なぜ中東は、トランプに大金を投資したのか? | イエ&ライフ

なぜ中東は、トランプに大金を投資したのか?

youtube原稿

この記事では、「トランプ中東訪問から見える、トランプ政権の置かれている状況」ということで、やっていきたいと思います。

 

1、はじめに

5月13日から16日にかけて、トランプ大統領は、サウジアラビア、UAE、カタールの3カ国を周り、2兆ドル、290兆円もの契約を取り付けました。

 

(参考:Forbes)

 

UAEとは、2,000億ドルで、カタールとは、当初2,435億ドルで、最終的には1兆2,000億ドルまで拡大予定で、サウジアラビアでは、6,000億ドルという内訳です。

契約内容は、主に武器の購入と、AI関連への投資ということで、特にAI関連については、イーロン・マスク氏やchatGPTのサム・アルトマン氏、AI用の半導体大手のエヌビディアのジェンセン・ファン氏などの、大企業の経営者も同行しての売り込みだったようです。

 

これほど大規模な投資契約は、これまで聞いたことがありません。

チャットGPTにも聞いてみたのですが、過去にこれほど大規模な国家間の契約はなかったようなので、おそらく、過去最大級の成功と言ってもいいのではないかと思います。

 

ですが、よくよく考えてみると、いくつかの疑問が出てきます。

例えば、

・UAEは、BRICSに加入しており、サウジもBRICSへの正式加入はしていないが、一時は、加盟候補国として、名を連ねるほどの国だったのに、なぜ米中が割れそうなこのタイミングで、これほどの額をアメリカと結んだのか?

 

(参考:ロイター)

 

・バイデン政権までは、UAEがBRICS入りしていることから、AI用の半導体の輸出を規制していたが、今回の訪問時にトランプ政権はこれを撤回している。中国への技術流出の懸念という話はどうなったのか?

などです。

 

そこで、今回の動画では、これらの疑問について、考察しつつ、今後のドル基軸通貨体制が、どのようになっていきそうなのかを予想していきたいと思います。

それでは、参りましょう。

 

2、トランプ政権の政策目的について

まず最初に、現在の米ドルを中心とした基軸通貨体制が、トランプ政権に変わったことによって、どのように変化しつつあるのか?について、押さえておきましょう。

トランプ政権は、4月2日に、トランプ相互関税を発表し、世界中の国々に対して、貿易赤字額から輸入額を割ったものをさらに2で割った数値をもとに、関税をかけました。

 

(参考:NHK)

 

これは1週間後の4月9日に、90日間の延期が発表され、7月8日までは、交渉期間となっていますが、計算式からも分かる通り、アメリカは各国との貿易赤字を解消したくて、この相互関税政策をとっています。

そのため、一番の貿易赤字国である中国に対しては、猶予期間は設けず、中国も報復関税合戦に乗ってきたため、一時は145%まで上がり、現在は30%に落ち着いています。

 

このように、かなり相互関税政策は、目まぐるしく変わっているわけですが、これによって、何を変えようとしているのか?というと、米ドルという紙切れを渡して、海外からものを買える状況を止めようとしているのです。

なぜかというと、アメリカの製造業がどんどん衰退して行っているからです。

 

(参考:テレグラフ)

 

今回の中国との報復関税合戦が続いた場合には、夏頃にはお店の棚から商品がなくなると心配されていました。

日本もそうですが、アメリカでも売られている商品の大部分が中国製のため、中国との貿易がなくなってしまうと、買えるものがなくなってしまうからです。

 

このような衰退は、日用品の分野だけでなく、軍事にも響いてきています。

現在、アメリカには商業船の世界生産のシェアは1%未満しかなく、潜水艦や空母の建造計画に大きな遅れが出ています。

 

(参考:Federal news Network)

 

また、2017年から21年までの4年間で、防衛関連の企業が約1.7万社、2割以上も撤退しました。この結果、特定の装備品や部品の供給能力が低下してしまい、いざいという時に、十分な量を確保できなくなっています。

そのため、世界中で自分のペースで、喧嘩を売る分には問題がなくても、いざ攻撃されたり、攻め込まれたりすると、途端にボロが出てしまう可能性まであるのです。

 

現在のトランプ政権には、このような危機感があるため、製造業をアメリカ国内に戻そうとしているわけです。

 

基軸通貨システムの変化

そのための方法として、相互関税を使っているわけですが、これを基軸通貨システムという観点から見ると、こちらの図の左側から右側への変化となります。

 

 

日本を例にとれば、アメリカに車を売って、それでもらったドルで、中東の産油国から原油を買うということですね。そして、産油国は、日本に原油を売って手に入れたドルで、アメリカの米国債や武器などを買ってきた、というのが、これまでの基軸通貨システムです。

 

ですが、今回のトランプ政権によって、この流れが変わりました。

2月の日米首脳会談で話されたのも、貿易赤字の解消でした。そこでトランプ氏は、日本との貿易赤字を武器と液化天然ガスの輸出で解消できると話しています。

 

つまり、今までのように、アメリカからドルを稼げなくなる、少なくとも、ドルを稼げる量が減るのです。

さらに、産油国としても、米ドルを貰い続けるのってどうなの?ということになってきました。

 

具体的なエピソードを2つ、ご紹介すると、

・バイデン政権の時に、「サウジは、人権侵害国だから、仲間はずれにする」といきなり言われて、ムチャクチャ、アメリカにムカついていた。

それに、2023年に中国が仲介してくれてイランと国交回復ができたので、BRICSに入った方がいいんじゃね?ということになった。実際には、サウジは加入していないが、お隣のUAEは加入している

 

(参考:NPR)

 

・2022年2月からのロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアの米ドル資産が凍結されて、何十兆円というお金が使えなくなった。

バイデン政権は、民主主義じゃなければ国にあらず、みたいに産油国に冷たいので、いざ目をつけられたら、俺らのドル資産もパアになるんじゃね?と怖くなって、ドル以外の資産に移そうとする理由ができた

 

(参考:ロイター)

 

といった感じです。

これが、トランプ氏が当選する前の、ほんの数ヶ月前の、中東産油国の気分だったのです。

 

中東産油国が大金を払った理由

このように考えると、今回のトランプ氏の中東訪問で、前代未聞の契約額になったことの理由がわかると思います。

 

 

つまり、

「もう米ドルという紙切れをもらっても、信用できないから、武器とかAI半導体とか、そういうモノをくれ」

ということなのだと思います。

 

産油国は、原油が豊富にありますから、アメリカから買いたいものといえば、武器とAI半導体ぐらいでしょう。それ以外の日用品は、中国が売ってくれますからね。

そのため、中国に技術が盗まれるんじゃないか?という心配もありましたが、これしか売るものがないんだから、ということで、OKを出したのではないでしょうか?

 

また、トランプ氏としても、今まで世界中に垂れ流してきたドルが、米国企業に流れるので、雇用も増えますし、米国内の製造業の復活にも貢献できますので、お互いウィンウィンということで、成立したというわけですね。

 

3、これからどうなるのか?

しかし、このような経済システムのルール変更が進んでいくとなると、困るのは、米ドルが稼ぎにくくなる、いろいろな国々です。

例えば、今回のトランプ関税で、アフリカや東南アジアの国々では、かなりの高関税をかけられて、苦しくなったところが多くあります。

 

(参考:Yahoo! Finance USA)

 

世界最貧国の1つのレソトという国は、50%の関税をかけられて、絶望的な状況となっています。

今回の相互関税の計算式は、貿易赤字を輸入額で割ったものですから、産業があまり発達していない国ほど、価格が高いアメリカのものを輸入しにくく、高い関税率がかけられる傾向にあるのです。

 

しかも、他の国がドルを融通してあげようとしても、それらの国だって、これからは相互関税によってドルが稼ぎにくくなります。

アメリカは、主要な貿易国との交渉はしていますが、貿易量の少ないところとの交渉は予定していないようです。

 

そのため、これらの困っている国では、産油国などの、輸入したいものを持っている国と直接交渉して、二国間取引を行うか、BRICSが新しい通貨や、決済システムを作って助けるしかないのではないでしょうか?

7月のBRICSサミットでは、これらの困っている国々に対する支援方法について、話し合われるものと予想しています。

 

米国債も格下げに

また、先週14日にムーディーズが米国債の格下げをしました。

 

(参考:ロイター)

 

スタンダード&プアーズとフィッチはすでに格下げをしていたので、今回の格下げで、3大格付け会社全てが、米国債の格付けを引き下げたことになります。

原因は、財政赤字の拡大と利払負担の増加です。

 

(参考:政府効率化省)

 

政権発足当初は、イーロン・マスク氏の政府効率化省が、いろいろと米国政府の無駄遣いを暴露して回ったことで、政府予算の削減もかなり進むのではないかと期待されていました。

ですが、議会で通らなければ、削減が難しいものが多いため、実際には、5月11日現在で、1,700億ドル、約25兆円しか削減できていないとのことで、3ヶ月で当初計画の1割未満となっています。

 

年間2兆ドル規模の削減ができれば、政府債務の削減にも貢献できると思いますが、25兆円では、マーケットの方も、まだまだ焼け石に水という評価なのでしょう。

さらに、相互関税によって、海外にドルが回らなくなれば、海外からの米国債の購入も減ります。米国でも、景気は良くない状況が続くでしょうから、やはり買い手を探すには苦労するでしょう。

 

1970年代の再来か?

そのため、おそらくですが、1970年代に起こった、不景気の物価高によって、借金を目減りさせる方向へと、向かうのではないかと思います。

年収100万円のひとが、借金が100万円あるときついですが、年収が1,000万円に上がれば、100万円の借金も簡単に返せますよね。これと同じ理屈です。

 

(参考:米国財務省)

 

今回の中東訪問によって、アメリカ国内にドルが入ってくるようになりました。

日本でも自動車メーカーを中心に、アメリカに工場を作ると言ってますので、世界展開をしている企業がアメリカにドルを集めてきているので、インフレが起きやすくなります。

 

さらに、今回の相互関税によって、海外からモノが入りにくくなります。

そうなると、海外からの安いモノが入ってきにくくなりますから、高くても米国産のものを買わなければいけなくなります。

 

現在のトランプ政権の政策は、国内に産業を戻すという目的が全面に出ている印象がありますが、財政問題についても、ベッセント長官を中心にかなり意識しています。

そのため、このような裏の意味も含めて見ていかないと、足元を掬われるのかなと思いますね。

この辺りについては、改めて整理してみたいと思います。

 

この記事を書いた人
ゴトウ

証券会社で12年間勤務。営業と店舗マーケティングに従事後、2018年から当サイト「イエ&ライフ」を運営しています。

不動産価格の動きの理解や今後の予想は、金融マーケットの知識があると理解しやすいため、読者のお役に立てるのではないかと、サイトを運営しています。

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