今回の記事では「景気悪化をFRBのせいにするトランプ。米国株は秋から本格的な暴落へ」と言うことで、やっていきたいと思います。
1、はじめに
3月にこちらの動画を出しまして、今年は日米ともに、株価の下落が進むだろうと予測しました。
その後、トランプ大統領が、4月2日に相互関税を発表し、マーケットは大混乱に陥りました。
一時は、日経平均も30,000円割れスレスレまで落ちて、アメリカの代表的な株価指数である、S&P500も6000ポイント台から5000ポイント割れまで、2割近く下がりました。
この時は、正直な話、予想が当たったと小躍りしていたのですが、この記事を作成している6月17日現在、日米ともに株価は相互関税の発表前よりも上昇しており、アメリカ市場に至っては、過去最高値を更新しそうな勢いにあります。
しかも、ここ数日は、イスラエルがイランへ大規模な攻撃を仕掛け、戦争が始まるのか?と思われるような、緊迫した状況にも関わらず、日米の株式市場は、お構いなしに上昇を続けています。
一体、これはどう言うことなのでしょうか?
この記事では、トランプ相互関税で大混乱に陥ったかに見えた、日米の株式市場が、なぜそれ以降は回復しているのか?そして、これからどうなるのか?について、考察していきたいと思います。
それでは、参りましょう。
2、相互関税以降の米国市場の変化
まず、最初に、4月のトランプ相互関税によって、個人的に大きく変わっな、と思うことについて、3つほどご紹介します。
(1)金利と為替の関係が切れた
一つ目は、「アメリカの金利が上がれば、ドル高になる」という関係が、解消されたことです。
こちらのグラフを見てもらうとわかりますが、2021年の中盤ごろから、米国債の金利が上がると、ドル指数も上がる、つまりドル高円安になるという関係が続いてきました。
日本でも、昨年7月に1ドル160円を超えましたが、この時期のドル指数も結構高い位置にありました。
ところが、今回のトランプ相互関税によって、アメリカ国内から資金を逃避する動きが起こり、米ドル、株式、そして米国債のトリプル安が起こりました。
これまでは、「アメリカ国債に投資しておけば大丈夫だから、金利が高いなら投資すべきだ」という意見がよく聞かれました。
ですが、「トランプ政権は、何をするかわからない。本当に、今の経済システムを壊すつもりかもしれない」、と言う不安から、金利が上昇しても、積極的にドルが買われることがなくなり、ドル指数と米国債の金利の関係が崩れてしまったのです。
(2)ビッグテックが共食い状態に
2つ目が、ビッグテックのバトルロイヤルです。
昨年あたりまでは、アメリカ経済が好調だという報道が多く、特に業績がよかったGoogleやアマゾン、アップルなどのマグニフィセント7と呼ばれる、7社の企業群の株価の好調が目立ちました。
ところが、現在これらの企業の株価は、優勝劣敗が鮮明となってきています。
マイクロソフト、メタ、エヌビディアは株価が最高値圏にあるものの、テスラ、Google、アマゾン、アップルは、高値から1割以上、下がっているのです。
特にテスラなんかは、高値から3割も下がっています。
トランプ政権にイーロン・マスク氏が参加したものの、喧嘩別れみたいになって、EV補助金も止められてと、踏んだり蹴ったりの状況になっています。
最近、GoogleがVeo3という、生成AIモデルを発表して、音声付きの動画を作成できるようになったことで、かなり話題となっていますが、チャットGPTのような生成AIサービスが広がってきたことによって、検索しなくても情報が得られるようになってきています。
その結果、検索件数が落ち込んでおり、検索による広告収入の落ち込みは避けられなくなっています。
また、最近のチャットGPTの若い人たちの使い方が紹介されてたのですが、私の今日の服装って、似合ってるかな?みたいな相談にも答えてくれるようで、完全にドラえもんの世界に近づいていることがわかります。
しかし、ドラえもんは1人か2人いれば十分です。
現在、生成AI分野に参入している企業は、世界で16,000社以上あるようです。
画像・動画生成や音楽生成など、用途を絞った、より専門的なサービスが求められるとは思いますが、それによって、ハリウッドやWEBデザイナーなどの、多くのクリエイターの仕事がなくなっていくでしょう。
そうすると、結局、生成AIが進歩することで、経済そのものが拡大するのか?は、ちょっと微妙な感じがします。
もっと新しい技術やサービスが生まれる可能性は増えると思いますが、収入が増える個人の数は、今よりも減っていくはずだからです。
5月に、オープンAIが営利化を断念するというニュースが出ました
オープンAIは、もともと非営利団体だったのですが、マイクロソフトがたくさん金を出して、口出しをするようになったことで、営利化を目指すと言っていたのです。
昨年時点で、オープンAIが黒字化するには、2029年以降になるし、それまでに7兆円ぐらい赤字を垂れ流すよ、と言う気狂いじみた計画をCEOのサム・アルトマンはしゃべっていました。
この話を聞いた時に、誰がそんな金を出すの?本当に成功するの?と疑問に思っていたのですが、見事に降参したように思います。ソフトバンクは、出資するとか言ってましたけど、どうなるんでしょうねー。
このように考えると、現在のマグニフィセント7の株価に、優勝劣敗がついているのも、そのような予測を先取っているからなのかな、と思います。
(3)インフレで株高
3つ目が、インフレです。
今回の株価上昇の背景にあるのは、企業業績の成長ということではなく、インフレに対するヘッジではないか?ということです。
トランプ政権発足以降、株やドル円、米国債などは、あまりパフォーマンスが良くありませんが、その裏で好調な資産があります。
それが金です。
トランプ政権発足時には、2750ドル前後でしたが、現在は3,400ドル近辺にまで上がってきており、ドルベースだと25%のプラス、円ベースでも15%近いプラスとなっているのです。
では、なぜ金が上昇しているのか?というと、各国の中央銀行が、金を買い集めているからです。リーマンショック以降、米ドルにおんぶに抱っこじゃだめだ、ということで、1980年代から、ずっと中央銀行は金を売り越していましたが、買い越しに転じたのです。
これによって、海外との貿易のために、各国の中央銀行が貯めておいている外貨準備の割合は、2017年にはドルが6割近くを占めていたのに、現在は44%にまで下がっています。
そして、逆に金は10%から23%まで、2倍以上に伸びているのです。つまり、米ドルに対する信任が、どんどん薄れてきているわけですね。
トランプ政権は、5月に中東3カ国を訪問し、300兆円近いディールを勝ち取ったという報道がありましたが、これは、今まで溜め込んでいた紙切れというドルを後生大事に持ち続けてると、いずれ本当の紙切れになってしまうから、武器やAIデータセンターのような現物資産に変えたいという、産油国の思惑があったからだと思います。
さらに、相互関税以降、トランプ政権は、中国に喧嘩だけでなく、アフリカにも喧嘩を売ってます。
南アフリカのラマポーザ大統領がアメリカを訪問しましたが、トランプ氏に「お前らみたいな、白人を差別するような国とは、仲良くしたくねえなあ」と、報道陣の前でプロレスをして、追い返してしまいました。
こんな感じなので、中国を中心に、BRICS諸国は、協力関係をさらに深めて、7月8日の相互関税の期限切れに備えているように見えます。
つまり、米ドルという紙切れの行ける場所が、どんどん狭まってきているのです。
そして、相互関税の期限切れで、アメリカではさらに物価上昇が予想されるため、米国債の金利が上昇する可能性も高く、消去法的に株式市場に流れている、ということだと思います。
また、今回、イスラエルがイランに大規模な攻撃を仕掛け、原油価格も65ドル近辺から、70ドルを超える水準にまで、大きく上昇しています。
エネルギー価格が上昇し、戦争も起こっているのであれば、株価も下落しそうなものですが、日米ともに、1日下げただけで、すぐに回復し、ジリジリと上値を切り上げているのは、景気云々の話ではなく、「インフレが進むから現金よりも株だ」という意識によるものなのでしょう。
ちなみに、インフレに強い金もやはり、上昇しています。
3、これからどうなるのか?
というわけで、ここまで主に米国株が上昇している理由について、考察してきましたが、では、これからどうなっていくのでしょうか?
トランプ氏の政策は、本当にコロコロ変わるので、この時期にこうなる、とまでは、なかなか言えないのですが、気になるのは、やはり7月8日の相互関税の延長期限が切れるあたりです。
関税の一時停止を発表した4月9日の時点では、中国に145%の関税という、国交断絶レベルの報復関税合戦となっていましたが、それ以外の国に対しても、20~30%の関税をかけるという話になっていました。
ところが、6月現在、EUに対しては、50%の関税で決着がつきそうになっています。
中国とも、プラス35%ということで、第1期の頃の分も合わせて55%で決着しそうということで、アメリカの貿易において、1位、2位の地域に対して、50%以上の関税となりそうです。
つまり、関税延期前と比べても、それほど改善していないのです。
また、こちらの動画で解説しましたが、今回の相互関税における貿易交渉で、財務長官のベッセント長官は、おそらく、日本や韓国、台湾などに対して、通貨の切り上げを要請しているものと考えています。
すでに、台湾は、アメリカと交渉した当日、翌日で台湾ドルが7%近く上昇したため、当局は否定してますが、アメリカから通貨切り上げをしろと言われて、従ったんだろうと見られています。
日本でも、加藤財務大臣が、4月、5月とベッセント長官と会談しており、その辺の話を詰めているはずなので、7月8日の相互関税再開後には、しれっと円高が進むのではないかと予想しています。韓国もそうなるでしょう。
そうすると、日本や韓国、台湾から、アメリカへ輸出される商品の価格は、ドル安で値上がりします。また、中国やEUからの商品も、50%以上の関税がかかるので、これまた値上がりします。
そのため、アメリカの物価上昇は、今後さらに加速すると予想されます。
また、最近LA暴動が話題となってましたが、不法移民の取り締まりも、5月に入ってからさらに強化しています。
現在、アメリカには、おそらく2000万人ぐらいの不法移民がいます。それらの人たちをトランプ政権は、容赦なく捕まえて、本国へ送り返そうとしています。
不法移民の犯罪を取り締まるということもそうですが、不法移民を安い賃金で雇っていた企業に対する締め付けも厳しくなっています。
例えば、ウォルマートやディズニーなどの大企業が、こっそりと雇っていた人たちを解雇した、というニュースとなっていました。
おそらく、今後は正規のアメリカ人を雇う必要が出てきますので、人件費の負担はさらに増えていき、企業の利益は下がっていくでしょう。
そして、これもまた、物価上昇の要因となりますね。
FRBをはめるトランプ
さらに、トランプ氏は、現在FRBのパウエル議長に対して、利下げをしろとプレッシャーをさらに強めています。
6月に入ってからは、1%下げろと発言したり、次の人事はもう決めてあると発言して、すでに辞めさせるつもりだと匂わせたりと、「俺は前から、FRBに利下げしろといってたからな」というアリバイ作りを行なっています。
パウエル議長からすれば、これから相互関税で物価が上がるのがわかっているのに、利下げなんてしたら、さらに物価が上昇してしまいます。なので、トランプ氏がいくら喚こうが、絶対に下げないと決めているのでしょうし、市場関係者もそう思っているでしょう。
ですが、これは、トランプ氏にとっては、格好の餌なのです。
トランプ氏だって、相互関税で物価上昇が進むことは承知の上だと思います。
しかし、それで景気が悪化したら、間違いなくトランプ政権の責任になってしまいます。
なので、今のうちに、FRBに利下げをしろと言っておいて、いざ関税で景気が悪化した時に、パウエル議長が利下げをしなかったせいだ、となすりつけるつもりなのでしょう。
このように考えていくと、7月8日以降の相互関税が、アメリカ経済に悪影響を与えることは間違いなさそうですし、8月に終わる中国との相互関税の一時停止の解除が、さらに追い打ちをかけることになるでしょう。
リーマンショックも、アメリカの大恐慌も、アメリカの株式市場が大きく崩壊したのは秋でした。
相互関税の影響が、経済統計で出てくるのは、8月、9月以降でしょうから、今回仮に大暴落が起こるとすれば、やはり秋頃に条件が整いそうな感じがしますね。
目先の注目点は、7月8日の相互関税の再開でしょう。この前後で、日本も含めた国々が、通貨の切り上げをやるのか?を見ながら、このシナリオをチェックしていきたいと思います。
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