この記事では、「もしトランプ氏が、アメリカ大統領になった場合、日本の株式市場どうなるのか?」について、考察します。
なお、こちらの記事の内容は、動画でも作成しています。動画の方が見やすい場合は、こちらをチェックしてみてください。
以前に、①円ドル相場と②米国株で解説しましたので、今回が「もしトラシリーズ」の第3弾となります。
話を進める上で、前回と一部、重複するところもありますが、ご了承ください。
まず、現在の日本の株式市場の動きについて、ざっと見てみましょう。
こちらは、2013年9月から24年8月までの日経平均株価になります。
アベノミクスが始まった2013年から本格的な上昇が始まり、新型コロナの感染拡大があった時には、3割ぐらい下がったものの、基本的には上昇傾向にあります。
今年の2月22日には、1989年の高値を更新し、7月には42,000円台まで行きました。8月に急落して35,000円台となっていますが、以前として高値圏にあります。
1、なぜ、日本株はこれほど上がっているのか?
最近の日本の実質GDPをみると、2023年以降は、マイナス成長の時期が増えてきました。
物価は上昇する一方なのに、給料はそれほど上がらないため、生活が苦しくなっている人も多いと思います。
では、なぜ株価は、史上最高値を更新するほどに、上昇してきたのでしょうか?
その理由は、わたしの解釈では、大きく4つあります。
(1)アメリカの株式市場が上がっているから
1つ目は、アメリカの株式市場の影響です。
日本の上場企業の株式の約3割を、外国人投資家が保有しているため、金融の中心地であるアメリカの株式市場の影響を受けやすいのです。
実際、2010年以降の日経平均と、アメリカの代表的な株式指数であるS&P500を見てみると、ほとんど同じような動きをしていることがわかります。
(2)国内の産業構造の変化
2つ目が、日本国内の産業構造の変化です。
少子高齢化が進んでいる日本では、ほとんどの業種で、中小零細企業の廃業が続いています。
こちらの表は、2012~21年にかけての、業種別の企業数の変化です。
①情報通信や②専門技術、③医療福祉サービス以外は、企業数が減少しています。
(参考:中小企業庁 中小企業白書 2024年版 付属統計資料)
特に製造業や小売、宿泊・飲食業は、約10年で2割以上減っています。
また、帝国データバンクや東京商工リサーチの調査レポートを見ると、黒字での廃業は、年々減少しているものの、5割以上となっています。
ということは、これらの会社が廃業になった場合、他の会社に、売り上げが流れるわけです。
その流れ方は、大きく2種類あります。
1つ目は、同業種の大企業へ、流れるパターンですね。
例えば、スーパーなどの小売だと、ヤオコーやベルク、ドンキホーテの運営会社であるパンパシフィックHDなどは、15年以上連続の最高益を更新し続けています。個人や中小のお店が廃業し、残っていたお客さんも流れてきているのでしょう。
2つ目は、IT化が進んだことで、ついていけなくなった会社が仕事をたたむパターンです。
廃業する企業の経営者の平均年齢は、70歳を超えています。今は、どこの業種でもIT技術を使った効率化や集客が欠かせませんから、ついていけなくなった企業が廃業することで、IT化が進んでいる企業に、お客さんが流れているのでしょう。
過去最高益を更新し続けている企業の、かなりの割合が、情報通信関係の企業になっています。
このように、中小・零細企業がどんどん廃業してはいるものの、株式市場に上場しているような、大企業やIT系の企業にお客さんが流れているため、業績が良好な企業も多くあり、株価が上がりやすい環境にあるわけですね。
(3)円安で輸出企業が儲かっている
3つ目が、円安による、輸出企業の業績拡大です。
代表的なのが自動車産業ですが、2022年ごろからの急激な円安によって、海外の利益が円建てで見た時に、より増えているのです。
例えば、アメリカで1億ドルの利益が出た場合、1ドルが115円ならば、利益は115億円ですが、1ドル160円であれば、利益が160億円となり、45億円も多くの利益が出るようになります。
トヨタの2024年の決算を見ると、為替が円安に触れたことによる利益が、7,000億円近くにもなっていました。
そのため、2023年度の過去最高益の企業のうち、約半分がトヨタやホンダなどの自動車メーカーによるものでした。
最近の自動車メーカーは、海外の売上の比率が高くなっており、しかも、海外に生産拠点を移しています。
そのため、国内の景気が悪くても、業績の影響があまりないわけですね。
(4)日銀ETF買いと、自社株買いの増加
4つ目が、日銀のETF買いと、自社株買いです。
2013年から始まったアベノミクス以降、日銀は、国債だけでなく、ETFやREITと呼ばれる、株式指数や不動産の投資信託を買い上がり始めました。
また、2020年の新型コロナで暴落した時に、さらに買い上がったことで、株式市場は一貫して上昇してきたのです。
ですが、日銀は稼いだお金で株を買っているわけではなく、ただの紙を印刷して、株を買っているようなものなので、やりすぎるとインフレになってしまいます。
そのため、2023年4月以降は、ETFを買うのをやめているのですが、入れ替わりで、今度は、東証が資本コストや株価を意識した経営を上場企業に要請しました。
日本の大企業の多くが、1998年に長銀や日債銀、拓銀などが破綻し、銀行が不良債権処理のために、貸し剥がしをやった時に、資金繰りに苦しんだりした経験から、利益が出ても、社員に還元したり、新規投資に回りたりせずに、その利益を会社がため込むようになりました。
その結果、資産はあるけど、利益が少ない企業が増え、「上場してても意味あるの?」と疑問に思われる企業も増えていました。
そのため、株主に対して、説明がつかないほどに、お金を貯め込んだままの企業に対して、①増配や自社株買いをして株主に還元するか、②研究開発をして、もっと売り上げと利益の拡大を目指すか、のいずれかを意思表示しろ、と迫ったのです。
また、今年からは新NISAも始まって、非課税枠が増えたことで、一般世帯の株式投資も増えていますよね。
つまり、2013年以降で見ると、最初の10年は日銀が買い上がり、その後は企業の自社株買いと、個人の税制優遇による購入が続いているため、株価がさらに上がり続けているわけですね。
2、トランプ氏が大統領になったら、どうなるのか?
では、このような状況の中で、トランプ氏が大統領になったら、日本の株式市場はどうなるのでしょうか?
ポイントは3つあります。
(1)自動車産業は儲けにくくなる
1つ目は、主に自動車産業への影響です。
トランプ氏の現在のアメリカ経済に対する認識は、中国などの海外からの輸入攻勢によって、アメリカから工場が撤退し、働く場所がどんどん無くなっている、ということがあります。
バイデン氏とトランプ氏の政策の違い
そのため、貿易面では、全ての国に対して、一律で10%の関税をかけるとか、特に中国に対しては、最大で60%の関税をかけると言っています。
アメリカの貿易赤字のランキングを見てみると、自動車や自動車部品、スマホやPCなどの電化製品などの赤字が大きいです。
アメリカの貿易収支の赤字額上位の品目(2022年)
そのため、自動車を日本やメキシコなどの、アメリカ以外の国から輸出している分については、利益率が下がってくるでしょう。
また、EVに対する補助金が撤廃されますので、アメリカやヨーロッパのEV需要に全振りしていた自動車メーカーは、方針転換を迫られることになりそうです。
(2)為替差益の消失
2つ目が、超円高に修正されることによる、為替メリットの消失です。
4月に自民党の麻生副総裁と、トランプ氏がNYで会談をされました。当日についてのニュース記事と、翌日のトランプ氏の投稿内容から、
- 軍事費の増大を歓迎
- 現在の円安をどうにかしろ
というものだったと考えられます。
現在の1ドル160円という円安は、ここ数十年間で見ても、かなりの円安というだけでなく、他の先進国と比べても、異常なほどの円安です。日本だけが、これほど、ドルに対して弱い状況なのです。
理由は、以前の記事で詳しく解説していますが、ようするに
- 日米の金利差
- 国際収支の質の悪化
- 投機筋による円キャリー取引
- 政府による米国債の買い入れ
の4点が大きな理由と考えられ、その中でも、投機筋による円売りが酷い状況のようです。
財務大臣もそのようなコメントをしているため、実態として、そうなのでしょう。
しかし、現在のバイデン政権は、日本が4月5月に為替介入をしたところ、為替操作リストに入れられており、「そのまま円安にしてろ」という圧力を受けていると考えられます。
実際、今回の円買い介入を指揮した神田財務官が、責任をとって退陣させられてしまいました。
このように、アメリカの圧力が強いのか、円安を放置せざるを得ない状況なのですが、トランプ氏の考え方は、これとは真逆です。「円高ドル安が望ましい」と言っているのです。
そのため、トランプ氏が大統領になったら、おそらく、日本への円高介入を強烈に進めるように、圧力をかけてくるでしょう。
目安としては、2つあります。
1つ目は、2017年からの第1期当時のレートです。
1ドル105~115円ぐらいでした。この時期は、安倍首相とトランプ大統領の関係が良好だった時期で、これぐらいの為替レートでは、クレームも来なかったようです。
2つ目は、ドルインデックスとの乖離の修正です。
先進国では、日本だけが大幅に円安になっているため、過去のドルインデックスと円ドルレートの位置関係をみると、120円ぐらいが望ましいラインと考えられるかもしれません。
いずれにしても、現在の1ドル160円前後の円安は、国内の製造業の復活を考えているトランプ氏にとって、邪魔以外の何ものでもないので、大幅な修正が待っているでしょう。
そうすると、輸出企業は、一時的に、為替差損が出ますから業績が悪化します。
また、海外の投資家から見れば、1ドル160円が120円にまで円高になったとすると、ドルベースで利益が約25%も増えますから、絶好の利食い売りのタイミングにもなります。
一時的には、1~2割ぐらいの、株価の調整があってもおかしくないでしょう。
(3)第2のリーマンショックの可能性
そして、最後の3つ目のポイントが、第2のリーマンショックの可能性です。
2023年にシリコンバレー銀行やファーストリパブリック銀行などの、中堅銀行が破綻しました。
きっかけは、大口の預金者がお金を引き出したことでしたが、その根底には、金利上昇によって、オフィス市場がおかしくなったり、ビジネスが苦しくなってきた会社が増えていたことがあります。
そして、今年になってからは、あおぞら銀行やNYコミュニティ銀行が、オフィス不動産の損失で赤字決算を発表して、株価が大幅に下落するなど、かなり厳しい状況になっています。
オフィスなどの不動産の賃貸契約は、数年単位で行われますので、空室率は年々悪化傾向にあります。
全米不動産業者協会のオフィス空室率のランキングを見ると、大都市が上位に入っており、それらの空室率が、軒並み前年比で悪化していました。
特に、サンフランシスコやサンノゼなどの、カリフォルニア州のシリコンバレー周辺がひどいですね。
このように、空室率が悪化し、さらに低金利の時に借りていたお金の返済が満期となれば、今度は高い金利で借り換えなければなりません。
家賃収入も思うように入らず、金利負担だけがさらに増える状況となっており、二束三文でオフィスを売却する事例も出てきています。
例えば、カナダの年金基金は、ニューヨークのパークアベニューにあるオフィスビルの株式をなんと1ドルで売却しています。
(参考:Crain’s New York Business *英文記事)
また、NYのブロードウェイにある商業用不動産を担保とした債券の、もっとも弁済順位が高い部分を買った投資家も、損失を被ったとのニュースも出ています。
これは実に、このオフィスの評価額が、6割以上下落したことを示しています。
あおぞら銀行のNYのオフィス投資の損失が、2年後には約6割に達するという見通しを出していましたが、すでにその水準に、NYのオフィス市場が達しているのです。
これほどの状況で、銀行や他の産業に、何の影響もないなんてことがありえるでしょうか?
このような爆弾が燻っているような状況で、トランプ氏が大統領になったらどうなるでしょうか?
もし、銀行破綻の回避を最優先に考えるのであれば、さっさとFRBに圧力をかけて、利下げや国債の買入をさせるでしょう。
日銀が現在やっているような政策ですね。
現在、アメリカの銀行は、持っている債券の評価損が膨らんでいて、大口の預金者の引き出しがあったら、一発アウトのような状況にあります。
ですが、金利を下げれば、この含み損が一掃されるので、空室率の高さに悩むオフィスビルの大家さんも、銀行も一息つけます。
そうすると、日米の金利差がほとんどなくなりますので、円高になるチャンスにもなります。
アメリカのインフレはさらにひどくなるでしょうが、補助金の廃止や、石油・天然ガスの採掘で、ガソリンや電気料金を下げればいい、という判断もできそうです。
ただ、このあたりのことは、実行する政策の順番や、議会と揉める揉めないといった状況によって、変わってきますから、「こんなシナリオもありそうだ」ぐらいで、聞き流してもらえればと思います。
まとめ
というわけで、長くなりましたが、結論でまとめます。
- 日本の株式市場は、国内では大手が残存者利益で売上を拡大し、海外では、円安による輸出攻勢で利益を伸ばすことで、大手企業ほど、有利な環境になっている
- そんな中、日銀のETF買いから、企業の自社株買いの要請、新型NISAなど、新しい買い手を呼び込むことで、株価の上昇が続いている
- トランプ氏が大統領になったら、現在の円安の修正圧力をかけてくる可能性は高く、1ドル120円ぐらいまで円高が進む可能性がある
- 円高が進むと、輸出企業の為替利益が減り、海外投資家のドル建ての価格が上昇するため、利食いによる下落が起こる可能性が高い
- また、アメリカの金融危機の回避のために、利下げや国債の買入を行う可能性もあり、日米の金利差が縮まるため、円高になるきっかけとなりそう
と言えます。
投資を考える際の、参考になれば幸いです。
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