今回の動画は、「俺はの名はミレイ。そう、アルゼンチン大統領。選挙で負けそう。ライブで絶叫」ということで、やっていきたいと思います。
*この記事は、YouTube動画の元原稿になります。
1、はじめに
10月14日に、アルゼンチンのミレイ大統領が訪米し、トランプ氏との首脳会談を行いました。
ミレイ大統領は、トランプ氏が大統領選挙で当選して就任前に最初にあった海外の首脳であり、その政策内容がトランプ氏に似ていることから、アルゼンチンのトランプなどとも言われている人です。

イーロン・マスク氏もミレイとは何度かあっており、アメリカの政府効率化省、通称DOGEに似たような組織をアルゼンチンでは先に立ち上げていたため、意見交換などもしていたと思われます。
こんな感じで、トランプ政権とは、比較的相性の良いミレイ大統領ではありますが、今回の首脳会談は、ミレイ氏がアメリカに経済支援を求めるためのものでした。

現在のアルゼンチンは、9月に行われたブエノスアイレス州の地方選挙で、与党が大負けしたことを受けて、今月10月26日に行われる中間選挙でも、与党が負けるのではないか?ということで、ペソの通貨安が進んでおり、またインフレが再燃するのではないか?と思われているのです。
そのため、ミレイ氏は、アメリカからの支援を取り付けることで、投資家の安心感を得て、インフレを抑え、中間選挙でも逆転勝ちを目指したかったものと考えられます。
ところがです。
トランプ氏は、今回200億ドル、約3兆円の経済支援の条件は、今度の中間選挙の結果次第だと回答しました。

9月の中間選挙の大敗の理由は、いろいろありますが、その大きな理由は、妹のカリーナ・ミレイ氏の汚職スキャンダルでした。
製薬会社から50~80万ドルの賄賂をもらい、さらに契約額の3、4%をキックバックでもらっていたという音声が、地方選挙直前にリークされて大騒ぎになったのです。
さらに、ミレイ氏の経済政策は、無駄を省く緊縮財政でしたので、国民も我慢していました。
それなのに、こんなスキャンダルが出てしまったものですから、「俺たちはこんなに我慢してるのに、お前らはそんな間も、金儲けかよ」ということで、人気が急落してしまったのです。

そのため、ミレイ氏は、今月6日に首都ブエノスアイレスのアリーナを借りて、ヤケクソライブを行いました。
会場を予約する関係で、計画はもっと前からだったと思いますが、妹の汚職がバレて、地方選挙でも負けて、さらに、このライブの前日に、副大統領になると前評判だった候補者も、麻薬密売のスキャンダルがバレて立候補を辞退するような状況でやったのです。
これでは、今月の中間選挙でも敗色は濃厚です。そんな泣きっ面に蜂の中、わざわざ恥を晒すような、絶叫ライブになってしまったわけです。
今回の動画では、なぜミレイ政権がこんなことになってしまったのか?その理由と、トランプ氏がこれからアルゼンチンをどうしようとしているのか?について、考察していきます。
それでは、参りましょう。
2、ミレイ氏は何をやったのか?

まず、ミレイ氏のやってきた政策について、ざっと見ていきましょう。
簡単にいうと、80年代のイギリスのサッチャー政権、そして日本の小泉、竹中の構造改革の激烈版をやったような感じです。

ミレイ氏が大統領に就任する前のアルゼンチンでは、インフレ率が年率200%を超えてましたので、1年で貨幣価値が3分の1とか、4分の1になるような酷い状況でした
なぜこんなことになっていたのか?を家庭で例えてみましょう。
お金を稼いでくる旦那さんが、外貨を稼ぐ輸出企業だとしたら、専業主婦の奥さんは、国内産業や行政にあたります。

そして、子供や高齢者がいるような家族でイメージしてみてください。
インフレが続いていた理由は、旦那の稼ぎよりも、家計の出費の方が多かったからです。国内産業や役人をたくさん雇ったり、補助金をばら撒いたり、医療費や公共事業に余計にカネをかけたりと、そういうことですね。

それで、輸出で稼いだ金よりも、輸入で払ったお金の方が多くて、貿易赤字がずっと続いているような状況だったのです。
現代社会では、何をするにも、電気やガソリンが必要になりますので、輸入しなければ、生活が成り立りません。
なので、海外に売れる商品を作って、外貨を稼がなければいけないのですが、そういう産業が育たないままに、役人が増えすぎたり、政治家が人気取りのために、訳のわからん公共事業をやってバラマキをやった結果、輸入ばかりが増えてしまって、海外に対して赤字が増え、通貨安になって、インフレが止まらなくなってしまったと、そういうわけです。
つまり、実力以上に使い過ぎてきたのが、アルゼンチンだと言えます。

そのため、ミレイ氏は、こういう外貨を稼ぐことに貢献しない、国内産業や公務員、公共事業、補助金などをバシバシカットしていきました。
18あった官公庁を9つに再編したりして、政府職員のクビを7万人ぐらい切ってます。
また、いろいろな補助金をカットしたため、医療費や交通機関の費用が上がったりもしました。
ミレイ氏は、選挙期間中に、これからアルゼンチンが立ち直るには、大きな変化が必要となるので、ショックを受ける人も出るだろうが覚悟してくれと、チェーンソーを振り回しながら、国民に訴えかけていました。
それでも当選したわけですから、それほどにインフレが酷かったということなのでしょう。公務員ですら、貧困層になってしまうような状況だったようです。
しかし、そのような痛みに耐えた結果、インフレは収まってきて、貿易黒字、財政黒字へと転換しました。ここまでは、狙い通りだったと思います。

ですが、輸入関税を引き下げたことや、為替市場の自由化をさっさと進めたことは、悪手だったと思います。
アルゼンチン経済は、海外に輸出する産業については、国際競争力があったと思いますが、それ以外の国内産業は、補助金やら規制やらで守られており、海外との競争では勝てない状況にありました。
それなのに、輸入関税を引き下げてしまったら、海外からの安くて質の良い商品がどっと流れてきます。その結果、国内産業が打撃を受けて、失業者が増加するという状況に陥りました。

トランプ政権だって、これまでのグローバリズム経済から抜け出すために、相互関税をかけて、自国の産業を守ろうとしているのに、ミレイ政権は逆のことをやったのです。
その結果が、国内産業のさらなる崩壊であり、国民の信頼を失ったことでの、地方選挙の敗北だったのだと思います。
3、トランプは何を考えているのか?

このようなピンチの中にあるミレイ大統領ですが、今回のトランプ氏の発言の真意はどこにあるのでしょうか?
まず、そもそもトランプ氏とミレイ氏の関係は、政策的な共通点よりも、宗教的な親近感の方が大きかったのではないかと思います。

というのも、ミレイ氏は、ユダヤ教に熱心で、大統領を引退したら、ユダヤ教に改宗するということを公言しているような人だからです。
そのため、2023年からのガザに対するイスラエル軍による虐殺も、一貫して擁護の立場をとってきました。
また、ミレイ氏は、インフレがひどくて安くなり続けるペソなんかも捨てて、最終的には米ドルを法定通貨にすべきだなんてことも、公約に掲げていました。
このような政治的、宗教的な姿勢の共通点がトランプ氏と似ているため、トランプ氏もミレイ氏と良好な関係を構築できていたのではないかと思います。

ところが、アルゼンチンの経済というのは、アメリカとそれほど関係が深いわけではありません。貿易相手国で、最も大きいのは隣のブラジルで、輸入に関しては、2番目が中国です。
アメリカは、輸出、輸入どちらにおいても、1割程度でしかなく、むしろブラジルや中国などのBRICS諸国や、周辺の中南米諸国との関係の方が強いのです。
しかも、現在のアメリカは、相互関税とか言って、海外からの輸入を抑えようとしてますし、日韓EU、そして中東などから対米投資のための金を引っ張ってきていますが、逆に海外への支援は、USAIDの廃止などもあって、ほとんど興味を示していません。

さらに、トランプ氏は、アルゼンチンに対して、中国との関係を切れと要請しています。
中国は、中南米諸国に対して、インフラ投資を提供しており、アルゼンチンでも道路の建設をしたりしてますし、民間利用の宇宙基地も作っています。
つまり、今のアメリカは、貿易関係で言えば、はるかに関係が深い中国と縁を切らせて、金も出すつもりもないくせに、俺たちの側につけと言っているのです。
第二のウクライナになりそうなアルゼンチン
これは、まるで第二のウクライナのようなものです。
2014年にウクライナでは、マイダン革命が起きました。当時の大統領はヤヌコビッチ氏だったのですが、この人は親露派で、当時のウクライナ経済も、ロシアとの関係の方が深く、EU側の支援額も雀の涙程度で、経済的なメリットはほとんどありませんでした。

それでも、ロシアよりもEUの方がいいという人たちを煽って、クーデターを起こさせた結果、ロシアとの経済関係が切れて、ウクライナは多くの失業者を産みました。
現在のアルゼンチンも、アメリカが、中国との関係を切らせたいと言ってる割に、大した経済支援を行うつもりがないという状況であり、このままトランプ氏の言うことを聞き続ければ、中国やBRICSとの経済関係が薄くなって、さらに厳しい状況に陥ることが予想されます。

さらに、ミレイ氏は、たびたび、いい加減なスキャンダルも起こしています。
9月に妹の賄賂の話が暴露され、10月には副大統領に指名予定だった候補者が、麻薬密売や詐欺に手を染めていたことがバレたり、そして、2月には、暗号通貨リブラをフォロワーに紹介した後、暴落して数百万ドル単位で、ミレイ氏の言うことを信じた投資家が損失を被りました。
このような状況から、おそらく、トランプ氏はミレイ氏がもう長くないと思っているのではないでしょうか?
そのため、今回の会談で、「選挙に勝ったらね」と条件をつけたのだと思われます。

私は、現在のトランプ氏のスタンスは、どこかの国の弱みに漬け込んで、属国にしてしまうというスタイルは取らないと考えています。
なぜかというと、それをやると、アメリカがまた楽をしてしまって、国内産業や政府組織の腐敗が進んで、逆にアメリカが弱体化してしまうからです。
もうアメリカは、他国を搾取する「帝国」ではなく、自国の地力をつける「国民国家」へ変わろうとしているのです。
だからこそ、相互関税を通じて、中国やインドといった、人件費の安い国との貿易をやめて、米ドルを刷っとけば、何でも手に入ると言う状況を止めようとしているのだと思います。
なので、現在のアルゼンチンが米ドルを法定通貨にしたいとか言ってることも、本音で言えば、迷惑な話だと考えているのではないでしょうか?

ミレイ氏は、リバタリアンという思想を持っていると言われており、なるべく政府の規制はいらない論者です。
なので、関税のようなものも、さっさと撤廃すべきだとやったのだと思いますが、結果的に、これで国内産業が窮地に陥り、それに加えて、今回のスキャンダルがいろいろ出てきたことで、我慢していた国民からの信頼を失い始めているのでしょう。
10月6日のライブでの、ミレイ氏の絶叫は、このようなスキャンダルや政策の強引さが裏目に出たことへの後悔だったのではないかと思います。
今度の選挙では、おそらくミレイ氏は負けるでしょう。
そして、また中国がアルゼンチンに近づき、アメリカは口は出すけど、金は出さないという姿勢を崩さないため、南米は中国との関係をさらに深めていくのではないかと思います。







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