この記事では、「リンカーンとトランプの共通点。トランプの政策の現実味」について、考察していきます。
1、はじめに
このサイトでは、1月20日から始まるトランプ政権の政策がどんなものなのか?そして、株や為替、日本経済にどんな影響があるのか?ということについて、記事をいくつも作成してきました。
例えば、トランプ氏が掲げていた政策の中で、日本も含めて、関税を一律10~20%上げると言った発言をしています。この関税政策については、選挙戦の頃から何度も発言していましたので、この辺りはやってくるんだろうな、と予想している人は多いと思います。
しかし、最近の発言の中では、BRICS諸国に対して、米ドルを使わないで貿易するなら、関税を100%上げるなどと言ってて、けっこうムチャクチャなことも言っている印象があります。
どこまでが本当で、どこからが脅しなのか?よくわかりませんよね。
ですが、いろいろと調べてみると、トランプ氏の発言している内容は、ただの思いつきとか、そういうわけではなく、過去のアメリカの大統領、特にリンカーン大統領の政策に、かなり似ていることがわかりました。
そこで、この記事では、日本でも有名なリンカーン大統領が行った政策を紹介しつつ、トランプ氏がどのあたりを参考にして、アメリカをどうしようと考えているのか?について考察していきたいと思います。
参考にした書籍
なお、今回の動画を作成するにあたり、参考にした書籍があります。それがこちらの「エリート過剰生産が国家を滅ぼす」です。
作者はピーター・ターチンという方で、理系から歴史学へと移って研究している珍しい人です。
歴史も、科学のような法則性があるのではないか?という視点で研究されている方で、特に国家が崩壊するときには、必ずエリートが増えすぎたことによる、権力争いが原因となっている、という立場をとっています。
この本では、現代のアメリカだけでなく、中国やソ連、そしてリンカーン大統領が活躍した南北戦争時代のアメリカなども取り上げて解説しており、今回の話は、そこからヒントを得ています。
理系出身の方ではありますが、数式やグラフなどは出てこなくて、社会や歴史の読み物感覚で読めます。
値段は税込3,300円とちょっと高めでしたが、個人的には、相当面白かったです。概要欄にアマゾンのリンクを貼っておきますので、今回の動画で興味を持たれた方は、一度チェックしてみてください。
それでは、本題に参りましょう。
2、トランプ氏とリンカーン大統領の共通点
トランプ氏とリンカーン大統領の政策には似ている点があると始めに述べましたが、それ以外にも似ている点があります。
それが、社会の状況です。
具体的には、3点あります。
(1)格差がひどい
1つ目は、格差がひどいということです。
日本もそうですが、現在のアメリカは、物価がどんどん上昇していく中で、普通に働いている人たちほど、生活が苦しくなっています。
その一方で、株式市場も最高値を更新しているため、株式を持っている資産家やビッグテック、金融機関などに勤めている高所得層だけが、経済状況が良好だと答えています。
また、所得階層別の資産額の推移を見ても、所得の上位10%以上の資産は増え続けているものの、下位50%以下は、ほとんど横ばいで、インフレを加味すると、むしろ資産は目減りしているような状況にあります。
トランプ氏の岩盤支持層は、低所得の白人と言われていますが、現在のアメリカの高卒ぐらいまでの白人は、平均寿命が下がっています。
その大きな理由は、経済のグローバル化です。
特に、貿易赤字と財政赤字の双子の赤字が問題視されてきた1980年以降に本格化しました。
工場が海外に移ってしまい、割りの良い仕事は大都市に集中しているため、地元で働ける場所がなくなって、酒や薬に溺れてしまい、若いうちに亡くなる方が増えているのです。
これは、絶望死とも言われています。
南北戦争前も同じように格差がひどかった
そして、実は、南北戦争前のアメリカも、そのような状況でした。
南北戦争は1861年から65年までなのですが、1830年ごろから、ヨーロッパからの移民が増えて、労働力が過剰になったため、賃金が下がっていきました。
そのため、暴動の数も、1830年代から増えています。
このような結果、平均身長も、1830年をピークに1890年まで縮まっていきました。
なお、最近のイギリスでも、子供の身長が小さくなっているようですが、栄養状態が悪くなっているからだと言われています。
アメリカでも、賃金が下がっていく一方だったため、栄養状態が悪くなり、寿命や身長が下がっていったんですね。
(2)グローバリズム
2つ目は、グローバリズムです。
現在のアメリカは、基軸通貨国ということで、世界中でドルを使ってもらうために、関税を低くして、他の国から輸出される商品をなるべく買うことが求められます。
しかし、それでしわ寄せが来るのは、アメリカ国内の製造業です。人件費の安い国で、車や衣料品などを作られては、勝ち目がありませんからね。
これと同じ状況が、南北戦争前のアメリカでした。
当時の関税を見ると、1830年代をピークに、南北戦争が始まる前まで下がり続けていることがわかります。
関税が低いと、海外からの安いものが入ってきやすくなるため、自国の産業が育ちません。
当時の覇権国はイギリスです。
インドなどの植民地から安い原料を調達し、工場で大量生産できていましたので、安い商品が入ってきやすかったのです。
関税が下がってくるのに、移民は増えていったため、さらに労働力が過剰になり、労働者の貧困化が進んでしまっていたんですね。
(3)既得権益層と大衆の対立
3つ目は、一部の既得権益と大多数の大衆との対立です。
今回の大統領選挙では、トランプ氏が当選すると困る人が、くっきりと浮き彫りになりました。
こちらの動画で、詳しく解説していますので、気になる方は見てみてください。
ここでは簡単に挙げますと、
- 高級官僚
- 大半のメディア
- 戦争屋の政治家
- イギリス政府
- 司法
の5つです。このような人が、トランプ氏に大反対をしていた、今のアメリカの既得権益層であったり、繋がっている人たちなんですね。
それに対して、イーロン・マスク氏や、多くのインフルエンサーが、XやYouTubeなどのSNSを駆使して、トランプ氏の応援を行いました。
その結果、オールドメディアの影響力が小さくなり、いくらテレビや新聞がトランプ氏を叩いても、効果がなく、トランプ氏がそのまま当選したわけです。
南北戦争前も、自由貿易で一部の人だけが儲けていた
では、南北戦争前のアメリカはどうだったのか?というと、やはり自由貿易を求める層が既得権益者となっていました。
当時のアメリカは、南部の綿花が主要な輸出品目で、黒人を奴隷として、こき使って、安く綿花を作り、北部の金融業者や商人が、ヨーロッパに輸出することで、儲けていた社会でした。
そして、関税も徐々に下げられていたため、お金を持っている人は、安く商品が手に入りましたが、海外からの安い商品が入ってくるため、産業が育ちにくく、労働者はずっと貧乏なままでした。
また、当時の選挙制度は、奴隷は投票権はなかったものの、5分の3人分としてカウントされていたため、黒人奴隷がたくさんいた南部の方が、要職につける状況にありました。
そのため、当時の富裕層の3分の2が、南部の貴族階級で、政府の要職もほとんどが南部出身者が占めていました。
特に、関税が下がり始めた1830年から、自由貿易を推進する民主党が、政権を取る機会が増えていました。
保護貿易を推進する、現在の共和党の前身であるホイッグ党が大統領に当選しても、すぐに原因不明の何かで死んでしまっていました。
そのためか、南北戦争が始まる直前まで、関税はずっと下がり続けており、既得権益層に有利な状況が続いていたわけです。
それに対して、リンカーンを支持していた北部では、鉄鋼や鉱業、鉄道などの新しい産業が生まれており、ヨーロッパからの移民も増えたことで、人口も増え続けていました。
*南軍:南部11州
*北軍:ただし、奴隷制度が残っていた5州は除く(デラウェア、ケンタッキー、メリーランド、ミズーリ、ウェストバージニア)
当時のアメリカの人口を見てみると、奴隷制度が残っていた南部の諸州は、1820年から1860年までに、約2.7倍になって、800万人増えていましたが、奴隷制度を採用していない、それ以外の州では、約4倍になって、1,400万人増加していました。
奴隷制度を採用している州では、綿花が主な産業だったので、移民としてきても、あまり仕事がなかったのでしょう。奴隷に働かせた方が、給料を出す必要もなくて、安上がりだったわけですからね。
そのため、北部では人口も、産業も発達しているのに、政治は南部の貴族階級向けという、ズレが生じていたわけです。
リンカーンが大統領になれた背景
そんな状況の中で、リンカーンが大統領になったわけです。
リンカーンは、政治家になる前は、シカゴのあるイリノイ州で弁護士をしていました。そして、当時の新興産業であった鉄道会社の弁護も何回か引き受けています。
イリノイ州は、アメリカの工業地帯が集まる五大湖の近くにありますので、北部の工業化していく様を見ていたでしょう。
しかし、関税が低かったことから、イギリスなどから安い製品がどんどん入ってくるため、労働者の生活はちっとも良くなりません。
関税を高くすれば、自国の産業を保護できますし、労働者が豊かになれば、新しいイノベーションも生まれると言うことで、当時の低関税による自由貿易政策に反対の立場をとって、当選していったわけです。
3、リンカーン大統領とトランプ氏の政策の共通点
では、リンカーンとトランプ氏の政策は、どこが似ているのでしょうか?
大きくは3つあります。
(1)政策の目的
1つ目は、目的です。
両者ともに、労働者の所得を増やすことを目的として掲げています。
リンカーン大統領は、もともと農家の生まれで、自分の努力で弁護士、そして政治家になった人間です。
なので、頑張って働いている人間は、当然に報われるべきだし、黒人を奴隷として一生こき使うことで、特権階級だけが得をするような奴隷制は間違っていると考えていました。
私が奴隷制度や黒人種についてすることは、これが連邦を救うに役立つと信じているためなのです。
(中略)
そして、しばしば表明してきた私の個人的な願い、すなわち万人はどこにあっても、自由でありうるという願いを、少しも変えようとは思いません。
そんな制度の下では、人間は頑張らないし、建国の理念にも反しているし、社会の発展もないと思っていたんですね。
なので、リンカーンは、人口の大半を占める北部の産業を育成することで、頑張って働いている労働者の所得をあげようとしました。
トランプ氏も貧困に陥っているアメリカ人の解放を目指す
そして、トランプ氏も同様です。
現代のアメリカは、海外からの輸入品がどんどん入ってきるため、製造業が海外に移ってしまい、高賃金の仕事が少なくなっていますし、不法移民もどんどん入ってきているため、低賃金の仕事がさらに安くなっており、まさに奴隷制度のような状況に追い込まれています。
日本も、非正規労働は、年収200万円台もザラになっていて、結婚も難しい状況なわけですから、奴隷制度が導入されているようなものですよね。
なので、大企業の役員や高級官僚などの、一部の人たちだけが得をする社会から、普通に働く人たちの所得を増やすことを公約に掲げて当選しました。
(2)関税の引き上げ
2つ目は、関税です。
リンカーンは、大統領選挙に当選してすぐに、関税を引き上げています。低い関税を支持していた南部諸州が、アメリカ合衆国から離脱したため、法案がスムーズに可決されました。
リンカーン以前から、アメリカでは、ホイッグ党という、共和党の前身に当たる政党が、関税を引き上げて、海外からの輸入を抑えるべきだと主張していました。
リンカーンも、以前はホイッグ党に属していましたので、その考え方を学び、正しいと思っていたのでしょう。
そして、トランプ氏も関税を引き上げると、たびたび発言していますよね。
最近は、カナダとメキシコに対して、25%の関税をかけると発言していましたが、これも自国に工場を作らせた方が、特になるように仕向けていると言えます。
(3)国家主導のインフラ開発
そして3つ目は、国家主導のインフラ開発です。
リンカーン大統領の当時、南部の議員が政府の要職についていたため、綿花を輸出できる港さえあれば、あとは必要ないということで、道路網や鉄道、運河などの公共事業によるインフラ整備が、あまりされていませんでした。
ですが、北部で、工業化が進んでいたこともあって、物流インフラを構築することが、アメリカの産業力を強くすると考えられて、リンカーン以降は、アメリカ国内のインフラ整備が進むことになります。
トランプ氏も公共事業に力を入れていく
では、トランプ氏はどうかというと、人口増加による住宅不足の解消のために、新都市を作る構想がありますし、原油や天然ガスの規制緩和によって、エネルギー産業の復活を進めようとしています。
現在のバイデン政権も、グリーンニューディール政策として、EVの充電ステーションの整備や、EV補助金などに充実に予算を割きましたが、EVそのものが環境に良くない、デタラメな技術なので、日本のハコモノだけ作るような、無駄な公共事業と変わりません。
なので、国が行うべき公共事業は、国民の生活を豊かにすることと、海外に売れる産業を作ることに繋がらない限り、やってはいけないんですよね。
トランプもリンカーンも、日本の高度成長期のような状況を作ろうとしている?
このように、いろいろと調べてみて、気づいたのですが、実はリンカーン大統領も、トランプ氏も、日本の高度成長期のような状況を作り出そうとしていた、ということです。
1950年代から70年代までが、日本の高度成長期と言われていますが、この当時も高い関税と、輸入量の制限、そして、高速道路網や新幹線などの、産業に必要なインフラをどんどん整備していくことで、海外に輸出できる産業を育てていきました。
物価も上がりましたが、それ以上に賃金が上がっていたので、国民の所得が増えて、中間層が育っていった時期です。
つまりは、
「時給100円で缶ジュース100円の社会よりも、時給1,000円で缶ジュース500円の社会の方が良くね?」ということですね。
日本は、必要とされる仕事の低賃金化が止まらず、路線バスの廃止や、医療、介護の人手不足などで、社会が崩壊しつつありますが、
もしかしたら、トランプ政権のように、保護主義的な政策をとることが、経済の復活につながるのかもしれません。
この可能性については、今後、改めて考察してみたいと思います。
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