この記事では、「イギリスの自動車ブランドのジャガーが、やばい方向転換をした背景と、今後のイギリス経済」について、考察していきたいと思います。
ジャガーは、イギリスの高級車メーカーで、日本でも販売店があり、年配の方であれば、結構知っている方は多いのではないかと思います。
そして、先日、そのジャガーが、新しい広告を出したのですが、その内容が、あまりに自動車メーカーらしくなく、そして、完全にポリコレに振り切っているということで、多方面から失望の声が出ているようなんですね。
そこで、この記事では、ジャガーがどんな広告を出し、どういった方向に向かおうとしているのか?なぜ、こんなことになっているのか?そして、これからどうなるのか?について、考察していきたいと思います。
なお、この記事は、YouTubeで利用した画像を再利用しています。
1、ジャガーについて
まず最初に、ジャガーがどんなメーカーなのかを見ていきましょう。
ジャガーは、1922年に設立されたイギリスの自動車メーカー「スワロー・サイドカー・カンパニー」によって作られた車の名前が、その後にブランド名、そして社名にも使われるようになっていきました。
ジャガーブランドは、1935年から使用されており、イギリスの自動車メーカーの中でも、かなりの老舗に位置しています。
1930年代の当時のジャガーはこんな感じで、クラシックカーが好きそうな独特な形をしていますよね。
また、1950年代には、レーシングカー事業にも乗り出しています。この頃には、ル・マンの耐久レースなどに参加し、3連覇をしたこともあるようです。レーシングカーの開発は、2000年代まで続けられています。
このように、時代とともに、技術開発にも力を入れてきたブランドなので、政府からの信頼も厚く、イギリスの首相の公用車はジャガーのXJという車種が使われています。
15kgのTNT爆弾にも耐えられる防弾装甲性能を持っているそうです。
また、映画にも使われており、007シリーズでは、主人公のジェームズ・ボンドがアストン・マーチンを乗るのに対して、敵役が乗る車はジャガーというのが、定番になっています。
そのため、敵役が乗っていたジャガーの車も販売されていたりしています。
では、最近はどうかというと、主に3つのタイプの車種が販売されています。
SUVとセダン、そして、スポーツカーですね。
お値段は700万円台が最低ラインで、スポーツタイプやEV仕様のものは、1,000万円以上します。なので、最近はレクサスなどの高級車路線に行っているようです。
また、ジャガーは、ジャガーマガジンという雑誌を発行しています。
WEBサイトにも載っていますので、一通り見てみたのですが、こんな感じで、ちょっとお金持ちのおっさんが好きそうな、雑誌のテイストなのかなと思いました。
あまり派手さを全面に出すよりは、高級感とか、伝統の中にある美とか、ちょっと先進性も入れて刺激的な側面もありますよ、とか、そういう感じですかね。
高級ブランドがたくさん載っているファッション雑誌に近い印象を持ちました。
というわけで、ここまで、ざっと見てもらいましたが、どんなイメージを持たれたでしょうか?
政府からの信頼もありつつ、レーシングカーで走り屋の人たちをファンにもち、クラシックカーの愛好家にも、好まれるような、ちょっとお金持ちの大人の男性が好きそうな、そんなブランドイメージではないですか?
最近だと、競合するのは、レクサスなどの高級車ブランドのような感じですよね。
2、今回のジャガーの広告はこちら
では、そんなジャガーが、今回、どんな広告を出したのか?というと、こちらです。
なんだか、完全にパリ五輪の開会式を思い出させるような内容に感じたのでは、私だけでしょうか?
今までご紹介してきた、ジャガーに対して持ってもらったイメージが、ことごとく壊された感じがします。
こちらは、自動車業界の製品デザイナーの方の、Xでの投稿です。
「ジャガーがブランド自殺するのを見るのは、ゆっくりとした列車の脱線を見ているようなものです。~これが一体なんであれ、ジャガーの顧客を反映したものではないかことは確かです。」
と投稿しています。450万回以上も見られていました。
その他にも、「なんで車が出てこないの?」とか、「バドライト2.0だ」とか、「今のジャガー保有者は、絶対に買わないよとか。」そういう批判が多いようです。
一方で、その後に出てきたVOLVOのPVは対照的で、父と自立して家を出ていく娘の別れのシーンを軸にした約4分のショートムービーで、見ている人たちの多くの共感も呼び、1200万回以上の再生をされています。
こちらのコメント欄を見ると、「次に買うのはボルボにします。」といったコメントも多く見られ、評価が天と地ほどに違っているように見えてしまいますね。
本発表は12月ということなので、そこで現在の評価をひっくり返せれば、ワンチャンあるかもしれませんが、その可能性は正直低いのではないかと思います。
3、なぜこんなことになってしまったのか?
では、なぜジャガーは、現在のお客さんを怒らせるような広告を出し、自滅的な道を歩もうとしているのでしょうか?
私が思うに、その理由は3つあります。
(1)イギリスのEV政策
1つ目は、イギリスのEV政策です。
イギリスは、環境先進国ということで、2030年には自動車販売台数のうち、電気自動車などの二酸化炭素を出さない車だけで80%以上にすることを公約としています。
そのため、イギリスの代表的な自動車ブランドであるジャガーも、2021年に今のガソリン車の販売をやめて、2025年には全てEVに切り替えると宣言しています。
つまり、この12月に発表するラインナップは、すべてEVなのです。
ところが、現在のジャガーのEVを見てみると、ガソリン車よりも明らかに高額です。
日本の販売代理店の取扱ラインナップを見てみると、EVはSUVの1台だけなのですが、なんと車両価格が1,500万円以上するのです。
ガソリン車のSUVに比べて、1.5~2.0倍するのです。
そのため、今度発表されるEVは、軒並み1,000万円台をゆうに超えることが予想されます。
今年5月に出たこちらの記事では、今年中に発表されるのは、グランツーリスモタイプのもので、約2,000万円と予想されていますので、まあ、他の車種についても、これぐらいになりそうですよね。
これは、現在のジャガー愛好家から見ると、価格が最低でも1.5倍から2倍ぐらいに上がることを意味しますので、これまで通りの販売方法では、販売台数が激減することは、目に見えていますよね。
おそらく、このような将来予想を踏まえた場合、何か他の方法をとらなければならないと、経営サイドは考えたのではないでしょうか。
そこで、ルイ・ヴィトンやグッチ、ディオールあたりの高級ファッションに似たテイストに寄せていって、「こういうオシャレで高い服を買う人にとって、ピッタリの車なんですよ」というメッセージを出したかったのではないかと思います。
(2)イギリスのポリコレ圧力に負けた
2つ目は、イギリスのポリコレ的な同調圧力です。
イギリスは、今年7月に総選挙が行われ、中道派の保守党から、左派の労働党へと政権が変わりました。
首相はスターマー氏なのですが、この人が就任初日に、真っ先に何をやったのかというと、不法移民として受け入れた人を本国へ送還するという、前政権で決まった政策を廃止にしました。
アメリカのバイデン氏が、就任初日にトランプ氏が作った国境の壁の撤廃をしたのと、同じパターンです。
現在のアメリカのバイデン政権も、LGBTQ政策や不法移民の受け入れを積極的にやってきましたが、現在のイギリス政権も、同じような状況なのです。
例えば、ハリー・ポッターの作者のJKローリングさんは、イギリス在住で、フェミニストとして有名な方なのですが、トランスジェンダー女性が、普通の女性を強引にアレした事件などに対して、「それって女だと嘘をついてる男が、一般女性にアレしたってことでしょ?」と、日本人であれば、まともなことを発言をしたようなことをしただけでも、メディアからぶっ叩かれている状況です。
これは、保守党政権時代から起こっていることではありますが、労働党政権に変わったことで、その圧力がさらに強まっているのではないかと思います。
そのため、LGBTとか、黒人とか、イギリス国内ではマイノリティとして扱われているような人たちを積極的に押し出さなければ、いけないような、そんな同調圧力が現在もあるのだと考えられます。
(3)やっちゃえ日産ジャガー
そして、3つ目が、あまり期待されていないため、好き勝手やれた、という可能性です。
現在ジャガーは、ランドローバーと合併し、ジャガー・ランドローバー社となっています。そして、この会社は、インドのタタモーターズに買収され、子会社化されています。
このジャガー・ランドローバー社は、4つのブランドで展開しています。ジャガーと、レンジローバー、ディフェンダー、そしてディスカバリーの4つです。
では、ジャガーがどれだけ売れているのか?というと、2024年3月期は、約6.7万台しか売れていないのです。他の3ブランドで約36万台売れていますので、全体の16%しかないんですよ。
ジャガー単体の地域別の販売量のデータはありませんが、他の3ブランドも含めたものを見ると、イギリスが2割ぐらいで、その他アメリカや、ヨーロッパ、中国など、海外が8割を占めています。
では、ジャガーがイギリス以外で、かなり売れているのか?というと、おそらく、それほど売れていないと思います。
というのも、ジャガーは来年からすべてEVになりますが、他3ブランドは、2030年までにEVを出す予定ということで、かなり計画が遅めだからです。
そのため、イギリスのEV規制が厳しいため、ジャガーだけが前倒しせざるを得なかった、というところが、実際のところだと思います。
つまり、経営陣は、このように考えたのではないでしょうか?
- イギリスでしか、ほとんど売れていない、社内でもわずか16%のシェアのブランドなので、ここがコケたとしても、会社が傾くことはなさそうだ。
- それに、どうせイギリスの規制が厳しいから、同じことをやっててもジリ貧なんだから、「好きなようにやってみなはれ」的なノリで、ちょっと冒険的なコンセプトを許可した
ところが、そうやって任せてみたら、思った以上にとんでもないものができてしまったので、大騒ぎになってしまった、というところが、実体のような気がします。
4、ジャガーはどうなるのか?
では、これからジャガーは、どうなっていくのでしょうか?
私の予想ですが、相当に厳しいことになると思っています。
もちろん、広告の評判が悪いということもありますが、最も大きな理由は、EVに全振りしたことです。
日本でも日産自動車が9,000人のリストラを行うことになりましたが、業績不振の原因は、EVの売れ行き不振です。
ヨーロッパやアメリカなどの先進国では、環境規制を厳しくして、EV車に補助金を出すことで、トヨタなどの日本車メーカーを追い出そうとしてきました。
ところが、中国のBYDなどの専業EVメーカーが、さらに安価なEVを売り出してきたため、環境規制に真面目に従ってきた、フォルクスワーゲンやアウディなど、ベンツなどのヨーロッパ系の自動車メーカーが、特に売り上げを減らし、危機的な状況にあります。
日本でのEVの普及率は、新車販売で2%前後と、全然増えていませんが、その理由は、冬にバッテリー切れすると悲惨だとか、走行距離が短いとか、バッテリーの寿命が短いとか、そもそも、製造過程のCO2も含めると、全く環境に優しくないことがバレてきたことなど、悲惨なほどにポンコツ仕様だからです。
それを補助金を積み増したり、規制を厳しくしていくことで、普及率を押し上げてきたのが、欧米各国なわけですが、ちょうどその化けの皮が剥がれてきたところで、ジャガーが全車種をEV車にして投入するというわけです。
しかも1台2,000万円もする、超高級EVになるわけですから、世界中で売らなければ、台数がはけないと思うのですが、アメリカはトランプ政権になるので、EV補助金も廃止されますし、ガソリン車が見直される流れになります。
また、このような広告で喜ぶのは、欧米の一部の人たちであって、中国や他の新興国のお金持ちが、これをみてカッコいいと思うか?というと、かなり疑問です。
しかも、販売シェアの大部分を占めるであろう、イギリス国内の今までのお客さんを幻滅させるような広告となっていますので、本当に誰が買うの?状態になっていく可能性が高いと思います。
以上のことから、ジャガーは、これから数年間はかなり厳しくなると予想されます。最悪の場合、ブランドがなくなると思います。
広告ディレクターを変えれば済むということではなく、EV戦略そのものが致命的ですので、それを推し進めようとするイギリス政府に、潰される悲劇の自動車メーカーとして、名を残すのではないでしょうか?
100年頑張った会社なんですが、可哀想ですね。
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