車は、約2,000万円すると予想されています。
そのため、既存のお客さんだけを相手にしていたら、到底販売できないため、高級ファッションブランドが好きそうなお金持ちのイメージに寄せた、広告を打つことで、そういった新しい富裕層をお客さんに引き込もうとしているのだと、考えられます。
普通に考えれば、今までのお客さんを100%捨てるなんて、自滅行為以外の何者でもないと思うのですが、そもそもイギリス政府が「EVしかダメだ」と決めてしまったので、ヤケクソになるしかなかったのだと思われます。
これで100年持った企業が滅亡させるなんて、イギリスの政治家は、どんな頭の構造をしているのか?全く理解できませんでした。
欧米の政治家は、環境を守りたいわけではない
じゃあ、そこまでして、これらの国々は、環境を守りたいのか?というと、全くそんなことはありません。
例えば、現在のバイデン民主党政権は、EVに補助金を出していましたし、EV専用の充電ステーションの設置に巨額の予算をかけるなどして、かなりEVには力を入れていました。
ところが、75億ドル(1.3兆円)もの予算を使って、充電ステーションを増設するとされていましたが、実際に作られたのは7台とか8台だけだったことが発覚しました。
一体、どれだけのお金が抜かれていたのでしょうか?環境とかそんなことは微塵も考えずに、政治家が金を懐に入れるために、作ったルールだということが、これだけでもわかりますよね。
また、最近ですと、スウェーデンのEVバッテリー企業である、ノースボルトが破産申請をしました。
現在、世界のEV用バッテリーシェアの7割以上が、中国製となっています。
そのため、EU圏でも自前のバッテリー製造能力を高めようと、フォルクスワーゲンやBMW、JPモルガン・チェースやゴールドマンサックスなどの、欧米の金融機関も出資して、工場を立ち上げました。
ところが、ここで働いている人たちの多くが、EVバッテリーについての知識がなく、中国や韓国のバッテリーメーカーから引き抜いて立ち上げられたものだったのです。
そのため、ポンコツの欧米人の従業員と経営者と、専門家の中国や韓国のスタッフという形で、運営されたため、品質の向上も何もなく、使えないバッテリーだけが量産されていきました。
実際、BMWは、あまりにも品質が悪すぎるということで、約3,000億円分のバッテリーの契約をキャンセルしています。
つまり、欧米の先進国では、環境を良くしたいとか、そういう話ではなく、それをネタに金儲けしたいとか、トヨタなどの燃費のいいハイブリッド車を締め出したいとか、そういうくだらないことしか考えていないのです。
このような、理不尽なルールに晒されてきたのが、現在の日本も含めた自動車メーカーだった、ということを押さえておくことは重要でしょう。
(3)中国の安売りEVが大氾濫
3つ目が、中国によるEV攻勢です。
欧州やカリフォルニアなどの、一部の意識高い系の国では、このようにEVを贔屓にすることで、エンジン車で強い日本車を排除してこようとしてきました。
ところが、現在、EVにおいて、最も強いのは中国です。
日産を含めて、EVに力を入れてきた先進国のメーカーほど、苦境に立たされていますが、中国のEVメーカーは、絶好調なのです。
特にBYDは、EVの売り上げでテスラを超え、昨年は300万台を販売しています。
ただし、海外への輸出については、このように価格競争力があるため、BYDなどは利益を出していますが、それ以外の中国のEVメーカーは、ほとんどが赤字で破綻する会社が続出しています。
中国の昨年の自動車販売台数は、3,000万台を超えました。
前年比で10%以上の増加となっているのですが、不動産バブルが弾けて大変なのに、販売台数が1割以上も増えているのは、安売り合戦が起こっているためです。
「中国EV 破綻」で検索してみると、日本語の記事だけでも、こんな感じで、何社も経営破綻しているニュースを簡単に見つけることができます。
このことからも、あまりに作りすぎたため、海外に販路を持っていない中国メーカーが、国内で何がなんでも売ろうとして安売りを行っているのでしょう。
今年に入って、トヨタやホンダ、日産も中国市場では販売不振に陥っていますが、それは、このような安売りEVが増えているため、相対的に価格が高く見えてしまう日本車は、売れにくくなっているんですね。
以上のことから、現在の世界の自動車産業をまとめると、
- 新型コロナでの失業者の増加、ウクライナ戦争による物価上昇で、車を買える人の数が減っており、販売台数が回復していない
- 欧州やカリフォルニアなど、一部の先進国や地域で、EV推しの理不尽な政策を行っているため、研究開発に莫大な金がかかるEVへ全振りせざるを得なくなったメーカーが増えた
- ところが、EV用のバッテリーのシェアは、原材料や製造工程も含めて、中国が圧倒的に強いため、BYDのような安価なEVを作れるEVメーカーに押されてきている
- さらに、中国では、あまりにEV車が作られすぎたため、安売り合戦が起こっており、それまで適正価格で売ってきた先進国のメーカーも巻き込まれて、販売数が減少している
- その結果、日産を含めた先進国の有名メーカーの多くが、業績不振に陥り、リストラをせざるを得ないところにまで追い込まれている
- トヨタが好調なのは、一部の地域に偏らず、EVにも全振りせずに、バランスよく展開しているため
と言えます。
2、これからどうなるのか?
では、世界の自動車マーケットは、これからどうなっていくのでしょうか?
欧州、アメリカ、そしてBRICSの各エリアについて、考えてみます。
(1)欧州は終わり
まず、欧州についてですが、これはもうダメですね。
ウクライナ戦争に、多額の戦費をかけたり、EVへの補助金を出しまくったこともあって、ドイツやフランス、イギリスでも、財政的な余裕がなくなってきています。
そのため、補助金を停止する国が増えています。
イギリスや中国は、2022年に補助金制度が終わってしますし、ドイツも2023年末で終了しました。フランスも2025年から、補助金を3割減額する予定です。
フランスは、財政的に苦しくなってきて、国債の金利も跳ね上がってきていますが、各国ともに、無駄な補助金のばらまきによって、財政が苦しくなって辞め始めているのです。
そのため、昨年から今年にかけて、EVに力を入れていた自動車メーカーほど、販売が落ち込んでしまい、工場の閉鎖やリストラが相次いでいます。
日産も9000人のリストラを発表していますが、フォルクスワーゲンもドイツの工場閉鎖を発表していますし、アウディやベンツも、数年前に大規模なリストラをやっています。
その一方で、EV推進の姿勢は変わらないため、メーカーに対して、EVの販売比率を引き上げるノルマだけは課していきます。
現在のEVは、ガソリン車よりも明らかに高いですから、補助金や各種税優遇などのインセンティブがなければ、普通の人は買おうと思いません。
さらに、景気が回復していませんし、移民による犯罪も増加中なので、治安も悪化してきています。
現在のバイデン政権に嫌気がさして、トランプ氏が大統領選挙で勝利したわけですが、ドイツやフランス、イギリスなどの政府は、バイデン政権のような、①移民受け入れ、②環境重視、の政権で、しかも総選挙を今年すでにやってしまっているので、政権が変わるのは当分先になります。
欧州は、一応先進国ということで、たくさん売れれば、大きく儲かるマーケットとして期待されていたと思いますが、これからは縮小していくだけの哀れなマーケットになるでしょう。
ただし、欧州での販売台数が、1割以上を占める会社は、トヨタとマツダだけとなっています。そのため、あまり影響は大きくないと考えられます。
(2)アメリカも儲かりにくくなりそう
次にアメリカですが、こちらもかなり儲かりにくくなりそうです。
来年からトランプ政権になるわけですが、トランプ氏は現在のEVに対する補助金を撤廃し、ガソリン車推しへと、政策を転換します。
規制緩和によって、米国内の原油採掘を増やしてくということですので、ガソリン価格が下がりますので、ガソリン車が売れるようになるでしょう。
その一方で、トランプ氏は他国からの輸出してくる自動車に対して、関税をかけると公約しています。
最近、メキシコとカナダに25%の関税をかけると発言していました。
日本の自動車メーカーの多くが、メキシコに工場を持っていますので、そこから輸出される自動車の利益率は減少していくでしょう。
かといって、アメリカ国内で工場を作って、雇用するとなれば、人件費がこれまでより上がりますので、やはりコストアップになります。
そのため、販売価格の値上げは避けられず、販売台数もさらに落ち込むと予想されます。
特に、スバルは、北米のシェアが8割近くあり、ホンダとマツダも、5割近くあるなど、影響が大きくなると予想されます。
アメリカで売れてそうな印象のトヨタは、販売台数が3割程度であり、他のメーカーよりは影響が小さそうですね。
また、スズキはアメリカに展開していないため、影響はほとんどないと考えられます。
そして、BRICSですが、ここだけが、成長の余地がありそうな気がします。
今年の10月に、ロシアのカザンで行われたBRICSサミットでは、UAEとエチオピア、イラン、エジプトの4カ国が、新たにBRICSに加盟することを承認されました。
さらに、パートナー国という準加盟国のような国々が13カ国あり、検討中の国も合わせると、世界人口の6割ほどのマーケットになってきており、加盟国間の関係もかなり改善してきています。
例えば、中国とインドは、70年近く、チベット周辺で国境問題を抱えていましたが、今回のサミットの直前に、この問題を解消しています。
このように、今後は、友好関係を広げながら、お互いの貿易増やして、経済発展を進めていくと予想されます。
ただし中国は、不動産バブルが崩壊して景気も悪化してますし、値引き合戦が激しくて、すでに日本メーカーの販売台数もかなり落ち込んでいますから、この傾向はまだまだ続くでしょう。
ですが、それ以外の地域については、今後は有望だと考えられます。
特にスズキは、インドでの販売台数が、過去2番目の水準まで回復してきました。
これまで、大手3社は、収益性の高い先進国を中心に、販売戦略を立ててきましたが、欧州はダメで、アメリカは難しくなり、日本は人口減少が止まりません。
なので、活路を見出すには、BRICSしかないわけですが、そこにアクセスできているのは、今のところ、トヨタとスズキぐらいですかね。
また、ホンダの二輪は、途上国で好調とのことですので、ホンダのBRICSでの事業は、二輪から始まるかもしれませんが、自動車については、2040年までに全部EVにすると宣言していますので、欧州メーカーの二の舞になる可能性が高いです。
トランプ政権になったことで、アメリカ市場の状況は変わっていくので、方針を変えるかどうかで、投資判断も変わるでしょう。
地域的にな傾向はについては、以上ですが、もう1つ押さえておきたいのが、為替の動向です。
これらの動画で、詳しく解説していますが、私の考えでは、今度の円ドル相場は、円高になると予想しています。
簡単に理由を言うと、トランプ氏はこれから、国内の製造業の復活を目指すので、海外からの輸入を食い止めようとするからです。
具体的には、高い関税と円高へ誘導するようにとの、円買い介入の要請をしてくるでしょう。
そのため、円ドル相場は、第1期トランプ政権の頃に近い、120円ぐらいまでは、進むのではないかと思っています。
現在の日本社メーカーの国内での販売比率は、トヨタとスズキが20%ぐらいで、他は10~15%ぐらいです。
現地化も進めてはいますが、日本の雇用を守るために、国内での工場でもそれなりに作っているため、円高が進めば、業績悪化の影響は避けられないでしょう。
ただ、円高だった2018年時点の、各社の販売台数を見ると、今よりも多かったことから、利益は減っても、海外での売れ行きにはあまり影響がないと思われるので、為替差益が減るだけであり、株価は下がるかもしれませんが、経営への影響はあまりないと考えられます。
なので、円高になった時には、買い場が来るような気がしますね。個人的には、インドやパキスタンなどの、BRICS市場へのアクセスが進んでいる、スズキが期待できるのではないかと思っています。
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