この記事では、「もしトランプ氏が、アメリカ大統領になった場合、アメリカの株式市場どうなるのか?」について、考察します。
なお、同様の内容で動画も作成しています。動画の方が見やすい方は、こちらからどうぞ。
前回の記事では、トランプ氏が大統領になった場合に、円ドル相場がどうなるのか?についての考察をしましたので、今回が「もしトラシリーズ」の第2段となります。
話を進める上で、前回と一部、重複するところもありますが、ご了承ください。
まず、現在のアメリカの株式市場の動きについて、ざっと見てみましょう。
こちらは、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500と日経平均です。
S&P500は、アメリカの大企業500社の株式の時価総額を指数化したものになります。
基本的に上昇傾向にあり、現在は高値から1割前後下落していますが、史上最高値の近辺にあります。
日経平均も同じような動きをしていますので、アメリカの株式市場の行方が、いかに日本の株式にも影響があるのかがわかります。
1、なぜ、米国株はこれほど上がっているのか?
今後の株価の予想をする前に、そもそも、なぜ今、米国株が上昇しているのか?について、考えてみましょう。
新型コロナ以降に限定してですが、私の解釈では、3つのポイントがあります。
(1)政府による大量のバラマキ
1つ目は、政府による大量のバラマキです。
アメリカでは、新型コロナの感染拡大に対応して、特に大都市で厳しいロックダウン(都市封鎖)が行われました。
最低限の買い物や、健康のために、短時間の散歩など、外出制限がかなり厳しかったため、多くの人が失業しました。
そのため、大量の給付金が支払われました。2021年時点で、約200兆円が、現金給付されました。
その後もいろいろ合わせると、新型コロナ関係だけで、600兆円近いお金が、補助金としてばら撒かれたと言われています。
また、その後も落ち着いてはいるものの、かなりの高水準にあります。オバマ政権、トランプ政権の頃は、四半期で約500~800億ドル程度でしたが、現在は1000億ドル前後にまで増えています。
つまり、一時の大量のバラマキから、少し減ってい入るものの、かなりの豊満財政難ですね。
その結果、多くの人が、現金給付の効果もあって、消費が爆増しました。
以前、アメリカのREITの動画を作った時に、調べたのですが、貸倉庫のパフォーマンスがかなり良かったんですね。特に2021年は8割以上の上昇をしていました。
おそらく、現金給付でたくさん買い込んだものの、家に置けなくなったものを貸倉庫に預ける人が急激に増加したためだと考えられます。
このように、大きく消費が伸びたことで、企業の売り上げも伸び、株価が押し上げられたわけです。
(2)リアル社会から出ていく人が増えている
2つ目は、リアル社会からの脱出です。
多額の現金給付で、消費は増えたものの、新型コロナでロックダウンが行われ、リモートワークが広がったこともあって、都市部から郊外や他の州へ移住する人が増えました。
その結果、ニューヨークやLA、シカゴなどのオフィスの空室率が上昇しました。さらに、政府のバラマキによって、消費が増えたことで、物価が上昇しすぎたことで、FRBが慌てて政策金利を引き上げ、インフレを抑えに行きました。
こちらは、アメリカの消費者物価の前年同月比と、アメリカの政策金利です。
現金給付が行われ、ロックダウンが解除された2021年以降に、急激に消費者物価が上がっており、2022年には、年率で10%に迫る勢いとなりました。
これに慌てたFRBが、政策金利を0.25%から5.5%にまで大きく引き上げた結果、インフレは現在3%前後にまで落ち着いてはいます。
ですが、この急激な金利上昇で困ったのが、オフィスビルの大家さんです。リモートワークで空室率が上がって、賃料が入らない上に、金利上昇しているため、満期がきた借金を借り換えしようとすると、かなり高い金利になってしまうからです。
その結果、銀行の不良債権が増加し、昨年のファーストリパブリック銀行やシリコンバレー銀行の破綻につながりました。
今年の2月にあおぞら銀行が赤字修正をしたり、ニューヨーク・コミュニティ銀行も赤字決算を出して、株価が6割下がるなど、その余波が広がっています。
また、現在、アメリカでは不法移民の流入が、深刻になっています。
バイデン政権になってから、メキシコとの国境に作られた壁が撤去され、大量の不法移民が押し寄せています。
毎月20~30万人規模で、国境警備隊が遭遇しているとのことですので、2021~24年までの3年間で、約700万とも1,000万人とも言われる数の不法移民が、アメリカに流入しているというのです。
日本でもニュースで取り上げられていますが、NY市にも10万人規模で、不法移民がきているとのことで、ホテルを借り切って宿泊所にしたり、廃校になった小学校や体育館などを使ったりと、かなりの混乱ぶりとなっています。
これによって、治安も悪化しており、また、アメリカの多くの州では、犯罪が増えすぎた結果、警察にも手が負えなくなっているため、1,000ドルぐらいの窃盗は軽犯罪として扱われ、逮捕されなくなっています。
そのため、アメリカのイオンにあたる、ウォルマートなどの大手の小売店では、シカゴで4店舗、ポートランドからは完全撤退をしています。
アメリカの小売店に対する万引き被害は年々増加傾向にあり、昨年は20兆円近い被害が出ています。
つまり、現在のアメリカでは、現実社会は、治安という意味でも、投資という意味でも、とてもリスクが高いのです。
そのため、安全性の高い資産へと投資が進んでいます。
その一つが、MMFと呼ばれる、いつでも解約できる投資信託です。
MMFは、期間の短い債券を主な運用対象としており、現在のような政策金利が高い状況もあって、年率5%近い利回りになっています。
日本の金融機関でも扱っていますが、だいたい4.7~5.0%ぐらい出ていますね。
そのため、残高も急増しています。
そしてもう一つが、業績の良いビッグテックの株式です。
アップルやGoogle、アマゾン、マイクロソフト、メタ、エヌビディア、テスラなどがそれにあたります。これらの企業の頭文字をとって、マグニフィセント7などと言われたりもします。
テスラはEVなので、他と毛色が少し違いますが、これらの企業の多くが、インターネット上でのビジネスを展開しているため、治安の悪化や、万引きの被害などに悩まされることもありません。
そして、業績も絶好調ということで、多くの投資家が、安心して投資をしている、というか、「これらしか、まともな投資先がない」という意識で投資をしているのかもしれません。
実際、これらマグニフィセント7の株価は、アメリカの代表的な株価指数であるS&P500の、残り493社の株価と比べてみると、凄まじいほどに上昇しています。
マグニフィセント7は、5年で+257%だったのに対して、他の493社は、わずか+47%でした。
さらに、この5年間で、アメリカでは20%以上の物価上昇をしていますので、この分を調整すると、残り493社は、2021年のピークを下回っているんですね。
金利上昇や治安悪化の影響を受けた結果と言えるでしょう。
(3)自社株買い
3つ目が、自社株買いです。
アメリカでは、株主からの要求が強いこともあって、多くの企業が、配当だけでなく、自社株買いを通じて、株価を上昇させようとしています。
こちらの表は、自社株買いの金額が多い会社のランキングです。
2023年実績の順に並べています。
紫色の文字にしているのが、マグニフィセント7ですが、大手4社の金額の規模が桁違いなのがわかりますね。
アップルは、昨年23年に940億ドル、約15兆円もの自社株買いを行っています。
5年間だと、今のレートで、なんと69兆円にもなります。
それ以外のGoogleやメタ、マイクロソフトも、毎年数兆円規模での自社株買いをしています。これだけ株を買い続けているので、「投資家も安心して購入できる」というわけですね。
2、トランプ氏の政策の影響は?
では、トランプ氏が大統領になった場合に、アメリカの株価はどうなるのでしょうか?
それを考えるために、まずは、トランプ氏の政策を整理してみましょう。
現在のバイデン政権とは、①海外からの輸入を減らして、国内に雇用を増やすこと、②無駄な出費の削減、③社会秩序の正常化、の3点が、基本的な考え方で異なる点です。
例えば、関税の強化は、海外からの輸入を減らし、国内の雇用を増やす狙いがあります。
また、石油・天然ガスが豊富にあるため、こられの採掘許可を出すことで、安いエネルギーが手に入り、海外にも輸出できる産業が生まれます。
一方で、EVなどの環境規制はなくし、補助金も減らすことで、政府の支出が減りますし、減税で国民に還元もできます。
驚いたのが、新しい街を作るという計画です。
アメリカ国内に、政府が持っている土地が約6.4億エーカー(約7,800億坪)もあるらしく、この土地の活用して街を作り、現在の高い住宅価格を下げる計画があるようです。
特にカリフォルニア州は、環境規制が厳しいため、住宅の建築許可が降りにくく、住宅価格の高騰が社会問題化していますから、このような街の住宅価格の抑制につながるかもしれません。
それでは、具体的に、どのような産業が有利、または不利になるのでしょうか?
一覧にしたのがこちらになります。
トランプ氏の政策の方向性が、①雇用を増やすことや、②国内産業の活性化にありますので、基本的に、社員の多い国内産業ほど、恩恵が受けやすくなるでしょう。
(1)恩恵のある産業
恩恵がありそうな業界は、エネルギー企業や自動車産業、建設業などになります。
特に、アメリカの自動車メーカーは、海外の安い自動車にシェアを奪われて苦戦していますが、関税を引き上げることで、国内で作った自動車と同等の条件にならしていきますので、競争環境が好転するでしょう。
トランプ氏は、自動車産業を復活させると、たびたび発言していますので、追い風になることは間違い無いでしょう。
(2)不利な産業
では、不利または、恩恵が少ない産業は、どこかというと、海外で作って、アメリカで売るビジネスをしている、グローバル企業になります。ビッグテックや大手製薬会社などが当てはまりますね。
アップルやグーグル、マイクロソフトなどの会社は、ITだけでなく、スマホやPC、ゲームなどを中国などの人件費の安い国で作って、アメリカに持ってきて儲けてますから、関税の影響で、利益率が下がると予想されます。
2017年に就任したときは、減税の部分が大きく脚光を浴びたため、ビッグテックも大きく上がりましたが、今回は、そのようにはならない可能性があります。
3、現在のアメリカ市場の懸念点
政策面とは別に、現在のアメリカでは、金融不安が燻っています。
2023年にシリコンバレー銀行やファーストリパブリック銀行などの、中堅銀行が破綻しました。
きっかけは、大口の預金者がお金を引き出したことでしたが、その根底には、金利上昇によって、オフィス市場がおかしくなったり、ビジネスが苦しくなってきた会社が増えていたことがあります。
そして、今年になってからは、あおぞら銀行やNYコミュニティ銀行が、オフィス不動産の損失で赤字決算を発表して、株価が大幅に下落するなど、かなり厳しい状況になっています。
オフィスなどの不動産の賃貸契約は、数年単位で行われますので、空室率は年々悪化傾向にあります。
全米不動産業者協会のオフィス空室率のランキングを見ると、大都市が上位に入っており、それらの空室率が、軒並み前年比で悪化していました。
特に、サンフランシスコやサンノゼなどの、カリフォルニア州のシリコンバレー周辺がひどいですね。
このように、空室率が悪化し、さらに低金利の時に借りていたお金の返済が満期となれば、今度は高い金利で借り換えなければなりません。
家賃収入も思うように入らず、金利負担だけがさらに増える状況となっており、二束三文でオフィスを売却する事例も出てきています。
例えば、カナダの年金基金は、ニューヨークのパークアベニューにあるオフィスビルの株式をなんと1ドルで売却しています。
(参考:Crain’s New York Business *英文記事)
また、NYのブロードウェイにある商業用不動産を担保とした債券の、もっとも弁済順位が高い部分を買った投資家も、損失を被ったとのニュースも出ています。
これは実に、このオフィスの評価額が、6割以上下落したことを示しています。
あおぞら銀行のNYのオフィス投資の損失が、2年後には約6割に達するという見通しを出していましたが、すでにその水準に、NYのオフィス市場が達しているのです。
これほどの状況で、銀行や他の産業に、何の影響もないなんてことがありえるでしょうか?
このような爆弾が燻っているような状況で、トランプ氏が大統領になったらどうなるでしょうか?
トランプ氏は、他の国への関税をかけ、特に中国への関税を最大6割にまで引き上げると言っています。
ということは、輸入品の価格が上がるため、インフレ率が上がることになります。
石油や天然ガスの採掘許可を出して、安いエネルギーが手に入るようにしたり、公務員や補助金を削減することで、お金のばらまきを止めることで、インフレ率を抑えると言っています。
しかし、インフレに対してアクセルを踏む政策と、ブレーキを踏む政策のどちらもあるため、FRBとしても、利下げした途端にインフレが悪化したとなれば困りますから、利下げにも慎重になるでしょう。
そうすると、現在の高金利の状況は当分続きそうですから、オフィス不動産を中心に、さらに損失が広がる可能性が高く、銀行破綻のリスクはさらに高まると考えられます。
というわけで、長くなりましたが、結論でまとめます。
・新型コロナ以降、治安の悪化やオフィスの空室率の増加、金利の上昇などによって、潰れる銀行も出たり、店舗の閉店も相次いでおり、リアルのビジネスはかなりリスクが高くなっている
・その一方で、ネット空間を主戦場とするビッグテックは、業績も好調で、自社株買いも積極的なため、「安心できる数少ない投資先」として人気が集中している
・トランプ氏が大統領に当選すれば、治安の正常化と国内経済の復活のための、関税強化に動くため、リアルのビジネスの復活が見込める
・反対に、海外で作ってアメリカで売るような商売は逆風となるため、スマホやPC、ゲームなどを手掛けるビッグテックや大手製薬会社などの、グローバル企業の利益率は下がる
・トランプ氏の政策は、インフレとインフレを抑える両方の政策が入っており、FRBとしては、利下げに動きにくい。そのため、現在のオフィスの空室率や高金利での借り換えに耐えられない企業は増えてくると考えられ、銀行破綻のリスクは高そう
と言えます。
投資を考える際の、参考になれば幸いです。
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