この記事では、「トランプはイスラエルをどうするつもりなのか?」について、やっていきたいと思います。
1、はじめに
これまで、このチャンネルでは、トランプ政権になって以降の経済や政治、マーケットについて、いろいろと記事にしてきました。
それらの記事の中では、トランプ政権の基本的な方向性としては、アメリカ国内の実体経済の復活を考えており、世界中で戦争を起こして、軍事介入するような自滅的なことはしなくなるはずだ、みたいなことを解説してきました。
なので、いただいたコメントの多くで、「思ったよりもトランプはいいやつなんだね」みたいなものが多い印象です。
ですが、そう思っている人たちでも、トランプ氏のイスラエル支持に関する動きは、「どうなの?」と感じる人の方が多いと思います。
ガザ紛争を停戦に持っていこうと努力しているように見えるものの、イスラエル支持は一貫していますし、そのイスラエルが、停戦に合意したと思ったら、またすぐにガザ攻撃を始めてしまったりしているからです。
しかも、「ガザはアメリカが復興させるから、一回パレスチナの人には、どいてもろて」みたいなことも言っていて、パレスチナの方も、周辺のアラブ諸国も「それって、パレスチナ人を強制移住させるってことだろ」と反発しています。
このような、イスラエルに関わるトランプ氏と、それ以外で活躍するトランプ氏の政策をどのように理解すればいいのでしょうか?
この記事では、イスラエルのガザ侵攻の理由と、トランプ政権がイスラエルを支持する理由を考察しつつ、今後の世界秩序についても予想していきたいと思います。
それでは、参りましょう。
2、なぜイスラエルは、ガザをこれほど執拗に攻撃するのか?
まず最初に、なぜイスラエルは、ガザをこれほど執拗に攻撃し続けているのか?について、見ていきましょう。
私が思うに、理由は大きく2つあります。
(1)ユダヤ人の歴史的な経験
1つ目は、ユダヤ人の長い歴史的な経験から、まずはユダヤ人の独立国を安全な形で作らないとダメだと確信しているから、ということです。
ヨーロッパでのユダヤ人に対する差別は、紀元1,000年代の第一次十字軍の頃から始まっており、1000年近い歴史があります。
歴史家のニーアル・ファーガソンの著書に「憎悪の世紀」がありますが、この本の中で、ドイツ在住のユダヤ人のヤコブ・ヴァッサーマンという作家の、子供時代の回想が掲載されています。
ここからが、抜粋部分です。
「私たちは宗教に基づく同胞意識を失っていなかったが、暮らしぶりや信仰の中に共通項はほとんど残っていなかった。正確に言うなら、ユダヤ人とは名称だけのものになった。
それにもかかわらず、キリスト教徒は私たちに敵意や反感を抱き、あるいは無関心を決め込み、それらは彼らの態度や言葉の端ばしに表れていた。なぜ、私たちは、以前としてユダヤ人なのだろうか」
このように、暴力的な迫害は当時なかったようですが、明確に、ユダヤ人に対する差別意識はあったようです。
この文章は、彼の子供時代のものなので、1880年代ぐらいのドイツの状況です。ちなみに、その当時の、ユダヤ人と他宗教の人との婚姻率は5%前後でした。
それが、1930年代には、28%にまで上がっていたということなので、ドイツのユダヤ人は、なんとかして、差別の対象にならないようにと、社会に溶け込もうとしていたのでしょう。
ところが、1933年にナチス・ドイツが政権をとったことで、状況は悪化していきます。明確に、ユダヤ人とドイツ人が分けられて、制度的にも差別を受けるようになっていったのです
この例は、ドイツのものですが、第1次世界大戦が終わるとともに、ロシア革命によって、ソビエト政権が誕生し、その影響もあって、ロシアやウクライナ、ポーランドなどで、ポグロムと呼ばれる、ユダヤ人を対象とした、虐殺が行われており、ヨーロッパ中で、ユダヤ人への迫害があったことがわかります。
こんな経験をしてきたユダヤ人が、イスラエルに移住して、自分たちの国を作ろうとしたら、どのような国を理想と考えるでしょうか?
おそらく、他の民族に虐められることのない、迫害される心配のない国を作りたいと思うのではないかと思います。
1947年に国連が現在のイスラエルをパレスチナ居住区とで、ほぼ半々にしましたが、すぐにイスラエルは、これを破り、パレスチナの虐殺に走ったのも、絶対に共存できないと考えたからでしょう。
(2)やべえ奴らだと思わせて、周辺国に引き受けさせる
2つめは、アラブ人とは共存できない、やべえ奴だと思わせることで、パレスチナの人たちを周辺国へ引き受けさせようとしているためだと思います。
今回のイスラエルによるガザへの侵攻は、きっかけはハマスからのものだったとはいえ、ガザ住民の犠牲者が多すぎるし、特に子供や女性、高齢者の被害者の割合が約6割と、これは流石に人道的にも非難されてもしょうがないと思う人の方が多いと思います。
実際、イスラエル国内でも、政権の支持率は47%と、今すぐ退陣しろという意見が48%となっており、イスラエルの約半分の人も、これはひどいと思っているようです。
私も、今のイスラエル政府は、どんな理由でこんなことをやっているのか?理解できなかったのですが、2月にトランプ大統領が、ガザをアメリカが引き取って、復興させるという案を示した際に、ネタニヤフ首相が「それは歴史を変える可能性がある」と称賛するような発言をしていたことから、おそらく、これが目的だったのだろうと気づきました。
3、なぜアメリカは、イスラエルの言うことを聞くのか?
ということで、イスラエル側からすると、現在のような動きをする理由は、なんとなくわかるわけですが、なぜこのようなひどい行為に、アメリカ、そしてトランプ政権がついて行っているのでしょうか?
(1)イスラエルロビーの存在
まず、トランプ政権も含めた、全てのアメリカの政権において、共通するのは、イスラエルロビーの影響力でしょう。
アメリカ社会では、ユダヤ人は人口の2%でしかありませんが、2025年のフォーブスの億万長者ランキングを見ると、上位10人のうち、5人がアメリカ在住のユダヤ人でした。
100位まで見ても、21人がユダヤ人で、そのうち16人がアメリカ人です。これほど、多くの富豪がユダヤ人なので、イスラエル支持の献金額も多く、イスラエル支持でない政治家は当選しないとまで言われています。
そのため、イスラエルに対する軍事支援も歴史的に継続的に行われています。
特に、1970年代からの支援額が増えており、現在の価値にして、年間1兆円以上の支援を受けていた年もザラにあります。
いかに、イスラエルロビーの力が強いのかが分かりますね。
(2)アメリカ政府としても、メリットがあった
また、トランプ以前のアメリカ政府にとって、イスラエル支援は、イスラエルロビーを喜ばせるためだけだったのか?というと、そういうわけではありません。
1948年のイスラエル独立宣言以降、イスラエルは、アラブ諸国と何度も戦争になっています。
1948年のアラブ・イスラエル戦争から、1956年のスエズ危機、1967年の六日間戦争、1973年のヨム・キプール戦争など、10年に1度は大きい戦争を仕掛けたり、仕掛けられたりしているため、常に兵器需要がある国でした。
アメリカがイスラエルに軍事支援を行うことは、兵器産業を儲けさせることに繋がりましたし、これほど中東で戦争ばかりやっていれば、周辺の産油国も、いつイスラエルと交戦することになるのか、気が気ではありません。
1974年にサウジアラビアとアメリカとで、原油の決済をドル建てで行う代わりに、アメリカがサウジを軍事支援するという、サウジ・ワシントン密約が結ばれましたが、それは、イスラエルが中東で暴れまくっていたために、結ばれやすかったのだと考えられます。
つまり、トランプ政権以前のアメリカにとって、イスラエルが無茶苦茶をやることは、①兵器産業を儲けさせることと、②ニクソンショック以降の米ドルの基軸通貨体制を支えてくれていた、という点で、メリットがあったわけです。
4、じゃあ、トランプはどうなのか?
では、トランプ政権がイスラエルを積極的に支援している理由は何なのか?というと、おそらくですが、独立してから80年近く続く、イスラエルを中心とした中東の不安定な状況を決着させることを目指しているのではないか?と考えられます。
その戦略は、イスラエルの希望を100%叶えるということです。具体的に見ていきましょう。
(1)パレスチナ人をすべて追い出すこと
1つ目は、イスラエルからパレスチナ人を全て追い出すことです。
これは、先ほどご紹介した、2月に行われたガザをアメリカが所有して、復興しようという提案がそれに関係していると思います。
こちらは、アラブ諸国が、パレスチナ住民を追放するものだと強く反発したため、トランプ氏は撤回しました。
しかし、その後に、ガザに戻ったパレスチナ住民に対して、イスラエルは再び爆撃を開始し、人道的な犯罪が再度行われています。
パレスチナ住民にとっては、故郷に戻れたと思ったのも束の間、イスラエルが再び攻撃してきて、さらに死者が増えて、以前の状況に逆戻りしているわけですから、アラブ各国が戦場に市民を押し出したようなものです。
そして、トランプ氏は、このイスラエルの行動を全面的に支持すると言っています。
これは、虐殺に肩入れしているとも取れますが、周辺国に対して、「ガザの住民を受け入れないと、お前らと同じアラブ人がまだまだ犠牲になっていくんだぞ、なのに、お前らは手を差し伸べないのか?」と言っているようにも見えます。
(2)イスラエル周辺国との対立状態の解消
2つ目は、イスラエルの周辺国との、対立状態の解消です。
イスラエルは、アラブ諸国の中にポツンとあるユダヤ国家であり、民族も違うため、これまであらゆる方面からの脅威にさらされてきました。
現在のネタニヤフ政権の支持率は、半分でしかなく、戦争がこれ以上長引けば、さらに支持率も下がるでしょうし、この状態を長く続けることは難しいでしょう。
なので、なるべく早く、各国との対立関係を解消したいと考えていると思われます。
しかし、それをイスラエルからやることは、今まで戦争をやりまくってきたわけですから、難しいでしょう。なので、代わりに、アメリカにやってもらおうとしているように見えます。
例えば、イスラエルに敵対する、イランやイエメンのフーシ派、ヒズボラなどに対する軍事的、経済的な圧力です。
トランプ政権になって、イエメンのフーシ派への爆撃が行われていますし、イランに対しても、新たな核合意を結ばなければ、空爆を行うと脅しています。
これらの目的は、イスラエルに対する敵対行為をやめさせることと考えれば、合点がいきます。
5、イスラエルの「大イスラエル」は脅威なのか?
なお、あまりにイスラエルが攻撃的なので、ガザやヨルダン川の西岸から、パレスチナ人を追い出したら、周辺国へ侵略するのではないか?と見る人もいます。
(参考:NHK、Islamic21c)
イスラエルには、大イスラエルという考え方があり、大きくは現在のイスラエルの領土とゴラン高原までの回復を目指すものと、ナイル川からユーフラテス川まで、幅広い地域がイスラエルの領土だとするものなど、いくつかの考え方があり、そのほとんどが、対外侵略をイメージさせるものなため、周辺のアラブ諸国をヤキモキさせています。
しかし、私はイスラエルの対外侵略はないのではないか?と思っています。
というのも、イスラエルは、頻繁に周辺国への空爆をやったりしているものの、陸上部隊を投入して、実効支配をしているのは、ゴラン高原だけで、あとはほとんど国内のパレスチナエリアを侵略しているだけだからです。
これまでも対外戦争では、アメリカのバックアップもあって、幾度も勝利していますが、領土の割譲をしてもらったことはありません。
むしろ、イスラエルが掲げる大イスラエルというスローガンは、19世紀のアメリカが現在の50州にまで領土を拡大させていく際に使われていた、マニフェスト・デスティニーというスローガンに近いものではないかと考えています。
マニフェスト・デスティニーとは?
このマニフェスト・デスティニーとは、東部13州から始まったアメリカが、テキサス併合や、オレゴン紛争、メキシコ戦争で西海岸を手に入れるために使われていたスローガンなのですが、その真の目的は、イギリスなどのヨーロッパの植民地を一掃することで、アメリカ大陸へのヨーロッパ諸国の関与を防ぐ、モンロー主義と地続きの考え方だったと評価されています。
つまり、守るために、ある程度攻めなければいけない、という考え方ですね。
日本でも、ロシアの南下を防ぐために、中国の満州で日露戦争を戦っていますが、これに近いようにも思います。
イスラエルは、周辺国が全てアラブ諸国ですから、なるべくなら、これらの周辺国との間には、緩衝地帯が欲しいはずです。
そこで、多少デカい領土構想を持って、しかも戦争で相手を打ち負かして、相手をビビらせておけば、周辺国もイスラエルとの国境周辺には、軍隊も住民も置かないような緩衝地帯にするだろうと考えているのではないでしょうか?
イスラエルは、緩衝地帯を作るために勝負に出た
イスラエルは、昨年9月に、7正面戦争を行なっていると発表しました。
ガザやヨルダン川西岸だけでなく、レバノンのヒズボラやシリア、イラク、イラン、イエメンのフーシ派とも、同時に対処しているというのです。
普通に考えれば、これほどたくさんの勢力と戦争をすれば、人も武器も足らなくなって、自滅するのではないかと考えてしまいますが、アメリカの支援があるから大丈夫だと思っているのでしょう。
そして、それだけでなく、これら全ての地域を打ち負かすことで、イスラエルに戦争をふっかけようとする国々をなくして、周辺国でも緩衝地帯を作らせようとしているのではないかと思われます。
また、私はトランプ政権は、戦争をするつもりはないし、国防の参謀役である、コルビー次官の考える東アジアに集中するという戦略を取ると考えているので、イスラエルがさらに戦争を拡大させ、アメリカを引きずりこむようなことを許さないと思っています。
まとめ
というわけで、トランプ政権のイスラエル支援の意図について、考察してみました。
あくまで、好意的に解釈すれば、という話ではありますが、トランプ氏がイスラエルの望みを100%叶えさせてやることで、何十年と続いている中東のゴタゴタをさっさとやめさせて、アメリカとその周辺に覇権を縮小させていく、アメリカ・ファーストの戦略につながっていると思います。
もし、この考察が正解に近いのであれば、パレスチナの人たちは、ヨルダンや東アフリカへの移住へと、最終的に決着することになるでしょう。
そして、いろいろとゴタゴタはあるかもしれませんが、イスラエルに敵対する政権は、崩壊するか、敵対行為をやめることになると思います。
昨年、中国の仲介もあって、イランとサウジが、国交正常化をしました。
宗教や民族が違うことによる歪み合いは、時間はかかっても、解消は可能だと思いますし、今までのように、不満に思っている勢力への、アメリカからの資金援助もなくなりますので、この数十年間続いてきた中東の紛争は、収まっていくものと予想されます。
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